「やっぱりここは変わってないな…」

俺は故郷に辿り着いた。気球から降り、焼き払われた村を見渡す。

何も変わらないのは当たり前だ。こんな廃れた村に、誰も訪れるわけがない。
相変わらずいつもシンシアといた丘の花畑だけが、綺麗に咲き誇っていた。
ここで羽帽子を拾ったんだ、旅立つ前に。

 

「………旅かあ」

本当に色々なことがたくさんあった。木こりに世話になったり、マーニャたちと出会ったり…

シンシア以外の女の子に興味がなかった自分が、旅に出て恋をした。
この旅は、何一つ無駄なんかじゃなかった。


 

37.幸せ



「・・・よいしょ・・・っと」

俺は重たい道具袋を肩から下ろした。その中には薬草や色んな道具が入っている。
俺はその中から、羽帽子を出した。ずっと大切にしていた宝物。

 

 

「シンシア。俺さ…好きな人出来たんだよ」

羽帽子を丘にそっと置いた。真っ白な、羽帽子。

「明るくて、まるで向日葵みたいなやつなんだ。ちょっと天然でさ、お前みたいなやつだよ」

俺は頭の中で、その人のことを描いた。

 

「わかってる…シンシアはもういないことも。だから前に踏み出さなきゃって思ったんだよ。…背中、押してくれるよな?」

そう言った瞬間だった。羽帽子を置いた丘が光りだし、俺は目をつむった。

 

 

「ソロ」

「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」

そこには―――――もうこの世界にいるはずのないシンシアの姿。

 

「シンシア…シンシア!?」

俺はいつの間にか涙が頬を濡らしていた。気付いたら、シンシアを抱きしめている自分。

 

「・・・ソロ、辛かったね、しんどかったね、でも頑張ってたね。私ずっと見てたよ、ソロのこと」

「シンシア・・・・・・・・・シンシア・・・・・・っ」

きっとこれは自分が生み出した幻なんだろう。それでも、こうして会えたことがとても嬉しかった。俺はただただシンシアを抱きしめる力を強める。

「ちょっとソロ、痛いよ」

「あ・・・っ、ごめん」

俺は急いでシンシアから離れる。俺は一体何をしてるんだろう・・・。

「私もソロに会えて嬉しいよ。ねぇ、ソロ、私ね」

シンシアはくすくすと笑いながら、まっすぐに俺を見つめた。

 

 

「ずっと好きだったよ、ソロ」

「・・・・・・・・・シンシア・・・」

俺の涙は止まらなかった。嬉しかったのだ。想いが、二人は通じていた。

 

「ソロにも大切な人が出来たんだよね。私も早くできたらいいなあ」

シンシアは空を見上げて、そう呟いた。すると俺の方へ振り返り、俺の手をそっと握った。その手は、だんだんと消えていく。

 

「幸せになって、ソロ。私はずっとソロが幸せになれるように願ってる。・・・・・・だ・・・から・・・」

 

 

そのまま、シンシアは光の中へと消えて行った。

 

 

 

 

でも確かにシンシアの言いたいことはわかったよ。

「これからも私のこと友達としてよろしくね」って。そう言ったんだよな?

 

俺は風の吹く丘の真ん中に立ちながら、まだ残るシンシアの消えて行った光を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソロー!!」

「!?」

村の入口のほうから声が聞こえた。そこにいたのは、見覚えのある面々。

 

「おんまえら・・・・・・っさっき送ってったばっかだろーが!!二度手間か!!!」

「だーってー、ソロ一人になって寂しいんじゃないかと思ってー」

マーニャが俺をからかうようにそう言う。くそ、図星だから腹立つ。

 

「泣いてたでしょ」

アリーナが俺の隣にきて、そう言った。なんだこいつらは、人の弱みにつけこんでんのか、あん?

「・・・だったら悪いかよ」

俺は頬に残る涙の跡を急いで服の袖で拭った。

 

 

「勇者殿に涙は似合わないですぞ」

ライアンさんがそう言った。

「確かに泣いている勇者様など見たくないものですな」

「私もソロさんには笑っていて欲しいです」

ブライさんは髭を触りながら、クリフトはそれに同意するように頷いた。

 

「ソロさんのおかげで息子にも妻にも尊敬されるような人になれました。…ほとんど馬車でしたけど」

トルネコさんも俺を元気づけてくれたのかはわからないが、最後の言葉は少しグサリと来た。

 

「あんたはバカ元気なとこが取り柄でしょ?」

「ソロさんは一人なんかじゃありませんよ」

マーニャは俺の背中をバシバシ叩き、ミネアは優しい笑顔でそう言った。

 

 

「ソロには笑顔が1番似合うよ!」

そう言って笑ったのは、アリーナだった。アリーナは俺の手をぎゅうっと握り、俺を見つめた。

 

「……ばーか、」

俺はアリーナの頭をぽん、と叩いた。アリーナは不思議そうな顔をする。

 

 

 

 

「笑顔が1番似合ってんのは、お前だろ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


三年後――――。

 

 

 

 

 

 

 

「アリーナーっ!着れたのー?」

「ちょ…ちょっと待ってよ!こんなヒラヒラ着れるわけ…」

「つべこべ言わずさっさと出るっ!!早くしないと髪の毛セット出来ないでしょー!?」

シャッ、っ着替えのカーテンを開けたのはマーニャだった。その瞬間、そこにいたミネアは わぁっ と声を上げる。

 

「とっても綺麗ですよアリーナさん…っ!」

「そうかなあ…こんな服着たことないわ」

アリーナが着ていたのはウェディングドレス。真っ白のひらひらなドレスに、彼女は戸惑うばかりだ。

 

 

そう、今日はソロとアリーナの結婚式だった。

 

 

「それに超歩きづらいし!結婚式なんていつもの服でいいじゃないのよ!」

「何言ってんのよ?ソロだって真っ白のタキシード着てんのにあんただけ私服って変でしょーが」

アリーナそれを聞いてぐぬぬ、と悔しそうな顔をする。

 

 

「ほーら座って座って。そんな顔してたらせっかくの可愛いお顔が台なしよ。ま、私より可愛い顔ではないけど

「・・・最後の言葉は余計よ姉さん」

ミネアがマーニャをしばく。マーニャはなにすんのよー、と言いながらテキパキとアリーナの髪型をセットをし、その間にミネアはアリーナの顔に化粧を施してゆく。

 

 

「はい、できた!」

鏡の前にいたアリーナは、感動した。

 

「すっごーい!化粧と髪型だけで人間ってこんなに変わるのね!」

「あんた化粧とかしたことなさそうだもんね。今日は思いっきり笑ってきな」

「うん!二人ともありがとう!」

アリーナはすごく嬉しそうに笑って、席を立った。結婚式の案内役に連れて行かれ、アリーナは控室を出て行った。

 

「・・・はぁ。ほんと最後までめんどくさい姫様だわ」

「ふふ、結婚したあとも何かとソロさんの手助けをしなきゃならなさそうね」

ミネアはそれがなんだか嬉しそうだった。

 

「・・・あんたはどうなの?最近クリフトとは」

「え?私?わ、私は…今はちょっと喧嘩中で・・・」

「はあ!?」

マーニャは身を乗り出してミネアを見た。

 

「あんたら何してんの。まさか二人が過去に思ってた人たちが結婚したからとかじゃないでしょうね?」

「・・・わかんない。だってクリフトさん、アリーナさんの花嫁姿は綺麗だろうなぁって、ずっと言ってるんですもの・・・」

「・・・・・・要はあんたのヤキモチじゃない・・・。はいはい、惚気ごちそうさまー。」

姉さんのばか!と、マーニャの後ろで怒る声が聞こえ、マーニャはくすりと笑った。

 

「まあ今日もクリフトだって来てるんだし、ついでに仲直りしなさいよね」

「うん・・・姉さんこそ、ライアンさんとはどうなのよ」

「え」

実は、ここ最近マーニャはライアンのことが好きになっていた。旅を終えた後も8人で集まることは多々あり、いつの間にか好きになってしまっていた。マーニャはライアンに会いに行くために、バトランドを訪れたりもしていた。

 

「・・・わ、私は別に・・・ただ、今日・・・告白しよっかな・・・? なんて・・・」

「まあ、ほんと!?応援するわ!」

ミネアはすごく嬉しそうな顔をした。それを見てマーニャは何だか恥ずかしくなってきてしまう。

 

「姉さんは何だかんだで私のことを応援してくれていたものね。今度は私の番だわ」

「何だかんだって何よ・・・、でも、ありがと」

二人の笑い声は控え室に楽しそうに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソロさん、やっぱり緊張してますか?」

「・・・当たり前だ」

俺はとにかく鏡の前で緊張していた。どこかおかしくないだろうか、と何度も鏡を見ては前髪を触ってみたりする。

 

「大丈夫です。すごくイケてるメンズですぞ、ソロ殿」

イケてるメンズって言うのやめてもらえますかライアンさん

はて・・・?何故ですかな?と首を傾げているライアンさんに気にかけている余裕さえもなかった。俺は何ヶ月か前にサントハイムの王に挨拶に行ったことを思い出した。

「勇者だから」とか「アリーナより強い」とか「こんなやつでいいのか」とか色々言われたが、何とか許しをもらうことが出来て本当によかった。これからは、サントハイムの近くで暮らすことになっている。

 

 

「ところでライアンさん、最近マーニャさんとはどうなんですか?」

「マーニャ殿?マーニャ殿はよくバトランドに来ているぞ。兵士を見ているのが楽しいだとか何だとかで・・・」

俺やクリフトはマーニャがライアンさんに恋をしていることは知っていたので、それとなく協力はしていたが、鈍いのかライアンさんは全く気づかない。

「しかしマーニャ殿はバトランドまで遠いのに感心ですな。最近はマーニャさんが来ない日は何だかつまらんように感じてしまうのです」

ライアンさんは髭を触りながらそう言った。俺とクリフトは目を合わせて、「お?」という顔をする。

 

「ライアンさん、頑張ってくださいね」

「何をですかな?」

「・・・ライアンさん頑張ってくださいね」

だから何をですかな?

ライアンさんはただただ不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうーっ!!」

「二人とも、幸せになってね!」

教会の鐘の音と共に、俺とアリーナは手を組みながら階段を降りていた。両サイドには旅の仲間たちやサントハイムの人々、旅で世話になった人々などがたくさんいた。花のシャワーを浴びながら、俺は照れながら会釈した。・・・すげー恥ずかしい。さっき教会の中でした誓いの口づけとか、もう死にたいくらい恥ずかしかった。

 

 

 

「ソロ」

「え?」

階段を下り終えた後、アリーナが俺を呼んだ。

「あのね、改まって変だけど。これからもよろしくね」

そう言ってアリーナは、俺の頬っぺたにキスをした。周りから歓声があがる。

 

「な・・・っ何してんだお前!!」

「えへへ。私今すっっごく幸せだよ、ソロ!」

アリーナは俺から手を離し、ドレスで駆け回りはじめた。・・・こいつはドレスでも無茶をしやがる。まぁ、そんなお転婆なとこが好きだ、なんて言えやしないんだけどさ。

 

 

 

「ソロ」

「?」

どこからかシンシアの声が聞こえた気がした。空から、かな。

 

「幸せになってね。ずっとずっと、・・・」

 

その言葉を聞いた俺は、うん、と頷いてアリーナを見た。

 

 

 

「・・・・・・あいつ本当にバカだなぁ」

俺は照れくさくなって、頭をぽりぽり掻きながらクリフトたちとはしゃぐアリーナの笑顔を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

「俺も、すっげー今 幸せだっつの」

 

俺は少し微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき
完結しました。NEXTはあとがきです。

2011.09.09 UP