「お父さま!!!」 すっかり賑やかな城に戻ったサントハイムを目にして、アリーナは泣きじゃくりながら城内へと駆けていった。その後に続くクリフト、ブライさん。ブライさんは はぁはぁと息を荒くしながら走っている。 でもみんな、城が元に戻った嬉しさは変わらないようだ。
36.サントハイム
「アリーナ!!」 親子の感動の再会。玉座の間にいた人々は涙している。 改めて、アリーナがお姫様ということがわかった。
「お父様・・・ずっと探していたのよ!クリフトとブライと・・・」 「すまなかったな。アリーナたちがどこにいるかわからずに皆さびしがっていたぞ」 「お父様は? ・・・お父様は寂しくなかったの?」 「・・・何を言うか、寂しくないわけがないだろう」 その言葉に、更に号泣するアリーナ。その2人を包むように、クリフトもブライさんも、ほかの城の人々もわらわらと玉座に集まっていく。 すっかり蚊帳の外である俺は、そろそろ行くかと思い玉座の間から出て行こうとした、そのとき。
「ま、待って、ソロ・・・!」 涙ぐんだ声で、アリーナが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は振り返ると、涙を拭いながらサントハイム王の手を引いてこちらへやってきた。
「お父様、この人が私たちとずっと一緒に旅をしてきたリーダー・・・勇者ソロよ」 「ほぉ・・・このお方が勇者。これはアリーナが迷惑をかけてすまなかったね」 「い、いえ・・・こちらこそ」 王様であろう方がこんな俺なんかに頭を下げて、俺は正直戸惑う。勇者なんて努力してなった訳でもないのに、偉い人のようになっているのが変なところだ。
「それでね、お父様」 「ん? なんだ?」 「この人、私の恋人なのよ」 「・・・・・・・・え?」 時が止まった。みんな黙りこくった。もちろん、俺も。
「ち・・・ちょ、アリーナ・・・!!」 「? 何よ、本当のことでしょ?」 にっこりと笑うアリーナに、俺は肩を落とした。いや、そうだけどいきなりすぎるだろ・・・!!
「・・・そうか、君が・・・アリーナの・・・」 「あ・・・あの・・・王様・・・?」 顔が見えないくらいに、王様は俯いていた。どんな表情をしているのかわからず、俺はあたふたと王様の表情を伺う。
「アリーナ、よくやった!!!」 「へ?」 王様は急にバッと顔を上げると、すごく嬉しそうな顔で俺の手を取って振り回した。 「お・・・お父様?」 「勇者様が恋人なんてお前もよくやったなー!いやー勇者様、こんなバカ怪力女のどこがいいのかはわかりませんが、これからもよろしく!!」 「ちょ、ちょっと何!バカ怪力って何よ!!」 アリーナは王様をポカポカと叩いて反論するが、周りの人は うんうん と頷くばかりだ。 「な・・・何よみんな・・・! そ、ソロ!ソロはそんなこと思ってないわよね!?」 「う? う・・・うーん・・・」 「ひ、ひどいぃい〜・・・」 アリーナは悲しそうな顔をしたが、またすぐに笑ってこう言った。
「まぁいいわ! 私、誰より可愛い女の子になってみせるから! ソロ、覚悟しときなさいよね」
「さーてと・・・」 サントハイムの人々に別れを告げて、俺は外にある気球へと乗り込んだ。
本当に・・・旅は終わってしまったんだな。 もうみんなで宿屋に泊まることも、戦うことも、騒ぐことも・・・できない。
俺は本格的に一人になってしまったんだな・・・。
「俺・・・帰る場所ねぇや」 はは、と乾いた笑いが出てしまう。
さっきまであんなに楽しかったのに、今はすごく寂しい。
「・・・うっ・・・」 涙が、意識もしていないのに勝手に出てきてしまう。
今が一人でよかった。こんなところ、誰かに見られていたらきっと俺は、からかわれていた。
「・・・とりあえず、村に行ってみるか」 思い出の詰まった、俺の故郷へと。
俺は気球を動かした。
あとがき 2011.06.10 UP |