俺たちは気球にのって、バトランドへときていた。
35.見送り 「王様・・・。ここまで無事に帰ってくることができたのも、全て背中を押してくださった王様のおかげであります。本当に・・・本当にありがとうございます」 「なあに、ワシは何もしとらんよ。ライアン、お前が勇者とともに頑張ったのだ!」 王様は本当に嬉しそうだった。ライアンさんも何だか照れた様子で、少し髭を触った。
「・・・勇者さま」 「?」 最後に別れになるだろうし、俺だけ気球から降りて見送りにきていた。すると、ライアンさんが話しかけてきたので、俺は何だろうと首をかしげる。
「本当に・・・今までありがとうございました」 「・・・いや・・・俺たちもきっと、ライアンさんがいなきゃデスピサロにも勝つことはできなかっただろうし・・・。俺のほうこそ、今までありがとう」 俺たちは微笑み合って、握手を交わした。今まで一緒に旅をしてきて、こんな握手をするのはきっと初めてだった。
「さて、次はどうしようか」 ライアンさんを送った後、俺たちは次にみんなを送る場所を決めていた。 「私でもよいでしょうか」 「トルネコさん?わかりました」 きっと早く子供と奥さんに会いたいんだろうな・・・。
「おとうさーん!!!!」 トルネコさんの家があるエンドールに行くと、外にいた子供のポポロが走ってトルネコさんに抱きついてきた。 「おお、ポポロ。お母さんに迷惑かけずにちゃんとしてたか?」 「うんっ!!僕ねー、お店いっぱいお手伝いしたもん!!」 「そうかそうか!すっかり見ない間におにいちゃんになったんだなー!」 二人とも本当に嬉しそうだった。トルネコさんはポポロを抱き上げて、二人で笑い合っている。
「あなた!おかえりなさい!」 「ネネ・・・ただいま」 ポポロを一旦降ろし、ネネさんとも抱き合うトルネコさん。こんな幸せな家庭を築いているトルネコさんが、俺は心からうらやましかった。自然と俺の口元も緩んでしまう。
「勇者様・・・・・・いえ、ソロさん。今までこの人と旅をしていただいてありがとうございました」 「おにいちゃんありがとー!!」 「い、いえ・・・!」 お礼なんてされると思っていなかった俺は、焦って首を振る。 「ソロさん。本当に私はあなた方と旅が続けられてとても楽しかった。これからの大商人として頑張っていきます。もしよかったら、また私のお店にもきてくださいね」 にっこりと笑ったトルネコさんを最後に、俺は別れを告げて気球に戻った。
「じゃあ次は私たちの村ね」 「コーミズ村だな。わかった」 マーニャに言われ、俺は気球の方向をコーミズ村へと向ける。 「・・・何だか・・・だんだん仲間が減っちゃって、さびしいですね」 ミネアがそういうと、皆景色に目をやった。
「・・・ミネアさん」 「え?」 クリフトがふと、口を開いた。(別にダジャレではないよ)
「あの・・・もし、もしよければなんですが」 「?」 「お付き合いいただけませんか」 「・・・・・・・・・・・・・・・・え」 ミネアが固まった。マーニャも固まった。っていうか、皆固まった。 「ちょっ・・・あんた何言ってんの!?」 マーニャが嬉しそうに、でもどこか悔しそうに鼻息を荒くしながらクリフトに詰め掛ける。正直、俺も呆然としていた。
「・・・・・・・・はい」 「えええええ!?」 マーニャは肯定の返事をしたミネアに急いで振り向く。 「あっ・・・あんた・・・アイツはいいの?」 「・・・もう、ずっと思っていても仕方ないって、思い始めていたころでしたし・・・クリフトさんはいい方だな、とはずっと思っていましたから」 アイツ、とはおそらく俺のことだと思うが、うぬぼれでも嫌なので何も言わないことにした。ミネアとクリフトは顔を真っ赤にしながら下をうつむく。
「あ・・・あの・・・よ・・・、よろしく、お願いします・・・」 「は・・・はいっ」 ミネアの笑顔を見て、クリフトもにこりと笑う。マーニャは呆れながらも、大きく息を吐いて小さく「おめでと」と呟いた。
「クリフトよかったわねーっ!ずっと好きだった人って、ミネアさんだったんでしょ?」 「え?」 アリーナの問いにそれは違う、みたいな顔をしたクリフトに俺は少し面白くて笑ってしまった。
「おい、コーミズ村着いたぞ」 「あ、待ってソロ。私たちここでお別れしないから」 「は?」 「ここは私たちの故郷だけど・・・とりあえずモンバーバラにも行こうと思ってるから。ここには父さんの墓参りだけでいいわ」 「・・・そうか」 俺はじゃあ行って来る、と残りの気球にいるメンバーに伝え、姉妹と一緒にコーミズ村へと足を運んだ。
「父さん、私たち仇をとってきたわよ」 「今までずっと放っておいてごめんね。でもこれからはずっと一緒だから」 二人は今まで見せたことのないような笑顔で、お墓に笑いかけていた。
・・・俺も、村に帰ったらシンシアに何かを伝えよう。
また気球に戻り、モンバーバラへと向かう。
「ミネアさん!また連絡しますので・・・」 「わかりました。・・・待っていますね」 それぞれ別れを告げ、俺も姉妹とモンバーバラへと向かう。
「マーニャ!!!」 いつもマーニャが踊っていた舞台の長が出迎えた。 「帰ってきたんだね・・・!また踊ってくれるのかい?」 「そーねー・・・。前より給料 倍にしてくれれば、考えてあげる」 ズパーン!! ミネアの強烈なチョップがマーニャを直撃する。俺は思わず声を出して笑ってしまった。
「なっ何すんのよミネア!!ソロも笑うなっつのぉ!!」 「雇ってもらう身で何をそんな大口叩いてるのよ、姉さん」 「・・・ふふふ、いやいやミネア、いいんだよ。倍にするから今から踊ってやれないかね、みんなお前たちを待っていたんだからな」 「えー?・・・しょうがないなぁ」 口では嫌そうだったけれど、マーニャの笑顔からはまんざらでもなさそうな気がした。
「マーニャー!!!おかえりーーーー!!!」 「ピーーーーー!!」
相変わらず、モンバーバラの舞台はにぎやかだった。舞台の上で踊るマーニャは、汗を飛ばしながらも笑顔で、とても楽しそうにしていた。
俺が舞台を後にしようとすると、いきなり背後から大声で名前を呼ばれた。
「ソローーーーーっ!!!」 踊りながらマーニャがこちらに向いてくるっと1回転し、俺を指差したかと思うと投げキッスをしてウインクをした。 「今までありがとうv」
うぉおぉぉおぉぃいいいいいいぃいぃ!!!
おっさんの声が一斉に聞こえると、俺に向かって走ってくる。 「・・・うげっ」 俺は身の毛がよだった。急いで踵を返して舞台を後にする。 「ソロー!!!大好きーーーー!!!」 「やめろぉぉぉぉおおお!!!」 マーニャが何かを言うたびに、おっさんたちの怒りが背後から伝わってくる。
俺が出て行ったあとにマーニャはこう呟いた。 「もちろん、友達としてね」
「ソロさん!ソロさんこちらです!」 モンバーバラ中を必死でおっさんたちから逃げている俺を、かくまおうとしている声。その声の持ち主はミネアだった。
「はぁ・・・はぁ・・・助かった・・・」 森の中で俺が汗を拭い息を切らしていると、ふふ、とミネアが笑った。 「? なんだ?」 「いえ・・・。こうして二人で話すのも、久しぶりだなと思って」 「・・・そういやそうだな」 ミネアは俺の顔をジッと見ると、目線を逸らしてこう言った。
「・・・クリフトさんとお付き合いをしようと思えたのは・・・ソロさんのおかげでもあったりするんです」 「あ?」 「私・・・ソロさんのこと、出会ったときからなんとなく気になっていて・・・。でも、アリーナさんと想いが通じ合っているのを見て、なんだかすごく傷ついたとかいうよりも、私もあんな恋したいなぁって、憧れになったんです。お二人のことが」 「・・・そうだったんだ」 こくり、と恥ずかしそうに頷くミネアを、俺は頭をなでた。
「・・・!」 「その・・・、色々と今までごめんな。そんで、ありがとう。ミネアがいなかったら、回復とか補助とかそういう面で困ったと思うよ。一緒にここまで旅してくれてありがとう」 「・・・っ・・・ふえ・・・」 「!!!!?????」 いきなり泣き出したミネアに、俺は慌てる。 「ご・・・ごめ・・・」 「・・・ソ、ソロさん・・・もう行って下さい・・・」 「え・・・」 「私・・・仲間と離れることがこんなに辛いとは思っていませんでした。特に・・・ソロさんは」 ミネアは涙を必死に拭っているが、次々と溢れる涙はそれに追いつかない。
「じゃあ・・・申し訳ないけど、行くな。でもまたきっとマーニャの踊りとか見に来ると思うから、一生の別れじゃねぇだろ」 「そう・・・ですね。じゃあ・・・また」 目を赤くしながら、ミネアは必死に俺に笑顔を見せた。俺は ふ、と笑うと手を振ってミネアに背を向けた。
「・・・っ、ソロさん!!」 「?」 「ずっと・・・ずっと、ずっと大好きでした!!!これからはクリフトさんと頑張ります!!だから・・・だから、きっと、きっと応援してくださいね・・・!!」 必死に、涙ぐみながら、ミネアは叫んだ。俺は大きく手を振って、にかりと笑った。
「おかえりソロ」 「あぁ。・・・じゃあ次は、サントハイム行くか」 「そうですね」 「城の人たちは戻っているかのう・・・」
気球に残るのもわずか4人。もう・・・俺は1人になってしまう。
あとがき ・・・あとがきじゃねえwww 2011.03.22 UP |