「・・・ピサロ様がまさか、そんなことになっているとは思いませんでした」 ロザリーさんは、再び空を見上げながらそういった。俺は地面に腰を下ろし、悲しそうなロザリーさんの横顔を見つめた。 「ソロさんから話を聞いたとき・・・正直、信じられませんでした」 ロザリーさんは、俺の顔を見た。
「・・・明日。私はピサロ様を正気にできるかはわかりません。その時は・・・闘ってくれるのですか?」 「もちろんですよ。・・・また、負けてしまうかもしれないですけど・・・」 俺がそう言いながら苦笑すると、ロザリーさんはそれを見て少しだけ微笑んだ。
「・・・そうですね。人間を滅ぼすことしか頭にない今のピサロ様は、容赦しないでしょうからね。ピサロ様にも、ソロさんたちのような優しい人間がいることを分かってもらわないと」 「・・・ありがとうございます」
32.笑顔の君はあの子に似てた 二人の話をこっそり聞いていたアリーナは、話の内容に安心して宿に帰ろうとした。すると。
「ソロさんは・・・私以外に生き返らせたい方がいらっしゃったんじゃないですか?」 そんなロザリーさんの問い掛けの声が聞こえた。アリーナの宿に向かう足が止まる。
「・・・・・・俺は・・・デスピサロに村を滅ぼされたんです。その時に殺された村の人たちの仇を討つために、今までデスピサロを探して旅をしてきました」 ソロがひとつひとつ話す言葉に、ロザリーさんはうんうんと頷く。
「殺された村の人の中には・・・俺の初恋の女の子もいました。やっぱり・・・最初はその子を、生き返らせたいとも思いました」 「(・・・ソロったら、やっぱりシンシアさんを生き返らせたかったんじゃない)」 アリーナは自分の気持ちを言わなかったソロに、少しだけ頬を膨らませた。
「でも・・・この世界には毎日何人も死んでいってる訳で・・・俺以外にも誰かを生き返らせたいと思ってる人がいるのに、俺だけ願いを叶えるわけにはいかないと思ったんです」 「・・・そうなんですか」 ロザリーさんは、俺の話に真剣に耳を傾けた。
「じゃあ、そのシンシアさんという方は私に似ていらしたのかしら?」 「!・・・そ、それは・・・」 「だってソロさん私と初対面の時、『シンシア』って呼んだの・・・覚えてますか?」 俺はその時のことを思い出して、ものすごく恥ずかしくなってしまった。顔を真っ赤にしながら俯く。
「・・・初恋、ですか。ソロさんは今、恋はしてないんですか?」 「うぇえっ!?」 俺はロザリーさんのいきなりの問い掛けに飛び上がった。物陰にいたアリーナも、気づかれないながらも驚きまくった。ロザリーさんてば何聞いてんの!?と。
「い・・・いま、恋・・・?」 「はい」 「し、してるっていやあして・・・るのか・・・?」 ・・・だめだ、ロザリーさんと話してるとはずかしさがハンパない。
「・・・あ、もしかして、アリーナさんだったり・・・とか?」 「お!おれ部屋にかえります!!!!」 俺は無理矢理ロザリーさんに別れを告げた。
「(どうしようバレてるバレてるバレてる俺ってそんなにわかりすいキャラなのか俺いつも頑張って思ってる感情とか顔に出さないようにしてるのにやっぱわかんのか恐ろしいなロザリーさん恐ろしいな大事なことだから2回言いましたぶつぶつ)」 色々思いながら俺は急いで部屋に戻ろうとした。
「ソロ!」 「!?!?!?!?!?」 そんな時にアリーナに声をかけられ、俺は心臓が跳ね上がるかのように驚いた。 「ご・・・ごめん、そんなに驚くなんて思わなくて・・・」 「いや・・・何?」 俺が問い掛けると、アリーナは少しだけ言いにくそうな顔をした。
「やっぱり・・・シンシアさんを生き返らせたかったんだね・・・」 「・・・聞いてたのか?」 アリーナは俯いてごめん、とつぶやいた後、再び俺の顔を見た。最後のところを聞かれてなきゃいいや・・・。
「・・・確かにさ、生き返らせたかったよ」 俺は道具袋のフタを開けた。薬草、どく消し、聖水。たくさんの物が入っている中を探った。 「でも・・・俺の旅の目的は村のみんなの・・・シンシアの仇を討つことだから・・・。生き返らせてしまったら、俺はもうお前たちと旅をする気になれなくなっちまうかもしれないから・・・な」 捜し求めたそれを、いつもつけている帽子を取って、アリーナの頭にそっと被せてやる。そこにあったのは、真っ白なはねぼうし。
「・・・それ、シンシアからの・・・最後の贈り物なんだ」 「・・・・・・そっか」 アリーナは少しだけ泣きそうな顔で、頭に被せられたはねぼうしを深く被ってそう言った。俺は少しだけ笑い・・・アリーナの肩に手を置いて引き寄せた。
「・・・ソロは、シンシアさんのこと・・・まだ大好き?」 「・・・・・・・好きだけど・・・昔みたいな、恋愛感情じゃ・・・ない、と思う」 それを聞くと、アリーナは俺に引き寄せられた頭を驚いた顔で上げた。
「本当に!?信じていいの!?」 「・・・だって、俺の恋人は今・・・アリーナだろ」 「〜〜っ!!」 死ぬほどうれしくなって顔を真っ赤にさせたアリーナは、恥ずかしそうにしながらも思いっきりの満面の笑みを見せた。そんなアリーナを見ているとこっちまで恥ずかしくなってきて、照れながら微笑んだ。
「・・・明日、デスピサロの説得、うまくいくといいねロザリーさん」 「・・・そうだな」
俺たちはそんなことを思いながら、星が瞬く夜の空を見上げた。どこからか近くで、コオロギが鳴いていた。
あとがき 2010.05.24 UP |