世界樹に登り(高所恐怖症のクリフト、体力のないブライさんとトルネコさんは馬車で留守番)、俺たちは千年に一度咲くと言われる花を求めて木の上をひたすら歩いた。 世界樹の木のふもとにいるエルフたちは、花の匂いがするとか言って、見てもいないのに花が咲いたことを知っているようだった。俺たちにもそんな優れた嗅覚があればあっという間に見つけられるのに・・・。
31.世界樹の花 「も〜花はどこよ・・・」 「結構歩いてますものね・・・クリフトさん大丈夫かしら」 「お〜?クリフトなんか心配しちゃって、ミネアったらどうしたのよ?」 「なっ何にもないわよ!」 からかうマーニャに、ミネアは顔を真っ赤にした。 「え!何々!?ミネアってクリフトのこと好きなのー!?」 「ち、違いますアリーナさん!誤解です!」 その話に興味津々で、ミネアに問い詰めるアリーナに、ミネアは恥ずかしそうに目線を反らした。その反らした視線と俺の目線がばっちりと当たってしまい、ミネアは俯いてしまった。
「・・・おいおい、お前らそのへんにしとけって。ミネア困ってんだろ」 「あはは!ミネアごめんねっ」 「い・・・いえ・・・」 ミネアは未だ恥ずかしそうに、俺達に視線を合わせないよう下を向いていた。
・・・正直なところ、その話は俺も気になった。ミネアに告白されてからもうだいぶ経つが、ミネアにまた新たに好きな人ができてくれていると俺も自分のことのように嬉しい。何でかはわからないが。
「・・・ん?」 俺にも分かるような、甘い匂いがした。目の前を見ると、大きなピンクの花が一輪咲いていた。
「うわ〜っ大きい〜!これが世界樹の花!?」 アリーナが嬉しそうに、その花に駆け寄った。ライアンさんが腕を組んで驚いたような表情をしていた。 「これをどうすればロザリーさんを生き返らせられるのかな〜・・・」 「お墓とかに供えればいいんじゃないでござるか?」 う〜ん・・・と俺達は悩んだあげく、花びらを1、2枚ちぎっていくことにした。それを持って下に降りて早速、ロザリーさんのお墓があると1番に考えられるロザリーヒルに向かった。
「ここは相変わらず綺麗でのどかな村ですね」 クリフトがそう言いながら、辺りを見回した。 ・・・痛いほどの視線を感じる・・・。
「あっ!あそこ・・・」 アリーナが指した場所は、村の端。確かに墓石があってその前に、綺麗な花が供えてある。その更に前では、イエティが泣いていた。
「うぉーん!可哀相なロザリー!それもこれも人間のせい!ロザリーを殺したのは人間!うぉーん!!」 デスピサロと同じく、ロザリーさんを殺した人間が許せないようだった。きっとこのイエティは、デスピサロが人間を根絶やしにする日を待ち侘びているだろう。
「・・・じゃあ、供えるな」 俺がそう言うと、仲間たちは深刻そうな顔で頷いた。俺は持っていた花びらを、そっと墓石の前に置いた。しばらくすると、空から光が墓石に向かって差し込んだ。それを見たイエティは、腰を抜かす。 墓石の下に埋められていたのに、ロザリーさんはいきなり俺達の前に姿を現した。ロザリーさん自身も、今なぜ自分がここにいるのか分かっていないようで、辺りを見て首を傾げている。
「う・・・うお〜ん!ロザリィ〜!!」 「イ、イエティ!?何故、私ここに・・・」 「この人間たちが生き返らせてくれたんだ!優しい人間もいたんだよロザリー!」 泣きながらイエティは、俺達を指差した。ロザリーさんは俺達の顔を見て、ハッとしたような表情を見せた。
「そうですか、あなたがたが・・・。恐らく世界樹の花を使われたのでしょう。あんな貴重な花を私に・・・ありがとうございます」 ロザリーさんはいつも通り礼儀正しく、俺達に深々と頭を下げてきた。俺は慌ててお辞儀を返す。
「実はロザリーさん!あなたに頼みがあるの!」 「え・・・私に?」 アリーナが今までにあった事情を淡々と話した。話が進むにつれて、ロザリーさんの顔がなんとなく悲しそうにも見えた。
「・・・わかりました。私がピサロ様の暴走を止めればいいのですね」 「・・・よろしくお願いします・・・」 「いえ。ソロ様にはお世話になりましたもの、これくらいのことをしなければ償えませんわ」 にこりと笑ったロザリーさんの顔は、やっぱりどこかシンシアに似ている。そんなことを思っていた俺の横顔を、アリーナは見ていた。
「ではさっそく行きますか?」 「や、今日くらいはロザリーさんにも休んでもらおうぜ。色々考えたいこともあると思うし・・・今日くらいはゆっくりしよう」 「・・・ありがとうございます、ソロさん」 ロザリーさんは嬉しそうに微笑んだ。
ロザリーヒルには何だか居づらいので、ロザリーさんの意識が1番強い場所であるイムルの村へと俺達は訪れた。一度前にもここに泊まりに来た時、ロザリーさんとデスピサロの出会いの映像が夢になって出てきたんだっけ。
夕食が終わり、各自風呂に入ったり本を読んだりと自由な時間を過ごしていた。イムルの村の宿は小さいので、男女問わず一部屋だ。 今部屋には、商売道具チェックをしているトルネコさん、
「(・・・俺、何しよう・・・)」 特にやることが全くなくて困っていると、ロザリーさんがいないことに俺は気づいた。俺は本を読んでいる人たちの邪魔にならないよう、静かにドアを開けて宿を出た。
「(あ、ロザリーさん)」 宿を出てすぐ、森の横にある切り株に座るロザリーさんを見つけた。ロザリーさんは、空を見上げていた。今日は綺麗な満月。きっと、デスピサロのことを考えているのだろう。 一人にさせておこうと思った俺は引き返そうとすると、足元にあった枝を踏んでしまいパキリと音が鳴った。 「ソロさん?」 それに気づいたロザリーさんは、俺を呼び止めた。俺は慌てて振り返る。 「あっ・・・へ、部屋にいねぇなと思って…」 「ふふふ、気にしないでください。あの…少しだけ、話しませんか?」 「は・・・はい」 月の光に照らされながら笑って手招きするロザリーさんは、いつも稽古が終わった俺を待ち侘びて、丘で手を振っているシンシアに見えた。
「(・・・ソロ・・・何してるんだろ・・・?)」 部屋を出て行ったソロを心配したアリーナは、何となく外に出てみた。 そこには、話をするソロとロザリーさんの姿。何の話をしているのか激しく気になったアリーナは、二人に気づかれないよう後ろに回り込んだのだった。
あとがき アリーナは結構焼きもちやきだと思ってます。 2010.05.24 UP |