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「な、何なのこのダンジョン・・・!無駄に長くない!?」 マーニャの言う通りだった。ゴッドサイドに空いた穴から入ったそこは魔物の巣窟だったが、先にはきっと何かあるのだろうと必死に進むが一向に何もない。ただじめじめとした洞窟だったり、民家があったり、真横はマグマだったり・・・とにかく色々だった。
「途中で宿屋があったり巨人が住んでいるような家があったり・・・色々ありましたがここまで長いと正直しんどいですね・・・」 「~っあーーーーっ!外の空気が吸いたい・・・!」 この先に何があるのかもわからず進むのは、確かにクリフトの言う意見に同意だった。正直、ものすごくしんどい。これで何もなかったら落ち込む・・・。 「も~みんな、くじけるんじゃないのっ!早く行くわよ~!」 「・・・・・・元気ですね、アリーナさん・・・」 先々行くのはやっぱりアリーナ、とその後ろにライアン。体力のある2人だ。俺はその後に何とか着いていってるって感じだ。完全に着いてきてないのはトルネコさんとブライさん。大丈夫だろうか・・・。
「ここが・・・奥かしら?」 「旅のとびらがあるな」 一番奥らしき場所にやっと着いた。そこには旅のとびら。 「ちょっとちょっと冗談じゃないわよ。これに入って外になんか出たりしたら私いい加減キレるわよ」 「いやそんな事言われたって知らないし・・・」 「何ですってソロ!?もとはといえばあんたが入ろうとか言ったんじゃないっ!」 「いやアリーナが言った」 マーニャがすっごい突っかかってくるのか面倒くさい。ご機嫌ななめなのかも・・・。 「まあ今はここしか行くとこねぇんだし…外に出ちまうかもしれないけどひとまず行こうぜ」 「出たらゴッドサイドとかじゃありませんよーに・・・」 俺がそう言うと、マーニャは祈りを込めるかのように手を組んでいた。 「・・・よ・・・っと」 旅のとびらの渦の中へと入る。と同時に、体の中にあるもの全てが口から出てしまいそうな勢いの吐き気が訪れる。頭もグラグラして、気分が悪い・・・しかし気がつくと、どこかに到着していた。
「? ここは・・・?」 「見たことのない所でござるな」 そこは、奥へと1本に伸びていく土の道、その途中のあちらこちらに白い卵、その横に卵を守るように動き回る鶏。そして一番奥には、何やら2人の男が言い合いをしており、その後ろに1枚の絵画が宙に浮かんでいて、その更に後ろには火山のような山があった。
30.どうでもいい喧嘩 「だからァァァァァ!!!卵がなきゃ鶏は産まれねえんだよわかったかエッグゥゥゥゥゥ!!!!」 「どぅあらあああチキーラァァァァ!!!でも鶏がいなきゃ卵も産まれねえだろがァァァァ!!!」 ・・・壮絶な戦いを繰り広げているようだ・・・。
「ねぇソロ・・・私たち此処に来た意味なかったみたいだね・・・」 「・・・ああ、そうだな・・・」 あのアリーナでさえ顔をひきつらせそう言った。あのまま喧嘩している二人に話しかけても何にもならなさそうだし、マーニャがやっぱり来ることなかったとブツブツ言いながら引き返そうとした、その時だった。
「おい待て、そこの連中!」 「!」 呼び止められ、俺は後ろを振り返った。そこには先ほど喧嘩していた二人が、こちらを見つめている。 「なによ」 マーニャが不機嫌そうに返事を返すと、エッグと先ほど言われていた男がニヤリと笑った。
「・・・お前ら、卵と鶏どっちが大切だと思う」 「・・・・・・・・・・・・いや果てしなくどうでもいいからァァァァァ!!!!」 ブチ切れたマーニャはエッグにそう一喝すると、右ストレートを繰り出した。不意の攻撃にエッグは予測できず、もろにクリーンヒット。999のダメージ!
「大丈夫かエッグゥゥゥゥウウウウ!!」 「だ、大丈夫だチキーラ・・・あいつらただ者じゃねえ」 「くっ・・・あの女め・・・。大丈夫か、怪我はないか?」 「ねぇ何なのさっきから何なの無駄に熱い男の友情みたいなのは。さっきまでボロクソに喧嘩してたじゃん」 マーニャが呆れ顔でそう言うと、エッグとチキーラはマーニャを睨みあげた。
「普段は喧嘩してるけどな!」 「二人でいれば元気百倍なんだよ!」 「アンパン○ン?」 「アン・・・ち、違うわ!」 チキーラがいい加減にしろという目でマーニャを見た。マーニャはだるそうにしている。
「くそ~・・・こうなったらお前ら、卵派か鶏派か喧嘩で決めようか。行くぞ!」 「・・・はっ?え、ちょ」 俺がボーッとしている間にそんな話が出来上がっており、何でかエッグとチキーラのこの2人の男と戦うことになってしまった。
「メラゾーマ!!」 「スクルト!!」 「マヒャド!!」 「ライデイン・・・!!」 エッグとチキーラは少々強く手強かったが、なんとかスクルトで守備を固めたり、ルカニで相手への攻撃をより効きやすくしたりすれば何とか勝利できた。 「ふふふ、デスピサロに立ち向かおうとしてた勇者一行がこんな所で負けるわけないわよっ」 マーニャは偉そうにエッグとチキーラに言うと、2人は目を見合わせて俺たちに背を向けて歩き出した。
「? 何してるんすか?」 「俺たちに勝利した褒美をくれてやる」 「ほ・・・褒美ですって!?」 チキーラの褒美という言葉に、マーニャの目は一際輝いた。やはり宝のこととなると、変わる女だ。二人は後ろに浮かんでいた絵画に手を翳した。すると絵画は光を放ち、光が止むと絵が変わっていた。
「絵が・・・花の絵になっていますね・・・」 クリフトはそれを見て感動したように呟いた。 「この絵の花は千年に一度咲くと言われている世界樹の花だ。今この絵画にそれが浮かんでいるということは、この世界の世界樹に花が咲いたということだ」 「この花は死んだ人を蘇らせることが出来る貴重な花なんだ」 「(死んだ人を・・・生き返らせる・・・!?)」 エッグとチキーラの花についての説明の言葉に、俺は目を見開いた。「死んだ人を蘇らせられる」俺の頭にシンシアが真っ先に浮かび上がった。
「とにかくここにある火山から元の世界に戻れる。また来たら相手してやってもいいぞ」 「え?わ、わわわわわっ!!」 いきなり奥の火山が噴火し始め、俺たちはエッグとチキーラにそこに放り込まれた。不思議と熱くはなかったが、さすがに驚いた・・・。
「びっくりしたわねー!いきなり火山に投げ入れるんだもんあの2人!」 アリーナがそう言うと、クリフトとブライさんはうんうんと頷く。その横でマーニャはやっと外の空気が吸えたことに、大きく深呼吸をして伸びをしている。
「それにしても・・・気になりますね、あの世界樹の花」 「そうですねぇ。でもやっぱりあの花を恵むとしたらロザリーさんですよね」 「!」 トルネコの言葉に俺は驚いた。そういえば・・・よく考えればそれが一番なのだろう。ロザリーさんを生き返らせ、デスピサロの元へ連れて行けば、あのデスピサロもきっと何かを思い出すかもしれない。今の戦うことしか記憶にないデスピサロのままではないかもしれない。でも・・・。 「でも・・・ロザリーさんを生き返らせても、うまくいかないかもしれないよ?だってデスピサロが絶対にロザリーさんのことを思い出すとは限らないもん。そしたら花がもったいないっていうか・・・」 そこまで言うとアリーナは口ごもってしまった。俺が考えていたことと全く同じことを考えていたようだ。確かにそうだ。デスピサロが思い出さなければ、ロザリーさんはただ悲しむだけだろう。でも人を生き返らせられるというのは、きっとロザリーさんにとっては嬉しいことだ。 でも、やっぱり。俺はシンシアに会いたいと、そう強く思った。
「確かにアリーナの言うとおりかもしれないけどー。他に私たちに関わった死んだ人って言えばさ、一番生き返らせなきゃいけないのはロザリーさんじゃない?」 マーニャがそう言ったが、きっとマーニャも今一番生き返らせたいのは自分の父親だろう。その横でミネアも少し悲しそうな顔をしながら、小さく頷いた。
・・・俺は、バカだ。 みんなも誰かを生き返らせたいとそう思っているに違いないのに、自分の都合で大事な花を使おうとしていたのだ。 俺はデスピサロを倒すために、村のみんなの・・・シンシアの仇を討つために、こいつらと旅に出た。この旅を終えるには、ロザリーさんが必要なのだ。
「わかった・・・ロザリーさんを生き返らせよう」 「ちょ・・・ソロ!」 アリーナが俺の手をひっぱった。俺が振り向くと、アリーナは心配そうな顔をしている。 「いいの・・・?シンシアさんのことはいいの?」 「・・・あぁ。俺がシンシアを生き返らせるなら、マーニャたちだって生き返らせたい人がいるだろ?」 「・・・あ」 そういえば、という顔をしたアリーナは、自分の口を押さえた。俺は少しだけ微笑んで、またみんなに向き直った。
「よし、世界樹のところに行こう」 俺たちは近くにあった気球に飛び乗った。
あとがき 2010.04.10 UP |