デスピサロの下へと辿り着くためには、その前にある奇妙な城をくぐりぬけなければならないようだった。 「あ〜あ〜。こういう時こそ空をぴょーんって飛べたらいいのにねぇ」 「しょうがないでしょ姉さん」 「でも〜・・・」 「つべこべ言わないでさっさと行く!」 城に入っていく俺の後ろでそんな姉妹の会話が聞こえてくる。…やっぱりミネアのほうが強いな…と俺は思うのだった。
28.決着の時 「大丈夫か、アリーナ」 「う、うんっ・・・!」 魔物の数は尋常な程の多さではあったが、今はまだ順調になんとか前に進めている。だが今闘った魔物が繰り出した痛恨の一撃は、アリーナに直撃した。かなりの痛手を負ってしまったようで、血が腕や腹から滲んでいるのが見える。アリーナは時々、痛そうに目を瞑って歯を食い縛り、俺の後ろでは仲間たちが心配そうな顔をして見ている。 「薬草使うぞ」 「ごめんね・・・」 決戦前だからあまり呪文は使わない作戦なので、回復も薬草だ。だがアリーナの体力はかなりの物だから、薬草を何枚も使わなくてはいかないのでちょっと面倒くさいのもある。 「よし・・・、もう痛くないか?」 「うん、大丈夫みたい。ありがとね」 気づけばアリーナの傷はすっかり癒えていた。俺はそれを確認すると立ち上がり、また城を進み出す。途中賢者の石なんていうありがたいアイテムだって拾えたし、得した気分だ。 「一挙両得ってやつねー!」 「いえ、正しく言うとまだデスピサロを倒していないので一石二鳥ですね」 「う、うるさいわね!!」 マーニャの発言にクリフトはにこにこ笑顔でそんな事を言っている。間違いを訂正された恥ずかしさに、マーニャは赤面しながらクリフトを睨む。そんなマーニャを必死にミネアは宥める。
「なんか・・・決戦前って感じしないですねぇブライさん・・・」 「若いやつは勘違いしとるようじゃな。遠足じゃないというのに・・・ブツブツ」 「まぁ良いではないでござるか!はっはっは!」 パーティーのおじさん要員(トルネコ・ブライ・ライアン)たちも何やらぶつぶつと話している。本当に、いつもと変わらない。決戦前の緊張感なんてひとつもなかった。
「いつもと変わらないのが・・・きっと一番、いいことだよね?」 「え?」 俺がそんな仲間たちを眺めていると、横にアリーナが近づいて俺の思考を読み取ったかのようにそう言った。 「確かに端からみれば私たちってかなりのお気楽な旅をしてる人だけど・・・私からしたら、たとえ戦いの前でもこのパーティーでこうやってバカやるのが、一番楽しいし安心するの。・・・それって・・・きっと何より、大事なことだよね?」 「・・・そう、だな」 アリーナがそんな事を考えていたことに、少し驚いた。アリーナといえば「おてんば」と「お気楽」という言葉が似合いそうなものなのに…。 「・・・ちょっとソロ。今、意外だなとか思ってたでしょ」 「・・・・・・・・・あはは」 「いやいやいや誤魔化したって私騙されないんだからね!」 しばらく二人の間に沈黙が流れたが、同時に吹き出してしまった。やっぱり、アリーナといると何だか落ち着く。自然に笑みが零れて・・・ 「あ・・・・・・」 脳裏に、シンシアの笑顔が霞んだ。俺は・・・俺は、村の皆の・・・シンシアの仇を討つ為に旅に出た。そして、大切な仲間に出会えた。それが今、もうすぐに決戦を控え終わろうとしている。
「(俺・・・もうすぐシンシアの仇を・・・)」 「ソロ、どうしたの?」 心配そうに顔を覗き込んでくるアリーナの背景に、やっぱりシンシアが見えてしまう。最低だ。自分はアリーナを、シンシアと重ねて見ていたのかもしれない。アリーナにはアリーナの良さがあるのに・・・。 「・・・ううん。何でもねぇ」 「そう?まぁいいわ。早く行きましょ!」 俺たちを置いて前を歩く仲間を追いかけるようにして、アリーナは俺の腕をつかんで走り出した。やっぱり、シンシアとは違う人。俺はそれをもう一度自分に、アリーナに引っ張られながらそう言い聞かせた。
「この奥にデスピサロがいるんだな。・・・にしても暑い・・・」 「息をするだけでも汗が溢れてきますね・・・」 デスピサロがいるであろう場所は火山。マグマが自分たちの歩く道の下でグツグツと煮えながら待ち構えている。誤って落ちたりでもしたらデスピサロどころではない・・・。クリフトの言う通り、息をするだけでもしんどいくらいに暑い。
「あ・・・あそこ、何かいるわ!」 マーニャが指を差し、皆その方向を目を細めて見た。赤黒く見える先に、大きな黒い影。あれがデスピサロ・・・? 「!もしかして・・・ロザリーさんを殺された憎しみから、進化の秘法であんな姿に・・・?」 ミネアが言う通り、以前見たデスピサロの姿とは何もかもが違った。もう人でもなく、巨大な魔物と化していた。
「ぐはあぁぁ・・・っ!!何者だお前たちは・・・!?私の名はデスピサロ。魔族の王として目覚めたばかりだ。・・・私には何も思い出せぬ・・・」 デスピサロは大きな体を、座っていた椅子から立ち上がった。 「だがやる事は覚えている・・・。お前たち人間を根絶やしにすることだ!!」 そう叫び、デスピサロは俺たちに斬りかかろうとした。俺たちは慌てて攻撃を回避する。
「酷い・・・怒りの余りに自分の今までの願望しか頭に残っていないんだわ・・・!」 横にいたアリーナがそう呟いた。ということは、死んでしまったロザリーさんのことも、ロザリーさんを愛していた気持ちも、今のデスピサロには欠片もないのか・・・。
「・・・みんな、行くぞ!」 「「「「「「「はい!!」」」」」」」 仲間の返事と共に、俺たちは練っていた作戦通りに攻撃に取りかかった。なるべく魔力は温存し、自分たちの体力の減りに気を付け、相手の体力を削ることを優先した。
・・・が、何時間経ってもいくら攻撃してもデスピサロは姿を変えたりしてなかなか倒れない。 「(強い・・・!進化の秘法だけでここまで変わるのか・・・!?)」 「クリフト!!」 アリーナの叫び声が聞こえた時には、既にクリフトは倒れていた。俺は慌てて駆け寄る。息はなかった。 「どうするのソロ!ミネアもあんたももうザオリク使える魔力ないし、世界樹の葉もないわよ!?」 「・・・っ」 クリフトがいない戦いはかなり辛い。が、もう魔力を回復できる道具もないし、あとは俺とミネアの回復魔法しかない。しかし魔力もあと少しだ。
「・・・できるだけ頑張ろう。みんな死ぬ思いで行くぞ!!」 俺がそう言うと、みんなは頷いた。クリフトを端に寝かせてやり、戦いを再開する。しかしデスピサロは一向に倒れない。俺とミネアの魔力も底をつき、後は攻撃のみしかできない状態に陥った。 既にライアンやブライ、トルネコは息絶えていた。
「もう・・・全滅までやるしか、ありませんね・・・」 絶え絶えの息で、ミネアはそう言った。マグマのせいで暑い此処は、よけいに体力を削られ死んでしまいそうだった。汗だくの中みんな戦っている。俺も正直、限界だった。 「きゃあぁあ!!」 「マーニャ!!」 燃え盛る火炎の攻撃に、マーニャが倒れた。ミネアが唇を噛み締める。 「く・・・喰らえぇっ!!」 ミネアが攻撃にかかるが、惜しくも足で振り払われた。ミネアの体はそのまま地面の上に放り出され、そのままミネアの体は起きあがらなかった。残るは、俺とアリーナ。
「ソロ・・・私も、これで・・・最後かも」 「・・・アリーナ」 「でも・・・ここまでやったんだもの。私は悔いはないわ。ソロもそうでしょ?」 しんどい中、にこりと微笑むアリーナが・・・あの日のシンシアと重なってどうしようもなかった。 また、愛しい人を守ることが出来ないのか。 こんなにも、近くにいるというのに。
俺が悔しさで歯を食い縛った時、アリーナの背後からデスピサロの爪か降り下ろされるのが見えた。 「アリーナ!!」 「え・・・?」 俺は、一心不乱にアリーナに覆い被さっていた。そこから、意識はない。
「ソ・・・・・・ロ・・・?」 アリーナは、必死に俺の体を揺さぶっていた。その目には、たくさんの涙。
「や、だ・・・やだよ・・・嘘でしょ?私を庇ったの?ねぇ・・・そんなの・・・っ!」
バカ、と言おうとしたアリーナの背中に、デスピサロの鋭い爪が突き刺さった。
「・・・ぁ・・・ぅ・・・っ」
アリーナはそのまま倒れ、うっすらと開いた瞳から俺を見た。
「ソ・・・・・・・・・ロ・・・・・・」 意識を手放しそうになりながらも、アリーナは横に倒れる俺の手を握りしめた。
そこで、アリーナの息も完全に途絶えた。
あとがき 2010.02.21 UP |