「う・・・ひっく・・・」

アリーナは宿屋の外で座り込んで泣いていた。
すごく、すごくショックだった。別にあの二人のことなんかどうでもいいと思っていたのに。

「・・・・・・姫様」

「・・・!クリフト・・・!!」

後ろから足音がして振り返ってみれば、そこにいたのは優しい笑顔のクリフトがいた。クリフトは何も言わずにアリーナの隣に座った。

「・・・・・・あのね、クリフト」

「はい?」

「・・・ソロがね、ミネアとキスしてたの」

その言葉に、クリフトも少し驚いた様子だった。

「わかってる、ミネアはソロが好きなのも・・・。だけど、すごく嫌だったの。ソロが違う子とキスしてるところ、何でかはわからないけど・・・見たくなんてなかった・・・っ!」

アリーナはまた溢れ出した涙を、手で必死に拭っていた。

「ソロ、すごく驚いてたし・・・本意じゃないならそういうことしちゃ駄目だと思うの!よけるとかすればいいのに・・・!」

「それは・・・・・・姫様はきっと、それだけソロさんの事が好きなんですね」

「え・・・?」

「だって、何とも思っていない方のためにそこまで怒ることはできませんよ」

「そ・・・そうかなぁ・・・」

アリーナは眉を下げて不安そうに呟いた。クリフトは少し微笑む。

「姫様」

「ん?」

アリーナが顔をあげた時だった。クリフトの顔が、近づいてくる。

「・・・!?」

クリフトとアリーナの唇が、軽く触れた。その唇はすぐに離れたけど、アリーナは目を真ん丸にさせて呆然としたままだ。

 

「・・・明日、ソロさんに謝りにいきましょう、姫様」

「・・・・・・え・・・?」

「突然のキスは、よけられないということが・・・今のでわかったんじゃないですか?」

「あ・・・!」

アリーナは口元を押さえて、顔を真っ赤にした。クリフトはくすりと笑う。

「・・・そうだね。ありがとうクリフト。私・・・明日ソロに謝りにいくよ」

「・・・はい。闇の世界へ行っても一晩で帰ってくるとは思えないですからね」

そうだね、とアリーナは少しだけ微笑んで、クリフトの横から立ち上がった。

「じゃあ・・・寝るね。おやすみ!」

「おやすみなさいませ、姫様」

アリーナは嵐のようにクリフトの前から去っていく。クリフトの回りが静かになった。

 

「私は・・・姫様が幸せなら・・・姫様の笑顔が見られるなら、どんなことだってします」

クリフトは光り輝く星空を見上げ、胸元で十字を切って目を瞑った。

「神様・・・どうか、あの二人に幸せを」

クリフトはそんな願いを星空に浮かべた。その後は、翌日のアリーナがソロに謝るためのことを真剣に考えていた。

 

26.失恋



翌日。
天空城から闇の世界への入り口へと飛び込んだ俺たちは、闇の世界に入るための洞窟へと入っていた。雲の隙間から飛び降りるのには、クリフトはかなり嘆いていたが。

「あーっ、やっと出られたわ・・・!」

アリーナが大きく伸びをした。そう、やっと闇の世界へと入られたのだ。

・・・アリーナとは、今日はまだ一言も口を聞いていない。

 

「それにしても・・・不気味なとこなのね、闇の世界って。あたし暗いとこキラーイ」

マーニャは寒気を覚えたとでも言うように、二の腕の辺りを両手で擦っている。
確かに、すごく不気味な場所だった。大陸の草や木は枯れ、全ての建物は邪悪な雰囲気をかもしだしている。海は血の海のように真っ赤だった。

 

「あ、あれは何でしょう・・・?」

クリフトが指を指した先は、大陸の一番南にある建物だった。この闇の世界には不釣り合いなほどの、綺麗なほこら。

「体力が回復するかもしれません。行ってみましょう」

ミネアがそう言うので、俺たちは行くことにした。

 

 

 

 

 

マーニャはソロを見ていた。そして昨日の夜の出来事を思い出していた。

 

「あ、ミネアおかえりなさい。・・・あら?アリーナがいないわ。ミネア知らない?」

「姉さん!!」

お風呂上がりのマーニャに、泣きじゃくったミネアは抱きついた。マーニャはおっかなびっくりという顔でミネアを見る。

「え、何よ、どうしたのよ?」

「私・・・、さっき、ソロさんに告白したの・・・っ!」

その言葉に、マーニャは目を丸くしたが、すぐに嬉しそうな顔になった。

「そ、それで!?どうなったの!?」

「ソロさん、何も言わないから・・・私、キスしてしまった・・・っ」

更に興奮するマーニャだったが、ミネアの涙は止まるどころか溢れるばかりだった。

 

「そうしたら・・・アリーナさんが見てたみたいで・・・っ、あの二人、私のせいで喧嘩してしまったみたいで・・・!」

「・・・ミネア・・・・・・」

自分の胸元で肩を震わせて泣いている妹・ミネアを、マーニャは抱き締め返した。

 

「わかったわかった。あんたはよくやったわよ。どーせフラレちゃったんでしょ?」

「・・・うん」

図星だったミネアは、更に涙が流れ出る。その顔が見えないように俯いた。

「ソロじゃなくても・・・ミネアならいい奴が見つかるよ、きっと」

「うん・・・ありがとう、姉さん」

二人は笑いあっていた。

 

 

そんな事があったけれど、ミネアは怖がらずにソロに話しかけている。けど、アリーナとは話していないソロ。このマーニャさまが一肌脱ぐかーと袖もないのに腕まくりをする素振りをするマーニャに、クリフトが話しかけた。

 

「・・・何よクリフト?」

「マーニャさん。あの二人のことは、明日の朝まで放っておいてあげてください」

「何でよ?」

「姫様が今日・・・謝りに行くつもりだそうなので」

クリフトは優しい笑顔でアリーナを見た。マーニャは、ふーんと指を加えた。

「・・・ん?じゃぁあんた、アリーナのことは諦めたの?」

「え・・・えぇ。一応・・・」

たぶん、なかなか忘れられないですけど、とクリフトはへにゃりと笑った。なんかこの男笑ってばっかりね・・・。

そこでマーニャは、ピンッと何かを思いついた。そしてニヤリと笑う。

 

「(失恋同士の恋愛・・・これって結構イケるカモ〜!マーニャちゃん天才!)」

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・?」

ほこらに入ると、そこはやはり神秘的な場所だった。回りには綺麗な水が張り巡らされ、奥には大きな炎が灯されていた。

「何だかここにいると、力がみなぎってくるようですね〜」

すっかり疲れたのか、トルネコは座り込んでいる。…あの体重と荷物を支えているトルネコの足は、超人だと思う俺だった。

「ようこそ希望のほこらへ・・・」

「!?」

誰か知らない声が聞こえ、俺はその声の主の方へと振り返った。そこには、先ほどまで炎だった場所に女の天空人が居て、炎はなかった。

 

「あなたは・・・?」

「私は、ここの番人のようなものですわ」

にこりと笑った天空人は、話を続ける。

 

「さて・・・私はあなたたちの事を待っていました。先ほどここへ来る途中に大きな城を見ませんでしたか?」

「あ、そういえばありました」

「あそこは大陸の中心でありデスピサロの宮殿。しかしデスピサロまで辿り着くにはこの大陸にある結界を解かなければなりません」

淡々と話す天空人の話を、俺たちは静かに聞いていた。

「結界は全てで4つ。南西、南東、北西、北東と宮殿を囲むように結界が張られています。結界を破らぬ限り、不思議な力があなたたちの行く手を阻むでしょう。まずは結界を破るのです!」

そう言って天空人は、両手を大きく広げた。その瞬間、俺たちの回りが光り輝いた。光が止んだ時には、今まで消耗していた体力が全回復した。

 

「疲れた時はいつでもここへ来なさい。私がこうして回復をさせて差し上げます。・・・では、お行きなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議なところだったね・・・。闇の世界にあんな神秘的な所なんてなかなかないよね!」

アリーナがそう言い、クリフトやマーニャたちは頷いている。

 

「よし…じゃあまずは南西のほこらだ!」

「おー!」

 

俺たちは、結界を破りに出た。

 

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あとがき
とうとうエンディングが近いですね!
しかしこの小説はまだまだ(たぶん)終わりませんよー!

2009.12.12 UP