「ここが・・・天空城・・・」

雲の上に聳え立つ立派な城に、俺は目を見開いてそう呟いた。きれいだ。すごく。今までこんな城を、地上でも見たことがない・・・。

「すっごい・・・本当にあるのね、天空城!お伽噺の中の話が目の前に・・・!」

アリーナは感動に目を震わせていた。みんなも城を見上げて歓声をあげている。

「こうして無事に城に戻って来られたのも、皆さんが天空城を見ることが出来たのも、全てソロさんのおかげです。ありがとうございます!」

「い、いや・・・俺は別に何も・・・」

「なーに言ってんのよソロ?ルーシアの言う通りじゃない!ソロがいなきゃ私たちも今このキレ〜な天空城にこうしていること出来なかったんだから。感謝してるわ」

マーニャは俺の背中をバシッと叩いた。

・・・今まで勇者なんかでいても何もいい事なんかないと思っていたけど、なんだかここまで誉められると悪い気がしないでもないような気がした。

 

25.突然


「では私は戻ってきた事をお知らせしてきます。皆さんはとりあえず王様にお会いになるといいでしょう。それでは・・・本当にありがとうございました!」

「元気でね、ルーシア!」

ルーシアは丁寧に礼をして、城へと戻って行った。後ろでアリーナが大きく手を振っていた。

 

「・・・ふう。じゃあソロ、王様に会いに行こうか?」

「ああ、そうだな」

俺は頷くと、みんなを連れて城へと入った。城の人に案内され、俺たちは王様のもとにたどり着いた。

 

 

「(これが・・・王様、なのか?)」

目の前にいた王様は――紛れもなく、竜だった。大きな体で、俺たちを迎える。想像と違ってかなり驚いた。

 

「・・・私の名はマスター・ドラゴン。竜の神と呼ばれし者だ。我ら天空の血と人間の血を引く勇者ソロよ、よく来たな」

「は、はじめまして・・・」

俺は深く礼をすると、マスター・ドラゴンは「礼儀正しいのだな」と呟き少し笑った。と、その時。

 

ドン!

 

「!? 何の振動だ・・・!?」

天空城が大きく揺れ、地震でもあったのかと俺たちは辺りを見回していると、天空人が慌てて玉座の間に飛び込んできた。

 

「大変です王様!地上から邪悪な光が放たれて雲に大きな穴が・・・!」

「なに!?・・・そうか。挑戦状というわけなのだな・・・」

天空人の知らせに、マスター・ドラゴンは視線を俺たちに戻した。

「私はここにいて、世界で起こる全ての物事を知る事ができる。お前たちが何故私に会いに来たのかも分かっている。しかし・・・私にはもはや、邪悪な存在であるデスピサロの進化を封印できる程の力はない・・・。私はお前たちが思っているほど絶対の存在ではないのだ」

「え、そうなんですか・・・?」

竜の神と呼ばれるほどの者なのだから、とてもすごい力の持ち主なのだと思っていたが、どうやら違ったようだった。

 

「・・・人間は時として、思わぬ力を発揮することがあるという。私はお主たちのその力に賭けたいと思うのだが・・・どうだ?」

「俺はもちろん・・・」

俺はそう言ってみんなに振り返ると、みんなは微笑んだ。

「私はもちろん行くわよ、ソロ!デスピサロこそが、私の真の仇なんですもの!」

「わ、私も協力しますよソロさんっ!」

「ワシも姫様が行くならお供させて頂きますぞ勇者さま!」

「私だって行かせてもらいますよ!邪悪な存在を倒した伝説の大商人トルネコになってみせます!」

「ワシは勇者殿の行く場所なら例え火の中水の中・・・!構わん、着いて行きますぞ!」

「あたしだって行くわ!バルザックはやっつけちゃったけど、ソロの仲間だもん!」

「私も行かせて頂きます、ソロさん。姉さんと同じように私もソロさんの仲間ですから」

みんなは口々にそう言った。俺は頷くと、マスター・ドラゴンに向き直った。

 

「天空の血と人間の血を引きし勇者ソロとその仲間たちよ。そなたたちならあのデスピサロも倒せるかもしれん。私の持っている力を全て与えよう!」

そう言ったマスター・ドラゴンの体が、光り始めた。その光は、俺の持つ天空の剣へと移動する。

「な・・・んだ・・・?」

力がみなぎるような、そんな感じだった。かなり攻撃力が上がったのだろう。

「・・・その剣がお前の助けとなるだろう。さっき言っていたこの城の真下に開いた穴が闇の入り口のはず!・・・私はここからお前たちの活躍を見守っているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っあー!疲れたー!」

ひとまず地上の宿に戻り、一晩を過ごすことになった。恐らく明日から決戦に向かっていくことになるだろう。アリーナは部屋のベッドに寝転がってそう言った。

「あたしも疲れたわぁー。でもまさか本当に竜の神様がいるなんて正直驚きだわ。・・・ってミネア、どこ行くのよ?」

「ちょ、ちょっと散歩よ!」

マーニャが尋ねると、ミネアは少し慌てたようになり、急いで部屋を出ていった。

「何よ、変な子ねぇ。あ、アリーナ、私先お風呂入らせてもらうわね〜」

「う、うん、いいよ!・・・・・・・」

アリーナは、ミネアが出ていった部屋のドアを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「ソロさん?」

「え、ミネア・・・?」

ドアの外から声が聞こえ、俺はベッドから体を起こし、ドアへと歩いた。ドアを開けるとそこにはやっぱり、ミネアの姿。

「どうしたんだ?」

「少し・・・お話がありまして。いいですか?」

「・・・わかった。ここじゃ何だから入れよ」

俺はミネアを部屋にいれ、ドアを閉めた。ミネアはそのままベッドに腰掛け、俺もその横に座った。

「で・・・話って?」

「私・・・・・・ソロさんは優しいなぁってすごく思います」

いきなりなんの話なのか状況が全くつかめない俺は、首を傾げながらも頷いた。

「ホフマンさんが仲間から外れる時も・・・アリーナさんたちが急にいなくなってしまった時も・・・ソロさんはきっと一番辛いのに、仲間のことを一番に考えて・・・」

「お、おい、ミネア?」

俺はとうとう分からなくてミネアの顔を覗き込む。

「・・・ソロさん」

「ん?」

ミネアは少しだけ頬を赤らめていた。

「私・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミネアどこ行ったのかなぁ・・・」

何となく胸騒ぎがした私は、部屋を出てミネアを探していた。散歩なら着いていこう。そうじゃなければ、一人にしておけばいい。きっと一人になりたい気分なのかもしれないから。私はとりあえず辺りを見渡しながら、宿の中を歩き回った。

その時。ソロの部屋から、ミネアとソロの話し声が聞こえた。

 

「(なんだろ・・・?)」

いけない事だとはわかっていたけど、見ずにはいられなかった。私はソロの部屋のドアをほんの少しだけ開けて、二人の様子を覗いた。

「私・・・ソロさんの事が好きです・・・!」

「・・・えぇ!?」

「!!」

突然のミネアの言葉に、私は目を見開いて驚いた。ソロもすごく驚いた様子だった。

「ソロさん・・・」

するとミネアは、そっとソロの頬に手を添えた。そして…二人の顔が、段々と近づいていき、唇が重なった。

「・・・や、嘘・・・?」

私の唇は震えていた。目の前で起きていることの状況が掴めない。ミネアは目を瞑り、ソロはただ拒むこともなく呆然としている。

 

「な・・・何してるのよ二人とも!!」

私は気づいたら、二人の前に飛び出していた。

「あ、アリーナさん!?」

ミネアは私に気づいたと同時に、ばっとソロから唇を離した。ソロはまだ驚いた顔で、私に目を向ける。

 

「ふ、二人は・・・そういう関係だったの・・・?」

「違いますアリーナさん、ただ私が「ミネアは黙ってて!」

私は溢れだしそうな涙をこらえて怒鳴った。
私何してるんだろう・・・これじゃあ人の恋路を邪魔しちゃってるだけだ。

でも私、信じてたの。ただソロに・・・ソロの口から「違う」という否定の言葉が欲しかった。でも、ソロは。

 

「・・・・・・・・・・・・」

何も、答えずに下を俯いているだけだった。

「・・・っ! ソロのバカぁっ!!」

私はたくさん涙がいつのまにか頬を伝っていた。…堪えられなかった。私は怒鳴ったあと、ソロの部屋を勢いよく飛ばしていった。

 

「ソロさん!どうして何も言われないのですか!?」

ミネアがそう聞いても、ソロは俯いたまま何も言わない。

「ソロさ・・・!?」

ミネアの手に、一粒の滴が落ちてきた。ソロの顔には、たくさんの涙が伝っていた。

「・・・ごめんミネア・・・、俺・・・お前の気持ちには答えられない・・・」

「・・・ソロさん・・・・・・」

 

ソロは震え、顔を隠すように片手で瞳を覆っていた。

「・・・わかりました。私こそ・・・突然こんなこと、ごめんなさい」

ミネアはそう言って、ソロの涙を隠す手を離させた。

 

「私が言うのも何ですけど・・・アリーナさんの誤解、ちゃんと解いてあげてくださいね」

ミネアはにこりと笑った。

 

ソロは、そうだなと言って赤い目で小さく微笑んだ。

 

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あとがき
何これ!(←ぇ
でもこういうのなんかあこがれてた。

2009.12.12 UP