「あ、姫様。すみません、こんな遅くに呼び出してしまって・・・」

「別にいいわよ。で、用事は何?」

クリフトはアリーナを呼び、宿屋を出て街にあった休憩所に座っていた。

 

「いえ、あの・・・きょ、今日は星が綺麗ですよねっ」

「そうねぇ・・・ここらへんはエンドールみたいな都会じゃないから、星がよく見えるわ」

本当はこんな星の話なんてどうでもいいのに、なかなか切り出せず話をずるずると引きずってしまうクリフト。そんな事も知らずに、クリフトの話に乗ってやるアリーナ。クリフトは申し訳ない気持ちになった。

 

「えと、ひ、姫様!これを」

「・・・え?」

アリーナが受け取ったものは――今日ソロに買ってもらった、武器・爪だった。

「く、クリフト・・・これどうしたの?」

「今日の昼間に、こっそり買ったのです。教会でお祈りした後に」

あ、とアリーナは思った。クリフトが教会にいた間、自分はソロと武器屋にいたのだ。・・・きっと入れ違えてしまったのだろう。

 

「く、クリフト!わたしそれはもう「お願いします、受け取ってください!」

懇願しながらクリフトは、爪をアリーナに差し出した。その差し出した手は少し震えていた。アリーナには、そんなクリフトの贈り物を、もらわないと断ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「どうしよう・・・」

別れを告げ、宿の部屋に戻る途中、アリーナはもらった爪を見つめていた。同じものを二つ持っていたって、何の役にも立たない。売ってしまえばいいかとも思ったが、それは失礼だ。
そして問題は――もらった二人の爪のどちらを使用すればよいか、だった。

 

「(・・・先にもらったんだから・・・ソロでいいかな・・・?)」

クリフトに少し罪悪感を覚えながらも、アリーナはソロからもらった爪を使うことに決め、その日は床についた。

 

 

24.天空の城へ


翌日。今日は天空の塔に行く日だ。

その前に大陸を回った時に見つけたほこらに入り、バロンの角笛という決戦時に馬車を呼び寄せる笛も手に入れた。そしていよいよ、天空の塔。

 

「うっひゃぁ〜高いですなぁ〜・・・」

トルネコは天を仰いで、思わず声をあげた。雲に隠れて一番上はよく見えないが、かなり高い塔のようだ。手を抜くことは恐らく出来ないだろう・・・。

俺は横目で、ちらりとクリフトを見た。・・・クリフトは緊張を押さえる為に、手のひらに人を3回書き飲み込むという作業を、延々に続けていた。

 

「さー!ガンガン上って行くわよーっ!」

アリーナはいつも通り、人一倍やる気だ。

 

「姫様」

「ん?何クリフト」

「爪、つけてくださってるのですね。ありがとうございます!」

いっ!?

アリーナの肩がびくっとなった。どうしたのか分からないクリフトは首を傾げたが、再びにこやかに微笑んだ。

 

「(ふいーっ・・・どうしようかと思ったわ・・・!ソロのだなんて言えないわよね・・・っ)」

アリーナは額に伝う冷汗をぬぐった。

 

 

 

 

「ミネア!」

「ね、姉さん?」

アリーナの様子をただぼんやりと眺めていたミネアに声を掛けたのは、マーニャだった。

「今日はどんっっどんアタックしなさいよ!恋はアタック!これ重要なんだからね!」

バッチンと妹にウィンクしてみせたマーニャに、ミネアは少し笑った。

 

 

 

 

天空人・ルーシアのおかげで仲間たちの空気が軽くなり、アリーナやクリフトも自然に仲間には話せるようになっていた。・・・このまま自然に仲直りしてくれそうだ。

 

「ふぉおおっ!!」

「ソ、ソロ殿!この戦は一旦逃げましょう!」

「そうですね・・・!」

魔物はやはり予想通りに強く、逃げ惑うばかりの俺たち。ブライやクリフトなど男たちは息をぜいぜいと切らしていたが、アリーナやミネア、マーニャたち女は何ともないようだ。どこにそんな体力があるのか。

 

 

 

 

 

 

アリーナはソロがしんどそうにしているのを見つめていた。自分が先々行き過ぎてしまったのか。そりゃ走ってばかりだから、疲れるか・・・。

「ソ、ソロ「ソロさん大丈夫ですか!?」

アリーナは声をかけようとする前に、ミネアがソロに声をかけた。

 

・・・そうだよね。私がソロを心配なんかするより、ミネアが心配したほうがソロも嬉しいだろうな。

アリーナは勝手に心の中でそう解釈した。

自分は回復魔法も使えない。ただの戦闘要員なのだ。だから、ミネアがソロに呪文を使ってくれれば、ソロはそれで元気になる。そう分かってるのに・・・なんでか、アリーナの胸は不安でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・い、今何階でしょうか?」

クリフトは恐る恐る外へと筒抜けになっている窓を見た。しかしすぐに「ひぃいい!」と言って引っ込んでしまう。

「もー頼りないわね男のくせに!」

マーニャは縮んでいるクリフトを押し退けて、窓を見た。

 

「何階かはわかんないけど・・・結構高いわね。もう少しなんじゃない?」

腕を組んでマーニャはそう言った。それを聞いてルーシアはうんうんと頷く。

「そうですね、恐らくもう少しですよ。天界の香りがします」

そんなものするのかと俺は思って匂ってみたが、何にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあこれに乗れば天空城にいけるのですね!!」

とうとう最上階に着いた。そこには更に上空の空へと続くエレベーターがあった。何の動力で動いてるのかはわからないが、恐らく魔法の力とかそんな感じなのだろう。

「ひひいぃいぃぃい!!ムリ!絶対にムリです!!!!」

高所恐怖症のクリフトには耐え切れない現状。そりゃあそうだ、エレベーターには囲う壁があるわけでもなく、命綱や何かがあるわけでもない。正直、俺だって怖い。

 

「だ、大丈夫ですよクリフトさん・・・。落ちはしないと思います」

「いぃい!?((*´Д`)ノ オチマース☆だなんてそんな物騒なこと言わないでください!!!」

「いや、大丈夫ですよ。たぶん・・・」

「たぶんだなんて!しばしの(*´Д`从´Д`*)別れになるようなこと言わないでください!」

なんかさっきから顔文字を巧みに使ってくるザラキ神官が腹立つんですけれども。
横でミネアやルーシアは腹を抱えて笑っているし・・・。何なんだこいつら。

 

 

「ま、とりあえず早く乗りましょうよ」

ウキウキしているアリーナはそういうと、みんなは頷いてエレベータに乗り込んだ。
エレベーターに乗っている時間は少し長く、クリフトは未だに ヒィヒィと嘆いている。

 

「・・・」

エレベーターの中(と言っていいのか知らないが)で、俺の横にはアリーナが偶然いた。アリーナは目をキラキラと輝かせながら、進むエレベーターの景色を見ていた。高度の高い空は酸素が薄くて少しきついが、それでもこんな絶景を見ていれば耐えられる。

 

「・・・あ」

「ん?」

アリーナの腕には、昨日俺が買った爪がつけてあった。

「爪・・・」

「あ、これ?うん、使わせてもらってるわ。すっごく使いやすいのよ!」

と、何故か小声だがにっこりと笑ったアリーナがなんとなく可愛くて、俺も笑い返した。

 

「ちょっとミネア、いいの?」

「え? ・・・あ・・・・・・」

俺たちの後ろでは、モンバーバラ姉妹が俺たちを見て呆然としていた。きっと、変な雰囲気に見えてしまったかもしれない。でも、2人だけではなかった。俺たちの様子を見ているのは・・・。

 

「姫様・・・」

アリーナのつけている爪とソロを、交互に見るクリフトが背後にいた。
もう、高所の恐怖なんて消え去っていた。

 

←back next→ top


あとがき
個人的に何かこういう、同じものをもらうっていうシチュエーション萌える。(

クリフトには少し可哀相だけど・・・;;
私も辛い!我慢ガマン・・・!

2009.11.13 UP