天空人・ルーシアのおかげで仲間たちの空気が軽くなり、アリーナやクリフトも自然に仲間には話せるようになっていた。 ・・・このまま仲直りしてくれるといいんだけど。
23.神の町、恋心。 「ど、どうも・・・」 未だにあまり『勇者』と言われたくない俺はおかしいのだろうか・・・。 ルーシアは元気よく、優しく、気前もいいので仲間たちの間で人気だった。まぁそれはいいんだけど。
「で・・・その天空城に行くにはどうすればいいんでござるか?」 「はい、ライアンさん。天空の城には誰でも行けるわけではありません。原則としては、私たち天空人のみ・・・。しかし、人間にも訪れることができます。それは天空の武器防具を揃え、きちんと装備できる方・・・つまり、勇者である世界にたった一人のソロさんでなければ天空の城には入られないのです!」 わかりやすい説明に、みんなは ほ〜と関心したような顔をしている。
「して、その天空の城への行き方はどうするのじゃ?」 「確か、この世界で一番神の存在に近い場所があると・・・その近くに天空の塔という高く険しい塔を登り、頂上にある雲に乗ると天空城に行くことができますわ」 ブライの質問にも、ルーシアは元気よく答える。つまり、天空の装備を揃えきちんと装備していない人でなければ、塔に登ってもなんの意味もないという事なのだろう。 「ねぇミネア、その神に一番近い存在の場所とかわかんないの?お得意の占いで!」 「待って。やってみるわ」 マーニャはミネアにお願いをすると、ミネアは何かを唱えながら占いを始めた。ルーシアは興味津々でミネアの占いを見つめている。 「・・・どこかは確定できませんが・・・気球でなければ辿り着けないようですね。どうやら島にある町のようですが・・・神秘的な空気が漂っています」 水晶の光を読み取るかのように占いの結果をさらさらというミネアに、皆は真剣に耳を傾けた。やがて水晶は光らなくなり、ミネアの占いは終わった。
「気球で行けてー島でー町でー・・・」 アリーナが呟いている。気球に乗りながら、俺たちは四方八方を手分けして、ミネアの占いに当たりそうな場所を探す。 「あ、あそこなんか違いますかね?」 トルネコが指を指した先には、周りに靄が掛かってあまりきちんと認識できないが、確かに町のようなものがあった。小さな大陸の中心あたりにあり、その大陸の端には塔らしき高い建物も見える。
「きっとここです!・・・しかし靄で視界が開けなくって、気球に乗ったままでは危険ですから一旦降りませんか?」 ルーシアの提案に乗り、俺たちは気球を降ろした。しばらく歩くと、さっきトルネコが見つけたであろう町に着いた。確かに神秘的な雰囲気が漂っており、しかも町の名前が『ゴッドサイド』だなんて言うんだから、ミネアの言っていた占いの結果にぴたりと当てはまった。じゃあやっぱりさっき見た塔のような建物が、天空城へ行く為の塔だったのだろうか。
「うわー、ここってクリフトみたいな辛気くさい人たちばっかりね」 「ししし辛気くさいだなんて姫様ひどい!私もこの町の方も傷つきますよ!」 いやアリーナの言葉に一番傷ついてるのはクリフトだと思うが。 「やっぱり神に近い場所だけあって神父やシスターが多いわね〜」 マーニャは眠たそうにあくびした。・・・こんな町が暇なんだろう・・・。 「とりあえずここで装備や準備を整えて、明日塔へ行きましょう。塔の魔物たちは手強いですから」 ルーシアのその言葉に、俺は頷いた。なんだか気を入れなければならないな・・・。 「あ〜腕がなるわ!」 ・・・いや、一番張り切っているのはアリーナだった・・・。
「ソロ!」 「? なんだ」 何か買い物しようかと俺は一人、武器屋に行こうとするとアリーナが着いてきた。 「あたしも行くっ!」 「クリフトさんは?いいのか?」 「クリフトは教会でお祈りしてるわ。つまんない」 ぶー、とアリーナは頬を膨らませた。少ししか年は変わらないが、アリーナの行動はすごく子供に見えてしまう・・・。
武器屋に入ると、アリーナは武器を吟味していた。中には綺麗に輝く爪もある。アリーナはその爪から目を離さなかった。 「・・・欲しいのか?」 「え?・・・あっ、やだ私ったら・・・!今見ちゃってた・・・?」 「見ちゃってた」 あちゃー、とアリーナは額に手をやった。何がしたいんだこいつ・・・。 「あのね、欲しいとかじゃなくて、綺麗だなぁ〜と思ってたものだから!ほしくないから・・・!」 顔が明らかに欲しそうにしているのに、欲しくないという方が怪しい。
「・・・この爪、ひとつください」 「あいよ」 「ソ、ソロ!?」 アリーナは驚いたように俺の腕を掴んで顔を見た。 「・・・欲しかったんだろ?」 「で、でも…高いのに・・・」 アリーナは少し不安そうな顔をして俯いた。 「大丈夫だよ。特にみんな攻撃力のあがるものなかったから。この爪はアリーナにぴったりだろ?」 「ぴっ・・・!?」 その瞬間、アリーナの顔がボッと赤く染まった。俺は何でアリーナが赤面しているのかよく分からなかった。 「・・・ありがと」 買い終わって武器屋を出た俺に、後ろからついてきたアリーナがそう言った。 「・・・どういたしまして」
「ふん♪ふん♪ふーん♪」 「アリーナ、どうしたの?随分浮かれてんじゃない」 「ふふー、見てみてマーニャ!新しい武器!!」 宿屋で今日ソロに買ってもらった爪を、マーニャに見せびらかすアリーナ。 「誰に買ってもらったのよ?」 「えへへ、ソロだよ」 アリーナの顔はものすごく嬉しそうなもので。マーニャは少し微笑んだ。 「ふーん。よかったわね」 「うん!えへへー♪」 アリーナはウキウキ気分だ。ソロのやつ、やったわね・・・、とマーニャは心の中でそう思った。
「姫様!いらっしゃいますか?」 「あ、クリフトだわ。はーい!いるわよ!・・・ちょっと出てくるわね!」 「待ってアリーナ!」 ドアの外からクリフトの声が聞こえ、行こうとするアリーナをマーニャは呼び止めた。アリーナは振り返って、不思議そうな顔で首を傾げていた。 「その爪・・・ソロに買ってもらえて嬉しい?」 「もちろん!」 「それはソロに買ってもらったから?」 「・・・え?」 アリーナの顔が少し、赤くなった。 「な、何言ってるのよ!誰に買ってもらったって一緒よ!」 「ふーん・・・。ま、いいや。行ってらっしゃい」 アリーナは少し戸惑いながらも、部屋を出ていった。
「・・・だってさ、ミネア。どうするよ?」 「な、何がよ姉さん!」 実はずっと部屋にいたミネアに、マーニャは少しニヤリと笑いながら尋ねた。 「私知ってるのよ。・・・あんたがソロのこと、好きなの」 「なっ・・・! ・・・姉さんには黙ってても駄目みたいね・・・。そうよ。私・・・ソロさんが好き」 そう言って俯いたミネアの横に、マーニャは座り込んだ。
「・・・あたしはさぁ・・・あんたもアリーナも大切だから、どっちかだけを応援なんて出来ないけど・・・。はは、ソロってばガキのくせにモテ男ね。・・・で、何?あいつのどこがいいのよ?」 マーニャは俯いているミネアの顔を覗きこんだ。 「・・・無口だけど・・・すごく優しいの。ちゃんと皆のこと考えてる。・・・ほら、世界樹に登る時も・・・ソロさんはアリーナさんとクリフトさんを連れていったわ。あの時仲間の空気が重かったから・・・」 そのミネアの言葉に、マーニャは頷きながら聞いている。そういえばそうだったな・・・。 「ブライさんが怒ってた時も、クリフトさん達を許してやれって・・・。村も大切な人たちもデスピサロに奪われて、一番辛い思いをしているのはソロさんなのに・・・何であんなに人に気遣いできるのかしら・・・」 「・・・そっか」 マーニャは少し息をはいた。そうか、ミネアはソロのそんなとこが好きなのか・・・。
「でも私・・・もう駄目だわ。ソロさんはきっとアリーナさんが好きだから・・・。私アリーナさんみたいに綺麗じゃないし、かわいくもないし、元気よくもない・・・」 ミネアの瞳からは、涙が一粒零れ落ちた。マーニャは見ていられなくなって、ミネアを抱き締めた。
「なーに言ってんのよ。そりゃあんたはアリーナよりか控えめな性格だけどさ・・・。あたしの妹でしょ?美しいに決まってんじゃないの!」 マーニャは抱き締めていた手を、ミネアの肩に置いてミネアの目を真っ直ぐに見つめた。 「ね、だからさ。もっと自分に自信持ちなさいって!あたしの妹!よっ、色女ー!」 「・・・逆に姉さんよく自分にそんな自信あるわね・・・羨ましいわ。・・・・・・でも何だか勇気が出てきたわ。ありがと姉さん」 涙目のミネアは少しだけ微笑んだ。
あとがき ソロくんモテ男だね。 2009.10.17 UP |