次の日。
仲間の空気が重い中、俺たちはヒルタン老人に言われた「すごいもんがある」という世界樹へ向かった。

本当は海辺の村でかわきの石を手に入れていたので、水に埋もれてしまっていた洞窟に向かいたかったのだけれども。今の状況では海辺の村に行ったことを思い出させてしまうような場所には行きたくなかった俺が、ここへ向かいたいとみんなに言ったのだ。マーニャは大賛成だったが。

何がすごいのか全くわからないが、世界樹の下にはたくさんのエルフや魔物、動物たちが住んでいた。

「わぁ・・・!涼しいし空気もおいしい場所ね!」

アリーナがそういいながら深呼吸をした。

 

・・・やっぱ、重い。

 

 

22.天空へ

「聞こえる・・・聞こえるわ。世界樹で助けを求める声が・・・」

「痛い、助けてって言ってる」

エルフたちはとがった耳で、俺たちにはどんなに耳を澄ましても聞こえない声を聞き取る。

「ねぇあなたたち。この声の主を助けて来てあげてくれない?」

「私たちじゃ魔物にすぐやられてしまうわ。世界樹は魔物が出るから・・・」

エルフが俺に懇願するような目で頼んでくる。断る理由もないので、俺は引き受けた。

 

しかし、3人で助けに来てほしいという要望があるらしい。俺たちは従うことにした。

「・・・じゃあ樹に登るメンバーを言う。俺と・・・アリーナ・・・クリフト、以上だ」

「ソロさん!」

じゃ、行くぞと言ってみんなに背を向けた俺に、ミネアが叫ぶ。
俺は振り返ってミネアにうなずくと、ミネアは渋々了解すると言った感じだった。

俺はとりあえずこの空気から、アリーナとクリフトを抜けさせてやりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソロ、ありがとね」

樹に登っている最中、アリーナがそんなことを言った。

「・・・俺、なんか礼言われるようなことしたっけ?」

「何言っておられるんですかソロさん!・・・私たちを助けてくださったのでしょう?」

久しぶりにクリフトの安心したような顔を見れたような気がする。

 

 

「・・・あのさ、言う・・・けど」

「「 ?? 」」

2人は首をかしげた。俺はコホンと咳払いをする。

 

「・・・みんなが怒ってんのはさ。やっぱ・・・勝手に抜け出したことなんだ」

「・・・そうだよね」

アリーナが悲しそうな顔をして俯く。それはクリフトもだった。

 

「俺は別にお前らが無事だったから、いいよ。でもみんな・・・すげー心配してたんだよな」

俺がそう言うと、アリーナが涙を流した。クリフトは心配そうにアリーナの背中をさすってやる。

 

「本気で謝るしかねぇよ。たぶん・・・特にマーニャやブライさんは許してくれないと思うから」

「・・・わかりました。ありがとうございます、ソロさん」

クリフトは、固く決心したように頷く。

そして俺は、次に言おうと思った言葉が出てこない。いや、言いたくなかったのだ。
・・・でも、言うしかないだろう。

 

 

 

「あのさ、2人がそう言うなんか・・・そう言う関係ならちゃんと言ったほうがいいぜ」

「は?」

アリーナが涙をふき取っていると、驚いたように目を点にしてそう言った。

 

「・・・ぷっ・・・あははははははは!!何言ってんのよソロってば!!」

アリーナは今度は爆笑の涙を目に滲ませた。腹を抱えて笑っている。

「私たちはそんなんじゃないわよ。ね、クリフト?」

「え?あ、そうですね・・・あはははは・・・」

クリフトは結構残念そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・助けてください・・・っ」

俺たちは世界樹の頂上とも思える場所まで登ると、おそらくエルフたちが言っていた助けを求めているという声の主が苦しそうに横たわっていた。女の子で、彼女は片方だけ翼を怪我していた。

「だ、大丈夫!?」

アリーナは駆け寄り、心配そうにその女の子を見る。

「あ、・・・助けに、来てくださったんですね・・・」

女の子は必死に立ち上がる。俺が回復魔法を唱えると、なんとか元気にはなった。

 

「私、実は天空の城から来た天空人なんです」

「へぇー!天空のお城なんておとぎ話の中だけだと思ってたわ!」

そんな話に興味がありそうなアリーナは、天空人の女の子の話に飛びつく。

「実はここで世界樹を摘もうと降りたんですが、魔物に襲われ翼を折ってしまって・・・この怪我は回復魔法とかそんなんじゃ治らないんです。これじゃあ高い高い空にあるお城に帰れない・・・」

う、と涙を流しそうになった女の子は必死でこらえているが、それがやけに可哀想に思える。

 

「それで、天空のお城には人間でも行ける場所があるから、そこから帰ろうと思うんですが・・・。人間が天空のお城に行けるのは天空の装備をすべて揃えている人なんです。つまり勇者様が必要なんです!お願いです、勇者様を探すのを手伝って・・・ってェェェェェ!?」

女の子は目を見開いて俺を見た。

「あ、あなた・・・それは天空の兜に天空の盾・・・!もしかして・・・」

そういうと女の子は世界樹の端に刺さっていた、剣を引き抜いた。

「これも装備できるんじゃないですか!?」

相当重いのか、女の子は息を切らしながら俺にその剣を渡した。

 

「・・・?できる、けど」

俺はその剣を軽々と持ち上げた。

「・・・!!よかった・・・!その剣は天空の剣なんです。装備できるということは、あなたは勇者ソロ様なんですね!」

女の子は目を輝かせて、俺の手を握った。

「お願いします、天空の城へ行くのを手伝ってくださいませんか!?」

「・・・まぁ俺たちも行って損はないだろうし・・・いいよな?」

「もっちろんよ!」

「当たり前です」

女の子は笑顔になった。

「私の名前はルーシアといいます。よろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、天空人ねぇ」

「ほんとにそんな方がいたとはな・・・」

樹を降りると、待っていた仲間たちはルーシアに興味深深。重たかった空気は少しだけ晴れた。

 

「・・・よかったな、アリーナ」

「え?」

「とりあえずはルーシアさんのおかげで今はなんとかって感じだろ?」

「・・・そう、だね」

ニカ、と笑った俺を見て、アリーナは少しだけ微笑んだ。
俺はみんながワイワイとしている輪の中へと入った。

 

 

「姫様、どうしましたか?」

「ううん、なんでもないのクリフト」

「?」

 

アリーナは、思っていた。

 

クリフトと海辺の村に行ったとき、嬉しくて楽しかった。

でも、ソロがいないという寂しさもあった。

 

いつもバカやっても、ソロなら笑ってくれる。

ソロはもう、私の話を無視したりしない。

前ほどは会話も増えて、アリーナにとってソロの存在が大きくなっていた。

 

海辺の村にいたとき、ソロに会いたいとすごく思った。

 

ソロが来たときは、嬉しかった。

 

 

 

そしてソロは、前よりもたくさんたくさん、優しくなった。

 

 

「(私・・・気が多いのかなぁ・・・)」

アリーナの中で、ソロへの想いがとても膨らんでいくのが、自分でもわかった。

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき
本編は約2ヶ月ぶりの更新だァー! 
仲間の絆が崩れると大変ですよねェ。

2009.08.18 UP