ガスをあげた学者の家に行くと、学者は胸をドドンと張って出てきた。 「さぁさぁ出来ましたよ〜!!見てください!」 そう言って学者は、大きなカゴのようなものを出してきた。そこに色々取り付け、学者は俺たちがあげたガスを使用した。
「急いで乗ってください!」 学者のその声に、俺たちは慌てながらカゴの中に乗り込む。アリーナとクリフトのいない俺たち6人が乗っても、全然差し支えない。むしろ後2人どころか、詰め込めばもう少しは入りそうだ。
ガスの影響で俺たちの頭上で火が燃え上がり、俺たちをのせた乗り物・・・気球は、空高くあがったのだった。
20.海と空と洞窟 「うわー、すごいわね!これなら魔物と戦わなくていいから楽だわ〜」 マーニャ は手を組んで、大きく伸びをしながらそう言った。・・・ここにもしアリーナがいれば、マーニャと同じくはしゃいで外を見回していただろう。高いところと自然が大好きなあの女のことなのだから。でも、しばらくすれば魔物と戦いたいと言い出すのだろう。そう考えると何だか少しだけマーニャとの違いが面白い。 でもすぐに寂しくなった。 何だかんだ言いつつ、いつも場を盛り上げてくれていたのはアリーナだったのかもしれない。
「・・・あ!そうだミネア、最後に天空の装備がありそうなのってどこだ?」 「あ、はい。ん〜・・・と・・・」 俺はアリーナのことを考えすぎな気がして、頭の中の考えを振り飛ばしてミネアにそう聞いてみる。ミネアは俺の質問に答えてくれるようで、水晶玉で何かを占いだした。
「・・・最後の天空の装備・・・天空の剣は、人々の手に届きにくい場所にある、と出ていますわ。申し訳ありませんが、それしか分かりません」 そう言うとミネアは占う手を止める。 「じゃあ洞窟とかじゃなのかしら?」 「あ!でも 私聞いたことありますよ。どこかに、水に沈んで先に進めない洞窟があるって。 そこじゃないでしょうか?」 マーニャが考えていると、トルネコがそう言った。 水に沈んで先に進むない洞窟・・・。確かに、何かありそうだ。 「じゃあ、そこに行ってみるか」 俺がそう言うと、みんなは頷いた。
「あ〜っ、やっぱ洞窟ってだ〜っいきらい!!特にここ湿気すごすぎ・・・!」 もう 何度、ひとつひとつ違う洞窟に入っては出てきてを繰り返しているのだろう。俺たちは今、空を飛ぶ気球に乗り、見つけた洞窟の中全てを探索していた。そして、やっと見つけた。トルネコが言っていた、水に沈んで先に進めない洞窟。水の奥底には階段がある。
「行けそうで行けないってすっごい悔しいわね〜・・・。あぁイライラする・・・」 マーニャは変わらずいつものわがままっぷり。だが、今はマーニャのそんな会話でさえも、俺たちの空しい旅を賑やかにさせてくれた。
「ミネア、この水が抜ける方法とか・・・なんかわかんないか?」 「この水が抜ける方法ですね。わかりました」 俺がミネアにそう訪ねると、ミネアは快く引き受けてくれた。ミネアは水晶玉に手をかざし、占いを始める。水晶玉が青白く光り出す。
「・・・海・・・海が見えます・・・」 「海?」 占いを始めてから何十秒か経ったとき、ミネアはたった一言そう言った。マーニャが不思議そうに訪ねる。
「ここは・・・?・・・残 念ながら水晶に映っている場所がどこなのかは、私にはよくわかりません・・・」 ミネアがそう言うと、みんなは諦めたようにため息をついて俯いた。だけど俺はそれもかけてみたかった。とにかく、どこでもいいから世界中に行きたい。早く・・・仲間を見つけ出したい。
「場所はどこなのかがわからないと特定できないわよね。海が見えるだけじゃ・・・そんなとこ世界中にたくさんあるし」 「空・・・海・・・この二つが大きく見える・・・」 ミネアはそう言うと、深く息を吐いた。それだけの情報じゃ、手がかりがないと思ったのだろう。
「・・・行こう」 「えっ?どこによ?」 俺が一人ポツンと洩らした言葉に気づいてくれたマーニャは、俺に耳を傾ける。
「どこにでもさ、行こうぜ。それでアリーナとクリフトも見つかって、天空の装備も手に入れば一石二鳥だろ? 」 「でもやはりそう簡単には・・・」 俺の提案には首を振るライアン。でも俺は諦めなかった。
「時間はかかるだろうけどさ、今俺たちには気球があるし。海とか見える町とかの宝で、水が抜ける物があんのかもしれないし」 俺がそう言うと、トルネコとミネアは頷いてくれた。ライアンは髭を触りながら、わかりましたと言 って承諾してくれる。マーニャは何も言わないが、表情は反対しているような顔ではない。・・・問題はブライだった。
「・・・ブライさん、今のでも大丈夫ですか?」 「別にいいんじゃが・・・ワシは姫様が心配で心配で・・・」 そう言うとブライは顔を真っ赤にした。涙を堪えているのだろうか。
「ワシは・・・姫様の世話係で・・・小さい頃からずっと面倒を見ておったんじゃ。だからこそ・・・本当の孫のように・・・いつも・・・」 ブライは浮かない顔で話を続けた。そのブライの顔に、一同は静まり返った。でもやはり、沈黙を破ったのはあの人。
「大丈夫よ。宿屋にいて人拐いなんて滅多にないわ。クリフトかアリーナが連れ出したんじゃない?クリフトがいるならきっと無事よ。だってあいつ、姫様命じゃん」 マーニャだった。マーニャはそう言うと気球に乗り込む。まだブライは心配そうな顔つきになっていたが、今のマーニャの言葉に幾分安心させられたのか、さっきよりも涙を堪えている様子はなかった。
・・・本当は気にしないつもりだったのに、ブライがアリーナたちのことをしきりに気にすることで、俺の中でも変に胸がざわついていた。アリーナにはこのまま、クリフトといて欲しくないなんて気持ち。でも俺はアリーナが嫌いだったのだ。この気持ちは・・・矛盾しているのだろうか。
「あそこじゃなかったわねぇ・・・」 コナンベリーにイエティと住む老人の家、イムルの村やミントス・・・。海が近くに見える町村には思い当たる場所全て行ってみたが、中々水を干上がらせるような宝はない。どこかにあの洞窟について詳しい人はいないだろうか、そう思った時に俺の頭に浮かんだのは・・・大商人、ヒルタン老人だった。
「なぁ、ヒルタン老人に聞いてみたらどうだ?」 「ああ!そうですね!!ヒルタンさんならきっと何か知っているはず・・・!」 商人としてやはり憧れているのか、トルネコはヒルタンの名が出てくると瞳を輝かせてそう言った。そういえばだいぶ前に、仲間だったホフマンも同じような顔をしていた。それだけヒルタン老人はすごい人なのだろう。なんせミントスをつくりあげた人なのだから。 マーニャが横で「やっぱりヒルタン老人には媚を売っといたほうがいいかしら・・・」とかなんとかブツブツ言っている。
ちょうど俺たちはミントスにいたので、夜を待ってヒルタン老人に 会いに行ったのだった。
「姫様、お体のほうは大丈夫ですか?」 「クリフト・・・。うん、大丈夫・・・本当、私のためにありがとね」 「お気遣いなく」 フッ、と優しく笑うクリフト。家臣の優しい心遣いに、アリーナも少しだけ嬉しくなる。
あの日・・・。リバーサイドで仲間のもとから離れたクリフトと、それに連れられるアリーナ。
『広いところで、武術の稽古がしたいの!海なんかいいわね!』 そんな風なことを言ったアリーナに気を使って、クリフトは今、マーニャたちの故郷がある大陸にある、港町ハバリアの来たにある「海辺の村」という場所に来た。そこは名前のとおり海が目の前に大きくあり、波の音が宿の中でも聞こえる。田園地方なので、夜空には満天の星が見えた。
「あまり長くはいられないので、明日には皆さんを追いかけましょうか」 「・・・うん。ごめんね」 クリフトは海を見つめるアリーナの横に腰を下ろした。
「姫様・・・」 「・・・何?」 「姫様は・・・好きな方はいらっしゃいますか?」 いきなりクリフトにそう尋ねられ、アリーナは目を丸くした。
「何・・・言ってるのクリフト?いきなりそんな・・・」 「本気で・・・お尋ねしているんです。教えていただきたいんです・・・」 クリフトの瞳は真剣だった。 そしてまたクリフトも、胸が痛む思いだった。好きな人に好きな人を聞くのは、ツラいにも程がある。
アリーナは顔を真っ赤にして、俯きながら小さな声で呟いた。 「・・・今はいえない・・・けど・・・。いるのは、いる」 そう言って、アリーナは恥ずかしそうに顔を手で覆った。
クリフトは、そんなアリーナを無償に抱きしめたくなった。 「自分を好きになったアリーナ」じゃなくて、「違う人に一途なアリーナ」が、好きだということを。 クリフトは、好きな人が好きな人を、好きになりたい。
あとがき 以前にどこかで、勇アリの小説や漫画はクリフトが嫌な男になるから、嫌いだって聞いたことがあるんです。 これから善か悪かどちらの方向に行くかはまだ分かりませんけどねw 2009.06.06 UP |