俺が剣を構えて、生ぬるい風を切ってエスタークに向かって走った。 仲間たちはそれがわかっていたかのように、俺の両側に寄ってそれを見ている。
「無駄だ・・・!!」 そういってエスタークが、両手にもっている剣をクロスに切った。 「・・・!?」 が、そこにもう俺の姿はなかった。
「なっ・・・!!」 エスタークが驚いたように後ろを振り向いた。
その瞬間に俺は剣を振った。
19.撃破と失踪
「がっ・・・!!」 俺が剣を振ると、エスタークは苦しそうに声を上げた。
「き・・・貴様・・・!!」 エスタークは俺に切られたところを抑えた。巨体が床に倒れこむ。それと同時に、砂煙や大きな音と振動が神殿を壊すように、建物が所々崩れていく。
「やった・・・やったのね私たち!!」 アリーナが嬉しそうに、倒れこんだエスタークを見ている。
「ソロありがとう・・・!これで・・・」 そうアリーナが言ったときだった。
「な・・・!なんということだ・・・!」 後ろから男の声がした。 俺たちが振り返ると、憎むべきデスピサロが魔物と一緒に佇んでいた。戦闘になるかもしれないと察知した俺たちは、武器を構える。 デスピサロは心配そうに、倒れこんでいるエスタークに駆け寄った。
「なんと・・・エスターク帝王が倒されてしまうとは・・・。しかし予言では帝王を倒せるものは天空の血を引く勇者のみ!・・・!まさか・・・お前たちは・・・!?」 デスピサロは不思議な表情で、俺たちを睨んできた。 そういうと、後ろにいた魔物がどこかと通信しだした。
「え?な、なんだって!わかった!!・・・デスピサロ様、エルフのロザリー様が人間たちの手に・・・!」 「何っ!?皆のもの、とにかく引き上げるんだ!!」 そういうと、デスピサロは足早に神殿から出て行った。
「ロザリーって・・・イムルの村の宿屋で見た夢に出てきた・・・エルフの・・・」 クリフトはそう言うと、ハッとした顔になった。 「それよりも早くここを出ましょう!これ以上何かあったら危険です!」 そのクリフトの言葉に俺たちも考えるのを止め、急いで神殿から出た。途中で会った魔物が守っている大きな宝箱の中身をちゃんと取って、俺たちはリレミトを唱えた。
「・・・そういえば、さっきの宝箱から取ったものなんだったの?宝石・・・!?」 マーニャはわくわくした瞳で俺を見つめてくる。俺はマーニャの目の輝きを無視しながらも、道具袋から取り出して宝の中身を見てみた。
「・・・ガスつぼ?」 俺は目を見開いた。袋で包まれていたのでそれを解くと、茶色い壷に固く蓋が閉めてある。 「ちぇっ、なーんだ、ただのガス壷ねぇ。期待して損しちゃったっ」 マーニャは呆れたように頭の後ろで手を組んだ。
「そういえば・・・リバーサイドの町にガスを求めてる学者がいませんでした?」 トルネコがそう言ったので、俺は記憶を前に戻してみた。そういえば、確かいた気もするようなしないような。 「一応・・・行ってみましょうか」 俺がそう言うとトルネコは嬉しそうに笑顔を見せた。
ルーラでリバーサイドの近くまで行き、船で移動する。俺たちは早速ガスの壷を求めていた学者の家に行ってみた。
「おお!持ってきてくださったのですね!そうだ、明日もう一度ここに来てください。きっとすごい物を作ってみせますから!」 学者はそう言うと、奥にあった研究所のような場所へと入り込んでしまった。
「じゃー今日はここに泊まるとしますか!」 アリーナが伸びをして宿屋へと向かう。俺たちも戦いですっかり疲れていたので、アリーナの意見に賛成した。
「姫様、今日の戦いお疲れ様でした」 「やだなークリフトってば。何言ってるのよ。私何もできなかったわよ?」 アリーナとクリフトは部屋で話をしていた。 「いえ、そんなことはありません。姫様もエスタークにたくさんのダメージを与えていましたし!」 「でも死なないで生きれたのはミネアのフバーハやクリフトのスクルトのおかげよ。ありがとね!」 アリーナは笑顔をクリフトに向けた。クリフトはアリーナの笑顔に赤面する。
「はーぁっっ、でも今日はソロかっこよかったな〜!」 「・・・え?」 クリフトはアリーナにお茶を淹れようとする手を止めた。 「今・・・何とおっしゃいましたか、姫様・・・?」 「え?だから、今日エスタークと戦ってたときのソロかっこよかったよねって。剣でダダダーって!!あれすごかったなー!私もあんな風に武器が装備できればいいのになー」 アリーナは今日ソロがエスタークを倒した瞬間のことを思い出すように目を瞑っていた。
「・・・姫様は・・・ソロさんのこと・・・」 「んっ?何か言った?」 「いえっ何でもございません!!・・・そ、そうだ、姫様、今何かしたいことはありませんか?私に出来ることなら何でもしますよっ」 クリフトは慌てて、話を逸らしそう言った。
「んー、そうね。今は武術の稽古がしたいわ。でもゆっくりしたいっていうのもあるのよね。どっちも広ーいところで!!」 「広いところ・・・ですか?」 クリフトが首をかしげる。 「うん!例えば海が目の前にあったりとかなんていいわね。その後はゆっくりして、海の流れを見てるの。そうしたら、長い旅の疲れも何だか取れそうな気がするのよねー。そうだ、クリフト、外に出ましょうよ。リバーサイドって広いし、町なら川だけど町の外に出ればすぐ海だわ!」 アリーナは目を輝かせて、うっとりとしている。
「・・・そんなところに行かなくても、海の見える場所ならありますよ」 「え?」 アリーナがクリフトを不思議そうに見た。 「行きましょう、姫様!!」 「え?ええぇ?ちょっとクリフト・・・!」 クリフトはアリーナの手を引いて、外に出た。そしてキメラの翼を空高く放り投げると、2人の姿は夜の闇に消えていった。
「ええ!?アリーナとクリフトがいないですって!?」 「そうなの・・・。アリーナさんがいなかったから何だか悪い予感がしていたらブライさんが慌てて部屋に来て・・・。早朝2人で探したんですがこの町のどこにもいなくて・・・!」 俺たちは朝食を食べに食堂に来たときだった。ミネアとマーニャがそんな会話をしている。 「・・・今なんて言った?」 「だから!アリーナとクリフトがいないらしいの!」 マーニャが慌てて俺に駆け寄ってきた。ミネアも後ろから追いかけてくる。 「大変だ!早く探さなくては!!もし姫様のお体に何かあったら・・・!」 「まだクリフトさんがついているっぽいので大丈夫だと思いますけどねぇ」 ブライが心配そうに慌てながら言うのに対し、のほほんとした表情でトルネコがそう言うとブライはキッとトルネコを睨んだ。
「とにかくいつも外に出て戦ってるメンバーがいないってのは一大事だわ!早く探さないと・・・」 マーニャは顔面蒼白という言葉が似合うほど、慌てていた。俺も、アリーナが・・・いや、仲間がいないということに少しだけ胸騒ぎがしていた。 「・・・待って、姉さん」 そんな俺たちに首をつっこんだのはミネアだった。
「確かに攻撃に回るアリーナさんと回復のできるクリフトさんがいないのはツライわ。・・・でも私たちはエスタークを倒すことに精一杯で目的を忘れていたけど・・・エスタークを倒す前の私たちの目的、皆さんちゃんと覚えてますよね?」 「・・・天空城に行くこと、だったよな」 俺がそう言うと、ミネアは頷いた。 「そうです。ソロさんの言うとおり・・・。そして天空城に行くためにはスタンシアラの人たちに聞いたように、天空の装備を全て揃えなければ天空城へと行くことはできないと言われてましたわよね」 ミネアがそう言うと、周りは「そうだった」という顔でミネアを見ている。
「・・・アリーナさんとクリフトさんを早く追いたい気持ちはわかります。でも私たちが・・・導かれし者たちが、ロザリーさんの野望を打ち砕かなければこの世界は滅んでしまう。ゆっくりしている時間はありません。アリーナさんとクリフトさんを探す時間も・・・」 ミネアは頬に涙を流した。俺は慌ててハンカチを取り出して差し出した。 「すいません・・・ありがとうございます。・・・2人を探すのは、旅をしながらにしましょう。旅をしながらなら色んなところにも行きますから、きっと見つかるはずです」 ミネアがそう言うと、俺たちは少し躊躇したが、世界が滅びてしまっては終わりだ。渋々だったが賛成した。
「・・・そうね、ミネアの言うとおりだわ。2人がいない旅はかなりツライと思うけど頑張りましょ。・・・そうだ!早くあのガスをあげた学者のところに行きましょうよ!何くれるのかなあいつ!!」 マーニャはルンルン気分で宿から出て行ったが、きっとものすごく2人のことを心配しているだろう。少し悲しそうな顔をしていた。 そして何より浮かない顔をしているのはブライだった。
「ソロさん・・・勝手に前に出てあんな話してしまってすいません」 「え?・・・あぁ、別に大丈夫だよ。俺もそのほうがいいと思うし、なっ」 俺が少し笑って言うと、ミネアはさっき泣いていた赤い目の目じりを下げた。
俺たちは2人を心配しながらも、学者の家へと足を運んだのだった。
あとがき しかし勇アリには勝りません!!私の中では!! 2009.05.22 UP |