俺たちが鉱山の中に入ると、ガスが溢れて息もしにくい。長居していると倒れてしまうだろう。 「ごほっごほっ・・・!ねぇミネア・・・ここなんか、前に私たちが来たときよりもガスが酷くなってない?」 「うっ・・・げほっ、そうね・・・。きっと地獄の世界とこの世界が繋がってしまったからなのかもしれないわ」 みんなは額に冷や汗を浮かばせる。早くしなければ、という想いが自分たちを焦らせているのだろう。咳は耐えないし、顔を歪めて苦しそうにする。もちろんそれは俺もだった。
「あれ?こんなところあったっけ?」 奥の方に進むと、まるで迷路のような場所に出た。洞窟のような風景は今までとまったく変わらないのでこれといって驚かない俺たちだったが、前に来たことのあるマーニャは変化に気づいたようだ。 「そういわれれば・・・そうね。こんな迷路のような場所なかったはずだけど・・・げほっげほっ・・・」 苦しそうに胸を押さえながらミネアはそう言う。この2人にしかわからない会話だ。
「魔物だー!!ごほっ!魔物が大勢で、せ・・・攻めてきた・・・!!誰か助けてくれー・・・!うっ、ごほごほっ」 恐らく地獄の世界を掘り当ててしまったであろう鉱夫が、激しく咳をしながら倒れている。ミネアがすぐさま駆け寄って回復魔法をかける。 「ここにいては危険ですわ。早く脱出してください!!」 「あ・・・ありがとうございます・・・!!ひー!!」 男は駆け足で鉱山から出て行った。
「くそー!ここはまるで迷路だ・・・!迷ってしまったじゃないか・・・」 エスタークを見つけ出すために攻め込んできた魔物でさえも、この迷路のような鉱山に迷ってしまっている。 「このままじゃ私たち死んじゃうわ・・・!は、やく、見つけなきゃ、地獄の世界を・・・!」 アリーナが苦しそうに言うと、クリフトは心配そうに背中を摩っていた。
俺もそろそろ限界だ。息が苦しい。外の空気が恋しい。 きっとみんな同じ気持ちなんだろう・・・・・・・・・・・・・。
18.地獄の帝王 エスターク 「ここ・・・どこ?」 「もしかしたらエスタークが近くにいるのかも・・・!」 雰囲気が変わった。鉱山から抜けて、真っ暗な世界に回復ができる場所と神殿のような建物がある。 回復してから神殿に入ると、また入り組んでいる。が、さっきの鉱山とは違ってガスが大量に漏れている訳でもないし、視界が暗く見えにくいということもなかったのでまだマシだ。魔物は一段と強くなっていたが。
「魔物が強くなってきとるな。これはもしかしたら・・・エスタークを守るためなのじゃろうか・・・」 ブライは髭を触りながら考えている。確かにそうなのかもしれない。 「回復できる場所があったのもなんだか怪しいわよね・・・。挑戦されてきてるみたいで、何だか悔しいわ」 アリーナは拳を握りながら、悔しそうにそう言った。
「我は古より生き続けるエスターク帝王の手下・・・。帝王は我に永遠の命を与えて下さった。帝王いる限り我もまた不滅なり!!」 しばらく神殿を奥へと進むと、大きな宝箱を守っている魔物が1匹いた。魔物は頑なに前をどこうとしない。 「ソロさん。ここはエスタークを撃退してから来て見ましょうか」 「あ、ああ・・・そうだな・・・」 クリフトがそう言うが、それ以前にエスタークを倒せるのだろうか。 村の皆を焼き殺せるほどの力を持つデスピサロをも手下に扱う、魔物たちの中で最強でもある「地獄の帝王 エスターク」。そんな奴に、俺たち只の人間が勝つことが出来るのだろうか。いくら8人いたとしても・・・。
そんなことを思っている俺の肩に、ひとつの手が優しく置かれた。 「だーいじょうぶだって!」 「・・・アリーナ」 ニカッと太陽のような笑顔を見せてくるアリーナに、少しだけ俺は安心した。 「ソロが何考えてるのかは、何だか大体わかるよ。・・・大丈夫。私たちは導かれし者たちなんだよ?それが8人も揃ってるんだもん。神様がついてくれてるよ・・・」 アリーナが微笑んでそう言うと、俺の肩から手をどけた。そしてその手を怪力で俺の背中を叩いた。 「#★$%&☆!?」 考えられない痛みが背中を走って、俺は背筋をピーンとして意味不明な奇声を上げた。 「あははっ!ごめんごめん、やっぱソロは面白いね〜!」 アリーナは笑うと、叩いた俺の背中を撫でた。少しだけ痛みが和らぐ。
「・・・会ったときから、全然変わってないね、ソロ」 「え?」 「・・・ごめん、なんでもないの!」 アリーナが何を言ったのかよくわからなかったが、俺は首を傾げているとアリーナは「じゃあ早く行くわよ!」といってブライの横に走っていく。俺はその後ろ姿を見て、ほんの少し、本当にほんの少しだけ口元を緩ませた。
「それ以上近づくな!!今エスターク様は長い長い眠りから目覚めそうなのだ!立ち去れ!!」 エスタークは、大きな椅子に座って眠っていた。その前に護衛なのであろう魔物が2匹、俺たちの前に現れた。俺たちは魔物が言っていることを無視して、エスタークに一歩、また一歩と近づいた。 「近づくなと言っているだろう!聞こえんのか!?」 魔物はオドオドしながらも、エスタークに近寄ろうとする俺たちを必死で食い止めようとする。 「だから近づくなと何度も「黙んなさい!!」 アリーナが魔物に声を張り上げて一喝しながら、2匹の魔物に会心の一撃を喰らわせると、魔物は床に倒れこんだ。 「さすが姫様!お見事です・・・!!」 クリフトが関心したように手を叩く。目は少し潤んでいた。
俺たちがエスタークの前に立つと、エスタークはまだ眠りに入っているようだ。俺たちの存在には全く気がつかない。 「ソロ殿、今のうちに作戦お願いする」 ライアンがそう言うと、俺は頷いた。
「とりあえず、ミネアにはフバーハ、クリフトはスクルトをメインによろしく。余裕があったら回復と攻撃にも回ってほしい。魔法の使えないライアンさんやアリーナやトルネコさんはひたすら攻撃してくれ。マーニャは魔法攻撃で攻めて。ブライさんはバイキルトとか補助呪文をお願いします。俺はとりあえず攻撃するけど、状況を見て回復魔法を使ったりする。じゃ、・・・やるぞ!」 俺がそう言うと皆は頷いて、一斉に攻撃に取り掛かる。 ライアンは剣を振り回し、トルネコはもうめっちゃくちゃに正義のそろばんを振り回している。アリーナは拳に力を入れて、エスタークに向かって拳を振るっている。マーニャもひたすら攻撃魔法を繰り出し、クリフトとミネアとブライは補助呪文を使っている。 俺もやらなくては。そう思ったときだった。
「許さん・・・ワシの眠りを妨げるものは許さん・・・!!!」 エスタークが俺たちの攻撃で目覚めてしまったようだ。 「ちっ・・・」 面倒なことになった。俺は舌打ちをして心を集中させて、剣をエスタークに向けて勢いよく走った。
「!?」 その瞬間、エスタークからまばゆい光が放たれて、俺は目を細くした。その瞬間、体が後ろに吹っ飛んで神殿の壁にぶつかった。 「ぐはっ!!」 俺はあまりの痛みに、血を口から吐き出した。 「ソロ「ソロさん!!」 アリーナが口を開くと、真っ先に俺の近くに寄ってきたのはミネアだった。アリーナはグッと唇を噛み締める。
「ソロさん!大丈夫ですか!?」 ミネアは倒れこんだ俺を抱えて、回復魔法を唱えた。 「あ、ありがと・・・ミネア」 俺はよろめく足どりで立ち上がった。 「無理しないでくださいソロさん・・・」 ミネアが心配そうな顔で俺を見上げたが、俺は大丈夫とだけ言って、もう一度心を集中させた。
もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。きっと1時間は越しているんだろう。でも戦いに集中しているということもあってなのか、俺にはまだほんの10分しか経っていないように感じた。 いくら攻撃しても全く倒れる気配のないエスターク。それどころか、こっちの体力ももう限界だ。 マーニャのたくさんある魔力ももうなく、攻撃は武器でするしかなかった。フバーハやスクルトをかけても、すぐにいてつく波動で効果を解かれてしまう。キリがなかった。
俺は歯を食いしばった。やはり勝つことは出来ないのか・・・。
「目覚めなさい、勇者よ」 「!?」 俺は目を見開いた。どこからか声が聞こえてくる。・・・いや、頭の中に言葉が流れ込んでくるような、そんな感じだった。
「あなたはまだ、やれるはずです」 「俺が・・・まだやれる・・・?」 俺は剣を握り締めている拳を見つめた。長時間拳に力を入れていたため、手の平は赤くなって少し震えていた。
「でも俺は・・・もう・・・」 「神経を集中させるのです」 俺はその言葉を聞くと、何だかできるような気もしてきた。
「わかった。・・・けど・・・あなたは誰なんだ・・・?」 「それは・・・いつか知るときがくるでしょう・・・」 そう言うと、声は聞こえなくなった。
俺はさっきの言葉を思い出した。 神経を集中させる。 震える赤くなった手を、更に剣の柄を握り締める。
顎を少しだけ引いて、俺は前を見据えた。
「やあああああああああぁあぁぁぁぁ!!」 俺は走り出した。 地獄の帝王 エスタークに向かって。
あとがき ソロファーイt(ry 2009.05.22 UP |