デスパレスがどこにあるのか探している途中、ロザリーヒルを見つけたときのようにリバーサイドという村を偶然見つけた。リバーサイドは名前のとおり、村が2つに別れその間に川を挟んでいる。 「変わった村ね。でも村の人たちは不便じゃないのでしょうか?」 ミネアが不思議そうに、村に挟まれている川を俺たちの船で渡りながら呟く。
村には気球を作ろうとそれに必要なガスを求めている学者や、変な場所で釣りをしている人など、今までに見たことのない人たちが住んでいた。これもこの村のおかしな構造のせいなのかは謎だ。 そして墓石がたくさんある場所でお祈りしているシスターからは、リバーサイドを抜けた先に魔人像のダンジョンがあり、その先に魔物たちの城があるらしい。恐らくそれがデスパレスなのだろう。目的地は近い。
「さーって、さっさとデスパレスへゴーよ!!」 「その前に装備をきちんと備えておかなければなりませんぞ姫様!」 ブライがアリーナにまたぶつくさと説教を始める。あのおじさんは一体死ぬまで説教をしたいのだろうか。
「ロザリーさんの願いを早く叶えてあげましょう。姫様の言うとおりさっさとゴーですよ!」 クリフトもやたらやる気マンマンだ。 シスターの話によると、デスパレスに行った人間は帰ってきたことがないらしい。そしてアリーナは「じゃあ私たちがはじめて生きて帰った人間になりましょ!」と言っている。本当に強気だ。その自信や勇気はその小さな体のどこから来るのか激しく知りたい。 まあ、変化の杖を手に入れた俺たちだからまだなんとか出来るかもしれないが・・・。
17.魔族の王・デスピサロ 「た・・・たかいっ・・・ムリ・・・」 真っ青な顔をしてクリフトは足をガクガクさせている。 今ここは、デスパレスへ行くために決して逃れはできない魔人像の中へと入っている。像はかなりでかく、その中に入るなんて絶対に無理!と断固拒否するクリフト。そういえばこの人は高所恐怖症だった。しかし魔人像のダンジョンを避けて通ることはできなかった。魔人像を通らなければ川があってデスパレスへ向かうことができない。 「下を見なければ大丈夫・・・下を見なければ大丈夫・・・」 クリフトは自分にそう言い聞かせているが、全くその効果はなし。顔色は変わらないし、唇も紫色。さっきよりも地上が遠くなってきた場所にいる俺たちにクリフトは更に足をガクガクさせて怖がっている。
「まーったく頼りないわね。高いとこなんてむしろ楽しいじゃない!!」 そう言って外の景色が見える場所に身を乗り出すアリーナに、クリフトは「ひいぃい!」と腰を抜かす。 「姫様!そんなっ・・・!身を乗り出してはいけません!!落ちてしまったらどうするんですか!!」 「何言ってんのよ。こんなの全然へっちゃらよ!落ちた人は相当間抜けね。だいたいもし落ちても、このくらいなら怪我もしないわよ!」 アリーナはそう言ってるが、俺なら怪我をしそうだ。アリーナはそういう高いところから着地、なんて最も好きそうだが。
「と、ととととにかく!!高いところは危ないのです!それは弁えてください!!」 「はいはい」 アリーナは半分呆れたようにしていたが、顔は笑っていた。
「ぎゃああああああああぁぁぁあ!!」 魔人像の一番上にあったレバーを動かすと、いきなり魔人像が動き出した。高いところで像が動くというその恐怖に、クリフトはとうとう座り込んだ。先ほどの叫びも、もちろんクリフト。
「すごいわね!像が動いてこの川を渡ってるのか」 マーニャが関心したように、動いている像を見る。
川を渡り終わった魔人像から俺たちは飛び降りる。クリフトは怖くてできなかったので、トルネコにおぶってもらっていた。しかしトルネコにおぶってもらって降りているにも関わらず、トルネコの背中で「ひいいいいいぃぃ!!」と叫んでいる。あの叫びだとトルネコの鼓膜が破れてしまってもおかしくないだろう。
「・・・さて、と。とうとうデスパレスですね」 ミネアが城を睨みながら呟く。 俺たちはデスパレスの前まで来た。紫色の屋根、城壁。そのどれもが「城」なんて呼んでいいものではない。毒々しい気配が辺りに漂い、魔物の城なんて知らない人でも一目で分かってしまいそうだ。
「ここにデスピサロがいるのですな」 ライアンも覚悟を決めたように身を構えている。
「じゃあみんな!行くわよ!!」 変化の杖を誰よりも早く持ち、空を切って杖をアリーナは振りかざした。
「・・・あ、れ?」 アリーナはやりきった!と言ったふうにして自分や周りの姿を見たが、それは俺・・・まさしくソロの姿だった。 「ええ!?ソロが・・・は、8人!?」 「ばか、人の姿になってるだけだろ。もっかい振って」 全く状況のつかめてないアリーナに俺は指示する。・・・何だか自分の姿に言っているようで変な感じがする。
「えいっ!・・・あれぇ〜・・・」 もう一度振っても、今度はマーニャの姿になる。 「えい!もう!何で?」 今度はブライの姿。みんな背が小さくなって、気持ち悪い。
「アリーナが振るから悪いんじゃない?それっ」 それを見て好奇心を持ったマーニャがアリーナから杖を取り、振ってみた。が、今度はライアンの姿になる。 「何で仲間の姿にばっかなるのよ!私たちは魔物になりたいのに!!」 むきーっと効果音が付きそうなくらいに怒るマーニャから杖を取ったミネアが振ってみるが、今度はクリフトの姿に。 「私がやってみせましょう」 トルネコが振ると、今度はトルネコの姿になる。みんなドデーンと面積を一人で陣取ってしまいそうな体型になる。 「じゃあここは私が!」 そう言ったクリフトが振ってみると、今度はアリーナに。 「ひぃい、姫様がたくさん・・・!!」 失神してしまいそうな想いをこらえて、クリフトは何とか立っている。 「ええい、何をしておる!わしがやる!!」 そう言ってブライが振ると、今度は再びマーニャの姿に。色っぽい女性の姿に、クリフトはびっくりする。 「姫様にはない女性独特の「悪かったわね、女らしさがなくて・・・」 額に血管を浮かび上がらせるアリーナは、クリフトの胸倉を掴んで怒る。
ギャーギャーととっくみあい(アリーナの一方的な)が始まると、それを仲裁しようとする仲間たち。変化の杖もあきれたかのように、その集団から飛び出た。
俺がそれを拾い上げて振ってみると、スライムの姿になった。
「「「「「「「「 あ。 」」」」」」」」 あっさりと魔物に変身することができた。
「な〜んだ!じゃあ最初っからソロが振ればよかったわね」 マーニャだと思うスライムが先に先にデスパレスへと侵入していく。幸いこの魔物の姿のおかげで、城を入ってすぐ見張っていた魔物にはバレなかった。
何やら急いでいる魔物たちがたくさんいたので、俺たちはそれを追いかけてみることにした。が、追いかけてみても魔物の足は速く追いつかない。スライムなんて更に足がない魔物なので、余計にだ。
「お前たち、会議にでるのか?」 「え?」 階段の横にいた魔物が声をかけてきた。人間の俺は焦る。 「どっちだ?」 「あ、あのっ、えっと」 なぜか敬語になってしまう俺だが、向こうは馴れなれしいので身分が高い奴なのかもしれない。ややこしい騒ぎになってしまっても大変なので、とりあえず敬語で話そうと決心したが。 「・・・まあどっちでもいい。だが会議に出るなら早くしないとデスピサロ様がいらっしゃるぞ」 「!!」 デスピサロという名を聞いて、俺たちは目を合わせた。が、スライムの顔なのでにやけてしまっているから何だか緊迫した気配はない。
「階段を登ったら会議室はすぐだ。早く行けよ」 「は、はい!行くぞみんな!!」 俺がそういうと、俺の後からついてくる7匹のスライムは足がないのを苦戦して必死に階段を登っていく。
「・・・しかし見たことない魔物だったな。新入りか?」 階段にいた魔物は一人そう呟いていた。
会議室らしき部屋に入り、そこにいた魔物たちに紛れて俺たちも椅子に座る。魔物にも会議があるなんて、魔物も魔物で大変なんだなと俺は思った。 「よぅ。デスピサロ様はもう来るぜ。間一髪だったな」 「え!?う、うん・・・」 アリーナは魔物に話しかけられて焦っている。
「ではこれより会議を始める!デスピサロ様、どうぞ」 魔物が会議室のドアを開けると、椅子に座っていた魔物たちはドアのほうへと目を向ける。
「・・・デスピサロ・・・!!」 夢に出てきた姿と全く同じだ。長い銀髪の髪に赤いマント。魔族でなければ美男子ともいえるその風貌のデスピサロは、会議室の前に立つとひとつ咳払いをして話を始める。
「みんなよく聞け!地獄の帝王エスタークが人間どもの手によってこの世に蘇ったらしい!」 そのデスピサロの言葉に、魔物たちはどよめく。もちろん俺たちも誰かはわからないが、変化の杖で変身している仲間と思われるスライムと目を合わせる。 「どうやら人間どもは気づかぬうちに地獄の世界を掘り当ててしまったようなのだ。とにかくアッテムトだ!エスターク帝王をなんとしてでも我がこのデスパレス城にお迎えするのだ!さあ、みんなアッテムトへ急ぐんだ!!」 そのデスピサロの命令を聞いた魔物たちは席を立ち、一斉にアッテムトへ向かう。もちろんデスピサロも。
「みんな聞いたな?アッテムトだ。俺たちも行くぞ」 俺たちはとりあえずデスパレス城を出る。するとそれと同時に人間の姿へ戻る。危機一髪だ。
「地獄の帝王がとうとう蘇ってしまった・・・!!不吉な予感がずっと高まっていましたが・・・」 ミネアが眉を下げて心配そうに言う。クリフトは十字を手で切ると神に願っている。
「アッテムトならミネアと行ったことがあるわ。そういえば確かあの村はガスがすごかったけど・・・。あれは地獄の世界の空気だってことだったのかしら・・・。だとしたら・・・」 そう言ってマーニャは俯く。 「・・・姉さんといったとき、洞窟の中でいつもガスの源に向かって彫っている人がいたわね。あの人たちが掘り当ててしまったのね・・・。こうしてはいれないわ。行きましょう、アッテムトに!」 ミネアが決心を決めたように言うと、マーニャはルーラの詠唱を唱え始めた。 その瞬間俺たちの体が一瞬浮いたかと思うと、風が俺たちの周りをとりまいていつの間にかアッテムトについていた。
「なんとしてでもエスタークを生かしてはおけないわ!みんな準備を整えていきましょう!!」 アリーナがそう言うとみんなはアッテムトの鉱山の中へと入っていった。
あとがき 2009.05.04 UP |