「ここなんていう場所だろう?」 「ホビット族とエルフの住む村、とさっき言っていましたよ」 アリーナが問うとミネアが答える。 俺たちは船で乾きの石というのがどこにあるのかを探していると、ひとつの村にたどり着いた。
「・・・あ!!・・・ここって・・・」 アリーナは、村にあった大きな塔の前で立ち止まった。
「これって・・・ソロならわかるよね?」 「あたしにもわかるわよ!!ここ、たしかイムルの村の宿屋でみた夢に出てきたわ!!」 マーニャが身を乗り出して言うと、みんなも心当たりがあるらしく頷いた。
「たしか美形な男の人がここで笛を吹いてたわよねっ」 「笛ならサントハイム城でマグマの杖と一緒に手に入れた『あやかしの笛』というものが手元にありますぞ。ちょっと試しに吹いてみようとしましょうぞ」 ブライが笛をソロに渡すと、ソロは「え、俺?」と言った顔で受け取った。
笛を吹いてみると、音が勝手に奏でられる。と同時に、地に埋め込まれていた石版のようなものが動き出した。 「お父様の研究所のエベレーターと同じ原理なのね〜」 ミネアが関心したように動く床に立ちながら辺りを見渡した。
16.ロザリーの野望 「何でこんなとこに魔物がいるのよ!!」 「町の中だからって気を抜いていた私がバカでした!ひえええぇえ!」 マーニャは必死で炎系の呪文を唱え、トルネコは武器を振り回しながら逃げ惑う。 塔の奥に入ると魔物が一体だけ現れた。まるで塔の奥にある何かを守るように。
「はぁ・・・はぁ、疲れた・・・」 汗を拭ったアリーナはちら、とソロを見た。 ソロも疲れたというように額の汗を袖で拭きながら息を大きく吐いていた。
「ソロ・・・」 そう小さく呟いても、もちろん彼には聞こえない。
「きゃあっ!?人間・・・!?どうしてここに!?」 ピンク色の髪の少女は、俺たちの姿を見て大変驚いたように足を後ろへと退いた。
「し・・・シンシア・・・?」 俺は呆然としたようにその少女を見た。ピンク色の髪にとがった耳、白い布地の服に色の白い肌。
「・・・申し訳ありませんが私はシンシアという方ではございません・・・」 「す、すいません」 なんとなく頭を下げてみたが、その少女は微笑む。やっぱりその笑顔もどことなくシンシアに似ていて、とても久しい感じがした。
「不思議です・・・。あなたたちは他の人間と違って何だか、とても澄んだ目をしています・・・・・・。あなたたちを信じてみましょう。私はエルフのロザリー。どうか話を聞いてくださいませんか?」 不安そうな顔で尋ねてくるそのロザリーという女の子の話を、俺たちは聞いてみることにした。
「世界が・・・魔物たちによって今、滅ぼされようとしているのです。魔物たちを束ねる者の名はピサロ。今はデスピサロと名のり、進化の秘法でさらに恐ろしい存在になろうとしています」 デスピサロという名を聞き、俺は肩をビクつかせた。 「お願いです!ピサロさまの・・・いいえ、デスピサロの野望を打ち砕いてほしいのです!わたしはあの方にもうこれ以上、罪を重ねてほしくないんです・・・・・・。たとえそれがあの人の命を奪うことになっても・・・。・・・ひっく・・・」 ロザリーの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
「こ、これはルビーの涙といわれるやつでしょうか・・・!」 トルネコは感動したように地に落ちた涙を手に取ってみたが、すぐに手の上で水と化してしまった。 「・・・そういえばルビーの涙は心の汚れた人間の手には触れることすらできないとのことでした・・・」 残念そうな顔でトルネコは立ち上がり、すごすごと後ろへと退散する。
「・・・ロザリーさん、わかったわ!私たちもデスピサロが許せなくって旅をしてるの。一緒にロザリーさんの野望も打ち砕いてあげるわ!!」 「ありがとうございます・・・!私、私・・・もう・・・」 ロザリーはアリーナの言葉で、嬉しさのあまり涙をたくさん流した。 「・・・今はまだ天空の城に行くのはあきらめて、ロザリーさんの願いを叶えてあげましょう」 クリフトがそういうと、一同は賛成した。
「デスピサロは今、恐らく魔物たちの城デスパレスという場所にいるはずです。しかしそのままの人間の姿では、とてもじゃありませんが入ることはできない上、大変危険です」 「王家の墓っていう場所に変化の杖があるんだよっ!ぷるぷるっ!」 ロザリーのすぐ横にいたスライムが話に割って入り、そう言った。
「王家の墓といえばお妃様の御葬式が行われた場所ですな、姫様」 「そうだったわねブライ。確かあれはまだ私が4つくらいのときだったわよねー」 思い出に浸っている2人を見てロザリーは嬉しそうに笑った。 「場所を知っているなら話も早いですわ。・・・本当に頼みます。今の私の力ではどうにもできない・・・」 ロザリーはまた泣き出しそうになったが、俯きながら必死で堪えていた。
「じゃあそうと決まれば行きましょっ!アリーナ、案内よろしくねー」 「おっけーい!任せて!」 アリーナとマーニャが手を叩き合うと、俺たちはロザリーに別れを告げて村を出た。
急いで船に乗り込み、アリーナが舵を回しまくる。安定しない船旅で俺たちは激しく酔った。
「全くー、サントハイムの兵たちは何をしてたのかしらね!?お母さんの眠る場所なんだからちゃんと掃除くらいしておきなさいよねーっ。みんなが戻ったら絶対伝えなきゃ!!」 「お妃様だけでなく先代やその前の王様たちの眠る墓でもありますからな。姫様の言うとおりですじゃ」 髭を触りながらブライも怒る。
「それにしてもここは神聖な場所のようですね。魔物は出るみたいですが・・・。永遠の眠りを妨げないよう、ここは静かに行きましょう」 ミネアが言うとなんだか説得力のある言葉に、俺たちは口を動かすのをやめた。
「・・・お母さん・・・」 アリーナは高く聳え立つ墓の建物を見て、切ない気持ちになっていた。 「お母さん・・・会いたい・・・」 ぎゅっ、と母からもらった首にぶら下げているペンダントを、アリーナは強く握り締めた。
「あーったあった!これが変化の杖なのね。えいっ」 アリーナが勢いよく開けた宝箱には、1本の杖。これがロザリーのいう変化の杖なのだろう。 「きゃっははは!みんな同じだー!おもしろーい!えーいっ!」 アリーナは更に杖を振る。次に腐った死体の姿になる。 「次つぎーっ!えい!」 次に酒場のマスターやバニーガール、踊り子、中年のおじさんやもう年老いたお婆さんなど、魔物だけでなく人間の姿にもなれるようだ。
「すっごいおもしろいわこの杖!気に入ったわよーっ!じゃあさっさとデスパレスとかいう魔物の城に行かなくっちゃね!」 アリーナはお婆さんの姿のまま走ろうとしたが、足腰が弱っているために前にこけ顔からぶつけた。 「・・・ちょっとアリーナ、大丈夫か?」 「あ、あははっちょっと顔すりむいただけ・・・大丈夫っ」 みんな同じ姿なので、アリーナが顔をあげてもしわくちゃの皺ばかりのお婆さん。しかしアリーナの目にも、俺はそんな風に映っているのだろう。そもそも俺が誰なのかはちゃんと分かっているのだろうか。 「・・・ソロだよね?」 「・・・うん」 小さく頷いた俺に、もう一人のお婆さんの姿が近づいてくる。 「姫様、大丈夫ですか?立てますか?」 異様な光景だった。 同じお婆さんの姿が3人、輪になって一人のお婆さんを助けている。その周りに5人の同じ姿のお婆さんがそれを見ている。 異様な光景だった。(2回目)
急いで船に乗り込み、デスパレスがどこなのかを必死に探す俺たち。ミネアの占いでもデスパレスの場所を導き出すことは出来ず、俺たちは悩みに悩んでいた。 その日は宿へと泊まりに行かず、船の中で寝ることになった。 念のため魔物が襲ってきたときのために、1時間交代で外の見回りをすることになった。 順番はなぜか一番最初が俺、そしてアリーナ、クリフト、ブライ、マーニャ、ライアン、ミネア、トルネコの順だった。
「じゃあソロ、一番最初の見回りよろしくねーん」 マーニャがあくびをしながら船室の中へと入っていく。それに着いていくように皆も部屋の中へと消えていった。 俺は暇なのでぼーっと空を見上げていた。
俺は、空なんか見上げるのは嫌いだ。 どうして太陽は、月は いくら逃げても俺を追いかけてくるんだ?
こんな泣いている姿なんて誰にも 空でさえも見られたくないというのに。
ずっとそう思っていた。 今も、船は波にのって僅かに動いている。それなのに明るく照らす月は追いかけてくる。 「・・・こんな弱気な俺、シンシアも許してくれないよな」 夜空にシンシアの顔が浮かぶ。 きっと俺の初恋はシンシアだったのかもしれない。アリーナへの想いほど複雑ではなく真っ直ぐな気持ちだったけど、シンシアといれば嬉しかったしドキドキしたりもした。でもそれは友達だからなんて、鈍感な俺は思っていた。
俺はそっと目を瞑って、声に出した。 「・・・逢いたいな・・・」 「誰に?」 誰かの声がして、俺は驚きまくって瞑っていた眼を開けた。 そこには笑顔で立っているアリーナが、俺の顔を覗き込んでいた。
「ア、ア、ア、ア、ア、アリーナ・・・!?」 「ふふっ、当番の時間気にしてたらなんだか眠れなかったの。ちょっと早く来ちゃった!」 頬を少しだけ赤らめて笑うアリーナに、俺も少しだけ顔を真っ赤にする。
「ねねね、誰に逢いたいの?ねえ?」 「だ、だれでもいいだろっ!」 俺はアリーナから顔を背け船の外側へと視線を移動させるが、それにアリーナはついてくる。 「つれないわねー。仲間なんだから教えてよ!水くさいわよ!」 背中をばんっと叩くアリーナ。今のは結構痛かったぞ、おい。
「・・・シンシアっていう子に、逢いたいんだ」 「・・・その人って、今日ロザリーさんと間違えてた人?」 俺はアリーナの顔を見てうなずくと、ロザリーの顔を思い出すように視線を宙に移した。 「そっかー。ロザリーさんみたいな可愛い人なんだ。そりゃあ逢いたくもなるわよね」 「違う!・・・シンシアは・・・俺の・・・俺の大事な幼馴染なんだ・・・」 俺が顔を真っ赤にさせながら言うと、アリーナは目を丸くした。 「じゃあもしかして・・・初恋の子だったりして?」 「・・・・・・・・・・うん・・・」 それを聞いてしまった自分に、アリーナは酷くむかついた。自分で自分を傷つけてしまったような気分だ。 「今はどうなの・・・?まだ、好き?」 「・・・いや、分からない。大事な人なのは今もかわんねぇけどな」 そっか、とアリーナは言うと、二人の間に少しの沈黙が流れた。しかしそれを破ったのはアリーナだった。
「じゃあ会いに行けばいいじゃない。悩んでたって後悔するだけだよ?」 「・・・もういないんだよ・・・。モシャスで俺の姿してデスピサロの前に飛び出て・・・。デスピサロも勇者だと思って、殺したんだ」 「・・・そ、うなんだ・・・ごめん・・・」 アリーナは聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、とても申し訳なくおもった。 「・・・ソロには初恋の子がいたんだね」 「うん・・・アリーナは?いないのか・・・?」 アリーナはソロにそう言われ、一瞬心臓が大きく波うった。 自分に初恋の相手は、今目の前にいるのに。
「私は・・・私の初恋の人は・・・」 そう言ってアリーナは俺の顔を見る。 「え・・・?」 少し疑問を抱いたように俺はアリーナを見た。
「あ・・・ごめ、私には・・・私はまだ恋なんてしてないからっ!あ、ほらもう1時間経ったよ!ソロもう寝なよ!」 「え、でも・・・」 「いいから!おやすみっ」 無理やり俺の背中を押して、アリーナは船室のドアを閉めてしまった。 俺はそんなアリーナが可愛いな、なんて思って、少しだけ口元を緩ませた。 「・・・・・・・変なやつ」
「あーーーーー!もうやだ・・・」 アリーナは海に向かって大声で叫んだ。 「お母さん・・・私どうしたらいいのかなー・・・」 悩める子羊が一人、海のど真ん中にいた。
あとがき 2009.04.26 UP |