「私、ずっとひとりぼっちだって思ってた」

アリーナは俺に話をしてくれた。
城の人々がいなくなってから、今までのこと全部を。

「でもね・・・、でも今は、一人じゃないって・・・仲間がいるって、すごく嬉しいの」

にっこりと笑うアリーナに、俺も微笑み返したそのときだった。

 

 

「こんな時間に姫様を連れ出して、どういうおつもりですか?ソロさん」

アリーナの肩をとり自分に引き寄せる誰か。アリーナの亜麻色の髪が左右になびく。

 

「・・・! クリフト・・・」

アリーナが自分の肩を掴んだ人を見ると、そこにはクリフト。

「探しましたよ姫様。どうしてこんなところにいるのですか?」

「そ、それは・・・」

話しにくそうにするアリーナを見て、クリフトは何かを思ったようにその前にいる俺に視線を移した。

「もしかしてソロさん、あなたが姫様を連れ出してきたのですか?」

「違っ・・・」

アリーナが必死に抵抗しようとしたが、クリフトがアリーナの口を軽く押さえた。アリーナは黙る。

「・・・俺が連れ出した」

「どうしてそのようなことを・・・。姫様がどのようなご身分なのかをご存知ですよね?」

「・・・・・・ああ」

俺は眉を下げ、俯きながら頷いた。

 

「違うのクリフト!私がソロに逃げ出そうって・・・」

「姫様、お風邪を召されてしまっては大変です。帰りましょう」

そういうとクリフトは空たかくキメラのつばさを放り、アリーナと共に飛んでいった。

 

「・・・・・・・・・」

俺は2人の飛んでいった方向をただ見つめていることしかできなかった。
満点の星空を見上げて。 

 

15.想いに気づくとき

「クリフト!どうしてソロにあんなこと言うの!?」

「姫様、今は夜です。少しだけ声の大きさを控えめにしてください」

少しだけ笑いながらクリフトは口の前に人差し指を差し出す。

「・・・何で・・・ソロは何も悪くないのに・・・」

「しかしこのような夜の遅い時間に外に出られるのはとても危険です。ブライ様も心配しておりました」

そう言うクリフトをアリーナは睨む。

 

「私はただソロに相談とかしてただけなの。それとソロも私の話があったみたいだし・・・。だから別にクリフトが心配しちゃうようなことは何もないのよ?」

「姫様!!」

クリフトにいきなり怒鳴られ、アリーナは肩を強張らせる。

「あなたは自分のご身分を弁えていらっしゃいますか?あなたは姫なのです。サントハイム国の姫というお高い地位におられるお方なのです!!そんな方が夜に外出など・・・」

そう言って、クリフトは我に返った。目の前にいるアリーナは、瞳からポロポロと涙を流していたのだった。

「姫様・・・」

「どうして・・・私が姫だからって、普通の人と同じことをしちゃいけないの?私だって人間よ。姫だろうが何だろうが知らないけど私だってなりたくてなったんじゃないわよ!」

息を荒くしながらアリーナはクリフトにそう言った。

「姫様・・・すいません。姫様の気持ち・・・分かってあげられませんでした・・・」


「・・・もういいのっ!私、私はおしとやかにしなくちゃいけないんでしょ?みんながそう望んでるなら、そうする」

「違うんです姫様!!」

クリフトは顔を赤くし、アリーナから顔を背ける。

 

「私は・・・クリフトは、姫様を危ない目に遭わせたくないだけなのです」

「・・・どういうこと?」

アリーナが首を傾げる。アリーナの頬に残る涙の跡をクリフトは自分の服の腕の袖で拭きながら言う。

「私は・・・姫様が自分の命よりも大切なんです。命に代えても守りたいと思うんです。それくらい・・・姫様のことを思っているんです。これが・・・これが私の本当の気持ちです」

そう言ってクリフトはアリーナへと顔を近づけた。

「!!」

アリーナは一瞬何が起こっているのか状況がつかめず、咄嗟にクリフトを突き放した。

 

「・・・姫様・・・」

「ごめんなさ、・・・私っ・・・私まだクリフトのこと・・・そんな風には思えないの・・・!」

そう言ってアリーナはクリフトに背を向けて走り出した。

「姫様・・・」

クリフトはアリーナの去っていった方を見て、ため息をついた。
ポッケから一枚の写真を取り出し、少しだけ笑った。でもその表情はどこか悲しそうで。

「私は・・・もしかしたら姫様を一生僕に振り向かせることは出来ないかもしれません、神様」

そこには武術の稽古に励むアリーナと、その横で慌てているブライ、サントハイム王の姿。
クリフトはそっとその写真を再びポッケに戻した。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

荒い息を整えて、アリーナは壁に手をつく。瞳と頬には、たくさんの涙。

「ご、め・・・ごめんねクリフト・・・」

アリーナは胸を押さえながら、しゃがみ込んだ。

 

 

「私・・・私きっと・・・ソロが好きだから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソロさんは・・・姫様のことが好きなんですか?」

「・・・え?」

夜の宿屋でクリフトにいきなりそう言われた。

俺たちは、ミネアが言うには次の天空の装備があるらしい洞窟へと来ていた。移動だけであっという間に夜だ。
しかしいざ洞窟に入ってみると、中は水だらけ奥へ進める階段も水に埋もれて入れそうにはなかった。

ミネアの占いだと、世界のどこかに水を干上がらせる石があるらしく、それを探すのは明日ということで今日は引き上げた。
何だか最近時間を無駄遣いしている気がするな、なんて部屋で思っていた時に、クリフトが部屋に入ってきてそう言われた。

 

「・・・何言ってんの、クリフト?」

昨日あった出来事のせいで少しだけ俺は後ろめたい気分だったが、クリフトにそんな様子はない。

「間違っていたら申し訳ないのですが・・・。最近のあなたの行動はそういう風にしか見えなくて・・・」

クリフトの眼差しは真剣そのものだった。

 

「・・・そんなわけないだろ、あんな元気だけが取り柄みたいな奴」

俺は苦笑いを浮かべてクリフトにそう言った。そんなこと、これっぽっちも思っていないのに。
前はそう思っていたが、今は泣いたりもする、本当は心の弱い女の子なのだ。

 

「ソロさんも仲間の皆さんも、もうお気づきかもしれませんが・・・。私は姫様のことを大変お慕い申しております。ソロさんが姫様へのご好意がないなら、安心しました!」

とても嬉しそうに笑うクリフトを見て、俺は何だか胸が苦しかった。

 

「じゃあ」

「あっ!待っ・・・」

俺がそう言うとクリフトは振り返った。

「あ、あのさ・・・俺、実はアリーナのこと、・・・もしかしたら・・・」

そこまで言って、言葉が止まってしまった。その先の言葉が見つからない。
アリーナに対するこの気持ちが、一体何なのか・・・。

 

「? 何ですか?」

「・・・・・・いや、何でもない・・・」

そう言った俺にクリフトは少し微笑んで、おやすみなさいと告げた。

「では」

クリフトは俺に礼をすると、部屋を出ていった。

 

「・・・やっぱりソロさんも姫様のこと・・・」

クリフトは部屋から出た後、考えていた。

「・・・このままでは絶対にいけない・・・何とかしなければ・・・」

クリフトは、決心をしたように一人頷いていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

俺は自分の気持ちが未だ分かっていなかった。
前ほどアリーナのことが大嫌いという訳ではない。むしろ今ではアリーナと話したいとか、そんなことも思う。

だけど、ずっと恋なんてしたことのなかった俺は、この気持ちが恋だなんて全くもって気づかなかった。

 

「ちょっとソロ!!」

甲高い声と勢いよくドアを開ける音がして、俺は振り返る。

「・・・マーニャ?」

「あんったねぇ!!何で自分の気持ちクリフトに黙ってんのよ!!」

マーニャはどうやら俺とクリフトの会話を聞いていたらしい。

「・・・何が?気持ちって・・・」

「あんた好きなんでしょ!?アリーナのこと!!」

俺はマーニャにそう言われ、首を傾げた。

「何で・・・そんなわけないだろ」

「わかるわよ、見てれば。アリーナ本人は全然気づいてないんだろうけど・・・。
だからクリフトだってそう思ってソロに言いに来たんじゃないの?」

 

 

 

俺は分からなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アリーナが、好き?

 

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あとがき
なんだコレはぁあああ(何
クリフトは別に嫌な奴ではないですよ。
好きな人を奪われたくないだけなのです。←

2009.04.26 UP