アリーナが宿の裏でマーニャに相談しながら泣いていたあの日。翌日になって、俺はなんとかアリーナに謝ろうとか、嫌いじゃないとか、色々言おうと思っていた。けど。

「あなたと姫様じゃあまりにも不釣合いです」

そう言ったクリフトの言葉がいつも頭をよぎって、俺を苦しめていたと思う。

クリフトは別に何も悪くない。たしかにクリフトの言っていることは正しいからだ。それに、好きな人に異性が近づいて嫌な気持ちになるのは、誰だってあるし当たり前。

そうわかっているのに、俺は何でかクリフトのことを少しだけ憎んでしまっていた。

 

14.交差

長い船旅ですっかり辺りが暗くなってしまったが、俺たちはなんとかメダル王の城へと辿り着いた。海の魔物は強く、体力も限界に近づいていたので、メダル城内の宿に泊まることになった。

 

 

 

 

「クーリッフト!」

「え?あ、姫様っ」

自分の愛しい姫・アリーナがクリフトに声を掛けた。アリーナはいつもの青いマントにとんがり帽子ではなくて、帽子を外し寝巻き姿でと宿でしかしないような格好だった。

 

「・・・ねえクリフト」

「何ですか?姫様」

「・・・あんた、なんかソロに吹き込んだでしょ」

「ぶっひょぅうう!!」

アリーナに図星をつかれたクリフトは、飲んでいた紅茶を吐き出した。

「ひっ、ひひひひひめさまぁあぅっ何をおっしゃるのですか!!」

「もう〜きったないわね!・・・だって昨日、聞こえてたんだもん。クリフトの声」

アリーナのその言葉に、クリフトは顔から血の気が引いたように青ざめた。

「あのねぇ・・・。私が仲間とどうなろうが関係ないでしょ?それに別に恋とかそんなんじゃない・・・」

恋・・・じゃない・・・。恋じゃない?
アリーナはそこまで言って黙り込んで考えた。

ソロのことは確かに好きだ。でもそれは恋愛対象としてなのか、仲間としてなのか・・・。

 

「・・・姫様?」

クリフトが心配そうな顔でアリーナの顔を覗き込んだ。アリーナは顔をぶんぶんと振って考えを飛ばしきるようにすると、クリフトに怒鳴った。

「とにかく、これからこういうこと言ったら次は怒るからね!説教だけじゃ済まないわよ!」

ふん、とご機嫌ナナメのアリーナに、クリフトはアリーナの機嫌というか、気の利くことを言わなければとクリフトは頭で何かを考え、思いついたことを言おうとアリーナを呼びとめた。

 

「あの・・・姫様っ・・・」

「何よ?」

「えと・・・肌着が透けております・・・そのままではいけないかと・・・」

「・・・!!!!!」

クリフトは気を利かせたつもりなのだが、それは女子にとっては最悪の言葉。アリーナが怒りに震える中、そんなことを全く知らないクリフトは、赤い顔をして俯くアリーナにクリフトは疑問符を浮かべた。

 

「・・・〜〜〜っ!!バカ!!!

「ぶっ!?」

アリーナの鉄拳がクリフトの頬にクリーンヒットした。息を切らしながら床の上でくだばるクリフトを睨みつけたアリーナはもう一度怒声を浴びせた。

「バカバカバカ!だいっきらい!!クリフトなんか大っ嫌い!!!!もう話しかけてこないで!!」

気の済んだアリーナはフン、と鼻息を荒くすると、足音を大きく立てて部屋へと帰って行った。
クリフトはというと、まだ何故アリーナを傷つけたのかわからず、早くも赤く腫れ上がった頬を抑え、目尻に少し涙を浮かべながらアリーナの歩いて行った方向を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

・・・珍しい。

天空の装備があると聞いた、メダル王の城の北にある洞窟へ行く途中。クリフトが、アリーナに話しかけずずっとブライといる。俺はアリーナとクリフトの姿を交互に見て首を傾げた。

「ねえソロ。昨日なんかあったの?何か知らない?絶対あの2人の関係、今こじれてるわよね」

ため息をついて俺と同様に2人の姿を見るマーニャに、俺も賛同した。

「・・・占いでは何かクリフトさんがデリカシーのないことを言ったようですね」

ミネアは水晶玉を持ち、姉と同じようにため息をついた。

 

アリーナはひたすらクリフトから目を背け、クリフトはそのアリーナの後姿を見ておどおどしている。

デリカシーのないこと・・・か。

それにしても、今この状況ならもしかするとアリーナとゆっくり話せるチャンスかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の奥に入って天空の鎧を手に入れ、またメダル王の城の宿でお世話になった。

 

もう夜の10時。俺はそろそろ風呂にでも入ろうかと、一人部屋のベッドから腰を上げた時だった。

 

「ソロ・・・!」

「・・・え、アリーナ?」

息を大きく吸いながら部屋へと入ってきたアリーナは、俺が今まで座っていたベッドの下に潜り込んだ。

「・・・どうしたんだ?」

「今ブライに追われてるの。また勉強って・・・。お願い、少しだけ隠れさせて!」

そういうとアリーナは静かになった。

 

「ソロ様!ソロ様!姫を知りませんか?」

ドア越しに聞こえるブライの声。俺はなんとか上手いこと切り抜けると、ブライはどこかへ行った。バレると何の呪文が飛んでくるのだろうかと少しだけ怖い気分になりながら、俺は安堵の息を吐いた。

 

「ありがとソロ・・・」

「何で勉強逃げてきたんだ?いつも嫌々言ってるけどちゃんと受けてただろ」

俺は今までにないくらいアリーナに話しかけた気がして、今の不自然じゃなかったかと少し焦る。

「うん・・・今日見ててわかったと思うんだけどね、今クリフトと喧嘩してるの。ブライとクリフトって同室だし、私はマーニャとかミネアのいる部屋で女部屋だからブライは入れてあげられないし・・・。だからあの2人の部屋で勉強しなきゃなんだけど・・・やっぱり行きづらくって・・・」

今日は逃げてきちゃった、と笑顔でそう言うアリーナに、俺はなんとなく呆れたような気持ちと少し嬉しい気持ちが混ざりあって変な感じがした。

 

「じゃあー私は部屋戻るね。女子部屋だとあの2人に迷惑かけちゃうからと思って咄嗟にソロの部屋入ってきちゃって・・・ごめんね・・・じゃ!」

そう言って部屋に戻ろうとするアリーナ。

「あ、アリーナ!!!」

俺がアリーナを呼びとめると、アリーナは首を傾げながら振りかえる。

 

「あ・・・あのさ。俺・・・俺、アリーナに言いたいこと、いっぱいあるんだ。ちょっとでいいから・・・話さないか?」

そう言った瞬間、アリーナが少しだけ後ろによろめいたような気がした。

 

「わ、わわかったっ!じゃあ・・・ここじゃブライに見つかっちゃうかもしれないから、どっか行こう?」

そう言ってアリーナは窓に手をかけた。

「・・・え、そこから出るのか?」

「もちろんよ。出口に行けばブライに見つかっちゃうもの。飛び降りてる途中にルーラお願いねっ」

俺の手を引いて窓の元まで来たアリーナはそう言った。俺は顔から血の気が引いた気がした。

 

 

風を切り、横からアリーナが、お願いと囁いた気がして、俺は咄嗟にルーラを唱えた。

 

 

 

 

 

行き先はなんでかサランについた。俺が思いついた街の名前がサランだったみたいだ。

とりあえずサランにある食べ物を2人分買うと教会の屋上に俺たちは腰を下ろした。詩人のマローニの歌声が夜のサランの街に響く。

 

「・・・あのさ・・・ごめん・・・」

「え?」

いきなり謝った俺に、アリーナは目を丸くした。

「その・・・俺聞いちまったんだ・・・。アリーナがマーニャと話してたこと、全部」

「・・・・・・・・」

アリーナは俯いて黙った。

 

 

「俺、別にアリーナが嫌いとかそんなんじゃないんだ。ただ・・・俺、村を失って・・・不幸なのはこの世に自分だけなんて思ってたんだ。だから力だめしとかで旅に出たっていうアリーナが・・・なんか・・・許せなかった」

黙ってうなずきながら俺の話を聞くアリーナに、俺は続けた。

「でも・・・でも今はそんなんじゃなくって・・・。もっとアリーナとも話して行けたらいいなって思ってるし、強くなるのも友達関係も・・・恋だって頑張ってほしいし・・・。だから・・・今まで、ごめんな」

そう言ってアリーナの方を向いた俺は、目を見開いた。

そこには、目から涙を流しているアリーナがいたからだ。

 

「な・・・なんで泣いて・・・」

「だ、だって・・・だって嬉しくって・・・っ」

アリーナはいつも嵌めている手袋を取ると、手のひらで涙を拭った。

「私・・・私絶対にソロに嫌われてるんだろうなって思って・・・たから・・・っ、だから・・・そんな風に思ってくれてたのが・・・すっごく嬉しかった・・・」

泣いているアリーナは肩と栗色の巻き毛をゆらしていた。

 

俺は恥ずかしかったが、慰めようとしてアリーナの頭を撫でた。いつもシンシアが泣いていたときはこうして頭を撫でて慰めていたからだ。

「ごめっ・・・ソロ・・・ありがとっ・・・」

赤い目をしながらも少しだけ笑顔を見せてくれたアリーナに、俺は少しだけ嬉しかった。

 

そして同時に、アリーナともっとずっといたいな、とか、このままがいいな、とか・・・色々考えてしまっていた。

その気持ちが何なのか、まだ何も分かっていない俺はこれが仲間なんだと思っていた。

 

 

 

そのサランの教会の下では、2人で楽しそうにしている姿を見つめるクリフトがいた。

 

 

 

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あとがき
うはああああああああ萌えるゥゥゥゥウ(ぇ

2009.04.16 UP