バトランドでは結局、ライアンの言うとおり天空の装備はなかった。ガーデンブルク城の女王様を口説くためにあげてしまったらしい。 「全く、そんな大事なものをあげちゃう王様ってどうかしてるわよ!お父様とは比べ物にならないわ!」 と愚痴をもらすのはアリーナだった。そんなにサントハイムの王様は偉かったのだろうか。
「あ、皆さん、さっき町の人が話していたのを聞いてしまったんですが、イムルという村の宿屋で何だか不思議な夢が見れるそうですよ。今日はそこに泊まってみませんか?何だかおもしろそうですし!」 トルネコがそんな案を出してきた。イムルの村はバトランド城に近いそうなので、俺たちは泊まることになった。
13.姫の気持ち 俺は飛び起きた。 夢には・・・憎むべきデスピサロが瞼の裏に鮮明に映りこんだ。そしてエルフのように耳の尖ったシンシアのような女の人。俺はデスピサロの姿は知らないが、そのエルフのような女の人は確かに「ピサロ様」と名前を呼んでいた。 やっと眼を開けることが出来、俺はベッドから体を起こした。荒い呼吸。デスピサロを見てしまったことで、俺は吐き気のようなものを覚えた。 しかしそれは俺だけではなく、隣のベッドを見るとアリーナもベッドから起き上がって眼を擦っていた。俺と同じ夢を見ていたのだろうか。 「・・・あ、ソロ。ソロも見た?デスピサロと女の子の夢・・・なんか笛を吹いて塔の中に入って行くの・・・」 俺はこれ以上アリーナと話す気になんだかなれなくて、もう1度寝転んだ。 「ねえ。・・・どうしていつもそんなにそっけないの?」 嘘をつくと、アリーナは大声で叫んだ。 「嘘!マーニャやミネアや他のみんなにはちゃんと話してるくせに、私だけにはいっつも一言ばっかりじゃない!!」 俺はそう言うと、布団に顔を潜り込ませた。
「・・・私・・・そういうの・・・嫌なの・・・っ」 涙ぐむ声が聞こえ、俺は焦って布団から顔を出した。 「私・・・私、何かした・・・?ソロの気に障るようなこと・・・私、しちゃった・・・?」 隣を見ると、アリーナは手で必死に涙を拭っている。しかし、アリーナが泣いていることはすぐにわかった。
「・・・泣くなよ・・・ごめん」 アリーナはそう言って軽く俺を睨むと、布団の中に潜り込んだ。しかしくぐもった声でまだ泣いているのが分かった。 そんな2人の会話を、クリフトはアリーナの隣のベッドで寝ているふりをして聞いていたのだった。
ガーデンブルク城へ行く途中、サントハイム城で手に入れたマグマの杖で道を塞がれていたガレキを爆破し、何とか城の中へと入ることが出来た。 その間アリーナが俺に話しかけることも目を合わせることもなかった。露骨に避けられている。俺は自分が悪いことをしてしまったのはわかっていた。だけど持ち前の素直になれない性格のせいで、謝りにいくこともできない。 俺はクリフトの横にずっといるアリーナの後姿を、息の詰まる思いで見ていることしかできなかった。
「姫様、お荷物お持ち致しましょう」 そう言うとクリフトは半ば無理やり、アリーナの荷物を持った。 「もーいいって言ったのに・・・。ありがとう」 ニッコリと笑うクリフトに、アリーナも微笑んだ。
ガーデンブルク城は女しかいない城だった。男の多い俺たち旅の一行が歓迎されるかはわからなかったが、城の人々には何も言われなかった。
「・・・あ、あなたたち。ここの引き出しを見てみてください。きっといいものが見つかりますよ」 何か宝物などはないかと城を探索していると、ある部屋に訪れた俺たちにそう言った男はそそくさとその部屋から出て行ってしまった。 「いい物って何かしら?さっさと開けてみましょうよっ」 宝には目がないマーニャがその言葉を信じて、ミネアの制する声を無視して引き出しを開けた。と、その時。 「キャーーーッ!泥棒!!誰かっ・・・誰か!!」 その部屋に住んでいるであろうシスターが、俺たちの姿を見てそう叫んだ。マーニャが『バレた』という顔をして、慌てて引き出しを閉めたがもう遅い。マーニャは忠告を聞かなかった自分の姉に呆れてため息をついた。 「貴様ら、盗みを働くとは不届き者め!!さっさと牢屋へ来い!!!」 女兵士にそう言われ、俺たちは地下牢屋へと連れられた。
「はぁー・・・どうしてあたしたちが牢屋なんかに入らなきゃいけないのよ」 肩を落とす姉妹に、俺もため息をついた。いつまでもここにいる訳にはいかないだろう。どうにかしないと、と脱出する方法を考えていた。
「姫様、お体大丈夫ですか?こんなジメジメした場所、姫様にはキツいのでは・・・」 拳を前に突き出して体を動かそうとしているアリーナに、幸せそうに笑いを浮かべるクリフト。 「・・・はぁ・・・」 俺はため息をついた。昨日のことをアリーナはどう思っているのだろうか。やっぱりまだ怒っているのだろうか・・・。
「おい・・・おい!女王様がお呼びだぞ!」 女兵士がそう言い、俺たちは牢屋から出された。
「・・・もう一度聞きます。あなたたちが本当にシスターのブロンドを盗んだのですか?」 女兵士が女王様に反抗するマーニャを剣で制止するとマーニャは大人しくなった。
「・・・本当に違うのなら、あなた達に泥棒を捕まえる権利を与えます。捕まえることが出来ればあなたたちを牢屋から出すことを許しましょう。ただし!その間、1人は必ず牢に入って人質として居てもらいます」 女王様にそう条件を出され、俺たちは頷いた。
「で、誰が牢に残るんだ?」 俺が尋ねると、真っ先にマーニャが首を振った。 「・・・ではワシが残るとしましょう。姫様方。ワシの代わりに泥棒をとっちめてくだされ」 アリーナが心配そうにブライを見たが、ブライはいつものしかめっ面で大丈夫と言って牢屋へと入っていった。
「・・・さっさとブライを牢屋から出してあげましょ!濡れ衣を着せた泥棒をとっ捕まえてやるわ!」 ミネアの占いで泥棒の隠れた先を知り、すんごいやる気になったアリーナは先頭を切って歩き出した。その後をクリフトも慌てて着いていく。
「あーやっぱあたし洞窟無理!!馬車で待っといてもいいんだよね?」 後ろからマーニャの声援が聞こえる中、俺とアリーナ、クリフトとミネアの4人で洞窟へと入って行った。
「ここの洞窟はやたらと見渡しが悪いですね。慎重に進んで行きましょう、ソロさん」 ミネアの言葉に頷き、俺たちはあっちかこっちかと右往左往しながらも洞窟を進んでいった。 「姫様大丈夫ですか?」 クリフトは第一にアリーナのことを気遣い、アリーナが魔物から少しでもダメージを受ければ真っ先にアリーナを回復呪文で回復させる。例えミネアの方が傷深かったとしても、だ。 「ミネア、大丈夫か?」 傷を抑え痛そうな顔をしているミネア。俺はミネアを支え、回復魔法を唱えた。
「ごめんなさいソロさん・・・。もう歩けます」 笑顔を見せたミネアに俺は安心した。
「・・・・・・・」 ソロとミネアの姿を見ていたアリーナは首を振って、クリフトの問いかけに答えた。
「ん?あ、あなたたちは・・・ここで捕まるわけにはいきませんね!!この盗賊バコタが旅人なんぞに負けるわけがないのです!!」 敬語を話す変な泥棒、奴の名はバコタというみたいだ。洞窟の奥に隠れ家のようなものを持っていたバコタは呑気に眠っていたが、俺たちの気配を感じ取ったのか飛び起きた。 俺たちも濡れ衣を着せた腹いせで、容赦なくバコタに取り掛かった。
「やぁあ!」 しばらく武器や魔法を唱える音が聞こえ、最後にアリーナの改心の一撃でバコタは倒れた。バコタが苦痛の声をあげながら、俺たちの隙を見て逃げ出した。が、後ろからガーデンブルク城の女兵士が現れてバコタを取り押さえた。 「ごめんなさい、つけるつもりはなかったんだけど女王様の命令で・・・」 そう言って笑顔でありながらも、暴れるバコタを持ち前の怪力で押さえている。
女兵士に連れられて俺たちは女王様の前へやって来、疑いも晴れて牢屋にいるブライも解放することができた。 「ごめんねブライ、牢屋なんか入れちゃって・・・」 わっはっはと笑いとばすブライに、アリーナも笑った。 女王様から天空の装備の2つ目、天空の盾を俺はもらった。
ミネアの占いによると、メダル王の城のらへんが怪しいというそうだ。今日はもう遅いので明日、そこへ行くことになった。マーニャがどうしてもモンバーバラの町に行って劇場を見たいといい、アリーナも賛成し今日はモンバーバラの宿に泊まることになった。
「じゃーアリーナ劇場行くわよー」 まったく姫というのにそんな・・・とぶつくさ言うブライに、クリフトは苦笑いを浮かべていた。
何時間か経っても帰ってこないマーニャとアリーナを心配した俺は、宿の外に出てみた。もう劇場は終わったのか電気は付いていない。酒場にでも行っているのだろうかと俺は少し不安になっている、そんなときだった。
「・・・ねえマーニャ・・・私・・・」 アリーナの声が、宿屋の裏の方から聞こえた。俺は慌てて宿の壁伝いに身を潜める。
「私・・・本当はあんな態度、取りたくないの・・・でも・・・またそっけない言葉で返されたら私・・・」 何だか悲しそうな声のアリーナと、いつもよりも優しく話すマーニャの声。俺は全く何の話をしているのかわからなかった。 「ソロは・・・私のこと嫌いなのかな・・・」 俺?俺が・・・アリーナを嫌い・・・? 俺は自問自答してみたが、分からなかった。ただ、これだけは言えた。
「私・・・自分が分かんない・・・!もうどうしたらいいのかな・・・」 俺は違う、と言いたかった。この場を飛び出そうと。
「・・・!?」 クリフトだった。 「・・・あなたが姫様のことをどう思っているのかは知りませんが、あなたは姫様には不釣合いです」 小さな声で話すクリフト。そしてクリフトのその言葉に、俺は何故かを聞いた。 「あなたと姫様はお会いしてまだ間もありません。そんな方が貴族の方なんかと恋なんて出来る訳がないのです」 嫌味のない笑顔でそう言うクリフトに、俺は何も言えなかった・・・。
あとがき 2009.04.06 UP |