「お、父・・・様・・・っ」 私はただ呆然と立ち尽くしていた。 クリフトに連れられて来たのは、一目につかないサランの町の教会の裏の立て札の前。立て札には、お父様の小さい時の私へのメッセージ。お父様は私がこの世に産まれてくることを、そして今のようにサントハイムの国の人たちが居なくなることを小さい頃から予言していた。そしてその時のために、私に対してヒントを立て札に書いていてくれた。 私は嬉しくて、でも悲しくて・・・。泣いてしまいそうだった。私は弱い。でもそれを周りに気付いてほしくなかった。 「泣いてもいいんですよ、姫様」 「!」 クリフトがそっと手を広げた。 「強い人間なんていないんです。一人で生きて行ける人間なんていないんです。だから人は支え合うんです。姫様・・・泣きたい時は泣いてください。怒りたいときは怒ってください。笑いたいときには笑ってください。 もっと・・・、もっと自分の気持ちに素直になって下さい。我慢している姫様なんて、私・・・見ていたくないですから」 「・・・クリフト・・・」 クリ フトは私に笑顔でそう言った。私はクリフトに駆け寄って、クリフトの広げた腕の中に飛び込んだ。クリフトは広げていた腕を私の頭へと回して、ぎゅっと握り締めた。私はクリフトの優しさに甘えてしまった。
「ごめんねっ・・・ごめんねクリフト・・・っ、私 ・・・もう少しだけ・・・このまま・・・っ」 「・・・姫様が気のすむまで、私でよければずっと こうして差し上げます」 私はクリフトの腕の中で泣きじゃくった。クリフトは私の頭を優しく撫でてくれて、私はすごく安心した。
12.鈍感 俺は目の前の光景が信じられなかった。アリーナとクリフトが宿から飛び出して行った後、俺は何だか気になってじっとしていられなかった。2人の中を邪魔しちゃ悪いと思いながらも探しに行こうと、俺は宿を出た。 どこにいるのかと町中を探していると、アリーナの泣き声が聞こえた。俺は声の聞こえる方へ歩み寄ると、そこにはクリフトの腕の中にいるアリーナ。信じられなかった。俺は頭を振って、一歩、また一歩と退いて、振り返って宿へと走り出した。 嘘だ、と 信じたかった。でも今起きていることは、紛れもなく夢じゃない現実・・・。 そして俺は立ち止まった。俺はどうしてこんなに動揺しているんだ、と。別にあの2人の仲がどうなろうが、俺には関係ないじゃないかと思った。俺は冷静に一つ一つの物事を解決していくと、深呼吸して宿へと戻った。 「あ、ソロさん・・・どこ行ってたんですか?すごい汗ですよ」 「え・・・」 俺はミネアにそう言われ髪を少しだけ掻き上げると、汗をびっしょり掻いていた。 「私お風呂沸かしてきます。ソロさんは休んでください」 にっこりと笑うミネアに、俺は会釈した。ミネアは駆け足で風呂場へと駆けていった。
「・・・あのね、クリフト。ごめんなんだけど・・・もう少し私の悩み、聞いてくれる?」 「何ですか、姫様?何でも聞きますよ」 クリフトと泣きやんだアリーナは今、教会の壁にもたれて並んで座っていた。赤く目を腫らしたアリーナの横で、クリフトはアリーナが自分に心を許してくれたことが嬉しくかった。今はとにかくアリーナと長く居たくて、悩みでも何でも聞いてあげようと思った。 「ありがとう・・・。あのね・・・。私たちが旅に加わってから、ソロがずっとそっけないの」 「・・・ソロさんが?」 男の名を出してきたアリーナに、クリフトは顔をしかめた。 「うん・・・。私が話しかけても『うん』とか『あぁ』とか・・・そればっかりで・・・」 「・・・ソロさんはそういう方だからしょうがないんじゃないですか?ほら、皆マーニャさんや姫様のように元気ハツラツな方ばかりではないですし・・・」 「でも、マーニャやミネアたちには普通なのよ?ブライにも・・・。クリフトがミントスで病気になった時、私がソレッタの宿屋で話した時のソロはすごく面白くて優しかった。なのに・・・、私なにかしたのかな・・・?」 また泣いてしまいそうになるアリーナ。クリフトは慌ててアリーナの背中を擦った。
「・・・ごめんっ・・・、帰ろっか!」 「えっ、あっ姫様・・・!」 クリフトが叫んでもアリーナは背を向けたまま、走って宿へと戻って行った。勇気を出してソロに話しかけようと決心して。
「湯加減どうでした?」 「え?あ、大丈夫。ありがとう」 俺はミネアが沸かしてくれた風呂から上がった。ミネアは俺が礼を言うと笑った。 「・・・何かあったんですか?」 「・・・べ、べつに」 図星をつかれた俺は肩をビクつかせてそう言ったが、ミネアは続ける。 「・・・嘘ついても分かりますよ。私は人の心が占いでもわかりますから」 「な・・・何で・・・」 私が力になります、というミネアに俺は話そうか話さないか考えた。 「・・・嫌ならいいんです。ただ私は・・・ソロさんのこ・・・あ、やっぱり何でもないです!もし話す気になったらいつでも話しかけてください。で、では」 ミネアは何だか慌てた様子で俺の部屋から出て行った。俺は濡れた髪を拭きながら首を傾げた。
バーン!! 「ソロっ!」 「・・・アリーナ?」 いきなり俺の部屋のドアを開けられ、俺 はびっくりして持っていた本を落とした。ああ、どこ読んでたかわからなくなってしまった。 「あのねっ、教会の裏の立て札に私たちが次に行く場所、書いてあったのよ!」 「・・・どこ?」 相変わらず俺は、アリーナにそっけなく返事を返す。いつものアリーナならそのまま笑顔を無くして用件を伝えるか黙り込むだけだったが、今日は違った。 「スタンシアラっていうお城なの。水の都って言われてるみたい。確か北西の方だったと思うんだけど・・・。そこの人たちはね、天空城のことに詳しいらしいの。とにかく明日行ってみましょっ?ねっ!?」 「わ、わかった、わかったから顔近いって」 興奮しながら話すアリーナは、いつの間にか俺との顔の距離がものすごく近かった。
「あっ、ご、ごめんっ!じゃ、じゃあもう私は寝るわねっ!おやすみっ」 顔を真っ赤にしてアリーナは急いで俺の部屋から出ていった。勢い余って激しくドアを閉めてしまったために大きな音が部屋に鳴り響く。さっきのミネアといい、今日は何だか騒がしい。
「・・・変な奴」 俺は床に落ちた本を拾い、ドアの方を見て少しだけ微笑んだ。
「は 、はーっ・・・いつもよりかは会話の量あったわよねっ」 アリーナはガッツポーズをかまし、そしてなぜ今自分はガッツポーズをしたのかを不思議に思いながら、自分の部屋へと戻っていった。
次の日、船をつかってアリーナの言うとおり俺たちはスタンシアラへと向かった。スタンシアラは現在、王様のお触れで王様を笑わすことができれば国の宝をもらうことができるらしい。 町の人たちの話だと、世界のどこかに人間でも天空城に行くことのできる塔があるらしい。しかし塔を登っても、天空の装備を全て揃えた者でなければ天空城へは導かれないそうだ。 そして王様のいう国の宝は天空の装備のひとつらしく、俺たちは早速王様に会って笑わせようということになった。
「時計と毛糸!!」 「・・・」 「ズボンがズボッと脱げる!!」 「・・・」 「レンジがオレンジ色!」 王様は一向に笑わなかった。そりゃそうだろう。俺たちの笑いのスキルなんてきっと素人以下だ。 「うーん・・・どっかにお笑い芸人とかいないかしら?」 アリーナが腕を組んで考えているときに、マーニャがはーいと手を挙げた。 「噂なんだけど、モンバーバラにはお笑い芸人が来てるってどこかで聞いたわよ。とりあえず行ってみましょ!」 マーニャがモンバーバラへのルーラを唱えると、俺たちはあっという間に歌と踊りの賑やかな町へと来ていた。
「・・・そうか、もう言ってしまわれるのか・・・パノンくん・・・」 「はい、座長さん。今までお世話になりましたらこ」 最後にもギャグは忘れない男、・・・パノンというらしい。これがマーニャのいうお笑い芸人なのだろうと、その2人の会話を聞いていた俺たちは直感で思った。 パノンは座長に礼をすると劇場から出てきた。そこで俺たちはパノンに話しかけた。 「え?僕にスタンシアラの王様を笑わせてほしいって、んこもり?」 「はい、てんこもりとかは別にいいんですけど・・・笑わせてほしいんです」 パノンの機嫌を損なったりしないように、俺は慎重に交渉に出た。するとパノンは笑って快く引き受けてくれた。
再びスタンシアラへと足を運んだ俺たちは、パノンを連れて真っ直ぐに王様のもとへと向かった。 「おぉ、先ほどの者たちか。どれ、芸を見せてみなさい」 「はい、王様・・・。・・・・・・・・・・・スカラをやりまスカラ〜!」 パノンがそう言った瞬間、俺たちの間で時が止まった気がした。これでは俺たちとほとんど一緒ではないか。またしても無理かと思ったときだった。 「・・・ぶっ、ぶわぁーはっはっはっは!!!」 王様は大笑いした。そして俺たちの目は飛び出した。パノンは満足そうな顔をしている。
「そなた、面白いな!よし、わが国の宝をくれてやろう。大臣、宝庫を開けておくように」 俺たちは天空の装備のひとつ、天空の兜を手に入れることができた。
パノンと別れを告げた。パノンは最後までギャグを忘れず、「皆さんさようならっきょ」と言っていった。
「ソロさん、次に天空の装備が手に入るのはバトランド城と私の占いではでていますよ」 「む?しかしバトランドの宝は王様がガーデンブルク城の女王様を口説くために差し上げたと聞きましたが・・・とりあえずは行ってみるとしましょうか。バトランドは久しぶりですな」 誰よりもバトランド城の情報を知っているであろうライアンが髭を触りながらそう言った。俺たちはライアンの言葉も気になったが、とりあえずはバトランド城へ行くことになった。
あとがき 2009.04.06 UP |