城下町が少し離れた場所にあるサントハイム城。 俺はこの城の名前を聞いて思い出した。 そういえば前に、コナンベリーでこの地名を聞いたことがあると。 悲しそうな瞳で大きな城を見上げるアリーナの傍らに、そっとよりそうクリフト。
11.姫の故郷と姉妹の仇 「・・・お父様は・・・城のみんなは・・・どこにいるんだろうね・・・」 「姫様・・・」 アリーナがクリフトにそう呟くと、俯いてしまった。 「・・・全部・・・全部、デスピサロのせいよ!!みんなは私の助けをずっと待ってる・・・!」 アリーナが城壁に、拳を振るった。鈍い音が辺りに響きわたる。アリーナは歯を食い縛って、今にも泣きそうだった。 「・・・姫様・・・皆さん。早く中に入ってバルザックを倒しましょう」 「・・・そうよ、アリーナ。つらい気持ちはわかるけど・・・今は目の前にある目的を潰していくだけよ」 力強い瞳でクリフトがそう言うと、マーニャはそれに賛成した。
「・・・ごめんなさい・・・。そうよね、私が弱音吐いちゃ駄目よね。・・・行こっか」 アリーナのその言葉に、その場にいた俺以外の仲間が全員頷いた。 城に入ると、そこは魔物の巣へと化していた。 「この城はお父様と私の城よ!魔物の城なんかじゃないわ!」 アリーナは怒りながら拳を魔物へと振った。炎は消え、魔物は消滅していく。 「早く行きましょう。バルザックの好きにはさせないんだから!」 そう言って、アリーナは2階へと登っていく。その後を俺たちは着いていく。
「あいつ・・・!お父様の玉座にのうのうと!引きずりおろしてコテンパンにしてやるわ!」 玉座に居座るバルザックを、アリーナは恨むような目で見ていた。 「お父様の仇、必ず討つわよ。準備はいいわね?ミネア」 「もちろんよ、姉さん」 姉妹の2人は目で合図すると、バルザックの前へと駆け出していった。
「ほほぉ・・・エドガンの娘達にこの城の姫、か。どうだ、私の姿は?見間違えるほど変化しただろう。何せ私は進化の秘法を極めたのだからな!もはやデスピサロも私には及ばんだろうな!」 高らかに笑うと、バルザックは表情を険しくして吐き捨てた。 「さあ来るならこい!愚かでひ弱な人限共め。まとめて叩き潰してやる!」 そういうとバルザックは手に持っていた木づちを振り下ろした。ミネアに真っ直ぐ振り下ろされる。 「あぶない!」 俺はミネアを突き飛ばした。ミネアは少しだけ吹っ飛び、俺はまともにダメージを受けた。 「はははぁ!もっと来い!血祭りにしてやる!」 バルザックは容赦なく俺たちに戦いを挑んでくる。
「イオラ!」 マーニャがいくら呪文を唱えても、一向に弱る気配のないバルザック。
「・・・?」 俺が剣を振りかざし構えていると、端のほうでアリーナとクリフト、マーニャとミネアが何かを話していた。
「スクルト!」 クリフトが呪文を唱えると、俺たちの周りをピンク色の光が包んで守備力が高くなった。 「フバーハ!」 その次にミネアが唱え、不思議な衣が俺たちを取り巻いた。これで氷や炎の攻撃のダメージも軽減できるだろう。
「イオナズン!!」 マーニャが手を大きく広げ、今のところ自身最高の魔法を唱えた。
その瞬間、ものすごい速さで俺の横を通る者がいた。 そいつはそのまま真っ直ぐバルザックへと体当たりするように走っていく。
「はぁあああぁぁあ!!」 力いっぱい拳に力を入れたアリーナは、その持ち前の強さでバルザックを思いっきり殴り上げた。 「そ・・・そんな・・・バ、カな・・・!進化の秘法を極限まで完璧に極めた私が・・・人間などに体を打ちのめされるなんて有り得ないのだ・・・!!グッ・・・」 バルザックはそれだけ言うと倒れこみ、煙のように消えていった。
「終わった・・・終わったのね・・・お父様の仇、討つことが出来たのよ!姉さん!」 「ミネア!」 マーニャとミネアは嬉しそうに抱き合った。
「・・・駄目なの?まだ駄目なの?バルザックを倒しただけじゃお父様たちは帰ってこないの?デスピサロじゃなきゃお父様たちは・・・」 アリーナは戦う前と同じように下を俯き、ぎゅっと拳を握った。 「姫様。元気を出してください。姫様がそんなに元気がなかったら、王様たちも悲しみますよ」 ね、と微笑みクリフトはアリーナの背中を優しく叩いた。 「・・・そうだね・・・。そうだよね、クリフト。ありがとう。・・・なんか元気出てきたよ!」 そのクリフトの笑顔にアリーナも笑った。
俺はそんな2人の姿を見ていることが出来なくて、目をそらした。
「・・・マーニャ、ミネア。もう旅からは外れるのか?」 「え?やだ、何言ってるのよソロ。私たちはデスピサロを倒すまでずっと仲間よ?」 そう問いかけた俺に、マーニャはニコッと笑った。俺はてっきり仲間から外れてしまうと思っていたから、その言葉を聞いて胸を撫で下ろした。
「とりあえず皆さん、サランで休みましょう。すぐですから」 クリフトの案で、戦いに疲れていた俺たちは、魔物に塞がれていて取ることの出来なかったサントハイムの宝を取って、サランへと向かった。
「あらクリフトさん。最近どうですか?」 「あ、シスター!久しぶりですね」 クリフトは宿で皆休んでいる間、一人教会へと来ていた。サランの町のシスターには、クリフトは神官としての修行に来ていたこともあり、シスターとは知り合いだった。 「そういえばこの町の裏の立て札、あなたたちならもう読みに行けるんじゃない?」 「え?どういうことですか?」 シスターが外に出て指差した先には、教会の裏にある立て札。 「ああ。そういえばあそこ、どうやって行くのかずっと分からないんですよね。どうやって行けるんですか?」 「教会の横に鍵の掛かってる部屋のドアがあるでしょ?あそこから行けるんだけど・・・その鍵がね。でも今のクリフトさんならその鍵も持ってるんじゃない?魔法の鍵があれば開くんだけど・・・」 シスターのその言葉にクリフトは思い出した。そういえば魔法の鍵は、手に入れている。
「分かりました。ちょっと鍵を取りに行ってきます!」
ドアが開き、クリフトが息を切らして入ってきた。 「姫様!今すぐ来てください!」 「え!?なに!?」 クリフトは休んでいたアリーナの腕を掴み、外へと出ていった。 俺は2人がどこに行くのか気になって、出て行った方向を見つめていた。
あとがき 「サランの町は変わらないのにね・・・」とか、 2009.03.27 UP |