「ここが・・・お父様の・・・っ」

「ミネア・・・泣いちゃダメよ・・・」

コーミズ西の洞窟の最奥にあった宝箱の底に、マーニャたちの父であり錬金術師のエドガンの研究所への入り口が開くスイッチを見つけた。スイッチを押すと階段が現れ、その先に隠されていたのだ。

今まで娘でさえ知らなかったこの秘密の研究所に踏み入れたマーニャとミネアは、今にも泣きそうな顔で研究所の内部を見回していた。きっと父と過ごしてきた日々を思い出しているのだろう。

そんな2人の姿を見て、俺も父の最期の言葉を思い出した。

『お前の本当の父と母は俺たちじゃないんだ』

この世界のどこかに俺の本当の・・・両親がいる。
俺はそう考えただけで、早く逢いたくなった。そのためにも早くデスピサロを倒す。
村のみんなの仇を討ってやるんだ。

俺やミネアたちがそんな風に考えている横で、アリーナたちサントハイム3人組はというと、エドガンの研究所を探索し、あっさりと魔法の鍵を見つけていたのだった。

 

10.キングレオと王宮の戦士

「さあ!魔法の鍵も手に入ったことだし、早速キングレオ城へ飛び込んでライアンを助けに行きましょう!」

「ちょ、ちょっと待ってよアリーナ!もう少しだけ・・・もう少しだけここにいたいの」

父の名残が残るこの部屋で、マーニャは例え無理だとしてもずっとその場に留まっていたかったのだ。そんな思いが、アリーナの先へ行こうとする気持ちを引き止めた。

「うーん・・・。マーニャの気持ちはすっごくよくわかるわ。でもそのマーニャたちのお父様の仇を討つのにだって、ライアンの力がきっと必要なの。早く仇を討ちたいでしょ?だったら早く行ってライアンを助けてあげなきゃ。それにライアン、私たちが行かなきゃ死んじゃうかもしれないもの・・・」

アリーナがそういうと、マーニャは少し時間を置いて頷いた。アリーナの言うことに納得したのだろう。

 

「・・・じゃあ行くけど。本当にいいのか?」

「・・・、うん。考えればアリーナの言う通りよね。早くキングレオ城へ行かなきゃだもんね」

少し元気がなさそうに笑うマーニャを俺は見て、ため息をついた。

急ぐ気持ちもわかるのだが、もう少し思い出に浸る時間くらい与えてやればいいのではないのかと。
俺は今すぐ洞窟を出ようとしているアリーナを見ながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

「何かここに来ると、火薬壷で大臣を驚かしたのが思い出に残ってるわ。ねえミネア?」

「そうだったわね。あのときはスリル満点で、少し楽しかったわ」

思い出し笑いをしてクスクスと笑うミネアとマーニャ。この2人は仲が良いのか悪いのかよく分からない姉妹だ。

 

「ライアンはどこにいるのかしらね?・・・あ!」

アリーナがそう呟いたとき、階段のすぐ横で兵士2人とピンクの鎧を着たおじさんが揉めていた。

「こ、こら! おとなしくしろ!」

「ええい!離せ!貴様らごときにこのライアンが押えられるものか!」

ピンクの鎧を着たおじさんはそういうと、兵士2人を剣でやっつけ、壁を向いてため息をついた。

 

「今ライアンって言ったわよね?あのおじさんがそうなんだわ!ソロを探してたっていう戦士!」

アリーナが輝いた瞳でライアンの方を見て、俺へと振り向いた。

「ソロ、早く行きましょ!じゃないとライアンが危ないわ。また取り押さえられるかもしれない」

「・・・そうだな」

「え・・・っと・・・じゃあ・・・」

俺はだるそうにアリーナの言葉に答えると、アリーナは返答に困ったようにしていた。そんな俺とアリーナの様子を、クリフトは黙って見ていた。

 

「ライアン!」

「ぬ?貴方たちは?」

アリーナがライアンに話しかけると、ライアンは首を傾げている。

「ライアン、貴方は勇者を探していたんでしょ?このソロが勇者なのよ!」

「え?・・・ぬおおー!ついに捜し求めていた勇者殿にお会いすることが出来た!その出で立ち正しくお告げ所のお告げ通りだ!」

ライアンは感激と言った表情で、少し生やした髭を触っている。

「勇者殿、お願いがあるのです」

「え・・・何ですか?」

「この部屋の中にいるのは世界を破滅せしめんとする邪悪の手のものと聞きます。共に打ち倒しその背後に潜む邪悪の根源を突き止めましょうぞ! さあ中へ!」

そい言うとライアンは、すぐ横にあった壁にあるごく小さなスイッチを押した。その瞬間壁は横へとずれ、奥へ進めるようになった。

「すっごーい!隠し扉ってやつね!」

「そうです。この奥にキングレオの王がいるのです。では行きましょう、勇者殿」

ライアンの言葉に俺は頷き、奥へと進んだ。

 

 

奥には玉座に座るキングレオ王。外見は人そのもので、威圧的な雰囲気は部屋だけだった。

「あいつが・・・」

「待てー!くせものだー!」

「んなっ!?見つかったか!ゆ、勇者殿!こいつらは私が引き受けた!勇者殿はその化物を!」

ライアンは入り口から乗り込んできた兵士に一人で立ち向かい、剣を振るっていた。
俺はライアンが一人で大丈夫かと心配したが、ライアンは俺に大丈夫だと怒鳴りつけ一人で戦っている。
その剣の扱い方はやはり戦士であるだけあってすごかった。

 

「行きましょう!」

クリフトのその言葉を合図に、一斉に俺たちはキングレオ王の目前へと出た。

 

「・・・私はキングレオ。前の王バルザックに代わりこの国を支配するものだ」
「バルザックですって!?」

キングレオの言葉にマーニャが反応し、大声を上げた。 

「ん?・・・そうか、そこの娘。確かお前はバルザックが殺したエドガンの娘だな?仇を取るバルザックがいなくて残念だったな!わっはっはっ!」

キングレオ王の笑い声が部屋に響き、ミネアは下唇を強く噛んで悔しさに耐えていた。

 

「退屈凌ぎに丁度良い。人間の力の無さを思い知らせてやろうじゃないか!お前達をそのような脆い生き物に作った神を、恨むがいい・・・」

そう言うとキングレオはライオンのような体へと変身し、俺たちに襲いかかってきた。

 

 

戦い始めてもうどれくらいの時間が立つだろうか。
ライアンがどうなったのかはわからないが、今俺たちのいる部屋にする音は武器を振るったりする音だけだった。

「魂を魔物に売ってあんなことになるなんて・・・」

ミネアはそう呟きながら、顔をしかめて杖を振るった。俺たちの体力が回復する。

 

 

「やぁっ!」

アリーナが手先につけた爪を力こめてキングレオ王に振り下ろした。会心の一撃でアリーナはキングレオ王に大ダメージを与えた。

俺とクリフトも剣を振り回した。

 

「ミネア!」

「姉さん!」

マーニャはメラ系呪文、ミネアは攻撃で2人はキングレオ王に走り向かって行った。

2人の攻撃でキングレオ王は断末魔を上げた。

 

「こ、この私がやられるとは・・・・・・。お前達は一体何者なのだ・・・・・・。もしや地獄の帝王様を滅ぼすと言われる勇者・・・・・・!?まさか!その勇者はデスピサロ様がすでに殺したと・・・聞いて・・・」

そういうとキングレオ王はライオンの姿から、普通の人間の姿に戻り倒れこんだ。

 

「・・・真のキングレオ王は魔物に乗っ取られていたようですな・・・」

ライアンは推理しながら、俺たちの後ろから歩いてきた。

 

「勇者殿、そしてそのお仲間方たち。見事な戦いぶりでした。・・・もしよろしければ私を仲間に入れてくださいませんか?勇者殿の目的を果たすまでこのライアン、旅に同行するとしましょう。どうですか?」

ライアンは強く決心したように俺を見つめてそう言った。
きっと今旅を共にしている仲間たちは、自分の目的が終われば離れて行ってしまうのだろう。それを考えれば仲間にするのもいいだろう。

俺は快く引き受け、ライアンは仲間になった。

 

 

大臣の部屋へと押しかけると、王の力を失った大臣はかなり気が弱くなっていた。

「何とキングレオ様を倒した!?あわわ・・・・・・お許しください!実はそなたたちの憎きバルザックはサントハイムの城にいます!どうです?役に立つでしょ」

そういうと大臣は俺たちを置いてどこかに行ってしまった。

 

 

「どうして・・・どうして私達のお城にバルザックとかいうのがいるのよ!」

アリーナは拳を握り締め、俯いた。

「姫様・・・」

「だって・・・だって私が次に城へ行くときは・・・みんな・・・」

俺はアリーナとクリフトの会話がわからなかった。人のたくさんいる城にどうして魔物の、しかも親玉のような奴が忍び込んでいるのだろうか。

俺はこの時、アリーナの抱えた悲しい過去をまだ知らなかった。

 

 

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あとがき
アリーナ、ちょっと嫌なやつって設定になってますが。
次からはたぶんいい子だよ。ええ。(w

2009.03.13 UP