「きゃあっ!」

「大丈夫ですかアリーナ様!」

 

座り込んだアリーナの周りを、雇っていた兵士たちがおどおどしながら取り囲んでいるのが、俺の目の端に映った 。

 

 

07.大切なもの

 「あ、あたしは大丈夫・・・っ」

立ち上がろうとしたアリーナは、あまりの痛みにもう一度座り込んでしまった。

「や、やだ・・・立てない・・・」

アリーナは自分の足を見つめ、悔しそうな顔をしていた。

 

「あら、さっきのお姫様、怪我でもしたのかしらね?」

「大丈夫でしょうか・・・」

ミネアたちが心配そうに、アリーナがいる方向を見ている。俺は何だかそのままパデキアの種を探す気にはなれなかった。

「あっ!ちょっとソロ!?」

マーニャは、驚いた表情でアリーナへと歩を進める俺の名を呼んでいた。しばらくトルネコたちで目を見合わせた後、俺の後ろを不思議そうに着いてきていた。未だ座り込むアリーナの周りであたふたしている兵士を俺は何も言わずに手でどけた。

「・・・っ、あ、・・・ソロ・・・・・・」

アリーナは昨日宿屋で あった俺だということに気付き、少しだけ笑った。アリーナは魔物を倒す際に、魔物が洞窟の壁に当たってしまったようだ。振動で土砂がアリーナの足の上に落下し、アリーナは足に酷い怪我を負っていた。

俺はアリーナの赤く腫れた箇所を触る。アリーナは一瞬、俺が傷口を触ったことによって痛そうな顔をしたが、すぐになんともないと言ったように笑顔を見せた。

 

「・・・ベホイミ

淡い緑色の光が、アリーナの傷口を包む。光が止んだ頃には、アリーナの足は少し腫れているだけにまで回復していた。

「回復魔法を・・・。ありがとう、ソロ・・・」

アリーナは立ち上がった。が、まだ痛そうだ。捻挫か何かをしているのだろう。

「もう帰れ」

「・・・え?」

アリーナは俺にそう言われ、驚いた表情をした。

「その足じゃ此所にはいられないだろ。俺たちがパデキアとかいうの、ちゃんと取ってきてやっから」

俺はそう言った。しかし。

「・・・嫌だよ」

アリーナは 断った。

「・・・帰れ」

「嫌!」

強情なアリーナ。

 

「だって、あたしがクリフトを助けるんだもん!いつもお世話になってばっかりだから、あたしがクリフトの病気を治してあげるんだから!」

そう言ってまだ痛そうな足をアリーナは引きずりながら、洞窟の奥に進もうとする。

 

「いい加減にしろよ!」

俺が怒鳴ると、アリーナは足を止めて振り向き、俺を見た。

「・・・そのクリフトって奴を助けたい気持ちはわかる。でもな、その肝心の治してやる奴が怪我してたら、向こうがまた心配するだけだろ?・・・お前がちゃんと体力満タンにしとかなきゃ駄目なんだ。何だって自分の思い通りになんて、ならないんだよ」

俺がそう言うと、アリーナの目から一粒の涙が零れた。俺は少し焦る。アリーナはただひたすら黙り、涙を拭っていた。

俺はパデキアの種を取りにいこうとアリーナを置いて洞窟の奥へ進んだ。

 

「ねぇ ソロさん・・・。あのままで良いのですか?」

「・・・甘やかすからワガママに育つんだ」

俺がそう言うと、ミネアは納得したように、でもどこかアリーナを心配している様子だった。

「にしても何でソロ、あの子と知り合いだったの?名前まで知ってて・・・まさかソロって王族!?」

マーニャの質問に俺は答えなかったが、王族でないことだけは否定しておいた。

 

 

 

 

奥に進むと、確かにパデキアの種が入ってるであろう宝箱はあった。が、その宝箱まで辿り付くには行く方向が定められている滑る床を利用しなけれればならない。滑っている間は魔物に遭遇しないので移動の面では便利だが、途中で止まることはできない。頭を使って移動しないといけないから、かなり面倒臭そうだ・・・。

「なんかあたしだけ体重軽いからか知らないけど、進むの早いわ!」

「ぜってー嘘だ・・・」

「ああ!?何か言ったソロ!?」

「・・・何でもない」

確かに滑る床の時、マーニャは異様に滑るのが早くて、俺に激突してしまいそうなくらいだった。俺たちは苦戦しながらも、何とかパデキアの種を宝箱の中から手に入れることが出来たのだった。

「では帰りましょう」

ふいー、とトルネコはため息のように大きく息を吐き出した。マーニャがリレミトを唱える。
気付けばもう洞窟の外だった。

 

 

 

「こ、これはパデキアの種・・・!君達が取りに行ってくれたのかい?」

ソレッタ国の王は、俺の手の中で無数に転がるパデキアの種を輝く瞳で見つめ、そう尋ねた。俺は無言で頷く。

「いや本当にありがたい。これからこのソレッタの国も豊かになるじゃろう!!では早速・・・」

王は、俺の手から幾つか種を持ち、立っていた畑の土の中に埋めた。

「芽が出るには、どれくらい時間がかかるんですか?」

「いや、パデキアは植えたらすぐに芽が出るんじゃよ」

自慢気にそういう王は、種を埋めた箇所を見つめている。
するといきなり、緑色のでもどこか赤っぽいパデキアが、俺たちの頭を超えるくらい大きく芽を出した。その他にも種を埋めた場所から続々とパデキアが芽を出す。

「よし、これでもう大丈夫じゃ!そうじゃお主たち、パデキアを欲しがっておったな。ひとつあげようではないか」

王は力を入れてパデキアを抜いた。俺たちは、パデキアの根っこを手に入れることができたのだ。後はアリーナと約束した通り、これをミントスの宿屋に持って行って、粉にしたこのパデキアを飲ませれば大丈夫だろう。

 

「じゃあ早速ミントスに向かいましょう。姉さん、ルーラを・・・」

「いや、俺が行くよ」

そう言った瞬間、ミネアは俺を見た。

「どうせまたミントスの宿屋とか満室だろうし・・・。俺だけ行けばいいだろ」

俺はルーラの詠唱を始めた。

「そうねー。もう暗いしあたし疲れたもん。こっちはこっちで宿屋にいるから、ソロもパデキア渡したら帰って来てよ!」

マーニャは俺に目くばせしながら俺にそう言った。俺はマーニャが目くばせした意味が分からなかったが、とりあえずルーラを唱えてミントスまで行った。

「・・・そういうことなのね」

「なーにミネアってば、鋭くなったわね」

トルネコが未だ状況を理解しておらず、ミネアとマーニャの会話にも着いていけていなかった。

 

 

 

 

 

 

俺はミントスの宿屋の階段を一段飛ばしで急いで上がった。2階の手前の部屋。俺はパデキアを握り締めて、ドアをノックしようとしたときだった。

「うっ・・・ひっく・・・」

中から、アリーナのすすり泣く声が聞こえた。

「姫様・・・元気を出すのですじゃ」

「うぅ・・・ブライっ・・・」

ブライ。声はあの洞窟で聞いた、アリーナの教育係の爺さんの声だ。名前がブライと言うのだろう。
何で、アリーナは泣いてるんだ?

俺はノックしようとしていた手を直した。

 

「私・・・っ私、クリフトを助けてあげられなかった・・・。私がパデキアを持ってきてあげれなかった・・・!私はいつもクリフトに迷惑かけてばっかりなのに、私はクリフトの力になることもできないんだ・・・」

アリーナはたまに鼻水をすすりながら、話している。

「私の・・・私一人の力って、本当にちっぽけなんだね・・・」

そういうとアリーナはもう何も言わなくなってしまった。

俺は聞いていなかった振りをして、部屋をノックした。

 

「・・・誰?」

ブライは部屋のドアを開けた。俺の顔を見て、一瞬戸惑っていた。

「おや、あなたは洞窟にいた・・・何をしに・・・」

「・・・あ、・・・ソロ・・・」

ブライが頭の中で何かを考えている時に、扉の前に立つ俺をアリーナは見つけた。が、今日洞窟であったことを思い出したのか、すぐに俺を見ずに下を俯いてしまった。

「・・・パデキアを持ってきました」

「なぬ!?ではお主があの洞窟のパデキアの種を取りに行ってくれたと!?」

ブライは俺を輝く目で見つめた。アリーナは俺の言葉に顔を上げて、手にもつパデキアを見た。

「・・・早く飲ませてやれよ」

「・・・う、うん・・・ありがとうソロ・・・」

アリーナは赤い目で、せっかく泣き止んだのにもう一度今にも泣きそうな顔で、俺を見つめ震わせた声でそう言った。急いでパデキアを粉にし、アリーナは苦しそうに眠るクリフトの口を開けさせて飲ませた。

パデキアを飲ませた瞬間、クリフトの苦しそうな顔は一変して、安らかな眠りに変わった。しばらく立つとクリフトは、ゆっくりと目を開けて、自分の顔を心配そうに見つめるアリーナとブライを見た。

「姫様・・・ブライ・・・様・・・私は今まで・・・何を・・・」

「クリフト!!!」

アリーナは状況を確認しているクリフトに勢いよく抱きついた。

「うっ・・・」

「あっ!ご、ごめん、大丈夫?」

「姫様、クリフトはまだもう少し安静にしておかなくては・・・」

アリーナやブライ、そしてクリフトが幸せそうに笑った。俺はその3人の間に居ていられなくなって、何も言わずに部屋から出て行った。

 

「あっ、クリフト!あのね、パデキアを持ってきてくれたのはソロ・・・あれ?」

「いつの間にソロさん、いなくなったのですじゃ・・・」

「・・・ソロ、さんですか?」

アリーナやブライの口から出る自分の知らない名に、クリフトは首を傾げる。

「ソロという男子じゃ。お前の病が治ると言われるパデキアを持ってきてくれたんじゃよ」

そう説明するブライに、クリフトは嬉しいような悲しいような気持ちに陥った。何せ、愛する姫様が自分以外の男と接したことに。

 

「そうそう。私が3人兵士雇って洞窟に行ったのに、ソロに先越されちゃったんだよね!」

あはは、と笑い飛ばすアリーナにクリフトは固まった。

兵士を3人・・・男・・・。
ソロ1人どころでなくその他に3人も男と接触していたことに・・・

「ぐふっ」

「えっ!ちょっと!?クリフト!?」

クリフトは気を失ってしまったのだった。

 

←back next→ top


あとがき
へへ。ちょいクリアリっぽくなってしまいますたな。

2009.02.14 UP