「ねえ、ソロ」 「・・・シンシア?」 「私の仇、討ってくれるんだよね?」 「・・・」 「討ってくれるまで、こっちに来ちゃだめだよ!仇討ち頑張ってね!」 「あのなぁ・・・プレッシャーが・・・」 「ふふ、嘘だよ!・・・でもね、お願いだから・・・仇なんてどうでもいいんだ、私。
ベッドから急いで飛び起きて辺りを見回した。そこにはホフマンが気持ちよさそうに寝息をたて、部屋の時計がカチカチと時を刻んでいるだけだった。不思議なことに、俺は大量の寝汗を掻いていた。
05.笑顔の女の子 ベットリと肌に張り付く衣服が気持ち悪い。久しぶりにシンシアの夢を見た。が、いつもは過去にあったことが瞼の裏にあるだけで、今回は違ってこちらに語りかけてきていた。 俺は本来ならもう起きなければいけない時間のホフマンを起こさないようにそっとベッドから抜け出し、急いで寝巻きを脱いで短時間で終わるようにセットした洗濯機に入れて回した。そのまま風呂場に直行して、シャワーを浴びる。 シャワーを止め、俺は緑色の自分の塗れた髪を掻きあげながら昨日の出来事を思い出していた。 昨日は色々あったのだ。マーニャの提案で大商人トルネコが魔物退治に行ったという、コナンベリーから東にある大灯台に俺たちも足を運んだ。灯台といっても魔物はもちろん出現した。途中でトルネコと出会い、聖なる種火を取って最上階にある火を灯す場所に点ければいいという話だったのだが・・・。
「ちょっとなんなの!あのトルネコって人!!!あたしが想像してたヤツと全っ然違うじゃないのよ!!!」 「姉さんキレないでよ。姉さんの想像図と全く一緒の確立なんて、低すぎるわ」 「そりゃそうよ!でももうちょっと筋肉あってソロとかホフマンくらいの体型なのかと思ってたのに・・・!!」 まさかのメタボよ!とマーニャは鼻息を荒くして言っていた。俺は髪をタオルで拭き、服を着ながらそんなことを考えていると思い出し笑いしてしまった。傍からみれば気色悪い奴である。 案外簡単にいくと思った作業も、邪悪な炎の回りには強敵がおり、倒さなければ聖なる種火を点ける事が出来なかった。なんとか敵を倒し火を点けると、今まで大灯台を包んでいた青色の嫌な雰囲気を醸し出させていた炎は、暖かい赤色やオレンジの色の炎に変化した。これで邪悪な光が海を照らすこともなく、安全な船旅ができるだろう。
シャワーを終え、いつもの緑と白の服を来て支度をする。 「あ、ソロさん。シャワーしてたんですね。起きたら横のベッドがもぬけのカラだったからびっくりしましたよ」 「・・・起こしましたか?まあ本来なら起きる時間だと思うんですけど・・・」 「いえ、自然に目が覚めただけですから気にしないで下さい!」 ホフマンは笑顔を俺に見せた。本当に人間不信だったあのときの表情とはどえらく違う。ホフマンは、じゃあ僕も用意しますねというと、着替えたりカバンを整理していた。 俺は洗濯機に寝巻きを入れていたことを思い出し、洗濯が終わりまだ少し濡れている寝巻きを取り出した。 「・・・これをカバンの中に入れるのはちょっと嫌だな・・・。船乗った時に乾かすか・・・」 俺はため息をつくと、寝巻きをそのまま手に持ち、部屋に忘れ物がないかをホフマンと調べて部屋を出た。
「あーっ!来た来たソロたち!おっそいじゃん!」 「おはようございますソロさん、ホフマンさん」 宿屋のカウンター前にはマーニャとミネアの姿が見えた。俺がシャワーしていたのと、ホフマンの寝坊のせいで約束の時間に遅れてしまったのだろう。 「・・・ごめん。寝汗すごくてシャワーしてた」 「僕は寝坊してしまいました・・・」 「2人とも情けないわねー。ソロはまだいいとしてホフマンは寝坊なんて有り得ないわよー!」 頬を膨らますマーニャに、ホフマンは申し訳なさそうにしている。 「ま、いいや。もうメタボリックなトルネコが待ってるらしいのよ。早く行きましょ!」 やたらメタボリックという言葉を強調するマーニャに、ミネアはトルネコの前でそれを言ってしまわないか心配している。 そうだ、俺たちは昨日トルネコが仲間になったのだ。それでトルネコの船も旅に使えるということだ。これで行ける範囲も広がるだろう。
「あ、皆さん待っていましたよ!もう出航してしまっても大丈夫ですか?」 「も、もちろんオッケーよ!そんじゃあさっさと次の大陸までお願いするわね!」 ちょっとひきつった顔でトルネコに話すマーニャに、トルネコは返事をしながらも少し首を傾げている。・・・気がした。トルネコに首はどこにも見当たらない。肉で埋まってしまっているのだろうか・・・。そしてマーニャがなぜひきつった顔で話すのかはわからないが、俺の予想だとまだトルネコの予想図が全然違ったことのショックから立ち直っていないのかもしれない。
「イカリを上げろーーーー!!」 船乗りの大きな声とともに、船がゆっくりと広大な海原へと進んでいく。 「んーーっ!風が気持ちいいわねミネア!」 「そうね、姉さん。船と言えば・・・ハバリアからエンドール行きの船に急いで乗り込んだのを覚えてるわ」 ミネアはどこか遠くを見つめ、風になびく紫色の髪の毛を耳にかけた。過去にそのような経験をしたのだろう。 「僕、船なんて久しぶりだなー!ね、ソロさんは船に乗ったことって・・・何してるんですか?」 「え?・・・いや、服乾かしてんだけど・・・」 みんなが手を広げ体に潮風を浴びている中、俺たった一人手ではなく服を広げていた。 「なんで乾いてないんですか」 嘘ではないのに何だか恥ずかしくなった俺は、仕方なく船の端の方で服を乾かしていたのだった。
コナンベリーや俺の村がある大陸から船で出て、すぐ南にある大陸に船のタラップが降ろされた。船旅は案外短く、1時間ほどだったが俺の服はちゃんと乾いた。これで今夜はちゃんと寝れそうだなと俺は服をカバンにしまった。
船がついてすぐにミントスという街があった。そこにはなんと、トルネコも憧れる商人の天才・ヒルタンという人がいるらしい。ヒルタンは毎日商人の心得やら長々と、商人を目指す人たちのために講義を開いているらしい。しかもヒルタンはなんとこのミントスの街を作った人なのだそうだ。 「ここがミントス・・・!ヒルタン先生が作った街!!」 ホフマンは感激に満ちた瞳で、ミントスの街を隅から隅まで見渡した。 「・・・あの、皆さん。お願いがあるんです」 「なによホフマン、改まって」 疑問符を浮かべる俺たちに、ホフマンは少し言いにくそうにしていた。
「何ですか?ホフマンさん」 「えと・・・っその、実は・・・僕、ヒルタン先生にずっと憧れてて・・・いつかこのミントスに来て、ヒルタン先生の弟子に入れてもらうことが夢だったんです」 自分の夢を語り始めるホフマンに、トルネコは状況が理解できないのか「おや?あれえ?へえ?」とか何とか言っている。
「それで、僕もミントスみたいな街を作り上げたいんです。だからお願いです!自分勝手で本当に悪いんですが・・・皆さんの旅の仲間から外させていただきたいんです」 そう言った瞬間、ミネアたちの目が一瞬飛び出た気がした。気のせいだ。疲れているのか俺は。 「何よいきなり・・・。そんな・・・」 「すいません、マーニャさん。それにミネアさんもソロさんも。仲間になったばかりのトルネコさんも・・・」 一人一人の顔を見回し、優しく話すホフマンに、俺はそれでも別にいいと思った。 「もし僕が新しい街を作ったら、皆さんをお呼びします!それまで商人として頑張りたいんです!だからどうかお願いします・・・!!」 深く頭を下げるホフマンに、俺は承諾した。別に夢を俺たちのために諦めてもらうつもりはなかった。 「ちょっとソロ!あんたねぇ「別にいいだろ。夢叶えるのが人間の生きる道だろ?」 そうだ。俺の夢は、みんなの仇を討つことなんだ。だからホフマンにも夢を叶えてもらえればそれでいい。
「ソロさん・・・本当にありがとうございます!!僕もいつかヒルタン先生みたいな立派な人になってみせますから!」 そう行ってホフマンは街のヒルタンの講義の場所へと向かい、俺たちの前から去って行った・・・。
とりあえず今日はミントスで宿を取ることになり、夜まで外をひたすら歩いて魔物を倒していた。魔力などもそこそこ減ってきたし、レベルもそれなりに上がったので俺たちはミントスへと戻った。 宿屋に入り部屋を取ろうとしたのだが、既に今日は満室らしい。何でもパデキアという薬草がなければ治らない病にかかってしまった神官がいるらしい。パデキアが育つミントスの近くのソレッタという王国に最近育たないらしく、病気にかかってからもうかなりの時間が立っているそうだ。
「パデキアですか!それは店に売れば高く・・・いえ、なんでもないんですすいません」 「とにかく、宿屋に泊まれないんじゃ大変ですよ。ミントスから近いんなら、そのソレッタっていう国に行きませんか?もしかしたらその神官の病が治るパデキアが手に入るかもしれないし、宿にだって泊まれるでしょうし」 そのミネアの案に皆は賛成し、今、夜が始まろうとしている外を俺達は歩き始めた。
近くといってもミントスからソレッタはかなりの距離があった。なるべく魔法を使わず薬草で乗り切った俺たちは、なんとかソレッタに辿りついた。 「うっわー・・・。ここ、コーミズに負けないくらい田舎ね。でも王国ってさっき聞いたけど・・・王族住んでるの?」 田舎は嫌だというマーニャを連れ、疲れ切った俺たちは真っ先に宿屋へと向かった。
「だから、ここはあの鍵が必要なの。だれか持ってないの?」 「あ、僕持ってますよ。ほら」 「本当だ!じゃあ明日早速それで突破するわよ!みんな今日はゆっくり休んでね」 おやすみなさいと男3人くらいの声が、俺とトルネコの部屋の前から聞こえた。鍵が必要だとか言ってた高い声の持ち主は、どう考えても女の声だろう。 「(誰だ?)」 別にどうでもよかったのだが、俺はなんとなく気になって部屋のドアを開けた。
そこには青いマントに青いとんがり帽子、黄色いワンピースを腰のあたりにベルトで閉めた、15、6くらいの女がいた。女は宿の廊下にある椅子に座っていた。さっきの男たちはもう部屋に戻って行ったのだろう。 女はすぐに俺の姿に気がつき、立ち上がった。 「ごめんなさい!話し声うるさかったですよね。睡眠の邪魔しちゃったかな」 活発で、でもどこか優雅な雰囲気を持つ彼女は、頭を下げた後俺の顔を見つめた。 「・・・いや、ひとりおっさんは熟睡だけど。俺は寝てなかったから・・・」 そう言うと、部屋に入ってすぐにあるベッドに横になってイビキを掻くトルネコの姿を、女に見せた。 「・・・ぷっ、あはは!すっごいイビキね!聞いたことないくらいだわ!」 女はすごい大声で笑った。俺はいきなりのことに吃驚した。
「ふふ、ごめんなさい。私アリーナっていうの。あなたは?」 「・・・ソロ」 「ソロっていうの?いい名前ね!もう会わないかもしれないけど、たまにはあたしのこと思い出してね!」 滅多に見ない女性の笑顔に、俺は少々戸惑った。おやすみなさいというアリーナに、俺は「んぉ」みたいな中途半端な声を出してしまい、また彼女は笑って部屋に戻っていった。 「ソロって、おもしろいね!」 こう言い残して。
あとがき いいね!アリーナ大好きよ!(w 追記(2月11日):今思ったらソレッタって、宿屋はなんか藁みたいなやつで廊下なんて無かった!(え 2009.02.09 UP |