君の決意
「ん・・・」 朝の少し肌寒い気温に、私は自然に目を覚ましてしまった。 「・・・〜?・・・・・・ぉわああっっ!!」 「あはは、おはよう」 まだ眠くてぼやけた視界がハッキリした頃には、すぐ隣で眠っていたが私の寝顔を見ていた。ばっちり視線が合ってしまい、私は恥ずかしくて顔を伏せる。 「おっ・・・おはようっ!起きるの早いね・・・!」 「寒くてちょっと早くに起きたんだ。でもを起こしちゃ悪いかと思って、起き上がれなくて・・・」 「あ・・・!ご、ごめん・・・!!」 たった一つの寝袋に二人で入っていると、どちらかが動けば確かに目が覚めてしまう。そんなの優しい心遣いに、私はまた胸がなんでかドキドキしてしまう。この気持ちがどういう意味なのかは、まだよくわからないけれど。
「よし、それじゃあ朝ごはん食べてサラボナに行こうか」 「うん!」 私たちは昨日買っておいた朝ご飯用の食べ物を平らげて、またサラボナへと向かって歩きだした。
「やっと着いた〜!!!」 サラボナに着いたのは、太陽がもうすぐで真上になる昼前だった。心地好い風と豊かな自然が、とてもいい街だ。ルラフェンとはまた違って、街の構造もそんなにややこしくない。
「ここは街の奥にある屋敷の人が運営してるんだって。後で挨拶がてらに、その天空の装備のことを聞いてみようか」 「うん、そうだね・・・ん?」 の提案に賛成していると、遠くのほうで犬の鳴き声が聞こえた。犬はこちらに近づいてくる。そしてその犬を追いかける、女の人。 「こらリリアン!勝手にどこかに行っちゃだめでしょう!?」 綺麗な声。サラサラの青いロングヘアー。優しそうな瞳。全てに見覚えがある・・・。
その人は間違いなく・・・フローラさんだった。 「フローラさん!?」 「え・・・?あら、さん!?」 フローラさんはとても嬉しそうに微笑んでくれた。そして隣にいる連れていたリリアンという犬がに飛びついた。そのを見て、フローラさんは止まった。
「あら、リリアンが初対面の人になつくなんて・・・って、さん・・・!」 「え・・・なんで僕の名前・・・」 奴隷から逃げ出した後、私たちを助けてくれたのはフローラさんだった。まだの意識が戻らないうちにフローラさんは帰ってしまったので、のことをフローラさんは知っているが自身はフローラさんのことを全く知らない。 「・・・・・・・・・・・・」 「あ・・・あの〜・・・フローラさん・・・・・・?」 「・・・あっ!ハイ!!」 フローラさんは我に返ったように、私たちの顔を見て改めて礼をした。
「あ・・・えと、サラボナにようこそ!ゆっくりして行ってくださいね。では私はこれで・・・リリアン、行くわよ!」 「わんっ!」 フローラさんは何だか少し跳ねるようにして、街の中へと消えて行った。
「、実はフローラさん初めて会う人じゃないの」 「えっ、そうなんだ?」 私はフローラさんとの関係を話した。はやっぱり全然知らなくて・・・って当たり前だけど。
「へ〜、そんなことがあったんだ。・・・でも何だかあの人・・・初めて会う気がしないんだよな」 「え?」 「なんか・・・もっと昔に会ってるような・・・」 ・・・どういうことだろう。それってもしかして、運命感じてたりして・・・。そんな事を考えていると何だか嫌になってきて、私は水をぶっかけられた犬のように頭を振った。 「と、とにかく後でフローラさんにもう一回挨拶しに行こう?」 ね、と私はに念押しして、街の人たちに話を聞きはじめた。
「天空の盾?知らないねぇ。あ、けどルドマンさん家なら家宝の盾があるらしいわよ?」 「ルドマンさんが!?」 「え、ルドマンさんもまりん知ってるの?」 ルドマンさんと言えば、あの優しそうなおじさんだ。もしそれが天空の盾だとすれば、ルドマンさんはやっぱりただ者ではない。 「フローラさんの結婚相手を今募集してるらしくてね。結婚相手になればくれるらしいわよ、その盾。でも結婚条件はかなり厳しいけどね」 街にいた人に有用な話を聞き、私たちはどうするか話し合った。
「どうしよう・・・結婚しなきゃ盾がもらえないなんて・・・。なんとかお願いする・・・とかは無理かなあ・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 私がそう言うと、はただひたすら黙って暗い表情をしている。長い長い沈黙が流れた。く、空気が重い・・・。
「・・・・・・・・・・・・?」 「・・・。やっぱり、18歳で結婚って早いかな?」 「えっ!? い、いや法律的には全然大丈夫だし・・・って、え・・・?」
私はが何を言いたいのかサッパリわからなくて、の顔をまじまじと見た。すると、は意を決したかのように、力強い瞳で私を見た。
「・・・うん、。僕、フローラさんと結婚するよ」 「・・・・・・・・・・・はぇ?」 意味がわからなくて変な声が出た。 な、何だろう・・・。ともう一緒に旅出来ないのかとか考えたら、すごく悲しかった。もう悲しさを通り越して・・・涙も出てこなかった。
「い・・・いいんじゃないかな?うん・・・フローラさん、いい人だし・・・っ」 命の、恩人だもん。私には何も言えないよ。だってが、「結婚したい」って、自分から決めたんだもんね。
「うん・・・ありがとう。僕、がんばるよ」 にこりと笑ったの笑顔が、痛い。駄目だよ・・・せっかく応援してるのに。決心が緩むから、そんな優しい顔なんてしないで。
「・・・よし、ルドマンさんの家に行って、の気持ち伝えよう?」
「今日はよくぞ私の家に来てくださった!私がこの家の主人のルドマンだ」 お腹の大きなルドマンさんは、そう言って朗らかに笑った。僕は何だかこの人も初めて会った気がしないような・・・、と思っていた。 フローラさんの結婚相手希望者は、僕を含めて3人。今はルドマン家の応接間にて、話を聞いている。女のには外で待っていてもらった。 ・・・正直、何だか乗り気ではない。別に、フローラさんが嫌なわけではないけれど・・・他にもっと、その乗り気でない理由がある気がした。それは自分でもわからない。 でも、父さんの為に僕は頑張るんだ。母さんを絶対に助け出してみせる。そのために、盾が必要なんだ・・・。
「ただの男に大事な娘をやるわけにはいかん。だから条件をつけよう。古い言い伝えによると、この世界には二つの指輪が存在するという。炎のリングと水のリング・・・それを身に付けた者には幸福をもたらすと言われている。それを結婚指輪とするなら、ワシは喜んで娘を嫁にやろう!我が家の婿になればその証に家宝の盾もやるぞ!」 そう言ったルドマンさんの横に、フローラさんが焦ったように出てきた。
「お父様、何を勝手なことを・・・!? 炎のリングは溶岩の流れる危険な洞窟にあると聞いたことがありますわ。私のためにそんな無理難題を押し付けないで!」 「フローラ!部屋で待っていなさいと言ったのに・・・! ・・・そう容易い条件ではフローラを幸せにできるような男かわからないだろう。わかってくれ、フローラ」 「・・・お父様・・・・・・」 フローラさんは悲しそうな顔だったが、僕を見つけると少しだけ明るい表情になった。 「あら、あなたは・・・。あなたも私の結婚希望者に? まあ・・・」 僕はそう言われたので、軽く会釈した。 「なんだフローラ、知り合いか? ・・・確かに強そうな奴ではあるが・・・ふむ。ええい、指輪を持ってきた者でなければ結婚相手には認めぬぞ!」 ルドマンさんのその言葉を聞いた瞬間に、結婚希望者は応接間をぞろぞろと出ていった。その二人はどうやらフローラさんの幼なじみのアンディさんという人と、家宝目当ての商人のようだった。まあ僕も家宝目当てと言ったほうがいいのだろうか・・・。 「何だ、お前さんは行かないのか?炎のリングはここから南東の洞窟にあるそうだぞ?」 ルドマンさんのヒントに僕はお礼を告げると、ルドマンさんは階段を上がり自室に戻って行った。
「・・・さん、頑張ってくださいね。私応援していますから。どうか気をつけて・・・」 「あ、ありがとうございます・・・」 気品のある女性に関わるのは何だか初めてで、緊張する。僕は改めてフローラさんをまじまじと見つめた。 年は僕とあまり変わらなさそうだ。ニコニコしていて、性格も悪そうではなくむしろ良さそう。同じ女性でも、常に一緒にいるとは色んな違いがある。 ・・・こんな女性を、自分が・・・しかも家宝目当てで結婚だなんて、やっぱりいけない気がする。 フローラさんにお礼を言って、僕は足早にルドマン宅を去った。
「おかえり!条件は何だったの?」 が話を聞いている間、私は不安に押し潰されそうになっていた。
きっと、フローラさんはに惚れているんだろう。そんなが自分の結婚希望者になってくれるならば、フローラさんでなくても誰だって嬉しいに決まっている。 も、フローラさんが気になっているのは確かだと思う。
「うん。南東の洞窟にある指輪を取ってくればいいんだって」 「わかった。私も一緒に探すね!」 ありがとう、と優しく微笑んでくれるに、泣き顔なんて見せられない。 あとがき 2010.06.13 UP |