新しい街
ビスタの港から船に乗り、私とは無事新しい町に着いた。 町の名前はポートセルミ。港町というだけあって、漁師さんや色んな大陸から来た観光客で、町は賑わっていた。 「すごく広い町だね〜・・・。迷っちゃいそう・・・」 「ちょっと歩いてればきっとすぐ慣れるよ。・・・さてと、これからどうしようか」 が都会慣れしとる!と思った私がバカですた。全然何したらいいのかわかっていらっしゃいません。
「ん〜、やっぱり基本は情報収集でしょ!とりあえず人がいっぱい出入りする酒場に行ってみよ?」 「そうしようか」 は私の意見に賛成すると、急ぎ足で酒場へと向かう。少し歩幅が違って、がどんどん遠ざかっていく。 「ま、待って!」 「え? あ! ご、ごめん、歩くの早かった?」 「あ・・・いや、私が歩くの遅くて」 は悪くないよ、と言おうとした私の腕を、は握った。 「・・・え??」 「人が多いし、こうしてたらはぐれないでしょ?」 ね、と言ってにこりと笑ったの笑顔がとても綺麗で、かっこよくて、私は思わず下を向いてありがとうと呟いた。たぶん今、ものすごく顔が赤いと思う。ってば何にも考えないでこういう事言うから、こっちが恥ずかしい・・・!!
「何を聞いていけばいいのかな?」 「とりあえず私たちは天空の武器防具を集めなきゃで・・・剣は持ってるから、他の防具がどこにあるのかとか聞かない?」 がそう言うと私は頷いて、近くにいた人に尋ねようとした瞬間だった。 「ひー!お助けをー!」 「お助けはねえだろ!俺達はお前のためを思って言ってんじゃねーか!!」 声を荒げて怒鳴る男が二人、そいつらに突っ掛かれてる農夫さんが一人。何か騒ぎを起こしているようだった。 「何だろ・・・?喧嘩かな?」 「それだったら止めさせないと!こんな人の多いところで喧嘩なんてしたら危ないよ!」 「ちょ、!?」 人の良いは三人の喧嘩を止めさせようと、険悪なムードの真っ最中の3人の中に割り込んで行った。
「あ?なんだお前?」 「喧嘩なんてしちゃ駄目だろ!今すぐやめろ!」 「何だとォ?喧嘩売ってんのかごらァアァ!!!」 声を荒げている男の一人が、に拳を振るった。咄嗟に私はの前に出て、その拳を両手で何とか受け止めた。その手に力を込めて、人のいない方へと投げ飛ばす。
「だ、大丈夫!?」 「全然!こそ大丈夫?」 無言で私の目を見て頷いてくれたに、私も微笑みながら頷いた。
「ちっ、覚えてろよ!」 荒くれ二人は急いで酒場から出て行った。そこにいたお客さんたちから歓声の声と拍手があがる。
「お助け頂いてありがとな。助かったべ」 農夫さんは安心したような顔で、私の手を握って頭を下げた。私はその人に怪我をしていないかなどを確認して、情報収集に戻ろうとする。 「あっ、待ってくれぃ!」 「?」 振り返ると農夫さんは、何か困ったような顔で私たちを見ていた。 「どうされたんですか?」 「オラはカボチ村ってとこに住んでるだよ。最近どこからか来る魔物に畑を荒らされて困っているだ。あんたら強いんだろ?ちょっと助けてくんねだべか」 今度はの手を握り、農夫さんは縋るように私たちに懇願した。 「どうするの?」 「う〜ん・・・。まだやらなきゃいけない事が決まった訳じゃないし、行ってみようか。何か手がかりが掴めるかもしれないしね」 「本当だべか!?ありがとうだべよ!カボチ村はこの町を出て南西に行けばあるべ。オラ先に行くから、お前さんたちも来てくんろ!」 そう言って農夫さんは足早に酒場から出て行った。
「なんだか色々忙しい人だね・・・」 「じゃあ僕たちも武器とか買ってから村に行こうか」 は酒場を出ようとすると、何かを思い出したような顔をした。 「?どうしたの」 「えっと・・・ほら」 少しだけ顔を赤くして、は私に手を差し出した。 「・・・え」 「人、まだ多いだろうから・・・は、はぐれないように!」 は無理矢理と言っていいほど私の手をとって、強く握った。それを見て思わず笑みが零れてしまう私。 「じゃ、行こっか」 さっきと何だか逆の立場だなあと思いながら私は、の手を握り返した。
「ふふふ、仲のいい恋人さんですこと」 「「恋人!?」」 その後訪れた武器屋さんでそんなことを言われ、私たちは即効で手を放したのだった。
「オラは絶対に反対だべ!そんなどこの奴かもわかんねぇ輩に魔物退治を頼むなんて!きっと礼金持ってかれるだけだべ!!」 「そんなことないだべ!!あの方たちはオラを助けてくれた!オラは信じるだ!」 カボチ村に向かうと、さっきの農夫さんと村の人たちで喧嘩しているようだった。しかし農夫さん一人は、村の人たちに私たちが何の悪巧みもしていないということを晴らそうとしてくれている。
「ほら、やっぱり来てくれただ!」 農夫さんが私たちに気がつくと、手を振りながら駆け寄って来た。 「アンタらを信じて正解だったみたいだべな。魔物退治をしてくれるんだべな?」 「あ、はい」 「ほら皆聞いただべか!?オラの目に狂いはなかっただべ!」 村の人たちにそう言うと、村の人たちは黙り込んだ。
「・・・オラがこの村の村長だべ。お前さんたち、カボチ村によう来なすった」 村の人たちの中から一人、少し年のとったおじさんが私たちの前に現れた。 「コイツに聞いたとは思うだべが、今畑が魔物に荒らされて困ってるんだべ。このままじゃオラたちは餓死してしまうべ。・・・オラもお前さんがたを信じよう。魔物退治を頼むべ!この通りだ!」 村長さんは私たちに土下座した。は慌ててその頭を上げさせる。 「引き受けてくれるだべか?」 「もちろんです!困っている人たちを見過ごすわけにはいきませんから」 ニコリと笑ったの笑顔に、村長さんは幾分か安心したようだった。体をゆっくり起こした。 「魔物の住家がどこなのかはわかんねぇだべが、西からやってくるのだけは分かるだ。住家を探して退治をお願いするべ!」
「西なんて広すぎてわかんないよね・・・」 「でもこれで村の人たちが安心できるなら頑張らなきゃ・・・ん?」 は何かに気がついたようだ。地面に視線を注いでいる。の視線の先を見ると、そこには野菜のクズがぽろぽろと所々落ちている。 「あ、これって魔物が畑から食べ物を採っていった跡じゃない?」 「そうかも!これに続いてみよう!」 私たちは目を凝らして、魔物が落としていった野菜のクズを辿っていった。
「・・・ここ、かな」 山のふもとに、洞窟のような場所があった。その中には今まで蓄えて来たであろう食べ物がたくさん落ちていた 「キラーパンサーの住家なのかな、いっぱいいる・・・」 の言うとおり、洞窟内の魔物はほぼキラーパンサーばかりだった。
奥に進むに連れて、段々と魔物の数が多くなり強くなってくる。 「、やっぱり退治ってことは・・・この洞窟にいる魔物全部倒さなきゃいけないのかな?」 「う〜ん・・・さすがにそれは無理だろうけど・・・。やっぱり親玉的な奴がいるんじゃないかな」 は戦いながらそう言った。戦い終わったリュカに私は薬草を渡しながら、そっかと言った。
「・・・ん? ! あそこ・・・」 が口に指を当てながら、物陰に隠れた。その隣に私も身を潜める。
「今まで見てきた中で一番大きいキラーパンサーがいるね・・・」 「・・・、ビアンカからもらったリボンってある?」 「え?あ、うん」 私は髪を結んでいるリボンを解いて、に渡した。は意を決したような顔をして、そのキラーパンサーの下に歩きだす。
「(・・・あのリボンで何するつもりなんだろ・・・ん?)」 の後ろに着きながら、私が見たのは・・・キラーパンサーの首には、汚れてもうちぎれかけた緑色のリボンが巻かれてあった。
「わ、私と同じリボン・・・!? じゃあもしかして、あれは・・・」 がキラーパンサーに近づくと、キラーパンサーは唸りはじめた。それでもは怖気付かず、そのまま前に進む。 がキラーパンサーの前に屈んだ。更にキラーパンサーの表情は険しいものとなる。私はそんな光景をただじっと見ていた。
「チロルだよね?」 「ガル・・・ルル・・・」 「このリボン。覚えてるでしょ?僕だよ、チロル。だよ」 「・・・・・・・・・ク・・・?」 キラーパンサーの、顔つきが変わった。少しだけ近寄り、の匂いを嗅ぐやいなや、すぐにの胸元へと飛びついた。 「やっぱり!やっぱりチロルだ!よかった、無事だったんだな・・・!」 はチロルの頭を一生懸命に撫でた。チロルも久しぶりすぎる再会に、とても嬉しいようだった。私は2人の元へ近づいた。
「本当によかった・・・ずっと心配してたよ、チロル!」 「フニャァ・・・」 チロルは私にも擦り寄って来てくれた。無事なのも嬉しいけど、何よりも私たちのことを覚えていてくれたことも嬉しい。 「これからはずっと一緒だ。もう絶対に、一人になんてさせないからな」 は安心したような瞳で、ひたすらチロルの頭を撫でていた。
もう昔のように小さいチロルではなくて、大人になって大きくなったチロル。もう抱っこはしてあげられないけど、また前のような生活に、なんとなく戻れる気がした。
「ねぇ」 「ん?なに、」 「・・・こうやってずっと旅をしてたら、いつかはぐれていった人とも会えるかもね」 「・・・うん、そうだね!」 は遠い目をした。きっと、ビアンカのことを考えているんだろうな、と私は思った。 私の中で勝手に、の初恋はビアンカだったんじゃないかな、とか思う。ビアンカもビアンカで、のことが好きだったんじゃないかとか。そう考えたら、昔一緒にいたときって私すごく邪魔者だったんじゃないかな・・・。二人は優しいから何も言わなかったけど。
「さて、と。、カボチ村に戻ろうか。退治・・・ううん、仲間にしてきたってさ」 歯を見せて笑うの顔から、その優しさが溢れ出て分かるようだった。 のその優しさが、心の弱い人間にとってどれほど暖かいか・・・。はきっと、自分がどんなに優しいかをわかっていないと思う。 「うん。じゃ、行こっか」 私は、もうひとつ結んでいた自分の髪を解いて、チロルに結んであげた。昔のちぎれかけたリボンは鞄にしまい、立ち上がった。
「あれ?」 チロルは元いた場所に戻り、ごそごそと探り始めた。 「これ・・・パパスおとうさんの・・・」 剣には紋章が入っており、確実にパパスおとうさんのもだとわかった。きっと、ゲマに殺されたときに、剣までは燃えきっていなかったんだろう。 「チロルが・・・大事に持ってたんだね。ありがとう」 はチロルを抱きしめた。チロルは嬉しそうな顔をしていた。
外に出ると、もう辺りは夕陽に照らされていた。
「・・・・・・・・・」 ここ何年か、が髪を結わないときを見ていなかった。 サラサラのこげ茶色の髪は、陽の光に照らされて綺麗に赤っぽくなっていた。
「そっか・・・」 も、もう15歳なんだ。昔のように子供じゃない。
は、まだ昔のように僕のことを「兄」として見ているんだろうか。 少なくとも僕はのこと、「一人の女の子」として見てる。
ちょっとだけ、に僕を「一人の男」として見て欲しいと思った。
あとがき 2010.04.19 UP |