またね
「どどどどっちが誰で誰がどっち!?」 「わらわじゃ」 「わらわじゃ」 「どっちもわらわじゃねーかよ!!」 塔の最上階にあったラーの鏡を無事入手してラインハットに帰ると、一番嫌な状況に私たち3人は遭遇してしまった。デールさんが牢に閉じ込められていた方の皇后を偽物の前に出してしまい、本物と偽物で大喧嘩してしまったのだ。デールさんもデールさんでどっちが本物なのかわからなくなってしまったらしい。
「あああ兄さんどうしよう・・・!?僕も兄さんたちの役に立とう思ってしたことだったのに・・・」 「・・・とんだお節介だったんだな・・・・・・」 ヘンリーが はぁ、とため息をつくと、デールさんは何度も何度も私たちに頭を下げてくれた。い、一応一国の王様なのに・・・!
「だからわらわが本物じゃと言うておるじゃろう!さっさとこの偽物を追い払うのじゃ!!」 「デールや、この母が分からぬというのですか?こちらにいらっしゃい」 二人は余りにも似すぎていた。肉眼では絶対に見分けられないくらい。偽物に遭遇すれば、あの皇后なら性格からして前者のようにギャイギャイ叫んでいそうな気もするが、後者のように優しくして信じさせるという手口も考えられた。
「う〜ん?頭おかしくなってktぐぁpm」 「しっかりして!」 目の前がぐるんぐるんして来た私に、が私の肩をつかんで前後に揺すった。頭が更にぐらんぐらんして余計に頭がおかしくなってきた。 「み、見分けはつかないけど・・・これを使えば!」 が、持っていたラーの鏡を取り出し、二人の皇后に向けてみた。そこに映っていたのは・・・騒がしかった方が偽物、優しくデールさんに接していたほうが本物。
「ま・・・魔物!?」 ラーの鏡に映っていた偽物の姿は、魔物だった。魔物が化けて皇后にでもなっていたのか。 「・・・ち、バレてしまってはしょうがない!大人しくしていればこのラインハットもこの私の国になったというものを・・・」 偽物は皇后の姿から魔物に戻り、悔しそうにそう言った。
「あぁ〜?天下のラインハットがお前みたいなちんちくりんの国になるかってんだ」 「だ、誰がちんちくりんだって・・・!?」 「お前しかいねぇだろうちんちくりん。ちんちくりんって呼んでもらえるだけでも有難いと思えよ。ほんとはもう ちんちくりん の ち とかでもいいんだぞ」 「なんだと・・・!この人間g」 グシャアアアア!!と音を立ててお城の壁が崩れた。魔物は断末魔を上げながら消えていく。
「もう二度と来んじゃねーぞ」 ヘンリーは相当怒っていたのか、魔物を一発で倒した。あんまり強くなかったヘンリーが魔物を一発で倒すなんて、魔物が弱すぎたのかヘンリーが怒りすぎていたのか・・・どっちなんだろう。
瞬く間に皇后が今まで偽物だったことが広がり、私たちは持成ししてもらった。その日はラインハットで眠ることになり、かつてヘンリーが使っていたあの隠し階段のある部屋を貸してもらい、私たちはそこで眠った。
「(この部屋にくると、ヘンリーがさらわれてった時のこと思い出すなぁ)」 は疲れたのかベッドに入るなりすぐ眠りにつき、ヘンリーはデールさんと話があるとかで部屋を出て行った。私がベッドに寝転がりながら、部屋の天井を見上げてそんなことを考えていた。 ふとドレッサーのイスに目をやる。あそこの下にある隠し階段からヘンリーは私たちをからかって逃げて・・・そして皇后のお願いを聞いた奴等がヘンリーをさらっていって・・・。 「あああああ!!!」 私は思わず大声を出して起き上がった。はっとして隣に目をやってみたけど、は爆睡していた。 「・・・・〜〜っ」 あのまま皇后を助けなくてもよかったかもしれない。デールさんを王にしたいがために、ヘンリーをさらわせて。あいつのせいでパパスお父さんが死んだも同然だ。しかも自分が仕向けたくせにヘンリーを助けられなかったからってサンタローズを滅ぼして・・・多くの犠牲者を出して。
「最低・・・」 そんなことも知らずにのうのうと奴隷の仕事をしていた自分にも腹が立って仕方がない。 昔っからそうだ。人が苦しんでいるのに分かってやれない。 きっと、そんな運命なんだろう。私は、この世界でも。
「・・・・・・・・・・・」 このままだと何だか眠れないので、とりあえず腹の虫を抑えるために夜風にあたることにした。 「(そういやヘンリー話長いなぁ・・・何してるんだろ?)」 その前に私は、忍び足で玉座の間へ向かった。
「だから王様。その話はお断りしたはずですが」 「でも僕だけではやっぱりこの国を治めていけないよ。今日みたいなことがまた起きても、僕はきっと気づけない。お願いだよ兄さん」 「・・・はぁ・・・しゃーねーなー。考えといてやるよ。また明日な」 「お願いしますよ」 そう言ってヘンリーは頭を掻きながら玉座の間を出ようとする。やばい、急いで戻らないと!
私はヘンリーの部屋に急いで戻ってベッドに潜り込んだ。しばらくして、ヘンリーが部屋に入ってくる音が聞こえた。布団を横でもぞもぞしている音がして、少し時間が経つと寝息が聞こえた。 意識しているととヘンリーの寝息がマッチしているようにも聞こえる。
さっきの話は・・・ヘンリーにここで残れと言っていたのだろうか。だとしたら、明日からヘンリーはもう私たちと旅をしないのかな。 「そんなの・・・」 そんなの、嫌だよ。私たちずっと一緒だったじゃない。こんなところで離れてしまうの?
でもそれが・・・ 「・・・運命、なのかな・・・」 私は布団の中で縮こまって、ぎゅ、と自分の手を握り締めた。
次の日。私たちは玉座の間へ呼ばれた。 「さん、さん。昨日は魔物を倒してくださってありがとうございました」 「いや僕ら何もしてないですけど」 「心から礼を言います」 「いやだから僕ら何もしてないですよ」 「あのままだとこの国はどうなっていたか・・・。まったく僕は王様として失格ですよね。だからさんたちからも言ってくださいませんかね、兄上が王様になるのを」 「・・・デール、まだ諦めてなかったのかよ」 昨日言っていた話だ、と私は思った。は私の隣で困惑している。そりゃそうだろうな、10年間も一緒にいた友達が仲間じゃなくなってしまうのは悲しいもんね。
「昨日も言ったじゃねぇか、俺は王様にはならねぇって」 「でも昨日は考えておくって言ってくれたじゃないか。やっぱり駄目なのかい?」 「・・・できる限りはお前を支えていこうかなとは思ってるけどよ」 「ありがとう兄さん!!!」 デールさんは本当に嬉しそうな顔をして、ヘンリーに抱きついた。ヘンリーは照れくさそうに頭を掻いている。
「・・・てな訳でさ、、。一緒に旅できなくなっちまった・・・」 「ヘンリー・・・勝手に一人で決めないでよね、そういうことは」 「ごめんごめん」 私は昨日から覚悟していた分、やっぱりそうなるのかとは思ったけれどショックは少なかった。少し泣きたい気持ちもあったけれど何とか我慢して、ヘンリーに頑張ってねとだけ伝えた。ヘンリーはにかりと笑う。
「じゃあ、私たちはそろそろおいとましようか・・・ってリュカ?」 「ヘンリーの・・・ヘンリーのバカアァァアアアア!!!!!」 「うぉ!?」 はヘンリーに泣き怒りながらも勢いよく抱きついた。私とヘンリーはビックリして目を見開く。
「なんで・・・なんでそんな大事なこと僕らに言わないんだよ!!」 「いやだってお前ら寝てたし・・・」 「友達なのに・・・幼馴染なのに、水臭いじゃないか・・・!」 は今までに見たことないくらいに涙をボッロボロ流してそう言った。ヘンリーは半分呆れながらも、の背中を叩いた。 「・・・ごめんな。でも永遠の別れなんかじゃねぇんだから、そんなに泣くなって」 「・・・もうストーカー並みに、1秒に1回遊びに来るから」 「いやそんな来なくてもいいけどさ・・・」 っていうかそれずっといるんじゃねぇか、とヘンリーは苦笑しながらも、楽しそうだった。
「ビスタの港にも船が出てるだろ。そっからまた新しい地に行って来いよ。早く勇者さまが見つかるといいな」 「うん・・・」 「あ、あとコレ」 ヘンリーは服のポッケからゴソゴソと何かを取り出してきた。 「奴隷時代に拾って持ってたんだ。たぶん役立つから持ってけよ」 ヘンリーはそう言っての胸にその「役立つもの」を押し付けた。何かと思って見てみれば、クッシャクシャの福引券。
「・・・頑張れよ、二人とも」 「・・・うん。ありがとう」 「ヘンリーも元気でね!デールさんと喧嘩しないでよ?」 また泣き出しそうなの背中を擦りながら私はそう言った。ヘンリーはお得意の笑顔でニカリと笑って、私たちを城下町の入り口まで見送ってくれた。
「ああああもう・・・」 「・・・そろそろ元気出してよ・・・。ヘンリーも言ってたでしょ、永遠の別れじゃないんだから。また遊びに行こうよ、ね?」 はビスタの港に着くなり悲しそうに頭を抱えだした。本当にヘンリーが大好きなんだなこの人・・・。
「は・・・」 「え?」 「はどっかに行ったりしないよね?」 は子犬みたいな目で私を見ながらそう言った。何なの何なのそのキュンキュンする顔!!
「・・・うん。どこにも行かないよ」 私はそう言って、に頭を預けた。
「・・・よかった」
海の向こうから見える船を見つめながら、は返事をした。
私はもちろん、この約束を破るわけがないって・・・そう思っていた。
あとがき 2010.03.13 UP |