幼馴染の故郷と恋の芽


「ヘンリー兄さん!?本当に・・・本当に兄さんなのか・・・!?」

「あぁ、そうだデール。長い間留守にしちまってごめんな?」

ラインハット城の奥の奥――玉座の間には、昔よりもとても逞しくなったヘンリーの義弟である、ラインハット国王になったデールさんがいた。デールさんは王様のような顔つきだったのに、ヘンリーと分かるやすぐに泣きそうな顔になった。

 

「よかった、本当によかった生きていて・・・!兄さん、やっぱり僕などではこの国の王は・・・」

「何言ってるんだよ。お前昔から俺よりしっかりしてたくせに。お前の方が王にぴったりだよ」

「でも・・・」

「それに子分は親分の言うことを聞くもんだぜ?」

歯を見せて笑ったヘンリーに、デールさんは幾分か安心したのかまた泣きそうな顔になっていた。

「それよりお前・・・この城の地下には行ったことあんのか?」

「え?いや、ないけど・・・」

「お前の母ちゃん、牢屋に入れられてんぞ?」

「は!?だ、だけど今母上は自室に・・・」

デールさんは、皇后が入れ替わっている事も何にも知らなかったようだった。そりゃ王様は牢屋のある場所に無縁だものね・・・と私は思っていた。

「なんか偽物がいるらしいじゃねえか。お前自分の母ちゃんも分からねぇのかよ?」

「えええええ・・・!そ、そういや今考えると不思議な点があったようななかったような!」

デールさん、超困惑中。そりゃ自分の母親が二人いたらビビるよね!

 

「でも二人いても何か証明できるものがないと・・・」

がそう言うと、デールさんは何かを思い出したような顔をした。

「そういえば前に、真実を映し出す鏡についての本を読んだことがあります。確か倉庫の本だったかな・・・」

「じゃあ調べてくる。倉庫なら鍵掛かってるだろ?鍵貸せ」

人に物を頼む態度ではないヘンリーにデールさんは苦笑しながらも、ポッケからひとつの鍵を取り出した。

「これを使えばこの城の鍵なら全て開けられます。どうぞ。あんまり色々無理しないでくださいね皆さん」

「あーわかってるよー。じゃあまた来るかんな!」

「「ありがとうございました!」」

ヘンリーは頭の後ろで手を組みながら、もらった鍵を手にぶらぶら下げている。そんなヘンリーの後ろ姿を見た後、私とはデールさんにお辞儀しながら礼をして、玉座の間を後にした。

 

 

 

 

「えーと何々〜・・・真実を映す鏡『ラーの鏡』は、神に仕える心の清き乙女だけが扉を開くことの出来る塔に眠ると言われている、か」

私が本の内容を読み上げると、とヘンリーはふんふんと頷いた。

「なるほどな。神に仕える乙女ってシスターとかか?」

「でもシスターなんて僕ら「待って!」

の少し不安そうな言葉に、私は割って入った。

「なぁに?」

「なんだよ」

「私に心当たりがあるの!」

 

 

 

 

 

 

 

「あら、さん!?それにさんに・・・ヘ、ヘンリーさんも・・・!」

マリアさんが居る海辺の修道院に訪れると、快く出迎えてくれた。もうすっかりシスターの仕事にもなれたみたいで、服もよく似合っている。・・・名前を呼ぶときにヘンリーの時だけ少し頬が赤らんだ気がしたのは気のせいだろうか・・・。

「今日はどうされたんですか?」

「いや、がなんかなぁ・・・」

「とりあえずシスターさんに話を聞くわよ!」

私がヘンリーの襟をつかんでズリズリと修道院へ入り、その後ろをマリアさんとが着いてくる。ヘンリー「離せェェェ!」とか「首絞まるゥゥゥ!」とかうるさい。

 

「ふふふっ・・・」

「どどどどうしたんですか!?」

いきなり隣で笑い出したマリアに、は驚いた目で見た。

「いえ・・・あの奴隷時代となーんにも変わらないんだなって」

「え・・・?」

さんとヘンリーさん、いつも楽しそうですよね」

まるで子供を見守る母のような笑顔で、マリアさんはそう言った。その言葉を聞いて、は目の前でじゃれ合う二人を見た。二人は確かに、いつも やいやい やっていて、それを僕が見守っていた気がする。やっぱり、は僕といるよりもヘンリーと居る方が楽しいのかも・・・。

さんは・・・もしかして・・・

「え?」

「・・・ふふ、いえなんでも。がんばってくださいね」

「?????」

マリアさんは何のことかわからない言葉を連発して、フフフと笑っていた。

 

 

 

 

「え?神に仕える乙女だけが扉を開けられる塔?」

「はい、この世界のどこかにあるはずなんです!」

「それならこの修道院からすぐ南にありますが」

「「「ゴファァァァ!!」」」

案外その塔が近場だった事に、拍子抜けして私ととヘンリーはその場でズッコケた。後ろで見ていたマリアさんはくすくす笑ってるし、シスターさんはびっくりしたように私たち3人を見ている。私はゆっくり立ち上がった。

「ま、マジですか・・・!」

「マジですね」

「(シスターさんがマジとか使った・・・!)そ、そうですか。あの、でしたら塔に入りたいのですが・・・」

「困りましたね・・・。最近はあそこも魔物が出ますから、あそこまで女の足で行くというのは・・・」

「私に行かせて下さい!」

シスターさんと私の会話に入ってきたのは、マリアさんだった。

「マリア・・・!」

「この方たちにはお世話になりましたから、私に出来ることなら恩返ししたいんです。それに私・・・試したいのです。私にもあの神の塔の扉を開くことができるのか・・・」

マリアさんはシスターさんに、懇願するような瞳でそう言った。そのマリアさんの眼差しに負けたのか、シスターさんは少しだけため息をはいた。

 

「・・・わかりました。気を付けるのですよ」

「はい!ありがとうシスター!」

さん、さん、ヘンリーさん。マリアを頼みましたよ」

「まっかせてください!」

シスターさんの言葉に真っ先に飛び出たのはヘンリーだった。胸を叩いて自慢気にしている。マリアさんはというと嬉しそうな顔をしている。

 

修道院を後にし、私たちは南の神の塔を目指した。シスターになってからの経緯を、楽しそうに私との前をヘンリーと歩きながら話すマリアさんがいた。本当、ヘンリーと話せて嬉しそうな顔してるなぁマリアさん・・・。

「あのさ・・・はわかってたの?」

「ん?、何が?」

「二人が両思いな事」

ぐほォォッ!?

いきなりが変な事言うから、私は何もない所で躓いてしまった。前を切って歩くヘンリーとマリアさんは話に夢中で全っ然気づかないけど。に助けてもらいながら、私は立ち上がった。

「えええ、何でその事・・・っ!?」

「いや、二人の回りに飛んでるピンクのオーラ見てたら誰でも分かるよ。たぶん本人達だけじゃないかな、お互いの気持ちに気づいてないの」

「そ、そうなんだ・・・っ」

恋愛にはめっさ疎いと思っていただけど、やっぱりちょっとくらいは分かるようになったんだ・・・!

「ま、僕ももうすぐで17だしね」

あれ、心の声聞かれてた?

「そういえば、ももうすぐで15歳だよね。お祝いしないとね」

「いいいいよ!本当に!!私たちそんなお金に余裕ないでしょ?」

とそんな話をしていると、いつの間にか神の塔に着いていた。前にいたヘンリーたちが騒いでいる。

 

「ここが神の塔なんですね。実は私、ここに来るのは初めてなんです。私でお力になれればいいんですけど・・・」

「大丈夫だよマリアさん!」

「ありがとうございます、まりんさん。それでは・・・」

マリアさんは扉の前で天を仰いでひざまずき、目を瞑って祈り始めた。しばらくすると、カチリという扉の鍵が開く音が聞こえた。

「わ、すげぇ!本当に開いたぜ!」

ヘンリーが開いた扉を開け閉めしている。マリアさんは私の横で泣きそうな顔になりながらも喜んでいた。きっと神様に認められた事が嬉しかったんだろうな。

 

「それでは私は修道院に戻りますね。ガンバってください!」

「あぁ、ありがとなマリア!」

「「(マリア・・・!?)」」

ヘンリーの呼び方がいつの間にかマリアになっていた事に、私とは酷く驚いた。もうそんな関係に・・・!?

 

「ま、まあいいや。じゃあ入ろうか」

は動揺を隠しきれないような状態で、塔の中へと入っていく。私とヘンリーもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

「わぁ・・・!」

塔に入ってすぐに、花畑のような場所があった。そこにはとても綺麗な花ばかりが咲いていて、塔の天辺から太陽の光が差し込んでいた。

 

「お、おい!あれ・・・っ!」

ヘンリーがいきなり花畑を指差すので見てみると、そこには・・・パパスお父さんと・・・私のお母さんにそっくりな女の人がいた。

 

「え・・・?おかあ・・・さん・・・?」

あまりにもそっくりで、私は腰が抜けてしまいそうになった。でもやっぱり、その隣にいるのは確実にパパスお父さんで。違う世界のお母さんがここにいるはずがない。だって、確かにお母さんはあの日、私にいつものように謝りながら死んだ。じゃあ今、見えているあの人は・・・?

 

!」

「あ・・・な、なに?」

「どうしたの、大丈夫?」

え、と思って我に返った私は驚いた。頬がたくさんの涙で濡れていたからだ。

「ご、ごめん!私・・・っ!」

「ううん。いいんだよ、泣いても」

そっ、とがハンカチを差し出してくれた。私はもっと泣きたい気持ちに駆られたけど、これ以上に心配を掛けさせたくなくて首を振った。は少し眉を下げて私の頭を撫でて、ハンカチをしまった。そして自分の指で私の涙を拭ってくれる。・・・何だか本当のお兄ちゃんみたいだな。違うんだけど・・・。

 

「・・・あの二人は幽霊だったんかな。消えちまったぜ」

確かにヘンリーの言う通りで、さっきまで花畑で楽しそうにしていたバパスお父さんと女の人は消えていた。二人はお化け・・・だったのか・・・。

 

「僕・・・あの女の人、お母さん・・・マーサさんだと思うんだ」

「俺もそれは思った。なんか雰囲気からして夫婦っぽかったもんな〜」

「え・・・っ」

じゃあ、私のお母さんとマーサさんは似ている人ということだったのかな。っていう事はもしかして、私のお父さんも・・・パパスお父さんに似てたりして・・・?

 

「いやいやいや、まさかね・・・そんな偶然あるわけないぜ」

「おーい、ー!早く行くよ!」

「あ、うん!」

私はまだ少し濡れていた瞳を拭って、とヘンリーの後を追った。


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あとがき
久しぶりすぎる更新ですね・・・!受験が終わったので遊びほうけております←

2010.03.13 UP