変わらない場所


「なぁ。俺、ラインハットに帰ってみていいか?」

「えっ?」

次の日の朝。朝食を食べている途中、ヘンリーがそう言った。

「さっきさ、町の人に聞いたんだ。父さんが・・・9年前くらいに、死んだんだってさ」

「え・・・!?」

ヘンリーの言葉に、も私も驚いた。あの人が亡くなった・・・?

 

「デールも王様になったらしいけど、最近国が荒れてるんだってよ。しかも王様のデールよりも実権は皇后が握ってるって聞いちまったしさ。だからこのヘンリー様が立て直してやらなきゃダメだろっ?」

ニカッと笑うヘンリーだったけど、なんだか寂しさを隠している様にしか見えなかった。私はの眼を見ると、は頷く。
・・・行ったほうがいいのかな。デールといえば、確かヘンリーの弟だ。血は繋がっていないけれど。

 

 

私たちは早速アルカパを出て、ラインハットに向かった。
ラインハットのある大陸には・・・あの私たちの痛々しい思い出が傷を残す遺跡がある。パパスお父さんが、ゲマに殺された場所。考えただけで吐き気がしそうだった。

 

「・・・、大丈夫?顔色悪いけど・・・」

「えっ?あ、うん・・・大丈夫だよ!」

に心配かけてばかりだなぁ・・・私。
でも、
を横目にチラリと少しだけ見ると、悲しそうに眉を下げていた。きっと、もあの時のことを思い出して辛いんだろう。・・・私ばっかり、弱々しくなってられないよね。

私は自分にカツを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここから先はラインハットの国だ。皇后様の許可なしに入ることは・・・ぐがァっ!」

ラインハットへ続く関所の門番を、いきなりヘンリーは飛びげりした。私とは目ん玉が飛び出る勢いで吃驚した。

「え、ちょ、ヘンリー!何してるの!?」

「いてて、タンコブが・・・!無礼なヤツ!な、何者だ貴様ら!?」

「ははは、ずいぶんと偉そうだなトム!」

「な!?どうして私の名前を・・・!?」

トム?誰?私はヘンリーの顔を見る。ヘンリーはトムさんと知り合いのようだ。
・・・そっか、ヘンリーはラインハットの王子様。10年経っても顔を知る兵士たちもいるんだろう。

 

「カエルは相変わらず苦手なのか?ベッドにカエルを入れておいた時のが一番傑作だったよな!」

「・・・!! まさか!?」

「そう、俺だよ。トム」

「へ、ヘヘヘ、ヘンリー王子さまァァァァ!!!」

トムさんはヘンリーに嬉しそうに抱き付き、二人は再会を喜んだ。トムさんは少しだけ涙ぐんでいる。

 

「まさか無事に生きておられたとは!本当におなつかしゅうございます・・・!思えばあの頃が楽しかった・・・今の我が国は・・・」

「何も言うな、トム。兵士のお前が国の悪口を言えば色々と問題が多いだろう?」

「あ、そうですね・・・っ」

優しい笑顔のヘンリーに、トムさんは口をつぐんだ。でもやっぱりその顔はどこか嬉しそうで。

 

「えっと・・・そちらの方達は?」

です」

です・・・!」

「俺の友達だよ。何たって10年共に奴隷してたんだからなー」

「どっ奴隷!?しかも10年も・・・!?」

トムさんはまた泣き出しそうな顔で、あの王子が奴隷だなんてとか友達がいたなんて、とか呟いている。結構毒舌な人なのかな。

 

「まぁいいじゃねぇか、抜け出せたんだし。さて、ここを通してくれるよな?トム」

「はい!喜んで!!」

トムさんは笑顔だ。コロコロ表情が変わって、百面相みたいだ。

 

「・・・またこうしてヘンリー王子に会えるとは夢にも思いませんでした。あの頃は泣かされましたが、今となってはいい思い出ですなぁ」

私たちの後ろ姿を見て、トムさんはそんな事を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、やっぱ外観は何も変わってねぇな」

ヘンリーは国に入るなり伸びをする。
変わってない・・・。その当たり前のことが、私は羨ましかった。サンタローズは変わり果てていたから。

 

「ま、とりあえずデールに会いに行こうぜ。なんかちょっと楽しみだなぁ!」

ヘンリーは少し嬉しそうなステップで、私たちは城へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「だから俺はヘンリーだって言ってるだろ!!何で入れてくれないんだよ!?」

「うるさい!ヘンリー王子は10年前にもう死んだのだ!」

ヘンリーと城の入り口を守る兵士が喧嘩をしている。やっぱりさっきのトムさんのようには上手く行かないのかな・・・。っていうか、勝手に死んだって決め付けないでほしいなぁ。

 

「あーもう腹立つ!、もう行こうぜ!」

「「えーっ!?」」

ヘンリーに引っ張られて、私たちは外に出た。

 

「どうするんだよヘンリー?」

「諦めるの?」

「バーカ。この俺様が諦めるわけないだろ?でも城には入られねぇしなぁ・・・どうすっかなー?」

の言葉に、ヘンリーは腕を組んで何かを考えている。

 

「裏口とか勝手口とかはないの?」

「確かどこからも中から鍵が・・・いや、待てよ!」

ヘンリーは手をポン、と叩いた。

「何か水路が怪しかった気がするな。行ってみようぜ!」

 

私とは、ヘンリーに連れられ水路へと向かった。水路には、ひとつのイカダがぷかぷかと浮かんでいた。ここはそういえば・・・10年前、ヘンリーが何者かにさらわれていった時に、犯人たちがこれを使ってあの遺跡に向かっていた気がする。ヘンリーは気を失っていたから覚えていないだろうけど・・・。

 

「さあ乗って」

私が乗ると続いてが乗り、ヘンリーが乗る。イカダなんて初めて乗るけど、沈んだりしないかな・・・!?

「よいしょ・・・っと」

ヘンリーがイカダを繋いでいる鎖を解いた。すると、水の流れに乗ってゆっくり、ゆっくりとイカダが動き出す。

 

「あ、ここだ!」

ちょうど城へと入る入り口にかかる橋の下に差し掛かった頃。城へと入るトンネルが見つかった。

「ここに入れば城の地下に出るはずなんだ」

ヘンリーは城の壁を掴み、イカダの進行方向を変えた。水の流れが無く進まないので、そこからは3人の手で必死に漕いだ。

 

「へー・・・この城にこんなトコあったんだな・・・」

「ヘンリーってば自分の家なのに・・・って、王子だから当然といえば当然なのかな・・・」

は少し呆れたような顔をしている。確かに王子だからこういう城の汚い所は来させられないようにしていそう。

 

「まぁまぁ・・・さてと、早くデールんとこに行こうぜ?」

「うん、そうだね」

「ま、まま待つのじゃ!!」

どこからか声が聞こえて、私たちを引き止める。見渡すと、その声はそこにあった牢屋からのようだった。

「だ、誰かはわからんが・・・っ、わらわを助けてたもれ・・・!!!」

女の人だ。綺麗な装飾に身を包み、立派な髪飾りで髪を留めている。貴族の人だろうか。

「・・・もしかして、皇后?」

ヘンリーが自分の顎を触りながらそう言った。私とは会ったことがないからよく分からないけど・・・もしそうだとするなら、私たちが憎むべき人だ。でも何でそんなお偉いさをがこんな所に?

「この人なら助ける必要ねぇか。やっぱ行こうぜ」

「待つのじゃァァ!!わらわじゃない奴がわらわになりすましているのじゃ!!」

行こうとする私たちの背中に、よくわからない発言をする皇后の言葉が降りかかる。私たちは気になって振り返る。

 

「・・・どういう事だ?」

「わ、わらわの偽物がわらわになりすましているのじゃ!わらわが本物なのに・・・兵士たちにわらわを牢屋に入れるようにと・・・!」

誰も信じてくれんのじゃ!と皇后は涙を流しながら私たちに訴えかける。・・・どうやら嘘ではなさそう。

 

「・・・どうするの、ヘンリー?」

「んー?なんか・・・気になるしな。やっぱとりあえずはデールに聞いてみようぜ。一応王様なんだしさ」

どっちみちデールさんに会うことになった私たちは、すがるようにまだ後ろで泣いている皇后を置いて、城内へと入り込んだ。

 

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あとがき
今回はヘンリーの出番多めに(・v・)!
そして新年1発目の小説更新ですvv今年もよろしくです!

2010.01.16 UP