感謝、旅立ち
「お父さん!!」 呼んでも呼んでも、振り返ってくれない。走っても走っても、追い付かない。6歳と小さな体の僕には、もう限界だった。 「おとう・・・さん・・・」 へた、と座り込んで泣き崩れる僕に、手を差し延べてくれたのは・・・まだ4歳のだった。 「ねぇ、一緒にいこ?」 笑顔の彼女は、僕の手を引っ張って歩きだした。やがて花畑になって、二人でたくさん遊ぶ。 「・・・。私は、どこにも行かないよ。ずっとの側にいるから。だから・・・泣かないで」 そう言ってくれたの体を、僕はいつの間にか抱き締めていた。小さかった2人の体も、不思議とぐんぐん成長して僕は今の16歳の大きさになり、も14歳の姿になる。 「ずっと、一緒だよ」 そう僕が言った瞬間、は僕の腕の中から、ふっと消えた。
「!!」 目を覚ますと、真っ白い天井。肌に当たる、ふかふかの布の感触。今のは夢か・・・。僕は大きく息を吐いた。
「あ、。目覚めた?」 だった。はタオルを持って僕に近寄る。 「うなされてて汗かいてたから、拭いてあげようと思って」 そう言っては微笑んだ。すると、僕はいつのまにか・・・夢の時みたいに抱きついていた。両腕をの首にしっかりと回して、ぎゅ、と。
「・・・?」 不思議そうに胸の中で尋ねてくるを宥めるように、優しく髪を撫でた。
「・・・もう、どこにも行かないで」 「え?・・・うん」 私にはの言ってることがわからなかった。でも・・・きっと、怖い夢を見ていたんだと思う。でも、にとって、私なんかでもし安心してくれるなら・・・それなら、いくらでも側にいる。それで構わない。私はそう思った。 「と、とりあえず、 お風呂入るでしょ?その後はご飯!」 「え、でもは?ていうか、ここは・・・」 「私はもう全部終わったから!ここは海の真ん前にある教会だよ。ほら、私たち樽で逃げてたしょ?それでどこかに流れ着いてたみたいで・・・。私が頼んでここで昨日からお世話になってたの」 の腕から離れた私は、着替え取ってくるねと言って部屋から出た。
「うはぁー・・・びっくりした・・・!」 私は顔を真っ赤にして、の部屋のドアの前に座り込んだ。は兄っていう目で今まで見ていたから驚いた。でもからしたら、私はただの妹なんだろうな・・・。
僕はなんとなく、もの足りなかった。もっとを抱き締めていたかった。なんて思うのは・・・ヘンリーに失礼かもしれない・・・。
「あれ、ヘンリーやマリアさんは・・・?」 「ヘンリーならもうご飯も食べたから、また寝てるみたいだよ。私は見てないけど・・・。マリアちゃんは何かここの人に色々教わってるみたい。あの人、もともとはそういう宗教とかの信者の人だから」 私はの向かいに座ってそう言った。 「・・・は?寝ないの?」 「ん?ん〜・・・私はが心配だったから起きてただけだったしなぁ・・・。そうだね、ちょっと眠らせてもらおうかな?」 私がそう言うと、は頷いた。シスターの人に案内されて部屋に向かう。ベッドに横たわると、すぐに私は眠りに落ちた。
「ん・・・」 鳥の鳴き声がした。少し肌寒く、日が窓から差し込んでいる。 「やばっ・・・!私1日寝てた・・・!?」 睡眠時間2時間という 過酷な現実の中生きてた私たちにとって、1日中寝れるなんて夢のまた夢だった。 やっぱ睡眠って大事だなぁ・・・。 部屋から出ると、とヘンリーは既に朝食を食べているところだった。
「よぉ、はよう」 「あっ、おはよう・・・!」 ヘンリーの顔を見るの、何だか久しぶりだなぁ〜と思っていると朝食が出され、私は有り難くいただく。
「、マリアさん今日からここのシスターになるんだってさ」 「えぇっ!?そうなの!?」 ヘンリーの言葉に、私は目を真ん丸くした。でも透き通る綺麗な金髪で美しいマリアちゃんなら、シスターの服も似合いそう・・・! 「今日はその式みたいなのをやるらしいよ」 にこりとした笑顔でがそう言い、私はへぇ〜と首を動かした。・・・何だか急にの顔がまともに見れなくなってきた。
急いで朝食を食べ、私たちは礼拝堂の席に並んで座った。マリアはシスターの人に頭の布を被せてもらい、何か の液体を自身にふりかけたりと・・・、素人の私から見ればさっぱり何をしているか分からない状態だけど、マリアちゃんは幸せそうだしすごくキレイだった。
「お世話になりました」 マリアちゃんが正式にシスターになったその日の昼前に、私たちは教会を出ていくことにした。いつまでも世話にはなっていられない。
「また来てくださいね」 優しくそう言ってくださるシスターの方に、私たちは笑顔で礼をした。
「ちゃん!」 教会の中から駆けてきたマリアちゃんに、私は振り向いて首を傾げた。 「これ、あげる。出会えた印よ」 少し恥ずかしそうな顔でマリアちゃんが差し出したのは、薄い赤色の小さな宝石のペンダント。 「かわいい・・・!ありがとうマリアちゃん!」 「よかった、喜んでくれて。・・・皆さん、たまには会いにきてくださいね?」 私たちを見てマリアちゃんはそう言った。ヘンリーは照れ臭そうに頭に手をやった。
「じゃ、行こっか」 のその言葉に私たちは頷いて、教会を後にした。
「ほぁちゃあぁぁ!!」 久しぶりの魔物との闘いに腕がなると私。ヘンリーは王子様だからそんなことはもちろんやったこともなく、女の私よりもとっても弱っちい。 やっとの思いでついた町、オラクルベリーにはもう日も傾いた夕方の頃だった。
「この町はカジノで有名なんだぜ〜。・・・なぁ〜」 「行かないからね」 「ちぇ、ケチ」 二人のやり取りが面白くって笑ってしまう。このメンバーでいるの、やっぱり楽しいなぁ。
夜になり私たちは宿へと向かった。 「この町にはあんまりお母さんの手がかりなかったね、」 「え?あ、 そうだね・・・」 私はの話に合わせたけれど、何となくのお母さんに会いたいような会いたくないような複雑な気持ちだった。だって、この世界では一応、私のお母さんってことになってるけど・・・。でも私のお母さんはお父さんと違ってちゃんとこの目で見ていたし。
「あ〜っ・・・疲れた・・・」 私はベッドに寝転がった。
「あ、そうだ」 今日マリアちゃんにもらったペンダントをつけようとしたけれど、なかなかつかない。私がそろそろイライラする頃だった。
「?入るよ?」 「?うん、どうぞ」 ドアをノックする音が聞こえ、私は入室を許可した。
「?どうしたの?」 「今日マリアちゃんにもらったペンダントをつけたいんだけど・・・なかなかつかなくて」 「貸してみて」 そう言っては私の手からペンダントを取った。
「こう・・・かな」 「わ、ありがとー!」 鏡の前でペンダントをつけてくれた。鏡にキラキラと輝く赤い宝石が、私の首元でキラキラしている。
「似合ってるよ、」 「あ・・・そう、かな?ありがとう・・・」 なんだかいきなり恥ずかしくなってきて、私は鏡を見るふりしてに真っ赤になった顔を見えないように隠した。
「・・・」 「ん?なに・・・」 ぎゅ、と後ろから抱きしめられた。昨日みたいに。 「ちょ、・・・」 「。僕わかんないんだ。自分が・・・どうすれば・・・お父さん・・・!」 きっとは、パパスお父さんがいないことに混乱しているんだと思う。だって旅って言ったら、いつもパパスお父さんといたから。
「・・・大丈夫だよ。私も・・・ヘンリーもいるじゃない。は一人じゃない」 ね、と言って私は、振り返ってを抱き締め返した。 「・・・」 「私もと同じだよ。今は・・・まだ小さいけど、を思う気持ちは、きっと誰よりも大きいって、思ってる」 私はの顔を見て笑うと、はうん、と頷いた。
「ねぇ」 「ん?」 「あとちょっとでいいから、このままでいいかな?」 「え・・・」 「なんかね、安心するんだ」 そう言って今まで以上に強く抱きしめてくる。男の人に、こんなことをされたのは初めてで。 でも私は血がつながってるなんて思えない。 だって、こんなにドキドキするんだもん。
「・・・うん。私も・・・なんだか安心する」 を抱きしめ返した。
私は、ずっとこのままでもいいと思った。
のことが・・・好きです。 多分、だけど。
あとがき 2009.09.04 UP |