脱出!ヘルプミー花嫁修業のお姉さん
鍵のかかった牢の扉を開けてくれたマリアは、先ほど看守に命令をしていた兵士の元へと私たちを連れてきた。 「おお、さっきは牢屋に入れてしまってすまなかったな。私の名はヨシュアだ。ここの監視が仕事なんでね、ちゃんとしなければ上から何されるかわからないんだ。すまないが悪く思わないでくれ」 そういうことならと仕方なく頷く私たちに、マリアは心配そうに見つめていたが安堵の息を吐いた。 「・・・実はな、君たちに頼みたいことがあるんだ」 「え・・・・・・?」 私がそう言うと、ヨシュアはひとつ咳払いをした。 「実はマリアは私の大切な妹なのだ。いつまでもこんな所にいさせるわけにはいかない。だが一人だと危険すぎる。そこで、だ。君たちにも一緒にマリアと逃げてほしい」 「「「 !! 」」」 ヨシュアのその言葉に、私たちは目を見開いて驚いた。逃がしてくれる、ということ? 「あまり時間がない、手短に話を済ますぞ。君たちが今まで何度も脱出を試みていたのは知っている。しかし他の奴隷たちの瞳は死んでいるのに、君たちの瞳は何かを目標にしているような、生き生きとした瞳だと私は思うのだ。君たちなら脱出させても、マリアも無事だと思うんだ」 過保護な兄だなーと思いながら私はヨシュアの話を聞いていた。マリアも助けられるし私たちもここから抜け出せるし、この悪の集団があることも外部に漏らせる。これは一石二鳥だ。いや一石三鳥? 私たちはもちろんOKということで返事をすると、ヨシュアは牢屋のすぐ横にある大きな樽を引っ張り出して来た。 「この中に入ってくれ。これは本来、死んでいった奴隷たちを入れてこの滝から海へ流すためのものなんだけどな。安全に脱出できそうなものといえばこれしかないんだ。気味悪いのは分かるがわかってくれ」 ヨシュアは 牢屋の部屋にあった大きな滝を指差した。ということはあの滝は海へと繋がっているのだろう。 「君たちが捕まった時に持っていた荷物も既に入れてある。さぁ入って!」 ヨシュアは樽の蓋を開け、マリアを入れさせる。後ろで俺たちも逃げさせろ、という囚人たちの声がたくさん聞こえてくる。
「、入って」 「え 、でも・・・」 「いいから。こういうのは女の子が先」 ね、と言った真剣な表情のに、もう何言っても聞かないと悟った私は渋々樽に乗りマリアの横に座る。 次に、ヘンリーと乗り込み、ヨシュアの手によって蓋は閉められた。 「元気でな!」 そんな声が聞こえた後、水に浮かぶゆらゆらとした感じになった、その直後。 「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」 落ちた。バッシャーン!樽越しでもそんな大きな音が聞こえ、私は思わず目を瞑った。しばらくしてまた船に乗っているようなゆらゆらとした感覚に戻り、私は はぁー、と息をゆっくり吐いた。
「・・・そういやこの樽、ちゃんといつかどっかに着くのかな・・・」 「さぁ・・・」 私の問い掛けに、ヘンリーが心配そうな声で呟いた。
一日ほどが経ち、もヘンリーも疲労でぐっすり。マリアとは話すようにもなり、この短い期間でものすごく仲が良くなった。 次の日になり、お腹が空いて私たちはげっそりしてきた。長い期間、1日にしけったパン2つという生活のおかげ で少食になってしまっている私たちだけれども、さすがに丸1日何も食べないのはしんどい。樽の中でなるべく動かないように心がけ、私たちはぐったりとしていた。
「・・・ん・・・・・・」 寝ていた私は目を覚ました。おそらくもう1日が経ったと思う。横でマリアや、ヘンリーたちが寝ていた。
「・・・ん?あれ?」 水の上にいるあのゆらゆらとした感じがしないことに気がついた私は、歩いて樽の入り口まで歩み寄った。そっと蓋を、開けてみる。
「うわぁ・・・・・・!」 そこは、どこかの浜だった。綺麗な水色の海、押し寄せてくる波。着いた。どこかに着いたんだ!
「あの・・・大丈夫ですか・・・?」 後ろから誰かに声をかけられ、私は振り向いた。太陽の光に輝く蒼い長髪、不安げに見つめてくる女性。 「大丈夫 ですか?酷い格好をしていらしたので、何かあったのかと・・・」 その女の人の声を聞くと、帰ってきたんだという思いが込み上げて私は目頭が熱くなる。というか、泣いてしまった。 「だ、大丈夫?ほら、ハンカチ」 刺繍のされてあるハンカチを受け取ると、私は頭を下げながら涙を拭いた。 「あ、あ の・・・私たち奴隷にされてて・・・逃げてきたんです・・・!」 「まあ、それは大変ですわ !あなた以外にも人が?」 私は頷くと、女の人はすぐに浜辺にあった教会へと走っていった。しばらくしてたくさんのシスターが教会から走って来て、樽の中に いたたちを担いで教会へと戻っていく。私はその素早さに唖然とした。
「・・・私はここの教会に花嫁修行に来ていたものなんです。今帰ろうと思ってみたら あなたがいて・・・タイミングが良くてよかったですわ」 私の横にいた女の人は、私にニッコリと笑いかけた。年はとあまり変わらなさそうだ。 「あの・・・ありがとうございました。私・・・」 人の暖かさに私は涙がまたたくさん溢れ出た。枯れそうなくらい・・・。 「ふふ・・・いっぱい、泣いてもよろしいですよ」 女の人は私をぎゅーっと抱き締めてくれた。お母さんのような暖かさに、私は泣き崩れた。
「・・・私の名前はフローラと言います。・・・不思議、あなたとはどこかでお会いした気がします 」 フローラさんは私の顔を見てそう言った。そういえば私も・・・。 「あの私、って言います。14歳で、えっと・・・」 「さんですか。可愛らしいお名前ですね」 にっこりと笑うフローラさん。やっぱり、どこかで会った気がするのだ。
「あ、そうそうさん、 シャワーでも浴びますか?」
「はー・・・あったかい・・・」 教会のシャワー室に案内された私は、暖かいお湯につかっていた。こうしていると、パパスお父さんとリュカと入ったお風呂を思い出す。そして今までにあった苦しくて辛い日々・・・。またまた自然に涙が溢れて、お湯へと 落ちていく。
「パパス・・・おと・・・うさん・・・っ」 涙が、止まらなかった。ゲマが許せない。
「あ・・・」 お風呂を出ると、着替えが置いてあった。私の荷物から洗ったであろう服。私は服を着て、外に出た。
「さん。ご飯いりますよね?」 「え、でも・・・」 ぐーきゅるるるるるるる。 シスターの人の問いに私が断ろうとすると、自分のお腹からものすごい音がなった。 「ふふっ、遠慮はしないで下さい」 そう言って机の上に差し出されるご飯。暖かくて、おいしくて、嬉しくて・・・。涙をこらえ、鼻を啜りながら食べた。
「あ、フローラさん!お帰りになられるんですか?」 「ええ、父を待たせてるから・・・」 「えっ!じゃああの・・・ご挨拶しに行ってもいいですか?」 フローラさんは荷物を持って教会を出ようとしていたので、私は着いていくことにした。馬車が来ており、中には恐らくフローラさんのお父さんらしき人がいた。少しぽっちゃりしている。
「お父様、ただいま」 「おお フローラ、おかえり。花嫁修行お疲れだったな。・・・ん?そちらのお嬢さんは?」 フローラさんの横にちょこっといた私に目を向けて、ルドマンさんは首を傾げた。 「あの・・・といいます。その、フローラさんに助けられて・・・」 「奴隷にされていたらしくて、脱出してきたそうなんですの」 「ほお!それは大変じゃったな。辛かったじゃろう・・・。フローラもいいことしたな」 男の人は朗らかに笑う。 「私の名前はルドマンだ。もしこの先どこかでお会いしたらそのときはよろしく頼むよ」 「私からもお願いしますわ」 「は、はい!きっとまだどこかで会いましょうね」 2人の穏やかな雰囲気に流され、自然に笑顔になった。
「・・・それじゃあワシらはそろそろ行かなくてはならんのでな。すまないね、さん。じゃあ出してくれ」 「あ、いえ。お会いできてよかったです」 私はにこ、と笑うと、ルドマンさんも頬をあげた。
「さん、またいつか会いましょう」 馬車に乗り込んだフローラさんは手を振った。やっぱりお嬢様なんだなぁ・・・。私は関心しながら手を振った。
「あ」 手にフローラさんのハンカチを持っていたことを思い出して、私はびっくりした。
「・・・会えるかな」 一人、呟いたけれど、海の波の音にかき消された。
あとがき 以下ゲームネタバレ(反転してください) 2009.09.04 UP |