奴隷生活と華の恋


「う・・・っ」

冷たい。水が頬に当たる感覚に驚いた私は目を覚ました。すぐ上の土から水が滴っていた。
今日も地獄の一日が始まるのか・・・。

「よ・・・いしょっ・・・と」

起き上がれば、ボロボロの奴隷用の服と乱れた髪、ムチに打たれて傷だらけの体。あまりにも無惨な姿だった。でも、それは自分だけじゃない。周りにも、たくさん自分と同じように苦しむ人は溢れ変えるほどいた。

パパスお父さんが死んでから、もう10年の月日が流れたらしい。でも私はまだ、1年も経っていないように感じる。違う 世界だからなのかもしれないけど。

私たちは、パパスお父さんがゲマに殺された後、ジャミとゴンズ、そしてゲマにどこかに連れていかされた。そこはどこかの高台の上で、ボロボロの服を着た人がたくさん、死んだような目で必死に働いていた。

『大神殿』という、建物を作るために。

少しでもサボればムチで打たれ、睡眠時間はたったの2時間、お風呂はただの水風呂。ご飯はしけったパンを一日に2回だけ。餓死で死んでいく者も、今までたくさん見てきた。でも、奴隷として働くみんなには、光があったんだ。

「神殿を作り上げれば、奴隷から解放してやる」という看守たちの言葉。みんなそれを信じて、懸命に働いた。

とヘンリー と私の3人は、何度も脱出を試みたけどいつもダメダメだった。けど諦めなかった 。
私たちには、「の母を探す」という、パパスお父さんに託された大事な 使命があるからだ。

もうこの世界では、私の年齢は既に14歳、とヘンリーは16歳になっていた。私たちの体は大人へと近づいていき、私も元の世界での18歳の自分に、身長や顔もだんだん似ているようになっていったのだった。

 

 

 

 

 

・・・ヘンリー、起きて!」

看守にバレないような小さな声で、とヘンリーを叩き起こす。起床時間にスッと起きなければムチの刑だからだ。

「ん〜・・・?」

「朝だよ〜っ! 」

眠たそうに目を擦るとヘンリー。私は二人が起きたことを確認すると、 ため息をついた。
しばらくして看守が奴隷たちを起こしにくる。そして起きてすぐに作業を開始する。毎日毎日同じことの繰り返しで、つまらなかった。

 

 

 

大丈夫?顔色悪いけど・・・」

「あ、。うん、大丈夫だよ」

仕事中、がそう話しかけてきてくれた。私は一瞬、ドキッとする。
はこの10年の月日で、体は本当にパパスお父さんににてガッシリしていた。

私がを心配させないように笑って言うと、も優しい笑顔になる。

 

 

「こら、そこ! 仕事しろ!!」

看守のどなり声が聞こえ、私に向かってムチが飛んできた。

「きゃっ・・・」

怖くて目をつむると、不思議と痛みがなかった。
ゆっくり目を開けると、が痛そうにムチで叩かれた場所を擦っている。

 

!!大丈夫!?ごめんね・・・」

なるべく小さな声でそう言っても、は笑顔を崩さなかった。

 

 

 

は、すごく優しくなった。6歳と小さかったが、いきなり逞しい体や顔つきになって、毎日まともに顔を見れなかった。いつだって私のことを気遣ってくれて、守ってくれる。兄だから・・・わかっている。兄だから、は私のことを助けてくれるんだって、わかってる。わかってるけど・・・そんな優しいに、私は少しずつ、何かが惹かれていった。

 

 

 

「っあー、疲れたー!」

今日一日の仕事が終わり、みんな倒れ込むように眠る。寝息はすぐにたくさん聞こえた。

 

「・・・なぁ?」

いつもとヘンリーに挟まれて寝る私。今日は、何故かいつも真っ先に眠るヘンリーの声が隣で小さく聞こえた。隣で寝転ぶヘンリーの小さく話す声に私は気づいて、体の向きを変える。

「ん?なぁに?」

「あのさ・・・はさ、好きなやつとかいないの?」

「え」

いきなりそんな事を聞かれて私が顔を真っ赤にすると、なぜかヘンリーの顔も赤かった。

好きな人、か。今まで生きてきた中で、恋心を抱いたのは小学生の時だけだ。家の事情が色々ありすぎて、結局諦 めたんだっけ。

「何でいきなりそんなこと・・・?」

「な、なんとなくだよ・・・!」

ヘンリーは片手で自分の顔を覆い隠した。なんなんだ一体!!

 

「好きな人かぁ・・・」

小さな声で話す私たち。私は一瞬、の顔が頭の隅に浮かび上がった。でもは私のことをただの妹扱いしているだけだ。しかも私がを好きなのって、ヘンリーから見ればただの近親相関なわけじゃないか!!そんなの、言えない!絶対言えない!=いない!チーン!

 

「い、いないよ?」

「・・・本当?」

「本当、本当!!」

私がそういうと、ヘンリーは顔を隠していた手を離し、その手で私の手を掴んだ。

 

「・・・へ、ヘンリー・・・?」

「あのさ・・・」

ヘンリーの顔は 、えらく真剣で・・・。私は頭の中がひどく混乱した。

 

「俺・・・俺、のこと・・・初めて会った時から好きだったんだ」

「!!」

ヘンリーの告白に、私の顔は一気に真っ赤になった。もうこれ何がどうなっちゃってんのォォォ!?

 

「俺よりもガキのくせに、何か好きになってたんだよな。無邪気に笑ってたり世話焼きな所とか・・・。いつの間にか、お前のことばっか見てた」

今思えば、小さい時にヘンリーに話しかける度、顔を真っ赤にされていたのはそのせいだったのでしょうかァァァ!?

「俺年上しか好きにならないと思ってたけど・・・なんかお前なら、俺ずっと好きでいられそうだなって思ってさ・・・。奴隷生活なのにいつも笑顔で頑張ってるの、俺知ってたよ」

「・・・・・・」

それは・・・落ち込んでたって楽しくないからだ。それに、暗いのは好きじゃなかった。ただそれだけなのに。

 

「返事はいつでもいいよ。じゃあ・・・マジでそんだけだからっっ」

小さなヒソヒソ声で私に告白したヘンリーは体の向きを変え、私に顔が見えないようにした。
私はただ呆然としていて、どうすればいいのかも何もわからなくて・・・。
ただ、ヘンリーの大きな背中と緑色の髪を見つめていた。

が、私の後ろで目覚めていたのも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「はー・・・」

私は木を運びながら、昨日のヘンリーの告白を思い出していた。
正直言って、ヘンリーは大事な友達だったのだ。いきなりそういう対象に見るのは、 無理に等しかった。

ヘンリーはいい人だ。断るのはもったいないような気もする。けど、やっぱり・・・。

 

「ひぃぃ!!もう許してくださいっ・・・!」

「駄目だ。お前みたいな新人の女には、ここでの礼儀を叩き込まねばならん!!人の足の上に石を落とすなんざいい度胸だなぁ?」

人だかりが出来ている。何の騒ぎかと人を掻き分けて見れば、そこには新しく入った奴隷のマリアが、2人の看守にムチで叩きまくられていた。いつもなら、看守が罰で与えるムチの攻撃は一度だけ。でも、彼女に対するムチの罰は、何度も何度も・・・看守がムチを振る手を止める気配は見られなかった。

 

「・・・ちょっと、何やってんのよ!!」

昔から正義感だけは人一倍強かった私は、いつの間にか看守たちの前にマリアをかばう状態で飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘンリーさぁ」

「んー?」

「昨日に告白してたでしょ」

「!!!!」

次の日のは、仕事中にヘンリーにこんなことを聞いていた。

 

「おまっ〜〜!何で知ってん だよ!!」

「いや、僕起きてたし・・・」

岩を運びながらは冷静に答えていた。ヘンリーの顔はまたもや真っ赤だった。口をパクパクさせて金魚かお前は。エサつっこんでやろうか。と思うだった。

ヘンリーって面白い。いじり甲斐があるというか何というか。

 

 

「で、の返事は?」

「・・・まだ、だけど・・・」

は ヘンリーのその答えに、なんだか少しだけ安心した。

 

「(・・・あれ?何で僕、今安心したんだろ・・・)」

は、自分の親友の恋を応援しているつもりだったのに。変な自分の感情に疑問を抱いた。

 

 

「やれー!」

「行けー!!」

「・・・? 何の騒ぎだ?」

人だかりが出来ている。奴隷や看守、兵士がたくさんその人だかりの中で何かを応援している。ヘンリーは何の騒 ぎなのか気になって、人込みの中を無理矢理掻き分けて進んでいく。その後を、も着いていく。

 

 

「「!!」」

そこで2人が目にしたのは・・・。

傷だらけの金髪の少女が壁にもたれ、看守2人は誰かと戦っていた。一心不乱にムチを振り回している。相当キレているようだった。

その2人の怒りの矛先は・・・とヘンリーが誰よりも知る、まりんだった。

 

 

「「!?」」

とヘンリーは無意識のうちにそう叫んでいた。は剣を振り、確実に看守たちを攻撃していた。

 

 

「お、おい!どうするよ!?」

「そんなの・・・助けるしかないじゃん!!」

はにやっと笑った。そして2人は、闘いの繰り広げられている舞台へと向かって走り出していた。

 

 

!ヘンリー!?」

「お前にばっかいい所は取らせないぜー! 」

ヘンリーが無邪気に笑いながら、隠し持っていた剣で看守を攻撃する。

だけじゃ危ないからね。こっちは任せて!」

も優しく笑って、私の背中で素手で闘っている。

 

その時だった。

 

「お前たち、何やっている!?」

一気に人だかりが散らかった。息の荒い看守は慌てて頭を下げる。

 

「すみません!この女が石を私の足に落としたもので、制裁を加えていたらこんなことに・・・」

看守の1人が眉を八の字にしな がらそう言う。

 

 

注意したのは、1人の逞しい顔の兵士だった。

 

「そうか・・・。おい、その女を手当てしろ」

「えっ?あ、はぁ・・・」

「後の3人は牢屋にぶちこんでおけ!」

「「はっ!!」」

 

私たちは看守に手をひっぱられ、牢屋に入れられた。マリアは手当てを受けに、どこかに消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ・・・また牢屋かぁ・・・。これで何度目?」

私がそう聞くと 、ヘンリーはニカッと笑って指でパーを作った。・・・5回という意味だろう。多ッッ

まぁ・・・何回も脱出を失敗しているんだから当たり前か・・・。

 

「・・・2人とも、ごめんね。マリアさんがあんな目にあってるの、私黙ってみてられなくて・・・」

私がそう言うと、は私の頭の上に大きな手をのせた。

 

「全然大丈夫だよ!はいいことしただけじゃん。あいつらが間違ってるんだから気にすることないよ!」

ニコッと笑顔でがそう言った。なんだか、すごく安心した。もっとその笑顔を見ていたいとも思った。
私はムチのせいで傷だらけの体の自分たちを、ホイミで回復させた。

そんな時。

 

「あの・・・皆さん、お話があるんですが・・・」

手当てを受けていたマリアが、重く引きずる足で私たちの入る牢屋の前に、立った。申し訳なく立っているマリアのその手には、牢屋のカギと思われる物が握られていた。

 

「「「 ・・・? 」」」

私たち3人は、一体何のことなのか、と首を傾げた。

 

 

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あとがき
奴隷生活になったと初めてゲームでわかったときは、ものすごく辛い気持ちになりました。
こんなのを10年も続けてんのか主人公ォォォォォ!!と(は

2009.07.28 UP