さようなら、大切な人


「きゃあぁあ!!」

持っていた剣ははじかれ、あっという間に私たちはゲマに負けてしまった。
ゲマは強い。今の私たちには強すぎる・・・!

いつの間にかヘンリーの意識はなく、床に苦しそうに倒れ込んでいた。意識はまだあると私だけど、体まではもう動かすことは出来ないくらい、ゲマにやられていた。

 

 

 

「 ! !! !!」

奥から私たちを追いかけてきたパパスお父さんが、驚いた目をして私とを交互に見る。
もう追手をやっつけてきたのだろう。

 

「・・・!?お前、どこかで・・・」

「おやおや、私のことをご存知のようですね・・・。これは益々教祖様の素晴らしさをお教えしなければ・・・」

ゲマはいやらしく笑うと、指をパチリと鳴らした。

 

「出でよ!ジャミ、ゴンズ!!」

「「はい、ゲマさま!!」」

ゲマの合図とともに、天井から2体の比較的、体の大きい魔物が現れた。魔物はパパスお父さんを襲うが、パパスお父さんの強さには敵わない。パパスお父さんは圧勝だった。それを見たゲマは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「チッ・・・!」

ゲマは舌打ちをすると、足元に倒れ ている、まだ意識のあるの存在に気づくと、あることを思い付いた。
ゲマはを拾い上げる。

 

 

「お前何を・・・!を離せ!!」

「ふふふ・・・これならどうでしょうか?」

ゲマは何かを唱えると、手元に大きなカマを握り締め、の喉元にカマの刃先をあてがった。

 

「ぐぬぅ・・・!貴様ぁ・・・!」

パパスお父さんは歯を食い縛る。ゲマは既に勝ち誇ったような顔で、パパスお父さんを見た。ゲマはまた何かを唱えると、パパスお父さんにやられて苦しそうにもがくジャミとゴンズに光が差した。みるみるうちにジャミたちの傷が塞がっていく。回復魔法だったようだ。ゲマはパパスお父さんに向き直った。

 

 

「あなたの子供の命が惜しくなければ、存分に戦いなさい。ただし、この子供の命は永遠に地獄をさまようでしょう」

ゲマはにやっ、と笑った。

 

許せない。

を・・・を離せ!!

 

まだ意識のある私は、匍匐(ほふく)前進でゲマの脚を掴んだ。

 

「ふん・・・こざかしい!!」

ゲマは私の必死の抵抗もものともせず、足を思いっきり振り回した。私の体は宙に浮き、壁に勢いよく激突した。

 

 

「かはっ・・・・・・!」

!!!!!」

吐血した私は、そのまま床へと倒れ込む。
パパスお父さんが必死に私の名前を呼ぶ声も聞こえる。

苦しい。痛い。
涙が溢れてくる。

熱い・・・
目頭が。喉が。体が。

全てが・・・。

 

「へへっ」

「さっきはよくもやってくれたな!!」

回復魔法ですっかり元気になったジャミとゴンズは、再びパパスお父さんに攻撃をしかける。しかし、今度はパパスお父さんは反撃しない。

の・・・命がかかっているからだ。

もまだ、意識はある。気がつけば、たくさん涙のあとが、のすぐ下の床にあった。一滴、また一滴と、床を涙で濡らしていくと・・・私。

 

「うぅ・・・ぁ・・・お・・・・・・とう・・・さ・・・」

「ふふふ・・・子が親を思う気持ち・・・親が子を思う気持ち・・・いつ見てもいいものですねぇ」

 

は必死に声を出して、パパスお父さんの名前を呼んでいる。私も、と思ったけど、もうそんな気力さえなかった。私の横では、チロルが辛そうな顔で横たわっている。私はぎゅっ、と拳を握り締めた。

 

私が今、こんな小さな体じゃなければ。18歳になれたら・・・そうすれば、どうなっていただろう。
少しくらいは、変わっていたかもしれない。

 

無力な自分が嫌い。泣き虫な自分が嫌い。

どうして?どうしてなの?また大切な人を私は失ってしまうの?

 

 

「ぐっ・・・」

まだジャミとゴンズはパパスお父さんに攻撃を加えている。さっきの戦いのせいで余計に腹を立てているから、尚更 攻撃の威力はすごい。

 

「ぐ・・・あぁあ!」

とうとう力の尽きてしまったパパスお父さんは、前のめりに倒れ込んだ。

 

「あーはっはっはっ!所詮はやはりこんなもの!このゲマに敵うものなどいないのだあーー!!」

大きな口を開けて笑うゲマ。は涙を流ことをやめない。もちろん、それは私もだった。

 

 

「く・・・っ・・・はぁ・・・っつ・・・」

「!?」

パパスお父さんは、息を荒くしながらも、必死で立ち上がった。
その強さに、ゲマとジャミたちは目を見開く。

 

 

 

 

・・・・・・・・・聞こえているか・・・!?」

だえだえの息の中で、叫ぶようにと私に話しかけるパパスお父さんの声。と私は今にも失ってしまいそうな意識をなんとか保ちながら、必死にその声に耳を傾けた。

 

「これだけは・・・言っておかねば・・・!!・・・お、お前たちの母さんは・・・まだ・・・どこかで・・・生きている・・・!・・・はぁ、はぁ・・・」

「ちっ・・・」

パパスお父さんは、つらそうに、肺の奥まで息をするように空気を吸い込む。ゲマは舌打ちをするとカマを放り、を床に投げつけ、呪文の詠唱を始めた。あっと言う間に、ゲマの手元には大きな火の玉が出来上がった。

 

 

「私に・・・変わって・・・・・・母さんを・・・・・・!?」

パパスお父さんの姿は、もう見えなかっ た。

ゲマの火の玉は、パパスお父さんに向けられていたのだ。

ゲマの大きな火の玉は、パパスお父さんをまるごと包み込んだ。

 

 

 

 

 

「ぬわーーーーーーーーーーーーー っっ!!!!!」

 

 

 

 

パパスお父さんの悲痛の声が聞こえた。

火の玉は狙いを定めると消えるとまるで言われていたかのように、段々と明るく燃え盛っていた火の玉は消えていく。

 

私は期待していた。
パパスお父さんだもの。きっと・・・きっと生きてる・・・。
あの火が消えても、パパスお父さんは立ち上がって、ゲマを驚かすんだ。

そうだよね? 私の・・・もう一人のお父さん・・・。

 

そんな無謀な、儚い願い。 叶うわけが・・・なかった。

 

もちろん火が消えた時には・・・パパスお父さんは体さえも焼け焦げ、骨のひとつも残らず消え去っていた。残っているのは、パパスお父さんが立っていたであろうと考えられる、黒い煤。

 

 

「安心しなさい・・・。あなたの子供はこれから、教祖様の下で奴隷として永遠に働くのです・・・」

ふふふ、と笑みをうかべたゲマは、ジャミたちを指差した。

 

「ジャミ!ゴンズ!この子供たちを神殿に連れていきなさい!」

「「はっ」」

ジャミはとヘンリーを、ゴンズは私を抱えた。ゴンズはチロルを拾い上げると、ゲマに尋ねた。

「ゲマ様、この猫はどうします?」

「猫?・・・野放しにしておきなさい。野生なら本来の性質を取り戻すはずですからね」

「わかりました!」

ゴンズは指令を聞くと、チロルを足元に置いた。

 

 

「さぁ行きますよ!」

ゲマがそう言うと、私たちはどこかへワープした。

 

「パパ・・・ス・・・お父・・・・・・さ・・・ん・・・」

私はその瞬間に、意識を手放した。

 

 

 

「キューン・・・・・・」

チロルは、遺跡の中の黒い煤の臭いを、ただひたすら嗅いでいた。

パパスお父さんの、いた場所・・・。

きっと全てを、チロルは悟っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、お母さん。

私は、二人目の、優しいお父さんを失いました。

 

私はいけない子なのかな。 私はこの世に生まれちゃいけなかったのかな。

どうして大切な人ばかりを失うの?

なんのために生まれてきたんだろう。

神様に見放されたんだね、きっと。

 

私なんてきっと、生まれてこなきゃよかったんだ。 だって、ただの疫病神だもん。

 

私さえ生まれてこなきゃ、お母さんは死ななくてすんだ。

私さえ生まれてこなきゃ・・・きっと・・・。

 

 

 

誰か・・・

誰か助けて・・・

 

 

 

 

 

私を、助けて・・・・・・―――――――――――――――――――

 

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あとがき
考えさせられる小説、というのをイメージして書きました。
ものっそいシリアスです。これからこういうのが続いてしまうかも。

2009.07.23 UP