さようなら、大切な人
「じゃあ、、私は少し王様と話があるから、しばらくヘンリー王子と遊んでいてくれ」 パパスお父さんは私たちにそう言うと、王様のところへ向かった。
「やっぱりお城の中って・・・すごいね、・・・」 「うん・・・こんなとこきっと一生来れないだろうなって思ってた・・・」 ラインハット王国のヘンリー王子の部屋まで行く途中に、私とはお城の中を見渡しながら感動していた。豪華なシャンデリア、赤い絨毯、綺麗な細工の施した部屋の扉。その一つ一つに目を輝かせながら、と私たちはヘンリー王子の部屋を訪れたのだった。
「お前たちが・・・パパスの息子と娘?」 「うん!」 ヘンリー王子はいかにも王子!という感じの服を身に纏い、豪華で座り心地の良さそうな椅子に堂々と座っていた。はヘンリーの問いかけに大きな声で返事する。 「ふ〜ん・・・。ま、いいや。今日からお前らは俺の子分な!」 「「・・・・・・は?」」 意味がわからなくて、私とは王子相手にこんな事を言ってしまっていた。 「なんだよ、文句あんのか?」 「ありまくりだよ!だいたい僕と王子もがっ!「いいえ何でもありませんっ!!」 が色々何かを言ってしまいそうだったので、私は咄嗟にの口を塞いでいた。ヘンリー王子の顔を見るとなんだか顔を真っ赤にしていたが、どうしたのだろう。
「・・・ふ、ふんっ!じゃあ最初の仕事だ子分!この奥の部屋にある宝箱の中身を取ってこい!」
「もう〜!なんで口塞いだの!?」 「だって相手王子様だよ?下手なこと言ったら大変なことになっちゃうよ!」 私がそう言うとは悔しそうな顔をしていた。 ・・・それにしてもさっき私の顔をみて真っ赤になっていたのは何だったのか・・・それだけがものすごーく気になる。
「・・・と、とりあえず今は言われたことを・・・あれ?」 宝箱の中を開けても、中身は空っぽ。
「はっはっはぁ〜!バッカじゃねぇの?あるわけねーじゃん!」 ヘンリーは腹の立つ声でこちらにベロを向けると、走り出した。 「あっ!待ってよ!」 私がヘンリー王子の後を追うと、も後ろから着いてきた。ヘンリーは自室のドレッサーの前にある椅子をどけ、隠された階段を降りていった。その後を追うと、お城の1階に出た。
「へへっ、追い付いてくるなんてなかなかだなっ!子分として認めてやろうじゃん!」 ヘンリーがやっと笑顔を見せてくれた。それになんだかホッとした私が、気を抜いた時だった。ヘンリーのすぐ横にあった、外へと続く扉が開いた。 まるで───────この瞬間を狙っていたかのように・・・。
開いた扉からは男が2人ほど入って来て、ヘンリーの腕を掴んで口を押さえた。
「!?」 私はあまりに突然すぎる出来事に、一瞬頭の中が真っ白になった。
「ヘンリー!」 もうすっかり呼び捨てのがヘンリーを追いかけて男に体当たりしたが、男は物ともせず、ヘンリーをしっかり掴んで外に出ていった。慌てて追いかけると、既に城の外にある用水路に用意されていたイカダに乗せられ、ヘンリーと男2人はどこかに行ってしまった。
「どうしよう・・・!」 「う・・・う〜ん・・・あ!お、お父さんに知らせよう!!」 王様と話をしているパパスお父さんの元まで、慌てながらも私たちは全速力で走った。
「「お父さん!!」」 「ん?どうした?」 部屋の扉を開けると、ラインハットの王様とパパスお父さんは紅茶を飲みながら椅子に座り話し合っていた。 「お、王子が誰か男の人2人くらいにさらわれちゃって・・・!」 「な、何だって!?」 私がそう言うと、パパスお父さんは勢いよく椅子から立ち上がる。テーブルに乗っていた紅茶のカップから、ミルクティーがたくさん零れる。 「ヘンリーが・・・!?」 王様は焦って、何をすればいいのか分からないようだ。
「とにかく私が輩の後を追います!」 パパスお父さんはそう言うと、私には到底追えない程の足の早さでヘンリーの後を追跡しに行った。 「!僕たちもいこう!」 が真剣な眼差しで私を見て、手を差し伸べた。私は頷いて、その手を握る。私たちもパパスお父さんのもう見えない姿を探しに城を出た。 「ヘンリー・・・!」 ヘンリーの唯一の肉親である王様は、目を瞑ってただただヘンリーの無事を祈るばかりだった。 ・・・大変なことになってしまった・・・。
「お父さんどこ行っちゃったのかなぁ・・・?」 お城を出ても、パパスお父さんもヘンリー王子の姿も見当たらない。もう諦めてしまいそうになった時だった。なんとなく、背後に悪寒を感じた。
「・・・!、ここ・・・」 が怯えた表情で見つめる先は、遺跡。雰囲気は薄暗く、怖い。 「あ!」 遺跡の入り口には、キラキラと輝くペンダントか落ちていた。中には綺麗なエメラルドの宝石が埋め込まれている。きっとこれはヘンリーのものだろう。
「お父さんもいるかもしれない・・・行くよ、!」 「う、うん!」 少し不安になりながらも、私とは遺跡の中に入っていった。
遺跡の中は気持ち悪いぐらい薄暗く、魔物も強かった。必死に私と、そしてチロルは戦った。そうしながら奥に進むと、パパスお父さんがなんと魔物と戦っていた。
「お父さん!!」 「おお?たちか!?こんなところまで父さんナシで来るなんて成長したな!父さんは嬉しいぞ!」 パパスお父さんは魔物にトドメを刺し終わると、私たちの方へ振り返った。 「一人で先に行ってしまってすまないな。まだヘンリー王子は見つかってないのだが、この遺跡の奥にいるのは確かみたいなんだ。、、そしてチロル。父さんの後ろを任せたぞ!」
しばらく奥へと行くと、ヘンリー王子が牢屋の中に入れられていた。 「ヘンリー王子!・・・ぬっ・・・ぬおぉおぉぉぉぉ!!!!」 パパスお父さんは助走をつけて、勢いよくヘンリーのいる牢屋へと体ごと突っ込んだ。鉄の牢屋は崩れ去り、ヘンリーが脱出できるようになった。
「ふん、随分助けに来るのが遅かったじゃないか」 ヘンリーは腕を組んで待ちわびたようにそう言った。
「・・・でも俺なんか城に戻らないほうがいいんだ。王位は弟が継ぐ。俺は必要ないんだ」 「ヘンリー王子!!」 パンッ! 乾いた音が辺りに響いた。 「な・・・っ、殴ったな!この俺を!!」 「あなたはっ・・・あなたはお父上のお気持ちを考えたことがあるのか!?」 パパスお父さんは目を見開いてヘンリーにそう叫んだ。ヘンリーは叩かれた頬を押さえながら、パパスお父さんを睨み上げた。 「・・・まぁお城に帰られてからゆっくりお話されればよいでしょう。とにかく今は追っ手が来ないうちに逃げましょう!!」 パパスがそう言った瞬間だった。騒音を聞きつけたのか、城でヘンリーをさらっていった男が現れた。
「! さっそく追ってきたか・・・!、!ヘンリー王子を連れてここを脱出するんだ!!父さんはこいつらを仕留めてから行く!」 「「わかった!!」」 はヘンリーの手を無理矢理繋ぎ、私はチロルを抱えてひたすら走った。
「あっ、誰か来た・・・」 は静かにするように合図をしたので、私もヘンリーも口を開けないように必死に息を殺した。
「皇后様にさー、王子を始末してくれって頼まれたけどよー・・・殺せと言われたわけじゃねぇしなー」 「王子を奴隷として売ればまた金が入るんじゃねえの?こりゃあ一石二鳥だな!あっはっは!!」 高らかに笑いをあげる男2人の会話。 ひどい・・・ひどすぎる。 しかもさらうように仕組んだのはラインハットの皇后ってどういうこと!?
「・・・あのさ・・・俺の母さんは・・・俺が今よりもっと小さいころに死んだんだよな・・・」 私の疑問に答えてくれるかのように、ヘンリーは男たちが去ったことを確認して話し始めた。 「親父は今の義母と結婚して・・・子供が出来て・・・それが俺の弟のデール。親父もあの女もデールが可愛くて仕方ないんだろうな。・・・そりゃそうだろうな・・・俺なんかただの除け者だからな」 悲しそうに笑うヘンリーをは見た。私たちの間に沈黙が流れる。
「ヘンリーは・・・ヘンリーは除け者なんかじゃないよ」 「・・・え?」 私がそう言うと、ヘンリーは顔を上げた。少しだけ、希望を持ったような顔つきだった。
「お城は居心地が悪いなら私たちと一緒にいなよ。私たちは人を除け者になんて絶対にしないよ。ね、?」 「うん!もちろん!」 私とが少しだけ笑ってそう言うと、ヘンリーも笑った。
「・・・約束だかんなっ」 ヘンリーは右手の小指を差し出した。私とも小指を出し合う。
「早く行こう!」 私たちは脱出の再会を試みた。 あと少し。あと少しで・・・外だ。 その時だった。
「・・・!?」 私は悪寒のような、気持ちの悪い殺気を感じた。
「ここから逃げようだなんて、考えの悪い子供たちですねぇ・・・?私が教祖様の素晴らしさを教えて差し上げましょう・・・」 ゲマと名乗る魔族の男は、そう言った。
・・・地獄が、始まる。
あとがき 2009.06.29 UP |