ラインハットへゴォォォォ!!!
「ん〜・・・?」 私が目を覚ますと、大きな誰かの体があった。 「・・・? ・・・ぅぉっ!」 変な声が出てしまったが、当然だ。少し上を見上げると、目の前にはパパスお父さんの顔があったのだから。 パパスお父さんを起こさないように体を動かし辺りを見回すと、の眠っている顔がすぐ横にあった。 「(うわぁ・・・睫毛なっがいなぁ・・・。絶対に大人になったら美形になるわこの子・・・)」 少々ドキドキしながらの寝顔を数秒 凝視した後、真上を向くと家の天井。 「(夢・・・だったのかな・・・?ベラ・・・)」 そう思ったが、すぐ隣を見るとの手には大事そうに桜の枝が握られていた。 「(夢じゃ・・・ない・・・)」 私は夢じゃなかったことが嬉しくて、気付けば2度寝してしまっていた。
目を覚ましたら、日が少しだけ真上に上がってきている。きっとお昼近くなのだろう。パパスお父さんの姿はもうなく、はまだ隣でぐっすり眠っていた。 「!ってば!」 「ん・・・ぅ〜?」 「起きてっ!」 の体を揺すると、は眠そうに目を擦った。
「お父さんおはよっ!」 「おお、か。おはよう。は?」 「はまだ眠そう・・・」 私がそう言う後ろで、は欠伸をしながら階段を降りてきた。 「う〜・・・お父さんおはよ〜・・・」 「坊っちゃん、しっかりなさって下さい!お嬢様はシャキッとしておられますよ?」 のフラフラの足を支えるように、サンチョはの体を持ってあげる。
「お昼ごはんはまだですから、外で遊んできてはどうですか?」 「そうだな、そうしなさい。もそれで目を覚ませ」 「はぁ〜い・・・」 はもう一度欠伸をした後、私の手を握って外に連れていこうとした。
「あ、そうだそうだ。、、今日は午後は出掛けるからな」 「えっ?どこに?」 「ラインハットというお城に行くのだよ。王子のお守りを頼まれててね。と同い年だから、遊んでやれよ」 パパスお父さんはそう言うと、サンチョと話し出した。
「やったぁー♪久しぶりの旅だぁ!」 はずっと飛び跳ねていた。さっき足を滑らせてこけてたけど。チロルが危うくに踏み潰されそうになっていた。 「旅がそんなに嬉しいの?」 「もっちろん!お父さんのかっこいい姿が見れるの大好き!」 はとびきりの笑顔でそう言う。さっきまでの眠そうな顔がまるで嘘のよう。私もそれに笑顔で返すと、横で教会のシスターがまたまた顔を真っ赤にして、何かに見とれていた。
「かっこいいわ・・・」 「またいたんですか?あの男の人」 「うわぁああっ!あ、ちゃん・・・!」 シスターは私が話しかけると慌てて視線を私に向けた。シスターの見ていた先には、やはり紫色のターバンとマントに身を包んだ、長い黒髪を後ろで結っているにそっくりの男の人。どこか面影がある。何日か前にもこの村にいて、確かシスターはその時も男の人に見とれていた気がする。
「やっぱりに似てるなー・・・」 「そうかなー・・・?僕はそれよりも奥の女の人の方がにすごく似てると思うけど?」 「・・・・・」
が指差したのは、低い位置で二つに緑のリボンで結ぶ、茶髪の女性。今の私も、ビアンカにもらった大事な緑のリボンを高い位置で結んでいる。やっぱり似ている。元の世界にいた、18歳の私に。前に来ていたときもどれだけそう思ったことか。 にも私にも似ている大人の二人。もしかしてドラ○もんみたいに未来からのタイムスリップ!?
「ねぇ、君たち」 考えすぎていて分からなかったが、気付けば二人はと私の目の前まで来ていた。チロルも不思議そうに首を傾げている。 「僕、綺麗なもの持ってるね。ちょっと見せてくれないかな?」 男の人に、は話しかけられていた。”綺麗なもの”とは、ビアンカとレヌール城に行った時に、王様とお妃様にもらったゴールドオーブのことだ。の鞄から少しだけ覗いていたのだ。 「うん、いいよ?」 は何のためらいもナシに、ゴールドオーブを手渡した。男の人はしばらくゴールドオーブを眺めた後、礼を言いながらに返した。 「・・・二人とも、どんなにつらいことがあっても、諦めちゃ駄目だよ?」 「・・・? うん、わかった!」 私とは何のことか全くわからなくて、とりあえず返事をしておいた。 でも後で知った。未来のがどうしてこんなことを言っていたのかを。
その後私は男の人の隣にいた、私にそっくりな女の人を見上げた。すると女の人はニコッと優しく笑った。似ている。身長も、笑った時にできるシワの場所も。今まで何度も、友達の前で不自然な笑顔にならないように鏡の前で練習してきたから知ってる。 きっとこの2人は、未来から来た私となんだ・・・。
「じゃあ行こうか、」 「うん、そうだね」 二人はそんな会話をすると、私たちに手を振って村から出ていった。
「・・・え?」 は名前が同じだったことに、かなり混乱していた。またチロルはの頭の上に乗っていた。
「ではそろそろ出掛けるかぁ!」 「わぁ〜い!!」 お昼ご飯を食べ終え、パパスお父さんとと私は出掛ける準備をしていた。
「じゃ、サンチョ。すまないがまた留守番をよろしくな」 「お気になさらずに。どうかお気をつけて!」 サンチョは穏やかな笑顔で、私たちを送り出してくれた。
サンタローズを出て、しばらくしてからパパスお父さんが口を開いた。 「、まりん。全然遊んでやれなくてごめんな。この仕事が終わればひとまず父さんは仕事がなくなるから、帰ったらすぐに遊んでやるからな!」 「本当!?やったあ!!」 はすごく嬉しそうだった。もちろん私も、『親』・・・いや、『家族』と遊ぶということに、心を踊らせていた。 でも・・・もし本当に神様がいるなら、いじわるだ。に、そして私に・・・こんな酷い仕打ちを与えるなんて。
『帰ったらすぐに』なんて、そんなの、本当に『すぐ』だと思ってたんだ。 あの日、まぶしく見えたパパスお父さんを、村のみんなを、の嬉しそうな笑顔を。そして穏やかなサンタローズの景色を、もっと見ていればよかったと、後悔した。
「うわ!きれー!!」 ラインハットという国に行く途中には、大陸と大陸の境を通る水中橋を歩いた。橋を抜けると川を一望できる展望台があり、はそれにはしゃいでいた。
「はっはっはっ!どれ、肩車してやろうか?」 パパスお父さんはを肩車してあげた。 「すごいすごーい!!」 は喜びすぎてパパスお父さんの肩から落ちてしまいそうな勢い。そんなが可愛くて、私は笑った。
「もしてやろうか?」 「えっ、でも・・・きゃああっ!」 気付けば私の体は宙に浮き、パパスお父さんの左肩に乗せられていた。は右肩。
「わぁ!お父さん力持ちだね!」 「当たり前だ!というかお前ら軽すぎだ!」 大きな声で笑うパパスお父さん。笑う横顔が、によく似ていた。やっぱり親子だなぁと思う私は、お母さんのたまに見せる笑顔を思い出していた。
『、ありがとう。ごめんね・・・』 いつもいつも謝っていたお母さん。最期の言葉でさえ「ごめんね」と謝っていたお母さん。
「、どうかしたか?」 ただボーッと川を眺めていた私を心配したパパスお父さんは、私の顔を覗きこんで尋ねてくれた。 「だ、大丈夫だ・・・よっ!」 なんだかそんなことを考えていた自分がバカらしくなってきて、笑顔で返した。
「じゃあそろそろ行くかー!」 パパスお父さんは私とを肩から降ろすと、再びラインハットへと向かうため歩を進めた。
私は今でも忘れない。この時が、どれほど幸せだったかを。きっとそれはも一緒。
私はどんなに時が立とうと、あいつを許さない。絶対に・・・。
あとがき 2009.06.29 UP |