妖精の世界と春風のフルート


「今ね、妖精界が大変なことになってるのよ。それで人間の力が必要ってわけ」

ベラは私たちが地下に来ると即座に話を始めた。

「でも私たちのことが見えるのは子供だけみたいだし・・・仕方ないのよね」

そう言うベラだが、ベラもせいぜいビアンカと同じくらいの歳にしか見えない。

「あんたたちが強いのかは・・・あっ!誰か来たみたい・・・」

ベラは口の前で人差し指を立て、静かにするように指示した。

 

「・・・ん?なんだ、か。誰かの話し声が聞こえるかと思ったら・・・。ここは寒いだろう?体が冷える前に早く上がってこいよ」

来たのはパパスお父さんだった。

「は〜い、お父さんっ」

は笑顔で言うと、1階に上がっていくパパスお父さんが完全に見えなくなるまで見送ると、ベラに向き直った。

「ほらね?みーんな私のこと見えないでしょ?本当はもっと強い人を連れてきたかったんだけど、誰か連れてこなきゃポワン様に怒られちゃう・・・」

「ぼ、僕たちだって強いよ!」

ベラの言い草には少しだけ膨れっ面になった。

「・・・ま、いいわ。早速行きましょ!」

ベラは両手を上にあげた。するとベラの手の平がたくさんのまぶしい光で輝きだし、気づけば家の地下には妖精界へと続くピンク色のガラスのような階段が現れていた。

「うわぁ〜!かわいい!」

私は思わずそんな声を洩らしてしまっていたほどだった。

 

 

 

 

 

「ここが妖精界よ!」

「すご〜い・・・」

家の地下からの階段を上がると、そこには人間やエルフに魔物・・・、たくさんの生物が住んでいた。

「この世界の女王様のポワン様はすごくお優しい方だから、どんな生き物でも受け入れてくれるのよ。本当はもうこの季節なら桜が満開でもっと綺麗なんだけど・・・」

そこまで言うとベラが悲しそうな顔になった。

「春風のフルートっていうものをポワン様が吹かなければ春は来ないんだけど・・・元々この妖精の村に住んでたザイルって奴に盗まれちゃってさ・・・」

ザイルはポワンに一度注意されたことがあり、それでひがんでポワンに逆らうようになってしまったらしい。このまま冬が続くと、妖精たちは耐えきれなくなってしまうそうだ。

 

「本当は私たちが取り返しに行きたいんだけど、この寒さのせいで全然ダメなのよね。本来の力が出せないっていうか、さ・・・」

そう言い終わった後、ベラは思い出したような顔になった。

「そう言えば名前言い忘れてたわよね。教えてくれない?」

笑顔で言うベラに、は元気に言った。私もそれにつられて大声で言ってしまう。

 

ね。わかったわ。じゃあポワン様のとこに行こっか」

私たちの手を引いて、ベラは無理矢理そのポワン様とかいう人のところに連れられた。

 

 

 

 

 

「・・・ベラ?あなた・・・どうして・・・」

私たちを見た瞬間、ポワンは肩を落としてベラを見た。ベラは慌てながら「ち、違うんです!」と否定していた。きっと子供だったので期待外れだったのだろう。

ポワンは綺麗な女性だった。ベラはお優しい方だと言っていたが、ベラへの笑顔は笑っていたが怖かった。第一印象は怖い。

 

「・・・まぁ、連れてきてしまったものはしょうがありません。・・・、ですね?ベラからはもう話は聞きましたか?」

「あ、はい・・・」

ポワンは真剣な表情で私たちにそう尋ねたので、私は頷いた。

「そうですか。ザイルのいる場所は、この村を出て北に行けばあります。・・・頼みます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあっ!何であたしまでー!?」

ポワンに言われ、ザイルの元までの旅にはベラも着いてきた。こちらとしては人数の多い方が心強いので嬉しいのだけれど。

「まぁまぁいいじゃん!そのザイルって奴に勝てばいいんでしょ?」

が戦うことを嬉しそうにしながらベラに言う。

「あのねー、そんな簡単に・・・きゃっ!!」

ベラの背後から魔物が襲いかかってきた。

 

「よ、妖精の世界なのに魔物いるの!?」

「当たり前でしょ!魔物なんてどこの世界にでもいるわよ!!」

咄嗟に私とは短剣を構えた。

 

「やぁっ!!」

「えーいっ!」

が剣を魔物に突き刺し、私は魔物を斬るように振り上げた。魔物はまるで煙のように消えていく。

 

「へーぇっ!あんたら結構強いじゃないっ!」

「そりゃあねっ」

ベラが誉めると、は得意気に胸を張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがザイルのいる場所かぁ〜・・・」

妖精の村の和やかな雰囲気とは打って変わって、氷山のような場所で寒く、怖かった。

「あいつ、こんなとこで何やってんのかしら・・・。さぁ行くわよ、!!」

「「いえっさぁー!!」」

 

 

洞窟の中はやはり寒く、あたり一面氷だらけ。そんな寒さの中、耐えながら奥まで進むと・・・。

 

「あっ!あれがザイルよ!」

氷の祭壇のような上に乗っている魔物・・・それがザイルだった。ザイルはまだこちらに気づいていない。しかしなかなかザイルの元まで辿り着くことが出来なかった。それは・・・滑る氷の床のせい。まるでスケートリンクのようだった。

 

「うわわっ!」

「きゃー!」

私たちの慌てる声のせいで、ザイルはこちらに気がついてしまった。

 

「へへっ!ベラじゃねーか!来れるもんならココまでおいでーだ!」

魔物としての年齢は今の私と同じくらいなのか、話し方が幼稚だった。ベラは歯を食い縛りながら滑る床を必死に歩いていく。

 

「はっはっはー!このザイル様の元に来れるわけが・・・あ?」

ザイルは得意気になっていたせいで、周りに気がついていなかった。気づけば、ザイルの後ろにはが佇んでいた。

「えいやぁあああ!!フルート返せェェェェ!!」

は武器を使うことなく、ザイルを一発KO。ベラも私も唖然として口をポカーンと開けていた。

 

「う・・・あぁ・・・お前、何モン・・・?」

ザイルは痙攣した後、倒れた。

 

「やったぁ!」

「ちょ・・・・・・やりすぎじゃない・・・?」

ベラはを呆れた目で見ていた。

 

 

「ふふふ・・・よくもやってくれましたね…」

「「「!?」」」

「女王様・・・!」

どこからか声が聞こえ、私たちは辺りを見回す。すると目の前に、全体的に白に包まれた見ていてとっても寒い女の人だった。

 

「ザイル、下がりなさい」

「は、はいっ!」

ザイルは女の人の後ろに隠れる。

 

「私は雪の女王。私の手下を傷つけたお仕置きをしなければなりませんね・・・」

ザイルとはオーラからしてもう違うその雪の女王に、私たちは怯えながら見た。

 

「・・・覚悟しやがれ!!!!」

雪の女王はいきなり豹変した。目は赤色になり、空を飛び、私たちに襲いかかる。

 

「きゃあぁ!」

!」

雪の女王が私へと向かって急降下してくる寸前に、は私を助け出してくれた。

 

、大丈夫!?」

「う、うん、ありがと!早く戦おう!」

私はに礼を言うと、雪の女王に向かって短剣を振りかざした。ベラも、呪文をたくさん使っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁああ・・・・・・!!」

何時間かの戦いの末、私たちは雪の女王に勝つことができた。雪の女王は断末魔を上げて消えていった。

 

「・・・はっ!僕今まで何してたんだろう・・・」

ただ呆然と私たちの戦いを見ていたザイルは、いきなり声を上げてそう言い出した。

 

「さーてとザイル。フルート返してもらおうかぁ?」

「え?あ?女王様は・・・?」

辺りを見渡すザイルに、ベラはため息をついた。

「あのねぇ、あんたはあの化けモンに騙されてたの!わかる!?あいつは悪い奴なの!!」

「えっ!?あ、そうなの!?」

ザイルはショックを受けたような顔になった後、肩を落とした。

 

「・・・まぁもう過ぎたことだし、ポワン様にちゃんと謝りなさいよ」

「うん、そうするよ・・・ありがとう。・・・あ、そうだ、コレ・・・」

ザイルは罰が悪そうに、春風のフルートを懐から取り出した。

「これで早く春を呼ばなきゃダメなんでしょ?」

「そーよっ!わかってんならさっさと出しなさいよねっ!」

ザイルからフルートを奪いあげたベラは、私に渡した。

「・・・え・・・?」

「あなたたちがいなかったらここまで来れなかったわけだし・・・それをポワン様に渡してくれない?だってなんか私が渡したらさー、おいしいとこだけ持ってく意地汚い女みたいになるじゃない?」

小さくウィンクをしたベラは、私に向かってそう言った。

「うん・・・わかった!ありがとう、ベラ」

私がそう言いながら笑うと、ベラも笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとう、!」

ポワンは礼を言うと、私たちからフルートを受け取った。

 

「それでは・・・いきますね」

ポワンは柔らかく、優しくフルートを奏でだした。村にフルートの美しい音色が響き渡る。その瞬間、寒かった村の雰囲気は暖かくなり、桜がたくさん咲き、ピンク一色になった。

「うわぁ・・・!すごい!!」

私は思わず感嘆の声をあげていた。村の人たちが喜ぶ姿を見て、も私も嬉しくて笑顔になった。

 

 

 

 

 

「今日は本当、どうもありがとね!」

宿屋まで着いてきたベラは私たちにそう言った。

「これでしばらく暖かい春だわ!これもたちのおかげよ。感謝してるわ!」

ベラはそう言うと、どこからか桜の一枝を取り出した。

「・・・これ、感謝の気持ちよ。私とたちと出会えた印ね」

無理矢理の手に枝を握らせたベラは、私との顔を見た。

「あなたたちに会えてよかったわ。子供にしちゃあ強かったしね〜」

「こどもにしちゃって何だよ!」

は少し怒ったように眉を吊り上げた。

「嘘よ嘘。・・・じゃあ私はもうそろそろ戻るわね」

「うん・・・」

今になって、寂しくなってしまった私は、悲しい表情でベラを見た。

「もー、大丈夫よ!またいつか会えるからさっ!」

私の背中をバシバシと叩くベラ。私は咳き込んでしまった。

 

「じゃぁ・・・元気でねっ!」

ベラは私たちに背を向けて、ポワンのいる場所まで戻っていった。心なしか、ベラの瞳は村の明かりに潤んで輝いていた気がした。

←Back Next→ Top


あとがき
ベラのキャラが大好きです(^ω^)★((そうですか

2009.06.29 UP