召使いと幼馴染と洞窟の出会い
「パパスさん!くん!ちゃん!おかえりなさい!!」 サンタローズに着いたのだろう。村の門で警備をしていた兵がパパスに敬礼をする。パパスはこの村の村長か何かなのだろうか。 村を歩いているとみんな「おかえりなさい!」と旅の帰りを祝ってくれた。どれだけ長い間この村を離れていたのかと、私は疑問を抱いた。
「おかえりなさいパパス様!」 パパスやの家(いちおう私の・・・家?でいいのか?)だと思われる家のドアを開けると、出迎えてくれたのは少し太っている男の人が出てきた。なんだか体型とは打って変わってお顔はチャーミングな人だ。
「坊ちゃんもお嬢様もお帰りなさいませ」 「ただいま、サンチョ!」 「お、お、お、お、お、お、おおおおおおお嬢様ー!?」 サンチョとかいうようだが、その人にお嬢様なんて呼ばれて私は混乱する。そんな高い身分じゃないよ私・・・!超一般の人だよ・・・!!
「どうされましたか、お嬢様?」 「お嬢様なんて滅相もございませんううう!!普通にって呼んでくださいよ!」 私が手をあたふたと振りながらそういうと、サンチョはいきなり目を厳しくした。
「何を言っておられるのですか!私はパパス様一家に仕えるものですよ。そんな呼び捨てになどできません」 「ひいぃぃぃ・・・」 この人にはいくら言ってもムリそうだ・・・。
「おじさま、おかえりなさい」 サンチョの後ろに、二つ結びで三つ編みをしている女の子が出てきた。 「・・・おや?サンチョ、この女の子は誰だい?」 パパスは不思議そうに首を傾げて女の子を見る。
「あたしの娘だよ、パパス!」 「おお、ダンカンのおかみさんじゃないか!これはこれは、どうしました?」 「実はパパス、あんたに頼みがあってね。主人がこの村にある洞窟に入っていったきり戻らないんだよ。私じゃ魔物を倒せないから行けないし・・・」 パパスとダンカンという人のおかみさんは長々と話し出した。
「ねぇ、大人の話って長くなるから上に行かない?」 さっきサンチョの後ろにひょっこりと現れた女の子が私たちに話しかけた。と私は一瞬目を合わせ、何も言わずにゆっくり頷いた。
「じゃ、行きましょ!」 女の子は服を無理やり引っ張って私たちを連れて行く。
「2人とも私のこと覚えてるかしら?」 私は覚えてるどころか全く知らないので首を振った。もどうやら覚えてないらしい。
「・・・ま、ムリもないわね。あのときはは4歳では2歳だったかしら?」 そら覚えてないわ。と思う私だったけどまず会ったこともないわ・・・!!
「私の名前はビアンカよ。よろしくね。ビ ア ン カ よ!よーく覚えてね」 ビアンカはにっこり笑ってそういう。可愛い子だなぁ・・・。
「そうだ、私がご本読んであげよっか。ちょっと待ってね!」 ビアンカは上の部屋にあった本棚から適当に本を取り出すと読み始めた。
「じゃ、読んであげるわね。え〜・・・と・・・」 ビアンカは頭の上に疑問符が見えそうなくらいに悩み、必死で文字を解読しているようだ。が。 「・・・ふぅ、ムリね。これはだめだわ。だって難しい字が多すぎるんですもの・・・!」 ビアンカは悔しそうに拳を握った。それにがぷ、と笑うとビアンカはを軽く睨んだ。
「なーによ、何が面白いのよ?」 「え・・・だって・・・くふふ」 「じゃあ読んでみなさいよ!」 ビアンカは持っていた本をに押し付けた。はビアンカの読んでくれたページを開けて見てみたが、どうやらわからなかったようだ。 「ほらね、分からないでしょ?そもそも私はあんたよりも2歳も年上なのよ!」 ビアンカは胸を張ってえっへんと言った。は私と初めて会ったときのように頬を膨らましてビアンカを見ている。そうか、ビアンカはより2歳上ということは8歳か。そして私とは4つも離れてるのか・・・! ちょっとショックに陥りながらも、私はが片手に持っていた本を取って見てみた。
・・・よく分からない字が羅列しているが、何だかちょっぴりひらがなに似ているような気もする。私はちょっと読み始めてみた。
「んっと・・・そらに、く、せし・・・ありきし・・・か・・・?」 「「 !? 」」 ビアンカとは目を丸くして、文字を読んでいた私を見た。
「どういう意味だろね、これ?」 私がえへ、と笑って舌を出すと、ビアンカは私の肩とその舌を掴んだ。
「どーしてはまだ4歳なのに字が分かるのよ!!ねぇ何で!?なんでぇー!?」 「い、いひゃいよぉ、ビアンカちゃんいひゃ!舌つかむなああああああああああああ!!!」 私が叫ぶとビアンカは舌を掴んでいた手を離した。
「(まあ元は18歳ですから・・・。文字読めないとちょっと恥ずかしいわ・・・。まぁ今は4歳だけどね!!)」 私は一人で心の中で突っ込んでいたが、とビアンカは首を傾げながら私を見ていた。 その後は絵を描いたり、ビアンカは私の長いのか長くないのか分からない微妙な髪を、自分も使っている緑のリボンの余りで二つに結ってくれた。私が顔を動かしたりするたびに、自分の茶色の髪が高い場所でゆらゆらと揺れる。ビアンカのように三つ編みではないけれど、これも可愛いなーと私は大満足する。さすがにいい年してツインテールは出来ないし、母親はいつも寝たきりだったから髪を結んでくれることもなかった。
「ビアンカー!帰るわよ!」 「はーい、お母さん!・・・私の家ね、アルカパってところにあるの。サンタローズのすぐ近くよ。いつかおいでよ、おいしいぶどう食べさせてあげるわ。じゃあね!また遊びましょ!」 ビアンカは満面の笑みで手を振ると、母と手を繋ぎながら帰っていく。
「、、私はこの2人をアルパカまで送ってくるからな」 「気をつけて行ってらっしゃいませ、パパス様」 パパスはそう言うと、ダンカンのおかみさんとビアンカと一緒に外へ出て行った。サンチョは玄関に向かって礼をしている。
「さて・・・と、坊ちゃん、お嬢様。今日はもう休まれてはどうでしょうか?何せ2年半もの長い旅路だったのでお疲れでしょう」 「僕は大丈夫だよ、サンチョ。それよりもを休ませてあげて?」 は笑顔でそう言ったので、サンチョの視線が私に注がれる。
「え、あぅっ・・・私も大丈夫です・・・!」 「そうですか?それよりもお嬢様、私に敬語なんて使わなくてよろしいんですよ?」 サンチョは朗らかな表情で言うがそんなことはできない。
「い、いいんです・・・!遊ぼっ!」 私は何だかサンチョは苦手かもしれない。笑った顔も声も優しくていいが、やはり召使いという今まで持ったことのない関係がサンチョを苦手にさせるのだろう。
「んーっ、サンタローズは久しぶりだなぁあ!ね、!」 「え!?あっ、ごめんなさい私何も覚えてないのよね・・・!!」 設定に合わせるのが大変だ・・・。私は常時あたふたしながら皆と話している。早く慣れないものだろうか。
「・・・ねぇ。洞窟入ろうよ!」 「え?洞窟って・・・ダンカンさんって人が入ったっていう?」 私が聞くとは そう!と言って笑いかけてくる。可愛い。
「で、でもパパスさ・・・ん、じゃなくて、お・・・お父さんの許可なしにそんなことしちゃっていいの?」 私ははっきり言ってそんなジメジメしてそうなところには行きたくなかったし、何より洞窟なんてゲームの世界では魔物の出る場所じゃん・・・!なんて思ったので必死に抵抗したが。
「いいじゃんいいじゃん!暇だし、まだお昼だし!!もしダンカンさんのこと助けられたら褒められるし!」 は行きたい一心で私にお願いする。この感じだとどっちが上なのか分からない。
「・・・ダメ・・・?」 は目を潤ませて私を見る。
「〜〜っ!・・・わかったよ!いこっ」 私はのマントを引っ張って誰よりも張り切って行った。
「うわぁああ・・・ぁ・・・やっぱり案の定ジメジメしてるよぉ・・・」 私は今にも泣きそうだった。まだお昼なのに薄暗くて、近くにいるの顔さえもなかなか見えない。 「大丈夫だよ、。お兄ちゃんが守ってあげるからさ!!」 きっとは笑顔で私を安心させるように言っているんだろうけど、あまり見えない。何だかもっと不安になってしまう。
「だ、だ、大丈夫だもんっ」 私は強がってみたけど、早速魔物が出た。 「ひあやあああああ!!」 急いでの後ろに隠れた。は剣を咄嗟に構える。その姿は頼もしいものだった。
「(・・・あ・・・れ?)」 私が必死での後ろに隠れていたが、がひそかに震えているのが分かった。
「・・・怖いの?」 「こ、怖くなんてないよ!魔物なんてすぐにやっつけてやるからね、!安心して!」 本当は怖いくせに、は強がる。それが可愛くて、私は笑った。
「ふぅ・・・っ」 が魔物を倒してくれ、洞窟の奥へと順調に進んでいく。 「前にここに来たときも洞窟に入ったんだけど、その時はまだ魔物が強くって奥まで入れなかったけど・・・こうなってたんだなー!!」 は感激したように辺りを見回していた。心なしかさっきよりも少しだけ、周りが明るい気がする。
「うっ・・・くはっ・・・」 「!?誰・・・!?」 苦しむような声が聞こえて、私とは先頭体勢に入る。
「・・・ダンカンさん?」 「え?そうなの?」 はダンカンさんの顔を覚えてるのかは分からないが、構えていた剣を鞘に直した。私もそれを見て急いで短剣を同じように鞘に戻す。
「ダンカンさん?ダンカンさんなの?」 「おお・・・パパスの子供の・・・と、だったかな・・・?お願いだ、・・・お、おじさんの上にあるこの岩をどけるか・・・村の人を・・・呼んでくれ・・・!!」 ダンカンさんはとても苦しそうに私たちに助けを訴えた。
「!村の人たち呼ぼう・・・って・・・・・・!?」 は私の言うことには全く聞く耳もたず、必死で岩をどけようとしている。 「ムリだよ、私たちの力じゃ!村の人たち呼ぼうよ!」 「あきらめちゃ駄目なんだよ、・・・!ほらも手伝ってよ!」 は額に少しだけ汗を浮かべながら、ダンカンさんの上にある重そうな岩を必死にどけようと頑張っている。
「わ・・・わかったっ!」 私もの言うことに賛成することにした。そういえばここまで来るのにも一苦労だったから、帰る途中に魔物にやられてしまうかもしれない。
「ぐぅううううぅぅぅ!!」 重たすぎる。何だこの岩は。 私とは顔を真っ赤にして、全力を注いだ。岩は微妙に少しずつ動いていっている。
「ダンカンさん・・・!大丈夫ですか!?後もう少しだから頑張ってくださいっ」 私はダンカンさんを助けたい思いで、と一緒に岩を押した。
そして、岩はダンカンさんの上から退けることが出来た。
「いや、本当にありがとう・・・っ」 ダンカンさんはかなり傷を負っていたので、いつの間にかカバンに入っていた薬草で私はダンカンさんを回復させてあげた。
「なに!?とがダンカンを助けただって!?」 パパスは目を丸くして、私たちが洞窟に入ったことを知ったサンチョは帰ってきたパパスに告げた。
「そうなんだよお父さん!これからは洞窟にもいっくらでも入れちゃうよ!!」 は自信満々でそういうと、パパスは俯いた。
「・・・お父さん・・・?」 「〜〜〜〜〜〜んぁあああよく頑張ったな、!!!」 パパスは溜めて言ったのか最初なんか唸ってたけど、大声を出してそう叫ぶと私とを強く抱き締めた。
「うわぁ〜!お父さん苦しいよ!」 「ぬふっ・・・パパスさ・・・」 パパスは私たちを抱き寄せてもう離さんとでも言わんばかりに抱きしめてくれる。今まで「本当のお父さん」という存在に会ったことのなかったにとって、パパスの行動は嬉しいものだった。
「二人ともよくやったな!これで立派な旅人だ!!」 「わあーい!!」 は「た・び・び・と!!」と言いながらパパスの周りを飛び跳ねている。
「」 「はい?」 の可愛い姿を見ていた私を、パパスはもう一度抱きしめてくれた。 「・・・『お父さん』って、呼んでいいからな?」 「え・・・?」 この人は私が違う世界から来ているということを知っているのだろうか。そしてお父さんがいないことも・・・。
「は・・・い・・・」 「敬語じゃなくていいんだぞ」 「う、ん・・・お父さん・・・うん!!」 私は何だか嬉しくって、満面の笑みでパパスに笑いかけた。初めて男の人に呼んだ、『お父さん』という言葉。
私はこのとき、きっとパパスさんのことを『お父さん』として認めることが出来ていたんだと思う。
あとがき 2009.05.11 UP |