初めまして お父さんお兄ちゃん
「、起きなさい」 誰だろう。眠たい目を擦って目を開くと、黒い髪を後ろでひとつに結っているワイルドなおじさんがいる。 「もう港に着くぞ。早く支度して船にいる人たちに挨拶してきなさい。はもう行ってるから」 厳しそうな顔つきだけど、根はすごく優しそうだ。 「どうした?そんなキョトンとした顔して」 にっこりと笑ったおじさんは私の体をゆっくり起こしてくれた。
「まだ目が覚めないか?それっ」 「うぎゃああぁ!」 勢いよく背中をバシコ〜ンと叩かれて、私は目に涙を少しだけ滲ませて布団にうずくまる。
「はっはっはっ!目が覚めただろう?早く挨拶してきなさい」 本当に、一体誰なんだろう。頭を傾げながら、言われた通り体を起こして部屋の出口らしきドアに向かう。
「・・・何やってるんだ、?そっちはトイレだぞ?」 「うっ・・・」 だって知らないもんこんな部屋!だいたい今なんで船に乗ってるんだよ!と心の中で私は叫んだ。
「は本当に天然だなぁ。ほら、こっちだぞ」 おじさんは私の手を引いて部屋のドアまで連れていってくれた。 ・・・が。何かがおかしい。私の手は何でこんなに小さいんだ・・・?目を見開いて小さい手を凝視した。すこしふっくらした子供独特の小さな可愛らしい手。これが自分の手だというのか。確か自分は18歳でもう高校を卒業しようとしてたはずだ。
「・・・本当にあの子は不思議な子だな・・・・・・」 パパスは にっこりと微笑んで、の出ていった部屋のドアを見ていた。
「(えーっと・・・とりあえずさっきおじさんの言ってた『』って人を探すかな・・・)」 どんな姿をしてるのかも分からない人を探すのは大変だ。名前でも叫んでみるか、と思っていると。
「!」 誰かが私の後ろの方で名前を読んでる。振り返ると、紫色のターバンと同色のマントを引きずる小さな男の子。 しかも男の子の身長は自分よりも少し大きい。私はもう18歳なのに!! 「もう、遅いよっ!」 頬を膨らませて怒る素振りをみせるこの子が、という子かもしれない。
「えっと・・・あの・・・・・・?」 「うん?なぁに?」 にこっと首を傾げて話を聞いてくれるこの人は、確実にだ。
「僕、船の人皆にまだ挨拶できてないんだ。行こっ」 私の手を力強く握りしめて連れていってくれる。まるで姉弟のようだ。・・・いや、私が 妹なのかそれとも双子なのかもしれないけど。
「こんにちは!」 が元気に挨拶すると、船長さんは笑顔になる。 「元気な子だねぇ・・・!君たち二人は双子なのかい?」 「いえ、兄妹です!僕が兄で、が妹なんです」 待ってましたと言わんばかりに張りきって言うに船長は高らかに笑う。
「そうかいそうかい。 幾つ離れてるんだい?」 「2つです!僕は6歳で、が4歳。ね、?」 「えっ! ?う、うんっ・・・」 今初耳だよ!しかも何で私4歳なんだよ!!と思いながら、私は一応頷いておく。
「こんにちは、船長さん」 「あ!お父さん!」 「おぉ、パパスさん。こんにちは」 さっき部屋にいたおじさんと船長は礼をしあう。どうやらおじさんはパパスというみたいだ。そしてのお父さんでもあるようだ。・・・あれ?私とは兄妹っていう設定なんだったら・・・てことはパパスさんは私の父!? はらほろひれはれと頭がぐるぐるしていると、船長さんは何かを思い出したように手を叩いた。
「あ、もうすぐビスタの港に着きますよ。この船の持ち主のルドマンさんも来るはずです。これが最後の航海ですから・・・」 「そういえばそうでしたね・・・。お疲れ様です」 パパスは もう一度船長に礼をする。
しばらくすると港らしき場所に着いた。 「あ・・・」 お腹の大きな男の人と、小さな同い年くらいの女の子が2人いる。船長はその男の人に 急いで駆け寄った。
「ややや、こんにちはルドマンさん!」 「おお船長、長旅の航海ご苦労さま」 ルドマンは船長に礼をする。やはりこの船の持ち主というだけあって貴族らしき雰囲気はあったが、優しそうだ。
「こちらがパパスさんですか!」 ルドマンはパパスを見ると、パパスは挨拶する。 「こんにちはルドマンさん。この度は快適な船旅をさせてもらいました。、、挨拶なさい」 「こんにちは!」 「こ、こんにちは・・・」 は元気よく挨拶するが、恥ずかしがりの私は小さい声で挨拶する。次々と色んな人が出てきて何だか頭が混乱してしまう。
「子供さんですか。元気ですね。私のところも・・・フローラ!デボラ!挨拶しなさい」 ルドマンは二人の女の子を呼び寄せると、赤い服と青い服を着た子が歩いてきた。
「フローラといいます。皆さんよろしくお願いしますわ」 青いワンピースに身を包んだ青い髪の女の子。この子がフローラと言うらしい。可愛らしくて気品があった。
「挨拶?面倒ね。どきなさいよ!邪魔よっ!」 赤いワンピースを着た黒髪の女の子は、やパパスを押し退けて船の奥へと入っていった。
「あぁ!デボラ!・・・すみませんね、デボラはいつもあんな感じで・・・。全く誰に似たんだか・・・」 ルドマンは溜め息をついた後、パパスと船長に礼をしてと私に微笑むと、フローラを連れて船の奥へと入っていった。
「さて・・・パパスさん、くん、ちゃん。長い船旅お疲れさまでした。これからもお気をつけて!」 船長は帽子を脱いで私たちに何度目かの礼をする。大人って大変だ。そしてやっぱり私は、何故か子供の姿に逆戻りしているようだ。なぜなら船長さんに『ちゃん』なんて呼ばれてしまったから・・・!!しかも下の方向を向きながら。 本当の身長なら船長よりも少しは抜いているはずだ。
「あ!パパスさん、おかえり!」 「久しぶりだな!、、私はこの人と話があるからその辺で遊んでいなさい」 船を降りると、パパスと港にいた人が話をしだした。
「くんのお父さんって、顔広いんだね〜」 「うんっ・・・て、何言ってるの、?お父さんはのお父さんでもあるじゃん!」 はっ!そうだった!私は 今の設定をすっかり忘れていた!!しかし何で私は今こんなに周りにあわせているのかはさっぱりだけど。 「しかもさ、『くん』なんて友達みたいに。 いつも『』って言ってたのに・・・どうしたの?」 「えっ!?いやっ、何でもないのっ!」 焦りながら必死で否定している私の背後で、草の揺れる音。何か生き物でもいるのだろうと思っていたら、がビックリしたような顔で私の後ろを指差した。
「危ない、!!魔物だよ!!」 が剣を構えた。 「(えっ!?ちょ、それは法律違反じゃ・・・!)」 私が慌てて振り返ってみると、そこには青いプルプルしたスライムに顔がある。 「(何!?これ・・・どっかで見たことある!)」 思い出せそうで思い出せない気持ち悪さに、私は頭を抱えた。
「もはやく戦って!」 「えぇ!?」 戦うって!?何それ!!と思っていると、腰の辺りに短剣が鞘に刺さっている。 こ、これか!! 私は急いでそれを引き抜いて、スライムに立ち向かう。スライムを何度か攻撃すると、風と一緒に消えていった。
「やったね、!」 笑顔で駆け寄ってくるに、私もちょっと照れる。は結構可愛い顔をしている。大きくなればそりゃイケメンになるだろうなーなんて妄想していると、頭の端に「ドラクエ」という文字が流れた。 「・・・あぁ!ドラクエだ!」 「え?」 頭を傾げるに、私は何でもないと否定する。 確か買ったゲームソフトのドラゴンクエスト5のパッケージには、紫のターバンにマントをしている男の人がいたはずだ。でもその隅っこにこのらしき男の子の絵もあった気がする。そういえばあとパパスの絵も金髪の女の人の絵もあった気がする・・・!! 夢だ。明らかに夢だ。ゲームの世界なんかに来れるわけがない。
「・・・ま、夢ならいつか覚めるわよね!」 「え?な〜に?」 が私の顔を覗き込んでくる。子供の行動は大人よりも大胆だ。私は顔を真っ赤にして目を逸らすと、は不思議そうな瞳で私を見ていた。 「(体は子供、頭脳は大人!その名も・・・名探偵コ○ン!!みたい・・・!)」 なんて一人感動していた私だった。
「!!」 パパスが後ろから追ってきて、私たちに回復魔法ホイミを掛けてくれた。 体の疲れが何だか回復した気がする。
「家に帰るの?」 「あぁ。サンタローズまでは少し距離があるから、頑張れよ二人とも」 どうやらこの親子の実家はサンタローズという場所にあるらしい。(私の家でもあるみたいだけど)
・・・私は夢だと思っていた。いつか覚めるって、この世界を過ごしていた―――――――。
あとがき 2009.05.11 UP |