真っ白な世界の先には
あの日からもう、11年経ったんだ。 今も私はひとりぼっちだ。
「ごめんね、・・・ごめんね・・・」 お母さんが涙を流して私に必死に謝った最期の言葉。 「ごめんね・・・お母さん・・・のこと守ってあげられなくて・・・」 お母さんは涙をずっと止めることなく泣き続けた。枕にたくさん涙が滲んでシミができる。
私の名前は。18歳の高校3年生。 お母さんは体が子供のころから弱くて、私を産んだことによって更に酷くなってしまった。いつも私は洗濯やご飯など、幼稚園や学校から帰ってきては家のことばかりして、親と遊園地や動物園といった場所に遊びに行ったこともない。参観日の日や友達の思い出を聞かされるのはつらいものだった。 ・・・・・・そして唯一の肉親だったお母さんも、私が小学2年生のころに死んでしまった。 母親側にも父親側にも兄弟姉妹はいなかった。祖父母にも会ったことがなく、知らない人だと思った私は引き取られるのを拒否した。今まで家のことを一人でしてきたんだから、一人でも大丈夫だ、と。 お母さんが死んでからは、生活に必要なお金たちは全てそのおばあちゃんたちからもらっていた。
今日は高校の卒業式が終わり、友達とはしゃいで遊んで帰ってきた途中だった。高校生も無事卒業でき、大学には行かずに働きに出ることにした。少しでもおばあちゃんやおじいちゃんの負担を減らすためだった。
「・・・ん?」 今日の夜ご飯のためにデパートの中にあるスーパーでの買い物が終わったとき、見つけたのはゲームの新発売の看板。そしてそのすぐ下にはそのソフトがたくさん並べてあり、その横で店員が呼びかけをしている。 「えっと・・・ドラゴンクエスト5、か・・・。何なに、親子3代に渡る人生を体験できる壮大なストーリー」 キャッチフレーズ的なものを読み上げると、私は面白そうだなと思った。
「すいません、これください!」 ゲームには興味のなかった私が、初めてひかれた作品だった。
家に帰るときには雨が降っていて、私は洗濯物を干していたことを思い出して急いで部屋に駆け込んだ。
「うわぁ〜びしょびしょだ!早く取り込まなきゃ・・・!」 私はカバンやゲームを買ったビニール袋を置くことも忘れてベランダに駆け込んだ。
ゴロォォォォン! 「うわ!!」 大きな雷が鳴る。雷が大嫌いな私は体をびくつかせた、そのときだった。 「あっ・・・!!」 気づけば、ビニール袋からドラゴンクエストのパッケージが出て下に落ちてしまっていた。
身を乗り出して危機一髪でキャッチしたけども、ベランダは雨で濡れていて私は手を滑らせた。 「きゃっ!!」 風が髪の毛をさらう。雨が当たって冷たい。やけにスローモーションに感じた。 マンションに家がある私の部屋は6階。
死ぬのか。
私は不思議と落ち着いていた。 死ぬのは怖くなかった。お母さんもお父さんも、天国で待ってるだろうから、そう思っていたからなのかもしれない。 お父さんに早く逢いたいな。まだ逢ったことのないお父さん。
ああ、死ぬまでひとりぼっちだったんだ、私。
地面が近くなったそのとき、視界が白くなった。
「お母さん・・・お父さん・・・今いくからね・・・」
私はゆっくり目を閉じた。
あとがき 2009.05.11 UP |