幸せ
僕は山奥の村へと来ていた。やはり浮かれた顔でもしているのだろうか、道行く人々に「幸せそうだね、どうしたの」と尋ねられてしまう。でも尋ねられて答えるのさえも嬉しいくらい、僕は幸せだった。
とりあえずルドマンさんに言われた道具屋の洞穴に行く前に、ダンカンさんにも会いに行った。僕とが結婚することを知らせたら、すごく喜ばれ祝福された。 「幸せになりなよ、結婚はほんとにいいものだ。いい式になるといいね」 「ありがとうございます!」 ビアンカのことを気にしている様子のダンカンさんだったが、僕は正直そのことさえも深く考えられない程に浮かれていた。
が、僕のお嫁さんになることがとても嬉しかったのだ。
道具屋に寄って僕はシルクのヴェールをもらってから、急いでサラボナに帰った。たちはルドマンさんの別荘にいると聞いたので、僕はそっちに足を走らせる。
「ちょうど今支度が終わりました。どうぞ、花嫁様にシルクのヴェールを被せてあげてください」 別荘の前で見張っていたルドマンさん宅のメイドさんに連れられ、僕は中へと入った。 「あら! ほんとに今準備が終わったわよ」 「私たちは先に教会に向かいますね」 入ってすぐに、ビアンカとフローラさんがいた。フローラさんたちは早足で教会へと向かっていってしまう。式場の準備はそんなにも早かったのか・・・。
「さあさん、花嫁はこの先にいます」 家政婦さんが僕を階段を登るように促した。僕は少し胸に緊張を抱きながら階段を登っていく。
「・・・・・・」 そこにいたのは、真っ白のふわふわなドレスに身を包んだがいた。茶色い髪を高いところでひとつにまとめ、大人っぽい化粧のした顔。とても今まで見ていたではなかった。
「・・・・・・あ・・・」 「や・・・、やっぱ変だよね? 私は化粧なんかやだって言ったのに、ビアンカがどうしてもって聞かなくって・・・」 はわたわたとしながら、恥ずかしそうに手で顔を覆った。
「・・・ううん」 「え?」 「すごく・・・すっごく似合ってるよ、。綺麗」 「むあ!!」 そんなことをいきなり真顔で言う僕に、はとても戸惑いながら僕を見つめた。
「・・・なんか・・・すごい不思議。私たちのことを誰一人知らなかった街で、こうやって結婚式を挙げさせてくれて・・・いいのかな?」 僕は少し笑いながらヴェールをに被せてやった。 「僕もそれはちょっと思ったけど・・・きっと、いいんだよ。今まで不幸だったぶん、きっと幸せになれるから」 「今まで不幸だったぶん・・・。 ・・・は・・・は、今幸せなの?」 が不安そうに聞いてきた。
もちろん、僕の答えは決まっていた。 「うん。すごく幸せ」 「そっか・・・そっか!!」
よかった、とは今まで見たことのないくらい、頬を赤くして笑った。すごく、可愛かった。心の底からそう思えた。
「じゃあ行こうか、」 「・・・はいっ」
差し出した僕の手を、はそっと握った。
私とが別荘を出ると、ルドマンさんの家のメイドが教会まで案内してくれた。その道中――――。
「おーーーーーーーい!!!! ーーーーーーー!!!! ーーーーーー!!!!」 「「 !? 」」 いきなり誰かに呼び止められ、驚いて振り返るとそこにいたのは・・・。
「ヘッ、ヘンリー!!? マリアちゃんも・・・!」 結婚式に招待していないはずのヘンリーとマリアちゃんが来ていた。確かラインハットとは大陸が違った気もするけど・・・お金持ちはひとっ飛びなのかなぁ・・・。 「ひっさしぶりだなー! 元気してたか?」 「元気してたか・・・って、なんで結婚すること・・・?」 「ルドマンさんに招待状もらってなー、慌てて来たんだぜ! な、マリア?」 ヘンリーはマリアちゃんの肩を組んでそう言うと、マリアちゃんは少し恥ずかしそうにクスクス笑いながら頷いた。とりあえずそのまわした手をどけておいた。
「本当にルドマンさんにはお世話になっちゃってばっかりだなー・・・」 「あとでお礼言わなきゃね」 私の独り言にがそう答えてくれた。そんな私たちを見て、ヘンリーが冷やかす。 「ほーら、やっぱなー。俺はお前らが結婚するんじゃねーかって、思ってたぜ?」 「そういやヘンリーさん、そんな事言ってましたわね」 「あー・・・言ってたけど・・・。・・・あの時は・・・・・・ねぇ、?」 「な・・・っなんで私にふるかなぁ・・・!?」 あの時は既にのことを意識してた私だしなぁ。恥ずかしくって言えないよ!!!
「あっ そろそろお時間が・・・」 「うお、そうか! じゃあ俺たちは教会で見てるからなー!」 「ではまたあとで」 横にいたメイドさんの一言で、ヘンリーとマリアちゃんは慌てて教会のあるほうへと急ぎ足で去っていった。
「本当に仲がいいんですね」 「い・・・いえ・・・」 メイドさんが笑うと、は少し照れながらそう言った。確かに、私たちの少ない友達だもんね。
「新郎 新婦 ご入場です!」
教会の中からそんな言葉が聞こえてきて、私たちを案内してくれたメイドさんが教会の扉を開ける。 と腕を組んで音楽に合わせて入場。 「(わ、わたし本当に今結婚式あげてるんだ・・・!!)」 小さい頃から好きな人なんて考えられなくて、でも少しは憧れもした花嫁さん。今私は、花嫁さんなんだ・・・。
「(お父さん・・・)」 お父さんと入場するはずの結婚式だが、私にお父さんはもういない。そう考えるとすごく寂しくなってしまったけど、隣にいるまっすぐ前を見据えたを見ると、すごく安心した。
私、これからもと一緒に歩いていけるんだ。 そう考えると、本当に嬉しかった。
ふと横を見ると、ビアンカがチロルを抱えて私たちを見ていた。 不思議と、チロルが笑っているように見えた。なんてに言ったら、バカにされちゃうかなぁ。
「本日これより神の御名において、とまりんの結婚式を行います。それではまず神への誓いの言葉を」 神父さんの前まで歩くと、神父さんがそう言って私たちの目を見た。
「なんじはを妻とし・・・健やかなる時も病める時も、その身を共にすることを誓いますか?」 「(ここでいいえって言われたらどうしよう・・・!!!!!)」 なんてすごくどうでもいいことを考えて緊張を紛らわそうとする私を、ちらりと一瞥したは、少し微笑んで頷いた。
「はい、誓います」
はい、誓います。 たったこれだけの言葉に、すごく私は重みを感じた。 、ありがとう。
私もはい、誓いますと答え、指輪の交換をした。の手には炎のリング、私の手には水のリング。
「それでは神の御前でふたりが夫婦となることの証をお見せなさい。さあ、誓いの口づけを!」 「(わ、忘れてたよこのイベントォオッォォォォォオオオ!!!!)」
私は心の中で頭を抱えた。を横目で見てみると、いつも持っている木の杖を両手で握って口をパクパクさせている。なんかかわいい・・・なんかかわいいよこの人!!!!(゜д゜)クワッ
「おいおい!照れてないでに口づけしちゃえよ!」 「ちょっ! ヘンリー!! (゜д゜)クワッ」 私が参列しているヘンリーを睨むと、ヘンリーはひひひと楽しげに笑っている。あ、あんにゃろう・・・。
「」 「! は、はい・・・」 のほうを見ると、は耳まで真っ赤にしてヴェールをめくって、私の両肩を掴んだ。
唇に、のあたたかい唇が触れたのを感じた。 それは、すぐに離れてしまったけれど、私は本当に幸せだった。
キスをした瞬間、一気に歓声があがった。
「おお神よ!ここにまた新たな夫婦が生まれました!どうか末長くこのふたりを見守って下さいますよう!アーメン・・・」 神父さんが十字を切って神に祈ると、皆は一斉に抱えていた紙ふぶきを私たちに飛ばした。
「、いくよ!」 「はっはいいっ!!」 の腕にまた私は腕を絡ませ、紙ふぶきの中を二人で笑いながら通る。フローラさんや町の人々が祝福の声をかけてくれる。
私、今本当に、幸せだ。
あとがき 2011.11.04 UP |