ある宿屋でパーティー全員で食事をしている時だった。マーニャがいきなりそんなことを言い出した。
一人称 「いやぁ~、あたしとしては『僕』とかが好きなのよ。『俺』よりも自分を卑下してる感じがして・・・ほら、いじりがいがありそうじゃない?」 「・・・そうかしら」 要するにマーニャはSで、Mな男がいいのだろう。ミネアがマーニャの言葉を聞いて不思議そうな顔をする。
「じゃあクリフトみたいな「私」とかでもいいのか、マーニャ?」 「え?う~ん・・・」 俺がそう尋ねると、マーニャは少しの間眉間にシワを寄せて悩んでいた、が。 「・・・ちょっと違うかな。なよなよしすぎ・・・」 「え!?」 クリフトは少し傷ついたのか、泣きそうな顔だった。
「ワシはどうかな」 「老人は論外!」 マーニャのきっぱりとした拒否に、ブライもそれとなく落ち込んだ。 「じゃあ私はどうでしょうかっ!既婚者ですが!」 「トルネコ・・・?金があっても肥満体型もムリね!」 ズガシャアアッ!(トルネコの倒れる音) 「・・・・・・姉さん・・・・・・」 次々と我がパーティーの男共を精神的倒していくマーニャに、ミネアはもう完全に呆れていた。
「じゃ・・・じゃあ私は・・・どうでしょうか・・・!」 ひょっこりと現れたライアンさんは、少しだけ緊張したようにマーニャに尋ねた。 「・・・・・・んー・・・・・・」 マーニャは肘をつきながら、ライアンさんをじろじろと見る。 「・・・ま、まあ・・・いいんじゃない・・・?」 「! 本当でござるか!!」 ライアンさんはすごく嬉しそうだった。そんなライアンさんの態度を見たマーニャは、顔を少し赤らめながら急いで否定する。 「べっ・・・別にそんなんじゃないわよ!?あたしはただライアンなら別にいいって言っただけだからね!?そんな・・・恋愛感情なんかないからね!?」 そんなことは一切聞いてないライアンさんに、マーニャは重いため息をついたが、その頬はやっぱり赤かった。
「・・・ミ、ミネアはどうなのよ!?」 「えっ、私?」 いきなり話を振られて戸惑うミネアに、マーニャはニヤニヤした顔でミネアに詰め寄る。 「あんたと同じ感じのおしとやかな人かな~?クリフトとか好みなんじゃな~い?」 「えっ、えっ、あのっ・・・!」 ミネアの顔はみるみるうちに冷や汗でいっぱいになる。 「わ、わたしは・・・っ」 ごく、と唾を飲み込む男性陣。俺は興味がなくなってきたので、目の前にあるスープを飲もうとした。 「わたしは・・・『俺』派・・・です・・・っ!」 一斉に俺の顔を見るパーティー。俺正直きちんと何派か聞いていなくて、きょとんとした顔をした。 「え? ・・・何・・・・・・?」 「・・・ソロって、自分のこと『俺』って言ってたわよね?」 「あ? うん」 俺はそれに答えると、再度スープを飲んだ。マーニャの瞳がキラキラし始めた。ミネアは俺の顔をちらちらと見てくるし、何なんだ。
「うふふ~!ま、次行ってみよーう!アリーナはどうなのよ?」 「私?」 今まであまり乗ってなかったアリーナに話が振られ、クリフトが少しビクリとした。クリフト以外の男たちは目の前の食事に手をつけはじめた。アリーナに興味はないのだろうか。そらそうだ、こんな怪力な万年戦いたいお姫様。顔は可愛いのに。 「私はね~・・・う~ん・・・」 俺はなんとなく、食事をしながらアリーナの次の言葉を待っていた。 「私は・・・私より強い人がいい!」 ガシャコーン!! 「あっちい!!」 みんなが一斉にずっこけ、俺なんかスープが零れてめちゃめちゃ熱かった。 「え、何? 何でみんなこけるの?」 「・・・あのねアリーナ。私は好きな人の一人称は何がいいか聞いてるのよ?」 「・・・好きな人なんて、そんなのなんかで決めないわ!」 ・・・・・・いや、強さで決めるのも何か違う気がするんだが。 「やっぱり私も女だし・・・守ってもらいたいの。だから私より弱い男はアウトオブ眼中!」 「・・・言葉が古いですね、アリーナさん・・・」 ミネアが少しだけ笑う。 「まあ・・・私、守られちゃったら腹立って特訓しちゃうかも!」 にかり、と笑ったアリーナに、クリフトは少し複雑そうな顔をしていた。そりゃそうだ、この世で戦闘に関してアリーナに勝る男などいないだろう。
食事終了後。それぞれ思い思いの行動を取っていた。俺は部屋で読書をしていると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。 「はい?」 「私だよ、アリーナだよ。入っていいかな?」 「・・・どうぞ」 部屋に入ってきたアリーナは、俺が寝転ぶベッドの上に腰掛けた。
「何の用だ?」 「うん・・・今日のマーニャの話なんだけどさ・・・」 「?」 俺は読んでいた本を退けて、アリーナを見た。 「私にも・・・やっぱり恋したりする日が来るんだな、って」 「・・・そりゃ、いつかは来るだろうな」 クリフトとかさ・・・と俺は思いながらまた本に視線を戻すと、アリーナはこんな意味深な事を言った。
「私・・・さっき言ったじゃない? 私より強い人がいいって。でもよく考えたら・・・この世でこの私より強い男なんて、一人しかいなかったわ!」 「・・・? ・・・ライアンさん・・・? だめだぞ、あの人はマーニャのもんだ」 「は、はああ!? ちっっがうわよ!! バカソロ!!」 「!?」 俺は訳がわからずに、何故たった今罵倒されたのか、本を読むのも忘れて考えていた。すると、外から何やら、叫ぶような男の声が聞こえてくる。 「あら? 何か声が・・・」 アリーナも気づいたようで、俺たち二人は窓から外を覗いた。そこにいたのは・・・。 「クリフト!?」 「やあああああっ!!」 クリフトは戦闘中はほぼ回復役に回る身のため、剣などは使わない。が、外にいたクリフトはその剣を一心に振り回していた。 「クリフトったら何やってんのかな~・・・?」 「(・・・・・・あぁ、そういうことか)」 俺はクリフトが剣を一生懸命振っている理由がわかった。みんなにはお分かりだろうか? それは、ご想像にお任せします。 ・・・ただ、しばらくの間は、クリフトが外で強くなるための修業に励んでいた事は、内緒。
あとがき 2010.09.07 UP |