「この気持ちは・・・恋なの、かな」

「え?何言ってるのよ、ソロってば」

恋なんてしたことがなかった俺には、シンシアへの気持ちがわからなかった。恋なのか、友情なのか。

 

「・・・恋か友情かは知らないけど、私はどっちでもうれしいな」

 

原っぱの上に寝転んで、真っ青な空を見上げたシンシアはそう言った。彼女のピンク色の髪が、そよ風に乗ってヒラヒラと靡いた。

雲は、いつものように波打っていた。

 

ほんの少しのさよなら




ズキ
――――

「・・・っ」

だめ、痛い イタイ、
胸が「痛い」って言ってる
――

最近、ソロのそばにいると、胸が痛くなる。
この気持ちは、きっと愛なんだろう。
ソロは知らない。

 

いつものように過ごす毎日。同じことを繰り返すだけの、つまらない日々。
でもソロさえいてくれれば、どうでもよかったんだ。
ソロがいてくれるだけで、つまらない日も楽しくなるから。

 

 

 

 

 

 

 

今日もソロは稽古。毎日大変だなあ。
私は、それを笑顔で出迎えてやることくらいしか出来ないけど。
だけど、精一杯ソロのために頑張るんだ。

花畑のお花で、冠を作った。
稽古が終わったソロに、被せてあげよう。

 

 

「あれっ、シンシアまだいたの?」

すっかり辺りは日が落ちて夕暮れになっていたのにも気づかず、私は冠を作っていた。ふとソロの声が聞こえ、顔を上げると驚いた顔のソロ。

「あっソロ、あのねっ!」

そう言って私は、ソロの頭に花の冠を乗せてやった。ソロは吃驚していたけど、すぐに微笑んで「ありがとう」と言った。

 

ズキ――――

また、だ。何でだろうね、幸せなはずなのに。

 

 

 

 

 

 

次の日。いきなり村が、魔物に襲われた。

 

勇者であるソロは、いそいで村の奥の地下に隠れた。私は必死で魔物に見つからないように、ソロのもとまで辿り着いた。

 

 

「シンシア!何で来たんだ!?」

ソロは怖い顔をしていた。

「ここじゃ危ないわ。隠し部屋があるから、そこに行きましょ!」

私はソロの手を引っ張って、地下室の奥にある隠し部屋へとソロを入れた。

 

 

「ソロ。ここから出てこないでね!」

「シンシア・・・?」

「わたし、ソロの代わりになるから・・・」

 

そう言って私は、モシャスを唱えてソロに成り済まそうとした。
――――ソロの身代わりに、殺される為に。

 

 

 

「やめろっ!!」

呪文の詠唱をやめさせるように、ソロは私を後ろから抱き締めた。

ズキン――――

だめ、いたい。
これ以上もう、抱き締めないでよ・・・。

 

好きだなんて言ったって、きっとソロはわからないから。
どんな言葉も、届かないから
――きっと。

 

 

「・・・離して!」

これ以上もう、傍にいられない。

 

ぎゅっ、とソロは抱き締める力を強めた。離れないように。

「一人は嫌だ・・・!」

ソロは寂しそうに呟いた。

どうして?ソロは、強いのに。一人になることは、今は間違いなんかじゃないのに。

 

 

 

お願いだよ。
キミの手を、ほどいて・・・。

 

 

 

 

「ソロ、わたしいかなくちゃ。ね?」

私は、胸の痛みが増すのを押さえて、ソロの手を無理矢理離した。

・・・ソロの胸も痛いって、言ってるよ。

 

 

「私、ソロにあえてよかった。今まですごく楽しかったよ。・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の中で鳴り響く心臓の音が、シンシアの言葉を掻き消してった。

 

――さよなら」

 

 

 

シンシアの笑顔は、いつもにないくらい綺麗で、輝いていた。扉から出ていくシンシアを抱き締めようとして、手を伸ばした。なのに、何も掴めない。

キミは俺の姿をして、扉の向こうに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、魔物の声がして、シンシアがやられたのが分かった。

どうして俺は女一人、村ひとつも守れない弱いやつなんだろう。

 

 

外は静かだ。俺は外に出てみた。

シンシアは、既にもう・・・抜け殻だった。

 

 

俺はシンシアの身体を抱え、いつもシンシアがいた花畑の丘に埋めた。

そこだけは、魔法がかかったように・・・荒れ果てた村中の、そこだけはキラキラと輝いていた。
羽ぼうしが落ちていて、きっとシンシアからの最期の贈り物なんだと思ったんだ。

シンシアからはたくさんのものをもらったのに、俺は何ひとつあげられなかった。

 

 

やっと気づいたのに。キミが好きだって。でももう、気持ちは伝えられない。

 

俺はシンシアに甘えていたんだろうな、きっと・・・。

 

 

 

空は悔しいほど蒼くて・・・俺の視界は涙で滲んでいく。

 

 

キミがいない
これ以上もう、耐えられない
傍にシンシアがいたら、なんて、おかしいのかな。

 

俺のたつ丘が、涙に染まる。

 

キミに逢いたい、逢いたいけど
これ以上もう、甘えるのは嫌だ

 

でも―――

 

俺は目を瞑った。
最期のシンシアの笑顔が、瞼の裏に焼き付いたように蘇る。

シンシアの敵を打つ。俺はシンシアを殺した・・・デスピサロを絶対に許さない。

 

 

空を駆けて、また逢いに行くから
その時まで、待っててね

 

――さよなら」

俺は青の空に向かってそう呟いた。

 

 

 

 

また、逢おう
いつかここで

さよなら、キミ。
また逢う日まで。




――ほんの少しのさよなら




 

 

 

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あとがき
いつになく似合わないシリアスさ。
勇シン第2弾です。切ないねえ。

「ほんの少しのさよなら」と言うのは、私の大好きな大好きな電ポルPさんの曲です。所々歌詞を引用させていただきました。曲のイメージがぴったりでしたので!

素敵な原曲様の曲



曲や歌詞に照らし合わせて読んでみてくださいね。

2009.11.16 UP