「おはようソロ!」

「・・・ああ、シンシア。おはよう」

 

シンシアが俺へと駆け寄ってくる。
ピンクの髪がなびく。

 

今日も君は笑顔。

俺の、大切な人。

 

大切な人

「今日もいい天気よね〜」

いつものように、君は花の咲く丘に寝転がって、青い空を見つめている。
今日も彼女は、真っ白いワンピース。

ピンクの髪が草の上に散らばって、綺麗。

 

「服汚れちゃうぞ」

「いいのよ。誰にも怒られないから」

シンシアはにっこりと俺に向かって笑うと、また空を見ていた。

 

 

何も教えてくれない。

君はいつも、何を見てるの?
どこを見てるの?

空を見て、何を思ってるの・・・?

 

 

 

「おーいソロ!修行の時間だぞ!!」

 

村の奥の階段から、剣術を教わっている師匠の声が聞こえてくる。

 

「そっか、ソロ今日も修行なのか。大変だね」

寝転がっていた体を起こして、俺の顔を見る。

 

「・・・頑張ってね!」

そして笑顔を見せたシンシア。

俺はうれしくなって、「うん」と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キィン!カン!!!

剣を打ち付けあう音が、地下の部屋に鳴り響く。

俺の修行場所は、いつもここ。

 

もう昼が過ぎて夕方だ。

腹が減って、体力ももう尽きてきた。

でも、俺は一心に、師匠に向かって剣を振った。

 

 

 

「ストーップ!!」

「!」

師匠に止められ、俺は剣を構えるのをやめる。

 

「今日の修行はここまでだ。お疲れ様」

 

師匠はたくさんの汗を服で拭いながらそう言った。

 

この村のみんなは、「勇者」である俺のためにとても優しく接してくれる。
俺はそれが嫌だった。

 

勇者?

俺はみんなと同じ、普通の人間なのに・・・。

 

 

 

 

 

 

「明日もやるからな。今日はしっかり休むんだぞ。それじゃあな」

師匠は階段を登り、姿が見えなくなった。

まさか、これが最後の修行なんて、思いもしなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

「ソロ!お疲れ!!」

修行が終わってモシャスを唱えていたシンシアは、色々俺を姿と言葉で騙した後こう言った。

 

花の咲く丘まで歩き、シンシアは夕焼けの空を見つめた。

するとシンシアは、俺へと振り返って、笑顔を見せる。
疲れた修行の後に彼女の笑顔を見るのは、本当に癒された。

 

「ねぇソロ。また明日も・・・ここに来てくれる?」

「え・・・?」

シンシアはちょっとだけ頬を染めてそう言うと、自分の家へと走り出した。

俺は頭に疑問符を浮かべ首を傾げたが、少しだけ口元を緩めて笑った。

 

 

 

 

 

家に帰ると、いつものように美味しそうなお袋の夜ごはんが、テーブルの上にたくさん並べられていて。

 

食べ終わったら、親父と風呂に入る。

親父との風呂は楽しくて好きだ。

 

風呂に入ったら家族で色々話して、ふかふかの暖かいベッドで

シンシアのことを思いながら眠りにつく。

 

 

こんな当たり前の日常。

これも、今日で最後だなんて・・・

 

思うわけがなかった。

 

母親の笑顔も、父親の笑顔も。

 

 

 

 

 

 

次の日。

朝起きて飯を食べて、急いで家を出る。

 

 

丘には、既にシンシアがいる。

 

「よかった!来てくれたんだね」

シンシアはいつものように笑顔で、俺へと駆け寄ってくる。

 

 

 

「昨日の・・・何?」

俺が笑顔で言うと、シンシアは手招きした。

 

 

シンシアは丘へと寝転がる。
俺は少し戸惑ったけど、一緒に寝転がる。

 

 

「あのね・・・」

「うん」

 

流れていく雲を見ながら、シンシアの話に耳を傾ける。

 

 

 

「このまま・・・ずっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒にいれたらいいね」

 

シンシアは立ち上がって空を見つめると、俺へと振り返った。

 

「ね?」

「・・・あぁ」

俺は、嬉しかったんだ。

シンシアがそんなことを言ってくれるなんて思ってもいなかった。

 

もちろん・・・俺も同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 

まさか・・・これが最後だって・・・思わなかったから。

 

 

 

 

 

今日も修行。

母親に頼まれた、釣りをしている親父への弁当を渡す。
親父はすこし笑顔になる。

 

 

「おい!!魔物が村に・・・!!」

 

そんな村人の声が聞こえて、親父は慌てる。

 

「ずっと言っておかなければならないと思っていたが・・・お前の母さんと父さんは本当の親じゃないんだ」

 

いきなりそんなことを言われ、頭が混乱してくる。

 

 

 

 

 

 

俺はみんなに連れられ、村の奥の地下へと行かされる。
ここなら安全だ、と。

 

 

みんなは?

どうしてみんなは戦うの?

どうして俺のために・・・!!

 

 

しばらくして、シンシアが現れた。

シンシアは地下室の奥にある隠れたドアへと連れて行く。

 

 

 

「ここにいてね、ソロ」

シンシアはそっと笑顔を見せる。

俺は、彼女が離れていくような気がして嫌だった。

 

ずっと一緒にいようって、約束したじゃないか。

なのに。

 

なんで・・・。

 

 

 

 

「おい!勇者ソロはいたのか!?」

「!!」

 

地下室のドアの外から、首謀者のような声が聞こえてくる。

俺を探しているんだ・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・私がソロを助けるからね」

 

シンシアは、今までに見たことのないような笑顔で、俺にそう言った。

 

すると彼女はモシャスを唱え、俺の姿になった。

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、ソロ」

 

 

彼女の姿は、ドアの外へと消えていった。

 

 

 

 

しばらく、誰かと誰かが戦う音が聞こえる。

 

 

 

 

 

「ピサロ様!!勇者ソロをしとめました!!!!」

「よくやった!さぁ撤収だ!!」

 

魔物と男の声は、村から消え去っていく。

 

 

勇者ソロをしとめた?

俺は、ここにいるのに。

 

 

わかっていた。

俺へと姿を変えたシンシアが、やられたんだ。

 

でも自分にそう言い聞かせなきゃ、自分が自分でいられなくて。

 

 

 

 

「・・・」

村へと出た俺は、焼け野原の村を見て何も言わなかった。

いや、言えなかった。

 

 

育ててくれた親父とお袋は、本当の親じゃなかった。
でも俺にとっては、大事な両親だ。

優しく接してくれた村人たち。今でも、大好き。

そしてシンシア。
俺の身代わりになった、大切な人。

 

彼女の抜け殻を抱え、俺はいつも彼女が寝転んでいた花咲く丘へと埋めた。

 

 

丘は、不思議と荒れていなかった。

花だけが咲いていて。

丘の上には、はねぼうしが落ちていた。

 

 

きっと、俺への贈り物なんだ。

 

 

 

 

 

「・・・ありがとう」

俺はそう呟いた。

 

 

 

君に会いたい。
絶対に、仇を討ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか、君に会いに行くよ。

 

 

 

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あとがき
勇シンです。
悲しい感じを表したかっただけ。

2009.07.25 UP