マネマネAはモシャスを唱えた! 「ひ、ひひひひひ姫様が2人・・・!どっちがどっちかわかりません・・・!」 クリフトはアリーナが2人いることに少し興奮気味なのかは分からないが、顔を赤くして2人のアリーナを見ている。 「ソ、ソロさん。今戦ってるのはどちらがアリーナ様・・・ですか?」 「え、どう見ても今殴った方がアリーナだろ」 クリフトにはアリーナとマネマネの違いが全く分からなかったが、とにもかくにも自分の愛しい人が目の前に2人もいるという異様な光景に、頭がフラフラしていた。
そんな様子を見ていたマネマネAは、勢い良く逃げ出した。 「く〜っ逃げ足の速いヤツ!次見つけたらとっつかまえてやるんだから!」 「いや、みんな一緒の顔だから俺には全然分かんねえけど」 マネマネの逃げて行った方向を見つめながらそう言ったアリーナに、あっさりソロは突っ込んだ。
達人★マネマネAの悪戯 「さっきのクリフトとか言ってた人間、さっきワシが化けたアリーナとかいうのが好きなのか」 洞窟の影からソロたちの行動を見つめ、アリーナに化けて逃げたマネマネは独り言を呟いていた。 このマネマネA、マネマネの中でもズバ抜けてマネが上手いと言われている変なマネマネ。 「ここはひとつ・・・ワシの好きなイタズラをしてやるか・・・。久しぶりで血が騒ぐなぁ!」 マネマネのような炎の物質に血があるのかは果たして不明だが、マネマネAは火をメラメラ燃やしながらそう言って決心を固めていた。 実はこのマネマネA、マネが上手いだけじゃなくそれを生かしたイタズラが大好きなのであった・・・。
マネマネAはひたすらソロたちの後を追った。ソロたちが洞窟を抜け、近くの町に入るときだった。 「このまま町に入ったらイタズラなんてする前に殺されてしまうな・・・」 そう言うとマネマネAは踊り子の姿にモシャスを唱えた。赤いキレイなドレスに身を包んだ自分。 この町はエンドール。世界中の商人たちの集まる大都市で、これくらいは魔物の世界でも知られていた。 「ワシがエンドールに入れるなんて夢のようだな」 辺りを見回しながらマネマネAはそう言っていると、宿屋へと入って行くソロたちが見えた。
「3人用の部屋2つと、ツイン1つお願いします」 「かしこまりました。全て2階で、ツインは1号室、3人用は2号室と4号室になります。ごゆっくりお休みください」 2階の1、2、4号室、か。おそらくあの旅のメンバーから見ると女が3人だから、3人部屋の4号室か2号室になるのだろう。じゃあターゲットのクリフトとか言うのは、1号室か。 マネマネAは推理すると、宿屋の主人にバレないように部屋が並ぶ廊下へと入り込んで行った。
するとクリフトと緑色の髪色をした男が1号室に入っていくのが見えた。 と、そのとき。マネマネAの体に違和感を感じた。 やばい、もうモシャスが切れる!!
「・・・ふー・・・あぶなかった・・・」 ため息をつき、額に浮かぶ冷や汗を拭うマネマネA。そしてしばらく1号室の扉を見ていた。 「ということは今クリフトとか言うのは一人か・・・。これほど絶好のチャンスはないな」 緑の髪色の男はそのまま廊下を突き進み、2号室をノックした。 マネマネAは急いでモシャスを唱えアリーナに姿を変え、クリフトがいるであろう1号室のドアをノックした。
コンコン。 私の部屋をノックする音が聞こえる。今ソロさんは、ライアンさんたちとカジノに行った。きっと私といるのがソロさんは暇なのだろうと思った。でも私もハッキリ言ってソロさんといるのは息が詰まるから、好都合だった。 「はい」 「あ、クリフト?私だよ。アリーナよ」 ひひひひひひひ姫様!?私はベッドの上でいつも被っている帽子を脱いでくつろいでいたため、飛び上がった。今日は頭のてっぺんに寝癖があるのだ。いつも帽子を被っていてよかったと思っていたのに、こんなところで姫様に恥を晒してはいけないだろうと思い、すぐに帽子を被ってドアを開けた。
「ひ、姫様?」 私は恥ずかしくてドアを少ししか開けられなかった。 「あ、クリフト。よかったぁ開けてくれて」 クスクス・・・まんまとひっかかったなクリフト。これでとりあえず第1ミッションクリア・・・。
「やだ、クリフトったら。せっかくこうして宿に泊まってるのに帽子なんて被っちゃって」 マネマネAがアリーナのフリして笑うと、クリフトもハハハと笑った。
「(うわあああああああああああああ!姫様に早速も帽子のことを突かれるなんてええええええええ!!)」 クリフトは内心焦っていた。
「ねえ、クリフト。帽子脱いで見ない?」 「え、姫様?」 そう言うとマネマネAは、クリフトの帽子をそっと外した。そこには、ピンと跳ねるクリフトの寝癖。 「・・・ぷっ!やだ、クリフトッたら!寝癖くらいちゃんと朝直せばいいのにー!」 まるで本物のアリーナのように振舞うマネマネA。クリフトもアリーナだと思い込んで、優しく微笑んでいる。
「クリフト、中には誰かいる?」 「いえ、ソロさんたちはライアンさんとトルネコさんとブライ様とで、カジノに行きましたよ」 そうか、あの緑色の髪のやつはソロというのか。それであと3人の男がライアンとトルネコとブライ・・・。 「そうなの?クリフトは行かなくてよかったの?」 「え、ええ。私はカジノなどに行っては、神に仕える身としていけないことですから」 「あ、そっか」 ということはこいつは神官。ザキなども使えるかもしれないから、とりあえず注意だけは払っておくか。 そう心に決めたマネマネAは、更にクリフトを興奮させようと近寄った。 またモシャスが解けるのか。 「ね、ねえクリフト、ちょっとトイレ・・・か、してくれない?」 「え?トイレですか?いいですよ?」 「ありがとっ」 クリフトの横を勢いよく通り過ぎて、マネマネAはトイレに入っていった。 「姫様・・・そんなにおトイレがしたかったのでしょうか・・・」 クリフトは不思議そうに、アリーナ(マネマネA)が入って行ったトイレのドアを見つめていた。
「モシャス!」 再び、アリーナの姿にモシャスしたマネマネA。これでしばらく時間が継続されるだろう。 「ふー・・・もうちょっと粘らないとおもしろくないからな。これからバンバンやるぞ・・・」 そう言ってマネマネAはしてもいないのにトイレの水を流すフリをして、トイレを出た。
「ごめんねっありがとうクリフト」 「いえ・・・その、姫様・・・何か用があって来たのではないですか?」 「え・・・クリフト・・・」 マネマネAは、わざと表情を曇らせるように演技した。その表情を見て、クリフトは心配そうにアリーナの顔を見た。 「大丈夫ですか姫様?」 「・・・う、ん・・・私は大丈夫・・・。ちょっとクリフトの顔が見たいな、って思っただけなの」 目を瞑り、アリーナ(マネマネA)が少し寂しそうに言った。
「(ひ、姫様がー!姫様が壊れましたブライ様!だって僕の顔が見たかっただけだなんて!)」 クリフトは今にも悶え転がってしまいそうだった。
「あー・・・本当はちょっと相談したいことがあったんだけど・・・」 「え!?何ですか!?」 「・・・で、でももういいの!ソロにでも話すよ」 ソロさんに相談するのか・・・。クリフトの内心は複雑だった。 「じゃあ私、部屋戻るね!何かクリフトの顔を見たら安心したわ。おやすみ」 「ま、待ってください姫様!!」 クリフトは、アリーナもどきに後ろから抱きついた。
「えっ・・・ちょっと何してるのクリフト!離してよ!」 クリフトは力が強かった。ちょっとここまでは予想外だったマネマネAは、頑張って力を振り絞って逃げようとしたが出来なかった。 「お願いクリフト・・・離して!あんた神官でしょ!?こんなことしてたら神様に見捨てられるわよ!?」 「私は・・・アリーナ様と神様に見捨てられるなら、姫様に見捨てられたほうが嫌です」 そう言われた瞬間、不覚にもアリーナもどきはときめいてしまった。違う。今、自分はいたずらにきているというのに。こんなことで人間に恋とかそんな感情を抱いてはいけない! 「離して・・・離して、クリフト・・・」 より一層強くクリフトが腕に力を入れて、アリーナもどきを抱きしめたときだった。
「・・・おめーら、何やってんだ?」 「・・・ソロ!」 アリーナもどきは天の助けといった感じで、ゆるめられたクリフトの腕を払ってソロに近寄った。 「クリフトがっ・・・クリフトがぁっ」 今のところ、何かちょっと急展開だけどおもしろいことになってるぞ、と思うマネマネだった。このままいけば、ソロからのクリフトに対する目は冷たくなるだろう。なんだかおもしろい・・・。 マネマネAは心の中で笑っていた。
「あ、姫様・・・!」 「なによ、クリフト」 クリフトが怖いものを見たかのように、マネマネAの後ろを指差している。 「ソ、ソロ?」 「やっぱりな。なーんか違うと思ったよ。外見も話し方も同じだけど、お前はアリーナじゃないなって思って。あ、これはさっきカジノで手に入れた」 ソロが持っているラーの鏡には、もちろんアリーナではなく緑色の炎のマネマネAが映っている。 「あ・・・あ・・・あたし・・・」 「もうアリーナのフリしたって騙されないからな」 そういうとソロは剣を取り出し、アリーナの姿のまま剣を突き刺した。 そのまま炎は小さくなり・・・消えていった。 ソロはマネマネAを倒した!レベルは・・・上がらなかった。
「さ・・・さっきのは・・・」 「・・・クリフトさん、今日で2度目っすよ。マネマネのモシャスにひっかかってんの・・・」 呆れたように言うソロに、クリフトは尋ねた。 「本物の姫様と偽者は、何が違うんですか?」 と。 「・・・さあ。何となく」 フッ、と不敵な笑みを浮かべたソロ。その瞬間、部屋のドアが開けられた。
「ソロ!お願いかくまって!」 「・・・え?」 そこには息を切らしたアリーナが。 「あのねっ勉強から逃げ出して来たのっ!ブライを今うまいことまいたから・・・お願い!」 「・・・しゃーねーな・・・」 アリーナの背中を押し、クローザットにアリーナを押し込めるソロ。アリーナの体はすっぽり入る。 「ありがとっソロ!」 そういい、アリーナはクローゼットの中で静かになった。
さっき、本物のアリーナと偽者のアリーナを見分けることも出来なかった自分。 「・・・私ももう少し精進せねば・・・」 「え?何か言ったっすか?」 「いえ、何も・・・ごにょごにょ」 クリフトはひとり、そう呟いていた。
あとがき 2009.02.23 UP |