数ヶ月後


 

 

ラプソーンが世界からいなくなった。
そのことに世界中の人々は喜び、呪いも消え、みな幸せを取り戻した。

 

 

「隊長、そろそろ交代の時間です」

「あ、ほんと? じゃあお願いするね」

「はい!」

元気な返事と共に、のところに交代の兵士がやってくる。
そう、
はなんと近衛兵の隊長に昇格していた。

 

はトロデーン城の兵士たちの休憩室にやって来た。ここには兵士たちの仮眠できるベッドや、暇をつぶす本など、色々なものがあった。

「? なんだこれ?」

いつもここに来ては向かう机の上に、誰かが読んだあとのような本がある。見てみると、「世界を救った英雄たち」という本だった。

「・・・これ、絶対ククールに取材入ったな・・・」

は本をぺらぺらとめくりながらため息をつく。「世界を救った勇者たち」とは、たちのことだ。もちろんたちのことがびっしりと書かれていた。何故ククールに取材が行ったと把握したのかは、一目瞭然。見事に自分のことを褒めるような文章ばかりだ。

 

「『。旅のリーダー。いつもオレンジ色のバンダナを装備、トーポというネズミをポケットに連れていた。リーダーでありながら剣術も魔法もククールには劣る。』・・・あいつ殺してもいいよね

はグシャッと本を破る勢いだった。の中でなにか黒いものが作られたのを感じた。

「『ヤンガス。元盗賊。ホモセクシャルを疑うほどの兄貴()好き。人情に厚い。』・・・ホ、ホモ・・・」

はその文字を見て背筋がゾッとした。

「『ゼシカ。リーザス村出身の魔法使い。かわいい。美人。ナイスバデー。ツンデレ。』・・・ゼシカのこと褒めてしかいないな・・・」

まぁ仕方が無いかな、と思っていた。ククール絶対ゼシカのこと好きだし。

「なになに『ククール。元マイエラ修道院の聖堂騎士団。魔物倒しならおまかせ。すげーイケメン。』・・・やっぱこいつ殺そう

は次にククールに会ったときはそうしようと心に決めた。
ククールはと言えば、ラプソーンを倒した日からこのトロデーン城に居座り続け、兵士をするわけでもなく、女性を口説いてばかりいる。本当にどうしようもないやつだ。ゼシカやヤンガスもたまに遊びには来るが、そんなククールを見ては呆れていた。ククールはというとそんな生活が楽しいのだろう、酒場に溜まることが多くなった。またいつかの日のドニの酒場の時のようにイカサマして、喧嘩してないといいけど・・・。

「えーっと・・・次はか。『謎の少女。』・・・え、こんだけ?」

いや確かに変な子だけど・・・と思っていたそのときだった。

!!!」

「うわわわっ!!!!」

謎の少女本人が現れた。の肩に手を置いたのは、

「? 何そんな驚いてるの? 何その本?」

「あ・・・いや・・・僕たちのことが書かれた本みたいなんだ・・・」

「へー! そんなのがあるの!? 見せて見せて!」

「あ、いや!! は見ないほうがいいんじゃないかなぁうん!!!」

「えー、なにそれ・・・」

ぶー、と膨れる。それを見て微笑む、

 

二人はというと、婚約はしたものの あれから全く、本当に全く、何の進展もなしだ。周りが心配するくらいに。
もこのままではいけないとわかっているのだが、なかなか勇気が出ない。それはも同じだった。

は、トロデーン城で小間使いの仕事を手伝う日々だった。たまにミーティアの話し相手にもなっているよう。トロデ王にも気に入られ、「よく働く子」として城の人々から人気だった。子供たちにも魔法を使ってみせたりもしているみたいだ。はそんなにまた、魅力を感じていた。

 

「そういえば、近衛隊長としての大仕事。今日だね!」

「うん。皆にも着いてきてもらう話になってるから大丈夫だと思うんだけど・・・そういやみんなが来るのもうそろそろかな?」

「兄貴ーっ!!!!」

「あっヤンガスだ」

今日は、ミーティア姫がサヴェッラ大聖堂まで行く。たち旅をしていた一行はその護衛にあたっていた。
なぜサヴェッラまで行くのかというと・・・ミーティア姫とチャゴス王子の結婚式が、そこで明日行われるからであった。
婚約はまだ生きていたのだ。

休憩室のドアを開けこちらに手を振っているヤンガスまで歩み寄る

「兄貴もも久しぶりでがす!」

「って言っても、2週間ぶりくらいじゃない? ヤンガスたちよく遊びに来てくれるから」

「そうでがしたか? まぁそんなことより、中庭の大臣が呼んでるでがすよ。そろそろ出発するみたいでがす」

じゃあ行こうか、とが言うと、ヤンガスとは元気よく頷いた。

 

「そういやククールの野郎はここに来る途中で・・・あ、いた」

「おはよう 

ククールはまた女の人を口説いていたのだろうか、ククールの背後には女性が二人。

「・・・はー。ククールも懲りないね。また口説き?」

「なんだよ、俺の生きがいをバカにするな」

の言葉にムッとするククール。口説きが生きがいだなんて本当にバカリスマね、とゼシカがここにいれば言いそうだ。蹴りも飛ぶかもしれないな、と考えるだった。

 

「この方が噂の隊長ね!お偉いさんだから普段お目にかかれなくって!」

「や〜んかわいい〜!!!」

ククールが口説いていた女性二人が、へと近づく。その横でわたわたしている

「おいおい、お前らは俺の女だろ? だいたいにはな・・・」

「や〜ねククールったら〜! 私たちの本命はあなただけに決まってるでしょ(ハート)」

そういいながらもに媚を売る女性たち。・・・うーん、ククールに問題があると思ってたけど、これは女の人たちのほうに問題あるかも・・・はそんなことを思っていると、

「ククールも兄貴も、モテモテでがすな・・・」

なんて呟きながら少し羨ましそうにその光景を眺めるヤンガスなのであった。

 

 

 

 

 

「あっみんな! こっちよー!」

4人で中庭へ行くと、ゼシカが手招きしていた。ゼシカの横にはトロデーン王国の大臣と、船乗り場まで向かう馬車。

「おお、・・・姫は? 連れてきたのじゃろ?」

「へ?」

「へ? じゃなかろう! わしは姫を連れてくるように、とそこのヤンガス殿に伝言を頼んだのだぞ!」

「あ」

大臣の言葉を聞いてすぐ、思い出したように口をぽかーんとあけるヤンガス。

「・・・伝え忘れたのだな・・・。まぁよい。今から姫様の部屋に行って姫様を連れてきてくれぬか」

「あ、わかりました。 じゃあみんな、僕行ってくるね」

が城の中へと駆けていく背中を、見守る一行。

 

「さーって、尋問タイムとしますか」

「え?」

ゼシカのその言葉と同時に、ヤンガスたち3人はに ずいと顔を近づける。

「「「(兄貴)と! 進展は!?」」」

「な・・・ないよ? そんなの・・・」

は顔を真っ赤にしながら俯く。はー、とうなだれる3人。

「もう何ヶ月経ってると思ってんの? 婚約はしてるんでしょ?」

「こ、婚約って言っても・・・」

確かにの左薬指にはいつも、決戦前にからもらったものをつけていた。これのおかげでラプソーンに取られてしまった魔力もほとんど回復している。だが、何の進展もなさすぎて、はだんだんとその指輪を左手にはつけず右手の薬指に嵌めるようになってしまっていた。

「・・・本当だったのかなぁって・・・あれは夢だったんじゃないかなって・・・。そんな気がしてきた」

「はー・・・まぁ確かに戦いが終わってから色々バタバタとはしてたけど、ここまで何もないとねぇ・・・」

みんながここまで応援してくれてるのに、何もない自分が何だか申し訳なくなり、はごめんねといった。

 

「別にいいけどさ、このままじゃやばいでがすよ?」

「えっ・・・やばいって?」

「兄貴は近衛隊長なんでがすよ」

それくらい知ってるけど、というにククールが顔を近づけながら人差し指をの唇に置いた。

「それだけレベルが高いってことだよ。を狙う女もわんさかいるぜ」

「え・・・っ ええ!!??」

「さっきの俺が口説いてた女たちを見たろ」

そう言うククールに「あんたまた口説いてたの?」とゼシカのメラが吹っ飛んだ。

「そっか・・・やっぱり、かっこいいしモテるよね・・・」

「それだけじゃない」

ゼシカのメラによって少し焦げた服を気にするようにククールは言った。

「それだけじゃない・・・って?」

「お前、このまま姫とチャゴスを結婚させる気か? 俺は少なくともさせるつもりはないぞ」

ククールは後ろの大臣に聞こえないようにひっそりとそう言った。
確かにこのまま、姫とチャゴスを結婚させるのは、あまりに姫が可哀相だ。
結婚が近づくに連れて、姫の元気が無くなっていたことを、話し相手になっていた
はよく知っている。

 

そして確実に、ミーティア姫はのことが好きだということ。これは紛れもない事実だ。

の話を聞くことも、よくあった。

 

だって、姫様は昔から護衛してきた大切な人のはずだ。たぶんこの結婚には納得していないだろ」

「・・・そうかしら? はなーんにも考えてないような気もするけど」

おい、とゼシカの頭にチョップを入れるククール。あ、と口を押さえるゼシカに、ヤンガスはやれやれといった様子だ。どうやらを焦らす作戦のようだが、はまったく気がついていない。

 

「とにかくだ、このままだと姫様にを取られることも考えなくちゃいけねーぞ。姫様が結婚しましょうなんて言ったらあいつも断れねーだろ」

「ええええええ・・・!!!!」

そんな話を聞いて涙目になるに、ククールがさらに揺さぶりをかける。

「お前はが取られてもいいんだな・・・!?」

「・・・でもと姫ならお似合いだし・・・」

ここまで来てまだそんなこと言うかよ、と思うククールだった。

 

 

 

 

「・・・姫様、お迎えにあがりました」

「・・・・・・・・・」

その頃、はミーティアの部屋にたどり着いた。ミーティアはピアノの前に座り、悲しげな表情を浮かべているのだった。

 

 

 

 

 

next→


あとがき
久しぶりすぎて^^^^

2012.04.22 UP