すれちがい


 

 

「ここでこうしてピアノを弾くのも、最後になるわね。サザンビークにもピアノはあるのかしら・・・」

ミーティアは磨かれたピアノに映る自分の顔を見た。それはあまりにも、悲しい顔で。

「あのね、

「は、はい」

「あなたに来てくれるように大臣に頼んだのは、出発前にあなたと城を歩きたかったからなの。・・・少し早いけど、にもきちんとお別れを言わなくてはね」

「え・・・っ」

今まで、尽くしてくれてありがとう。」

そのミーティアの言葉に、思わずは涙腺が緩んだ。必死に堪える。

「・・・トロデーンで過ごした日々はミーティアにとって一生の宝です。サザンピークへ嫁ぐことでミーティアも王族としての義務を果たします。だから、あなたも・・・・・・」

ミーティアは相変わらず悲しげな表情で。ミーティアはピアノの椅子から立ち上がり、に近づいて真っ直ぐに見つめた。

「この先もどうかお父様に仕え、トロデーンのために今までどおり尽くしてください。とも・・・」

「えっ?」

「・・・ううん、なんでもないわ。では行きましょうか。あまり皆を待たせては悪いものね!」

ミーティアは笑った。だが、その笑顔が嘘だということは、にはすぐわかった。

 

「・・・お手を」

「・・・・・・はい」

が差し出した手を、ミーティアはゆっくりと取った。

 

 

 

「おお、来た来た」

背の低い大臣が、城から出てきたたちにこちらだと言うように手を振る。

「・・・あ・・・」

が見た二人は、手を繋いでいた。わかってる、特別な意味なんか何も無い。でも・・・なんでこんなに不安なんだろう。

 

姫様の表情は、どこか嬉しそうで、寂しそうだった。

 

「それでは、参りますかな」

ミーティアを馬車に乗せ、大臣は手綱を締めた。それと同時に、白馬は走り出す。

 

「じゃ、俺たちも船まで走っていくぞ」

「久々にキラーパンサーに乗るねー!」

ククールに続いて城の外へと駆け出す。でも本当は、心がざわついて仕方が無かった。

 

 

 

「・・・船は気持ちいいわね」

サヴェッラへと向かう船に乗りながら、ミーティアは海を眺めていた。隣にいたは、その言葉にえ?と聞き返した。

「ミーティア、鳥になりたいな。鳥は自由で、羨ましいわ。・・・こんなこと言っても仕方がないわよね」

やはり、ミーティアは浮かない顔をしていた。

「・・・姫様、もしかして・・・」

「私、中に入っていますわね」

「・・・あ・・・はい・・・」

そう言ってミーティアは、船の中へと入っていった。

二人のやり取りを見ていたにはなにひとつ会話は聞こえなかったが、嫌な予感が止まらなかった。

 

 

サヴェッラ大聖堂に着く。差し出したの手を取りタラップの上を歩くミーティアの表情は、やはり浮かなかった。同じような空気が、今この場所に流れている。誰一人言葉を発しなかった。

サヴェッラの入り口の扉を開け、少し長めの階段を昇り終えたときだった。

 

「姫ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!」

「!? きゃあっ!!!」

どこからかミーティアを呼ぶ声がして、一行は辺りを見回す。するとミーティアに抱きつくデブが。

「ちゃ、チャゴス王子!!」

それを見て慌てて大臣がうんこチャゴスをひっぺがす。

「いやーお待ちしておりましたぁ!!!僕のかわいいかわいい姫!!!」

「えっいや、あの・・・」

それでも擦り寄ってくるくそチャゴスにミーティアは困惑気味。

「・・・はぁ」

?」

はため息をつくと、チャゴスのほうへと歩み寄る。

 

「・・・? なんだ、お前は?」

「姫の近衛兵にございます。あまりそういったことは公共の場ではふさわしくないかと」

そうぴしゃりと言ったの表情は硬く、眉はひそめられていた。

 

「お前・・・ ん?お前たちは・・・」

やっとこちらのたちの存在に気付いたチャゴスは、たちを見比べてニヤニヤした。

「やはりそうか。お前たち王者の儀式の時の旅人であろう!! 近衛兵だなんて嘘をつきやがって。ふん、おおかた噂を聞きつけて見物にでも来たのだろう?」

「は・・・?」

「残念だったな、お前たちが来れるのはここまでだ。かわいい姫が僕の妻になるその神聖な儀式にお前たち平民ふぜいを招待するわけにはいかないだろ? せめてお前たちが金持ちか貴族だったら招待してやれたんだがな。ぶわぁーはっはっはっは!!!!!!!!」

憎たらしく大口を開けてチャゴスが笑うので、その口の中に足元の砂を大量に入れる

「ごばああっ!!??? ぐぇーっほっ!!!!」

激しくむせるチャゴスを見て、ミーティアはここに来てはじめて微笑んだ。

 

「すまないな。王子の言うとおりなのだ。おぬしらの宿はここで取ってあるから、ゆっくり休んでからトロデーンに帰るとよかろう」

では、と言って大臣はたちに手を振り、ミーティアとチャゴスと共にさらに大聖堂のほうへと繋がる上の階段を昇っていくのだった。

 

 

 

「くそっ!!!! なんなんだよあのブタ野郎!!!!!!!!!!」

「ちょ、ちょっと! 落ち着きなさいよククール!!」

宿で休息をしていると、酒を飲んでいたククールがいきなり机にそのグラスをドンッと叩き付けた。

「怒る気持ちもわかるでがすが、こればっかりはどうしようもないでがすな・・・」

「・・・お前らは言われたことに従うしかできねーのかよ?」

ヤンガスの言葉に、ククールはきっとヤンガスを睨みつけた。ヤンガスは飛び上がる。

 

「おい

「えっ? 僕?」

「お前はこのまんまでいいのかよ。昔から仕えてきた大事な大事な姫を、あんなくそブタに嫁にやっちまっていいのか?」

「・・・それは・・・」

そういわれて、はちらりとのほうを見た。は ぱっと視線を反らす。今日はあんまり、と会話をしていないな・・・。

 

「ったく、どいつもこいつもよ・・・。なあ。俺は姫の幸せを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」

そう言ってククールは持っていたワイングラスを机に置き、自分のベッドへと寝転がった。みんな沈んだ表情をしている。

「・・・わっ私も寝ようかな! おやすみなさい!」

も、わたわたと自分のベッドへと潜って行った。

 

 

みんなが寝静まった後、は一人宿の外へ出て月を見ていた。

「(僕がトロデーンに来たのは、確か8歳のときだ)」

昔のことを思い出していたのだ。

 

は8歳の頃、トロデーンの城の外で傷だらけで倒れていた。それを見つけた城の人は急いで連れて帰り、傷の手当てや、お腹を空かせたにたくさんご飯を食べさせたりした。その頃の記憶はあまりにはないのだが、ミーティアと同い年ということもあり、トロデにも気に入られ、手伝いもよくするので小間使いの人たちにも好かれていた。ミーティアともすぐに仲良くなれた。すこし大きくなってから、小間使いを辞め兵士に。そしてまた時を経て近衛兵になったのだ。

「僕は・・・」

僕は、もしかしたら、ミーティアのために生まれてきて、城の前に倒れていたのかもしれない。はそう思った。
でもそうなると、
とのことをどうすればいいのかわからなかった。

 

「!」

そんなことを考えていると、後ろから誰かに声をかけられた。

「・・・か・・・どうしたの?」

「・・・・・・ふと起きたらがいなかったから・・・」

「ごめん・・・」

「ううん。隣いいかな?」

うん、とが言うと、は少しだけ笑って隣に座った。

 

「あのね、

「ん?」

「私のことは気にしないでね」

「えっ?」

驚いたようにを見た。の横顔は、さっきまでの自分と同じように月を見上げている。

 

「さっきククールが言ってたみたいに・・・私も、ミーティア姫の幸せを守ることも、近衛兵のお仕事なんじゃないかなぁって思うよ。私は別に気にしないから・・・エイトがミーティア姫に優しくしても、なんにも思わないから。だから姫のことを助けてあげて」

は笑顔だった。

 

「・・・なんにも思わないの?」

「え? う、うん」

「・・・・・・ふうーん。」

・・・?」

は少しさびしそうに唇をとんがらせた。

 

は・・・僕のこと好き?」

「えええっ!!?? あ、あの・・・」

「好きならちゃんと言って」

「ええええええええっっっと・・・・・・!!!!!」

なんかいきなりドSモード突入してるんですけどさん・・・!!!!

は顔を真っ赤にしながらあたふたしていると、はくすりと笑った。

 

「・・・僕 ミーティア姫のことは助けられないよ」

「・・・え?」

はうつむきながらそう言った。

「確かに僕は姫のことが大事だし、幸せになって欲しいって思う。でも僕は、姫が何も言わない限り何も出来ないんだ」

「で、でも結婚がいやだなんて、姫も言えるわけないじゃない!」

「そうだね。だけど僕が勝手に行動を起こすわけにもいかない。なんにも・・・何にも出来ないんだよ」

の拳に、ぐっと力が入るのが見ていてわかった。

 

「ただ、僕が、姫を助けるって言ったら・・・」

「・・・言ったら・・・?」

がちょっとは、やきもち妬いてくれるのかなって思ってた」

はは、と笑うを見て、は唇を噛んだ。

 

「・・・のばか」

それを聞いて、は笑いを止めた。

「・・・・・・ほんとは、いつだって妬いてるよ。姫とが手を繋いでるのだって、いつもいつも・・・、私、すっごいやきもち妬きだよ!! 自分でも嫌になっちゃうくらい嫉妬するよ!! でも私は姫も好きだもん!! あんな最低な王子と結婚してほしくないの!! それは今ここにいるみんなが思ってることだよ・・・!」

は宿で眠っているみんなを思い出した。だって本当にそうなのだ。ククールだって怒っていた。ゼシカもヤンガスも浮かない顔をしていた。あの大臣でさえ。

・・・」

「ご、ごめ・・・私もう寝るね」

泣きそうになるのを堪えて、は宿へと戻った。その背中を、は見ていた。

 

 

 

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あとがき

きゅん一体どうするんでしょう

2012.06.19 UP