脱獄と救出


「ぐ、あああああ!!お腹が・・・痛い・・・!!!」

だぁっいじょぉおおぶですかニノさぁあぁぁああん!!!!

脱獄計画実行日。計画は、台本どおりおこなわれた。(台本ないけど)

 

その計画というのは、ニノがお腹を痛いと叫ぶというもの。その回りでやヤンガスが心配して、看守の気を取らせる。その隙に脱獄だ!という計画だった。

 

「なんだよお前等。うっせぇな」

看守の1人が、こちらを向いた。ニノは更にお腹が痛いという演技をする。

 

「おおお・・・!!助けてくれ、病院に連れて行ってくれ!」

「ああん?連れて行くわけねぇだろ、お前は囚人なんだからよ」

「そんなこと言わずに・・・!くぅ、この間誤って飲み込んでしまった金のロザリオが胃に刺さっておるのかもしれん・・・!!」

「なっ!?金のロザリオだって!?」

金のロザリオを飲み込むなんてお前いくつだよ、と言いたくなる台詞ではあったが、どうやら看守は信じたみたいだ。

 

「どれどれオッサン、お腹を見せてみろよ」

ニノの体調よりも、もろに金のロザリオに意識が集中している看守は、牢獄を開けてニノに近寄った。その瞬間、エイトたちの瞳がきらめく。

 

 

ドカッ!!ボコッ!!!

「んがああっ!!」

ニノに気を取られていた看守を、後ろから5人で殴りこんだ。そのまま看守は前へと倒れこみ、は手を伸ばしてニノの手を取る。

「さぁ逃げるわよ!」

「くそぉっ、待てぇえ!!!」

急いで地上へと出るエレベータに乗り込み6人。が、一行にエレベータは動かない。

 

「な、なんで動かないの?」

「ヤンガスとニノさんできっと重量オーバーなのよ」

「なんでそんな哀れんだ目で見るでがすか・・・。アレ、デジャヴが・・・

そんな事をやいやいと言っていると、殴られてボロボロになった看守がゆっくりと立ち上がった。

 

「残念だなお前等・・・。そのエレベータは一人が外でレバーを倒さないと動かねぇんだよ・・・」

「あ!・・・そういえば・・・」

いつも見ていた看守交代の時間。一人は此処に残るから、地上へと戻る看守のエレベータをレバーで動かしていたのを、は覚えていた。

 

「ひひひひ・・・仲間を残して脱獄なんて、そんな裏切るようなこと出来ねぇだろ?お前らはここで終わりなんだよ・・・」

看守は先ほど殴られた怒りで、ゆっくりとたちに歩み寄ってくる。絶体絶命のピンチだ、という時だった。

 

 

「ニ、ニノさん!?」

「ワシはええわい。お前等だけでも逃げなさい」

そう言って、ニノはエレベータから降り立った。たちはもちろん、看守まで驚いた顔をしていた。

 

「待ってニノさん!!あなただけ置いて逃げるわけには・・・!」

「いいんじゃ。上でマルチェロをこらしめてくれさえすれば、それでワシは安心して逝ける。もう片足を棺おけにつっこんだような年齢なんじゃ、遅かれ早かれワシは死ぬ。これでいいんじゃ」

そう言って、ニノはレバーを倒した。エレベータが、動き出す。

 

「ニノのおっさァァァァァアアアアン!!!!」

ヤンガスが叫んだ。辺り一帯に、寂しくヤンガスの声が響いた。

 

 

 

 

「・・・さて、ワシを煮るなり焼くなり好きにするがええぞ」

看守が歩み寄ってくる前で、ニノは両手を大きく広げた。

「(がんばるんじゃぞ、)」

ニノは、看守が目の前で手を大きく振り上げたのを最後に、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニノさん・・・大丈夫かな・・・」

「・・・今は無事を信じてマルチェロをやっつけるくらいしか、俺らに出来ることはねぇな・・・」

「で、でも!」

マルチェロさんは、ククールのお兄さんなのに・・・やっつけるなんて、そんなのおかしい。どうして兄弟が、仲良くできないんだろう。

 

そう思っていたの頭に、の手がそっと置かれた。

「・・・大丈夫だよ。きっとニノさんは生き延びてくれる。僕たちが助け出そうよ」

「・・・・・・うん、そうだね」

ちょっとだけ元気が出た。の隣で誰よりも1番悲しそうな顔をしていたヤンガスも、の言葉に顔がほんの少し明るくなった気がする。

 

 

ガターン、と大きな音が鳴り響いて、エレベータは地上へとついた。揺れる籠を恐る恐る降りようとするに、の手が伸ばされた。その手を掴んで、ゆっくりと降りた。
同じようにゼシカの手をククールが取って、ゼシカが一番最後に降りた。

一行は外に出ようとすると、後ろで何かがちぎれる音がした。

「あっ!!」

が見たときには、今まで自分たちが乗っていたエレベータが、下へと落ちていく瞬間。その数秒後に、下に籠が落下したであろう音が聞こえた。

 

「・・・きっとなんとかなるわよ。行きましょ」

ゼシカの言葉に頷きながらも、は下へと続く大きな穴を、振り返りながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おーーーーいっ!!!ーーーーー!!!」

「あ!王様!」

煉獄の建物から出ると、自分たちの船が泊まっていた。トロデ王はその横でぴょんぴょんと跳ね、ミーティア姫を幾分か安心したような表情を見せていた。急いで5人は駆け寄った。

 

「久しぶりじゃなぁおぬしら!もう既に1ヶ月は経っておるぞ!」

「私たちそんなに長い間居たのね・・・」

「そんなことより王様、お体は大丈夫ですか?どうしてここに?」

が不思議そうな顔をしていると、トロデ王はえっへんという顔をした。

「一行におぬしらが帰ってこぬから、心配して散歩していた法皇様に聞いたんじゃよ。それからずっとここで船にある飯を食って生きておったわい。ワシもミーティアも、この通り元気じゃぞ!」

「そうですか・・・よかった、ずっと心配していたんですよ」

うそつけぇええええ!!と思うだったが、一応心の中に留めておいた。

 

 

「そうじゃ大変なんじゃ!おぬしら法皇様がなくなったのは知っておるのか?」

「え、あ、はい」

「マルチェロが今聖地ゴルドで、新しい法皇就任の儀式をやっておるんじゃよ!!」

「「「「「 !!?? 」」」」」

 

 

 

 

 

たちは急いで、聖地ゴルドへと向かった。すでにたくさんの人だかりがあり、奥の祭壇でマルチェロが演説をしているようだった。入り口でば聖堂騎士団の1人が関係者以外立ち入り禁止の警備をやっていて、中に入れてはくれなかった。

「よーし!こうなったら!」

「強行突破ね!」

5人は警備の人を睨みつけた。一瞬、その人はたじろぎながらも、「入れさせんぞ!」と言っている。

 

「入れさせないっていうのは・・・」

「俺たちをやっつけてから言えよな!」

ククールが男を殴り、男はすぐに伸びた。その瞬間に、5人は祭壇へと入った。

中にはたくさんの人がいて、その人たちの視線の先には・・・演壇で話をするマルチェロがいた。その手には、あの杖。

 

「・・・・・・ご列席の諸侯もご存知の通り、亡くなられた前法皇はあまたの祈りと涙とに見送られ・・・安らかに天に召された。よからぬ噂を立てるものもあるが、まこと天寿を全うされたのだ。しかし。・・・・・・私は、次の法皇に即位する気はない」

マルチェロの演説は続いた。が、今の言葉に聴衆は戸惑いの声をあげた。

「いや、正確に言おう。これまでのような法皇として、飾り物にされる気はないのだ。王とは何だ?ただ王家に生まれついた。それだけの理由でわがまま放題、かしずかれ暮らす王とは?」

マルチェロは、偉そうに自分の前にある机を叩きつけた。

 

「ただの兵士には王のようにふるまう事は許されぬ。たとえその兵が王の器を持っておろうとも、生まれついた身分からは逃れられぬ。・・・・・・そう、私もだ。不貞の子として生まれ家を追われた身分いやしき者は法皇にふさわしくない。教会の誰もがそう言った。良家に生まれた無能な僧どもにしか、法皇の冠は与えられぬのだと」

机の上にあった燭台を、マルチェロは杖で払い落とした。聴衆の顔はだんだんと険しくなっていく。

 

「いと徳高く尊き前法皇。だが、奴が何をしてくれた? 世の無常を嘆き祈る。それだけだ。神も王も法皇もみな当然のように民の上へ君臨し、何ひとつ役には立たぬ」

「・・・あいつ・・・」

法皇様のことを悪く言うマルチェロを、ククールは歯を食いしばって悔しそうに見つめていた。

 

「・・・・・だが、私は違う!尊き血など私にはひとしずくたりとも流れてはいない!そんなものに意味なぞない!!・・・だが、私は今ここにいる。自らの手でこの場所に立つ権利をつかみ取ったのだ!!」

マルチェロは持っている杖で、床を突いた。回りがざわつき始める。

「私に従うのだ! 無能な王を玉座から追い払い、今こそ新しい王を選ぶべき時だ!」

列席者が次々と席を立ち、退場しようとする。すると、聖堂騎士団員がそれを阻止し、無理やり列席者を座らせた。マルチェロは話を続けた。

 

 

 

「・・・・・・さあ、選ぶがいい。我に従うか・・・さもなくば・・・・・・」

マルチェロは演壇から辺りをぐるりと見渡した時、と目があった。そのマルチェロの目つきに、は背筋が凍るようにぞくりとした。マルチェロは嫌味そうにニヤリと笑って、杖で一行を指し示した。

 

「そこにいる侵入者のように、殺されるかだ!!!」

気づけば、たちの周りには幾人かの聖堂騎士団が、取り囲んでいた。5人は背中をあわせて、騎士団を見つめる。すると。

 

「さあ!今こそボクのチカラを使って・・・!」

 

どこからかそんな声が聞こえ、のかばんから黄色い光が溢れた。神鳥のたましいだ。

 

その瞬間、たちはいつものように神鳥のたましいへと乗っていた。そのまま、演壇にいるマルチェロの前へと降り立った。

 

 

「・・・ふん、私に挑もうとでもいうのか?いいだろう。どうあっても私の前に立ちふさがると言うのならば。手始めに貴様に、この手で引導を渡してやろう!」

そして、戦いが始まった。

 

 

 

 

マルチェロは杖と剣を巧みに使って、こちらに攻撃をしかけてきた。その中でも、グランドクロスという技は喰らうととても辛かった。

が、なんとか一行は勝利を収めた。

 

「・・・な・・・ん・・・・・・だと・・・?この私が・・・っ!」

マルチェロは杖に寄りかかりそう言った。ククールが歩み寄ると、マルチェロの体が震えだした。

「あ・・・兄貴・・・?」

くっくっく・・・。礼を言うぞ、よ・・・。

「礼を言うぞ、よ・・・」

「!?」

マルチェロの瞳は赤く煌き、そう言った。するとマルチェロは杖を持って、空高く飛んだ。

「なっ・・・!?」

「ずいぶん手こずらされたが、お前達のおかげでようやくこの肉体を自由に操ることができる・・・。この男が法皇・・・最後の賢者を亡きものにしてくれた今、杖の封印はすべて消え失せた。そう!!今こそ我が復活の時!」

マルチェロは女神像の前で、飛ぶの止めた。聴衆はもちろんたちも、どよめきながらマルチェロの姿を見た。

 

「マルチェロさん!!」

が叫んだときには、もう遅かった。マルチェロは、杖を右手に大きく振りかぶった。

 

「・・・さあ、よみがえれ! 我が肉体よ!!」

杖は、マルチェロから勢いよく放された。それは女神像の喉の辺りに突き刺さり、女神像はヒビ割れていく。その瞬間に辺りは地震のように揺れ始め、人々は逃げ惑う。

聖地ゴルドが、崩壊し始めた。

 

女神像が完全に壊れると、祭壇全体が空に浮かび始めた。たちは急いで神鳥のたましいに乗って逃げる。

 

しばらくすると振動が収まったが、その時にはゴルドはもう廃墟になっていた。綺麗だった町並みは崩れ去り、祭壇の建物は空へと浮かび上がったまま。元あった場所は、大きな穴となっていた。

「・・・きっと、たくさんの人の命が奪われました・・・」

「うわあああああん!!!!お父さーん!!お母さーーーん!!!」

大穴を見つめて、悲しそうな顔をするシスター。演説を聴いていたんであろう母親と父親をなくした子供が大声をあげて泣いている。その光景を見て、は唇を噛み締めた。

 

「あれ?ククール・・・」

ククールが、大穴に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「くっ・・・私がこんなところで・・・!」

マルチェロは、間一髪で大穴に落ちることなく崖に掴まっていた。なぜこんなことになっているのかもサッパリ分からない。自分は確か、ここで演説をしていたはずなのだ。なのに・・・何故・・・

「!!」

掴んでいた崖が、崩れ落ちた。体が宙に浮く間隔。マルチェロは、大穴へと落ちようとした、その時。

 

「兄貴!!」

ガッ、と手首を掴まれた。誰かと思えば、この世で一番憎い腹違いの弟、ククール。

「な・・・なんのつもり・・・だ・・・?放せ!!貴様らが・・・邪魔をしなければ・・・暗黒神のチカラを・・・我が手にできたのだ・・・。だが・・・望みは・・・ついえた・・・。すべて終わったのだ・・・。さあ放せ!!き、貴様なぞに・・・助けられてたまるか・・・!」

マルチェロは、助けてくれたククールの手を払って、死のうとした。こんな奴に助けてもらうくらいなら、死んだほうがマシだ。そう思って。しかし、ククールは再びその手を掴んだ。

「・・・死なせないさ。虫ケラみたいに嫌ってた弟に情けをかけられて、あんたはみじめに生き延びるんだ。好き放題やってそのまま死のうなんて許さない」

ククールはそう言って、手に力を入れて穴からマルチェロを引き上げた。マルチェロは歯を食いしばり、地面を叩きつけククールを睨んだ。

「このうえ・・・生き恥をさらせ・・・だと? 貴様ぁ・・・!!」

ククールは立ち上がって、服についた砂を払いながら言った。

 

 

「・・・。・・・10年以上前、だよな。身寄りがなくなったオレが初めて修道院に来たあの日。最初にまともに話したのがあんただった。家族も家もなくなってひとりっきりで・・・修道院にも誰も知り合いがいなくて・・・」

ククールはマルチェロの顔を見ることもなく話す。

 

「最初に会ったあんたは・・・でも、優しかったんだ。はじめの、あの時だけ」

ククールは俯いた。その顔を、マルチェロは悔しそうに見つめる。

「・・・オレが誰か知ってからは、手のひらを返すように冷たくなったけど・・・それでも・・・・・・」

顔を上げ、ククールは空を見た。

 

「・・・それでも、オレは。忘れたことはなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

マルチェロはボロボロになった体で立ち上がり、傷付いた箇所を抑えながらゆっくりと歩き始めた。
ククールの後ろを通る時、マルチェロは言った。

「・・・いつか私を助けたことを・・・後悔するぞ・・・」

「・・・好きにすればいいさ。また何かしでかす気なら、何度だって止めてやるよ」

「・・・・・・」

マルチェロは何も言わずに、ククールの後ろをよたよたと歩いた。ククールはそんなマルチェロの後ろ姿を見つめてはいたが、目は最後まであわせなかった。

するとマルチェロは突然立ち止まった。手に嵌めていた指輪を、ククールへと投げる。それをククールはキャッチした。しかしマルチェロのコントロールすげぇな。ちょっと大きかったら大穴へと落ちますよ。


「これ・・・あんたの聖堂騎士団の指輪か・・・?」

「貴様にくれてやる。・・・もう私には無縁のものだからな」

そう言って、再びマルチェロは外へと歩き始めた。ククールはそんなマルチェロと指輪を交互に見ながら、ため息をつく。

 

「ねえククール、放っといていいの?あんなひどいケガしてるのに。ねえってば!」

「・・・・・・」

ククールはゼシカの問いかけにも答えなかった。

 

ただ、手元の指輪を握り締めて、目を瞑った。

 

next→


あとがき
か、悲しすぎる(´;ω;`)ブワッ
そして終盤が近くなってきてそれも悲しすぎる(´;ω;`)ブワワッ

2010.04.24 UP