神鳥の真実
「・・・どうやら、あなたたちはあの子のこと任せられるほどの強さの持ち主でしょう・・・」 「え、は・・・?」 しばらくレティスと戦っていると、レティスは戦いを止めそう言った。何の意味か全く分からない一行は、全員レティスを真ん丸した目で見ていた。 「申し訳ありません。あなたたちを試したのです」 「え、それって負け惜しみでが「違います」 ヤンガスの問いかけに即答だったレティスに、ヤンガスは一瞬後ろにたじろいだ。何だこの鳥の威圧感・・・!
「どういうことなの?私たちを試すだなんて・・・まぁ、そもそも今何で戦っていたのかもわからないんだけど」 「・・・・・・実は・・・私の子の卵が人質として、ラプソーンの手先である妖魔ゲモンに奪い取られてしまったのです・・・」 「!? ラプソーンですって!?」 ラプソーンという代名詞に反応を示したゼシカは、燃えるようなツインテールを揺らしてレティスに詰め寄った。 「じゃあ、あなたが村を襲ったりしたのは本望じゃないってことなのね!?」 「・・・えぇ。ゲモンは卵を救いたければ村を襲えと言いました。きっと村人の私への信用をなくそうとしているのでしょう・・・私はそれに屈してしまったのです」 「く〜〜っなんて奴なの!ラプソーンもそのゲモンって奴も!!」 ゼシカは歯をキ〜ッと食い縛って、両手の拳を握りしめて悔しそうに上下に振った。
「でもあなたって神鳥なんですよね?自分で戦えばもしかすれば倒せるんじゃ・・・」 「まともに戦えばゲモンごとき敵ではないのですが卵を人質にとられては・・・手も出せません」 え、そうなの?何この鳥、力自慢? 「私が行けばきっと・・・卵は無事ではなくなってしまうでしょう。だから、あなたたちのような勇気ある人間を待っていたのです・・・」 「・・・そういうわけだったのか。じゃあ俺たちはあんたに闇の世界に案内されてたってんだな」 ククールは納得したように、自分の顎を触りながら頷いた。
「そうなると一刻も早くその人質の卵を悪の手先から奪い返すでげす!!」 「そうだね!じゃあ行くよみんな!」 「待って!」 今レティスと戦って全く体力が満タンでないのに急ごうとするたちを、は引き留めた。 「一応体力くらいは満タンにしてから行こうよ。あと・・・」 「あと?」 「・・・卵で・・・しかも鳥なのに・・・『人』質なの?・・・・・・鳥質じゃない?」 「「「「「 ・・・・・・・・・ 」」」」」 そこにいた仲間、そしてレティスまでもが唖然としている。しかしは気づかない。
「あっ!いや、まだ生まれてもないから卵質かな?たまごじち・・・なんかしっくりこないなぁ。・・・たまごしつ?あ、卵肌?ツルツルの生まれたての肌?」 「あの・・・失礼ですがあのお方はバカなのですか?」 「あぁ、典型的なバカだ」 「バカの見本でがす」 そんな会話を聞き、初対面のレティスにさえ「バカだ」と認識させてしまったは、恐らく正真正銘のおバカさんだ、と思うだった。――でも。そんなだけど、さっきみたいに仲間の体力のことをちゃんと考えたり・・・レティスが本望で自分たちを襲っていないということに気づくなど、鋭い部分もある。
「・・・そういうとこ、頼れるんだよなぁ」 クスリと、今だ卵肌だ鳥肌だ言っているを、は見て笑っていたのだった。
とりあえず体力を戻すため翌日までレティシアの宿に止まり、再びレティスの止まり木に出向いたたち。
「・・・皆さん来ましたね。準備も大丈夫ですか?」 「えぇ、ばっちりです。でもどうやってゲモンのもとに・・・?」 「まあ、安心して下さい」 え、何を?と思うだったが、とりあえずはその言葉は飲み込んでおいた。
「わしらももちろん着いていくんじゃな?」 「えぇ、私といてくだされば安心だと思いますから。それでは、皆さん馬車に捕まってください。行きますよ」 トロデの答えにもあやふやに答える。これから一体どこに行くのだろうか。 意思確認のような目でレティスは一人一人の瞳を見つめていく。目が合うと、皆は頷いて馬車に捕まった。レティスもそれを確認すると、両翼を大きく広げ止まり木から体を浮かす。すると。
「!? ぎょえぇぇぇ!!!!」 「ぎゃあああああ!!」 「ヒヒーーーンっっ!!」 足で馬車を鷲掴み、一行は色のない空に向かって飛んでいった。
「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った・・・」 思いのほか自分の体重を支えて馬車に捕まるのは、には重労働だった。軽々とは馬車に捕まっていたので、もう片手での体を支えてくれていたが、恥ずかしい・・・。 「(うぅ・・・明日きっと腕全部筋肉痛だわ・・・)」
「ここが私の巣・・・神鳥の巣です。・・・しかし、今はゲモンの巣へと化してしまいました」 着いた場所を翼で指して、少し悲しそうにレティスはそう言った。着いたのは高台の上にある、鳥の力によって出来た洞窟のような、高い塔のようにも見える鳥の巣だった。かなり高くて大きい。
「私がここから飛んでゲモンの元に行きたいのですが、卵が危ないので・・・私が着いていけるのはここまでです。人間も登り降りできるように中は空洞なので、ここからは皆さんに登って頂きたいのですが・・・」 「まっかせなさいよ!ゲモンなんてちゃっちゃと片付けて卵を取り返してみせるわ!」 ゼシカは何だかやたら張り切っている。もしかするとラプソーンの手がかりが手に入るかもしれないからなのだろう。
「じゃあ・・・入ろうか」 はそう言って、洞窟の入り口に向かって歩き始めた。みんな後をついていく。
「? ってばどうしたのよ」 「あ、あははは・・・なんかまだ恐怖で足がガクガクしてるみたい・・・」 先程の空を飛んだことによる恐怖心で、足に力が入らない。よろよろと後ろを歩くを見て、ゼシカは笑っている。 いや笑い事じゃないんだよゼシカ。私今歩くの死ぬ程辛いんだから。もう足の筋肉がおばーちゃんになっちゃってんだから!
「・・・! おー!」 「今度は何なのよ?」 「いやいや見てこれ大発明!」 は私すごいでしょと言わんばかりにゼシカに技を見せた。
「ほら、坂道で疲れちゃって全然前に進まない足もね・・・」 は体を前に傾け、こけそうになった。しかしそれはその技の作業の一つなのでもちろんわざとであるが、には通用しなかった。 「っ!?」 前に飛び出てはを庇おうとすると。
「はい、こけそうになるから反射的に嫌でも足が前に出るよ〜」 「ぶっっ!!」 カクンっと足を前に出し、こけるのをカバーしたの足元で、を庇おうとしたはあまりのおバカさに顔からこけてしまった。
「ぎゃあぁっ!大丈夫・・・!?」 「あ、あはははは・・・大丈夫」 何、この子本当に大丈夫なのかな。は溢れでそうな鼻血とか、色んな顔の痛みを堪えた・・・。
「・・・、全然大発明なんかじゃないでがすな」 「いや、ある意味をここまでこけさせたんだから大発明だろ」 「??」 ククールの言った意味が全く分からないだった。
「うわっ!!!!」 着々と上へと登っていたたちは、次のフロアへ行こうとするといきかりゲモンがこちらに向かって立っていた。 「やっ、やっばい・・・心臓口から出るかと思ったよ・・・」 「えー出せばよかったのにー」 「出すわけないでしょ」 ククールは腹立つ顔で笑っている。ドクドクと上がっていく心拍数を何とか押さえたは、ゲモンを見た。ゲモンの後ろには、レティスの卵。しかし卵のすぐ後ろは・・・落ちてしまえばお終いの、とても高い上空だった。 「へへへ、人間どもが。貴様たちなんかがこのゲモン様に勝てるとでモンゴルっっ!!」 話の途中で、ゲモンはゼシカに顎を蹴られへんな言葉が漏れ出てしまった。 「こ、小娘ェっ!人の話は最後まで聞けとブゴォォォ!!」 次はゼシカはゲモンの腹を蹴り上げ、ゲモンを倒した。 「あら、弱いわね。ちょろいちょろい」 「く・・・何だこの女・・・っ!?全然私はちょろくなんかない!」 ちょろいことを断固拒否するゲモンの姿は、なんだか哀れだ。
「はっ・・・もしや、貴様達レティスに!?レティスが光の世界から貴様たちを・・・」 気づいたようだ。ゲモンはゼシカに蹴り上げられた顎や腹をさすりながらそう言った。倒れているので大きな顔がたちのすぐ前にあり、結構怖い。
「くっそォ!!このまま倒されてなるものか・・・っ!ヤツの卵も道連れにしてやる!!」 「!」 ゲモンは卵を背に、後ろへ、また一歩後ろへと下がっていく。
「な・・・なに?何が起こるんだ・・・?」 はみるみる姿が変わっていくゲモンを見て、恐怖心を覚えた。力を増幅させたゲモンは、体全てが紅くなると、一瞬にやりと口元をあげ笑ったように見えた。
「危ない!」 強い光がゲモンから放たれ、は咄嗟にを庇った。ククールもゼシカを庇い、ヤンガスはその光が目に入らないように腕を前にやった。
ドオオオオオン・・・!!
激しい轟音と爆風が、たちに吹き付けた。 「、大丈夫!?」 「う、うん・・・あ!!」 目を開けると、が目の前で心配そうな顔をしていて少しドッキリとした。恥ずかしくて目を逸らすと、そこには居たはずのゲモンの姿はなかった。 「ゲモンがいないわ・・・何が起こったの?」 「おい・・・レティスの卵が・・・」 ククールが指差した先には―――この世界では一際輝いていた、さすがレティスの卵という程の鮮やかな色だったレティスの卵は、焼け焦げ粉々になって煙をあげていた。
「どうして・・・まさか今の爆発で・・・?」 は卵へと歩み寄り、座りこんだ。 また、新しい命を失ってしまった。また守られなかった。 「・・・」 後ろで、ゼシカの声が聞こえた。
「皆さん!さっきの音は一体何が・・・こ、これは!?私の赤ちゃんが・・・卵が・・・粉々に・・・」 レティスは下から飛んできた。しかし、の前にあった焼け焦げた卵を見て、少しばかり言葉を失っていた。 「ご、ごめんなさいレティス。さっきの爆発から目を開けたときには・・・もう・・・」 「・・・いえ、いいのです。どうやら私はあなた方に大変迷惑をかけてしまったようですね。光の世界から呼び寄せておいて、こんな嫌な思いをさせてしまうなんて・・・」 ゼシカの言葉に、レティスはそう言った。しかしその優しい言葉が、逆にみんなの胸に突き刺さった。ただ強がっているようにしか見えない。当たり前だ。子供を失って、悲しくない親なんていない・・・。
「・・・行きましょう。光の世界までお送りいたします」 「・・・ありがとうございます・・・・・・」 はお辞儀をする。レティスは いえ、と言った時だった。
「待って・・・待ってくださいお母さん・・・」 「!? この声は・・・私の赤ちゃん・・・!?」 どこからともなく、子供のような声が聞こえた。たちはその声の場所がどこなのかを探すように、辺りを見渡す。 「そうです、お母さん。生まれてくることもできずにこんな形でお話することになってしまってごめんなさい。僕を助けるために来てくれたその人たちにお礼がしたくて・・・」 「御礼なんてそんな・・・」 がそう言っても、レティスの子供は ううんと言った。 「実体を持たない魂だけの僕に皆さんの体を貸してもらえれば空を飛ぶことが出来るようになるはず。どうか皆さんの旅にご一緒させて頂けませんか?・・・お母さんにも・・・このお願いを許してもらいたいんです」 「・・・わかりました。私からもお願いします、」 「えええっ・・・」 は迷っていた。これは了承したほうが良いのか、それとも・・・。
「・・・。受け取っておこうよ、感謝の気持ち」 「・・・」 は失われた命と会話することが出来て嬉しかったのか、さっきの悲しい顔からは一転して笑顔だった。その笑顔を見たら、そうしようと強く思えた。 「・・・お願いします、レティスさん」 「ありがとう!あなたには感謝してもしきれません・・・。じゃあ僕は皆さんと旅が出来るように姿を変えます。チカラが必要なときはいつでも呼んでくださいね!」 そう言うと卵から黄色い光が、の鞄の中へと吸い込まれるように入っていった。これが、レティスの子の魂なのだろう。
「・・・その魂を使えば、あなたたちも鳥になり空を飛べることが出来るはずです」 「へぇ、すごいでがす!」 ヤンガスは嬉しそうに飛び跳ねている。ゼシカやククールも笑顔だ。
「・・・ではそろそろ行きましょうか。どうぞ、私の背中に」 たちは頷いてレティスの背中へと乗った。巣のふもとにいたトロデたちも乗せると、光の世界と闇の世界を行き来できる時空の歪の元までレティスは送ってくれた。
「私はもう少しこの世界にいます。やらなければいけないことがあるので・・・では皆さん、お元気で」 レティスはそう言うと、飛び立っていった。 「きっと・・・また会えるわよね」 「うん・・・」 灰色の空へと飛んでいく綺麗な体の神鳥・レティスを、皆は眺めていた。
あとがき 2009.12.03 UP |