最期の言葉と賢者の末裔



「うわああああ!!やっぱり狼いたーーーーーーー!!」

メディお婆さんの家に入ると、先程グラッドさんを襲った狼たちが徘徊していた。机の上でくつろいだり、たちが寝ていた部屋を歩き回ったり、まるで自分たちのアジトのように。

「婆さん!婆さんはどこでがすか!?」

ヤンガスが焦りながら、たちは家の隅々までメディ婆さんを探す。が、メディ婆さんはいない。

「どうしよう・・・もう狼に・・・」

はそう思っただけで、涙が目にじわっと滲んだ。雪崩の被害にあったところを助けてくれたメディ婆さん。見知らぬ人にたくさん優しくしてくれたお婆さん。ついさっきまで笑っていた人が、もういないなんて思うと、複雑な気持ちになった。

「・・・!」

今にも泣きそうな顔をしているの頭に、誰かの手が優しく置かれた。

――だった。

 

・・・」

「大丈夫だよ。きっと・・・お婆さんは無事だから」

力強い瞳で、はそう言ってくれた。
は、ただその言葉を信じることしか、今の自分にはできないと悟った。

 

 

 

 

「ねえ、そういえばメディさんって遺跡を守る仕事があるから町には行かないって言ってたわよね?」

「え?・・・ああ、そういえば」

ゼシカが思い出したように言うと、もそれを思い出したように手を叩いた。

「もしかしたら狼から遺跡を守るためにそこにいるのかもしれないわ。だって・・・もし襲われて死んでいたとしても、死体がひとつの跡も残ってないなんて・・・変だもの」

ゼシカが不安そうな顔でそう言うと、一行は納得した。そういえばそうだろう。
たちはさっそく、家の裏にある遺跡へと足を急いで運んだ。

 

 

「 !! お婆さん!!」

「・・・おや?あなたたちは・・・」

遺跡には魔法陣のようなものが床に描かれており、それの周りを取り囲むように石碑がいくつもある。メディお婆さんはその魔法陣のようなものの中心に、バフと立っていた。

「お前さんたちもこっちにおいで、危ないよ。この魔法陣には邪悪な存在は入り込めないんじゃよ」

メディお婆さんはそう言うと、たちを手招きした。たちは魔法陣の中に入り込む。

 

「あの・・・メディお婆さんは・・・賢者の末裔、とかわかりますか・・・?」

が少し聞きにくそうにメディお婆さんにそう聞いてみると、メディお婆さんは少し考えるような顔をした。

 

「・・・賢者の末裔ねぇ・・・。・・・この遺跡はね、私の祖先が残したものなんだよ」

メディお婆さんは遺跡の中を見回すように話し始めた。

「これを作ったのはその賢者の人でね・・・。私たち子孫を」

そう言った瞬間、地面が大きく揺れた。

 

「大丈夫か!?」

ククールはよろめくメディお婆さんを支えた。揺れが止まり、メディお婆さんは一息つくとククールに「ありがとう」と言った。

 

「今の揺れは何・・・、・・・!?」

は気づいた。外がやたら明るい。しかし明るいと言っても、この地方は雪が常時降っているため、なかなかしっかりした太陽を拝むことはできない。爆発か何かでもあったように、まるで燃える赤色が外ではギラギラと光っていた。

 

「もしかして・・・!」

!?」

は胸騒ぎがしていた。きっと暗黒神が・・・レオパルドがこの近くにいる。そんな気がなんとなくするのだ。なんだか落ち着かない、ざわざわする、そんな感じ。

遺跡の外に出るとメディお婆さんの家や小屋が燃やされていた。さっきまで普通にあった家の面影は、燃え盛る火の中で木くずになって消えている。

 

「これは・・・!?」

の後をついてきたメディお婆さんは、自分の家がなくなっているのを見て驚愕の表情になっている。

「メディさ・・・「ぐわああぁあ!やめろ!!」

がメディお婆さんの名を叫んだとき、聞き覚えのある人の叫ぶ声が聞こえた。

 

「この声・・・この声は・・・グラッドかい!?」

メディお婆さんはたくさんの冷や汗を浮かべながら辺りを見回す。
すると、空から何か大きな生物が飛ぶ翼をはためかせる音が聞こえた。

「・・・レオパルド・・・!!」

後を追ってきたゼシカが空に飛び上がるレオパルドを見て、表情を険しくする。ゼシカの後にやヤンガス、ククールも急いで走ってきた。

 

「グラッドさん!!」

レオパルドは、口にグラッドさんをくわえていた。グラッドさんは苦痛の表情を浮かべている。

「すまない・・・!ここに来る途中に・・・いきなり・・・ぐああっ」

レオパルドはグラッドさんが何かを言おうとすると、グラッドさんを加える力を増し痛みを与え続ける。

 

「黒犬!私の息子を・・・グラッドを放しな!!」

賢者の末裔の命・・・お前の命を奪うことが出来るなら、この男の命は助けてやろう

レオパルドはそう言うと、地上に降り立った。翼の動きを止める。

 

「・・・それなら先にグラッドを渡しな。私の命はそれからだよ」

それは出来んな。約束を破られては困る・・・。先にお前の命を奪わなければ・・・この男の命はないと思え

「ぐっ・・・」

完全に弱みを握られているたちは悔しそうに歯を食いしばった。
また、何も自分たちには出来ないのだろうか。目の前で大切な人たちを奪っていくだけなのか・・・。

 

「・・・わかったよ。・・・お嬢さん」

メディお婆さんは隣にいたの手を握った。はそれに気づくと、メディお婆さんを少しビックリした顔で見つめた。

「息子のことを・・・頼みます」

「えっ・・・」

が驚いている間に、メディお婆さんはの手に何かを大事そうに握らせた。は持たされた手の中を見ると、不思議な形をしたひとつの鍵。

「これって・・・」

知っている。今まで何度もドラゴンクエストの攻略本で、何度も何度も見てきた鍵・・・『最後の鍵』。

「・・・!ダメ!お婆さん!行っちゃだめ・・・!!」

が叫んでも、の隣から足を前へと進めたメディお婆さんは振り返らず、レオパルドに近づきだした。それを必死で止めようとしても・・・何故か体が動かなかった。呪文か何かをかけられている訳じゃない・・・止める勇気がなかったのだ、自分に。それは皆も同じようだった。

「どうして・・・うぅっ・・・」

は頬に涙を一筋、伝わらせた。

無力な自分が情けない。もっと、もっと強くなりたいのに・・・。
人ひとり守ることも、どうして自分はできないの?
何もしていない人がどうしてこの世から去らなければいけないの?

これが・・・運命?

 

「バフ、グラッドを連れてきなさい」

「バフ・・・っ」

大きな犬のバフは、悲しそうな顔だったがグラッドへと駆け寄った。レオパルドと同じように口にくわえて引きずったが、それは優しかった。首に酷い怪我を負っていたグラッドに、は即座に回復魔法をかけてやった。

 

「さ、これで気が済んだかい?」

・・・どういうことだ?

「まだ分かってないのかい?命をくれと言われてすんなりあげるほど、私は容易い女じゃないんだよ」

騙したな!!

レオパルドは杖を持ってメディに一歩、また一歩と近づいた。殺気立っているようだ。

 

殺してやる・・・

「そんなの、させないわ!」

ゼシカが飛び込むように、メディお婆さんの前に立った。

邪魔をするな!!私はこやつの命とあともう一つで復活することが出来るのだ・・・!この世界を支配できるのだ!!

レオパルドは口からまばゆい光を放った。しかしそれは光だけではなく、何かの呪文だったのかゼシカは吹き飛ばされ大きな怪我をした。

「きゃあっ!!」

「ゼシカ!」

ククールが心配そうにゼシカの元へと走り、必死で回復魔法をかけるがゼシカは意識を取り戻さない。

 

「・・・煮るなり焼くなり、何でもするがいいさ。ただ・・・私以外に犠牲を出すのは許せないねぇ」

メディお婆さんが呪文を唱え始めた。それに危険を感じたのか、レオパルドは焦り始めた。

 

「黙れ!!!」

レオパルド・・・ラプソーンの叫ぶ声が聞こえ、たちの視界が真っ白になった。

目を開けると・・・そこにいたのは、杖で貫かれているメディお婆さん。
メディお婆さんはしばらくすると、地面に倒れこんだ。

「か・・・あ・・・さ・・・、母さん!!!!」

まるで、時が止まったようだった。この場所だけ。

グラッドさんはメディお婆さんに急いで駆け寄る。

 

あとひとつ・・・あとひとつの魂で我は蘇る!!この世界を全て我が手の中へと収められるのだ!

大きな笑い声を上げたラプソーンは、ただの黒犬だったレオパルドに翼を生えさせ、それをつかって東の空へと飛んでいったのだった。

 

「母さん・・・!何で・・・俺のためなんかに!!」

メディお婆さんは目を閉じて、永遠の眠りについている。まるで眠っているかのようだった。今にも目をあけて、また優しい笑顔で笑ってくれそうなのに。

「どうして・・・俺なんか・・・死んでもよかったのに・・・母さんが生きてくれてさえいればそれだけでよかったのに・・・!!」

グラッドさんは唇を噛み締めて、涙をたくさん流していた。

 

「まだ・・・まだ母さんを一人残して町に行ったこと・・・謝れてないのに・・・!!」

嗚咽しながらグラッドさんはメディお婆さんの亡骸にすがりついて泣いた。その光景を見つめるたちは、ただそれを見つめることしかできない。

 

グラッドさんは立ち上がり、涙を拭いて言った。

「・・・すいません・・・、母の墓をつくるのを手伝ってくださいませんか?」

 

 

「よいしょ・・・っと」

グラッドさんはメディお婆さんの体を土に埋め、花を添えた。墓石はまた頼むと言っている。
メディお婆さんの愛犬のバフは悲しそうな鳴き声で鳴き、メディお婆さんの体があるであろう場所を嗅いでいた。

 

「あの・・・あなたたち黒犬を追いかけてるんですよね?」

「え?あ・・・はい」

が返事すると、グラッドさんは遺跡を見つめた。

「ここの石碑には色々情報が載ってるみたいなので、調べてから旅に出てみてはどうですか?あの黒犬が狙ってるのは、きっと賢者の末裔です。石碑にはたしか・・・賢者の末裔のことが載っていたはずですから」

グラッドさんはそう言って笑ったけれど、やっぱりどこか悲しそうだった。
あえて何も言わず礼を言うと、ククールはゼシカをおんぶして、
たちはオークニスにルーラした。

 

 

 

 

「ゼシカ・・・大丈夫かな・・・」

まだ気を失ったままだ。宿屋のベッドに寝転がせると、みんなはため息をつく。

 

「私・・・また守れなかった・・・。目の前で起こってること止められなかった・・・」

は思い出すと、視界がぼやけた。目頭が熱い。気づけばたくさん涙を流していて、スカートに服の色よりも少し濃い後がついている。涙の・・・跡。

 

「アッシも・・・体が動かなかったでがす」

ヤンガスは俯くと悔しそうに拳を握り締めていた。

「・・・俺も・・・もう人が死ぬのとか、そんなのは嫌だったんだけどな・・・。あの婆さんを止めることができなかった」

ククールも顔を背けた。

 

「・・・絶対に・・・・絶対に最後の一人は守らなきゃ。ラプソーンを復活させちゃいけない。なんとしてでもあの杖をまたトロデーン城に封印しなきゃ・・・」

「でも・・・暗黒神の力が解けなきゃトロデーン城の呪いも、おっさんと馬姫様の呪いも解けないんじゃないでがすかね・・・?」

の決心の言葉にヤンガスがそう言う。それはそうなのかもしれない・・・。王様と姫様の呪い、そしてトロデーン城で植物状態として苦しむ自分の仲間の姿を思い浮かべたは、それはどうしても避けたかった。でも人が死ぬのは嫌。自分の気持ちは矛盾しているのだろうか。

 

 

「ん・・・」

「ゼシカ!!」

しばらく沈黙が続いている間に目を開けたゼシカに、は飛びついた。

「大丈夫!?痛いところとかない!?」

「だ、大丈夫よ・・・。・・・、そうだ!お婆さんは!?」

ゼシカは辺りを見回す。ここはオークニスの宿屋だ。ゼシカは焦っていた。

「・・・お婆さんは・・・その・・・」

「・・・ラプソーンに・・・やられたのね」

全てを悟ったゼシカは、俯く。ツインテールの髪が前に倒れこんで、それがなんだか皆の目には寂しげに映った。

 

「・・・一度さ、暗黒神も蘇らせたほうがいいのかもな」

「え・・・?」

眉をひそめたに、ククールは頷いた。

 

「そうすればこの世界が恐怖に怯えることはねぇだろ?神鳥は暗黒神を封印したからまた蘇るとか言ってやがるけどさ、俺たちが倒してしまえばもう蘇ることもないだろ」

ククールがそう言うと、ヤンガスは納得したような顔をした。でもそれだと、最後の一人の賢者の末裔が死ななければならないことになる。

 

「確かにククールの言うとおり蘇らせたほうがいいかもしれないけど、でもやっぱり人を殺しちゃいけない。守ろう。城や王様たちの呪いは、また別の方法を僕は探すよ」

がそう言うと、ククールは「わかったよ」と言って少し笑った。

 

「・・・そういえば私、家にいたころに賢者の末裔の本を読んだことがあったわ。たしか末裔の一人の、予言者のエジェウスって人が予言した最後の言葉なの。どこかの石碑か何かに記されていたことを本に訳されてるものが出版されててね。そのころは賢者のことなんて全く知らなかったから何のことなのかはわからなかったんだけど、でも何か引かれるものがあって・・・。気づけばきっと何十回も読んでたわ。だからちょっと内容を覚えてるから、今から言うわね」

ゼシカはそう言うと、何かを思い出すように目を瞑った。

 

わが名はエジェウス。かつて人々が私のことを神の子と呼ぶ時代があった。
だが私は思い知った。私もまたかよわき人の子であると。
暗黒神を封印した後、私はひとつの未来を知るために生涯のすべてを捧げることとなった。
ここに、わが人生のすべてをかけた最後の予言を書き記す。願わくば善なる者の目に触れんことを。

私が見渡す未来の中に、ただ一点、霞がかかったように私の予知を拒む時代があった。
おそらくはその時代こそが、暗黒神ラプソーンが復活する可能性を持つ唯一の時であろう。
だが幸いにして、その時代にはわれら七賢者の血脈はひとつも絶えることなく、あり続けている。
その時代・・・・・・われら七賢者の末裔は、かく生きている。

無敵の男ギャリングの末裔は、血のつながらぬふたりの子供とともに、人々の歓喜の声に包まれている。
魔法使いマスター・コゾの末裔は杖の封印をゆだねた城よりほど近い町にて、その時代も魔法を教える師であろう。
大呪術師クーパスの末裔はその呪術のチカラを自ら捨て去り、森深くにて魔物たちと暮らしている。
魔法剣士シャマルの末裔は血脈こそ他の家系に渡ったが、土地の名士として慕われる存在にある。
大学者カッティードの末裔は、雪深き地にて神鳥の伝承を未来に伝えるべく愚直に生きている。
そして天空を見てきた男レグニストの末裔は、その時代信仰を重んじる人々の頂点にあるだろう。

最後に・・・・・・私自身の末裔は多くの修道士を束ねる存在にあり、心は満ち足りた日々を送っている。

彼らがひとりでも生き続ければ、この世界が危機にさらされることは永遠にない。
暗黒神の影が再び世界をおおう日が来たなら、決して彼らを死なさぬよう守ることだ。
他に手段はない。愛すべきわが子孫たちがこの教えに従うことを、私は切に願う。

ゼシカはそう言い終わると目を開けて、たちの顔を見回した。

「やっぱり・・・守らなきゃいけないのよ。賢者の人がそう言っているんだもの、他に手段はないって・・・」

ゼシカはそう言うと、目が鋭くなった。きっとラプソーンが許せないのだろう。

 

 

「えーと?ギャリングさんはギャリングさんが末裔だよね。同じ名前なんだ・・・」

「マスター・コゾとか言うのはライラスのおっさんでがすな」

「クーパスさんはチェルスさんのことだね」

ゼシカが言ったことを頼りに、賢者の末裔の最後の一人が誰なのかを考えていく。

「シャマルってのはゼシカの家系だよな。あと多くの修道士を束ねる存在ってのは院長だろ。このエジェウスって人の末裔が院長・・・」

「カッティードさんはメディお婆さんの先祖ね」

一人ひとり考えたことを述べる中、次の候補を見た。

 

「天空を見てきた男・・・レグニストの末裔は、時代信仰を重んじる人々の頂点にある、か」

「!」

ククールがゼシカの言ったことを思い出しながら言うと、はひとつ思い出したことがあった。

 

「ちょっと、世界地図見せてくれない!?」

「え?うん」

が袋から世界地図を取り出す。は急いでみた。
この雪国から東の方向には・・・サヴェッラ大聖堂という場所がある。

「ククール、サヴェッラ大聖堂に・・・人々の頂点にある人・・・心当たりとかない?」

が聞くと、ククールは顎を摩りながら視線を宙に舞わせる。

 

「んーと・・・。!そうか・・・法皇のことだな、

「うん」

が頷くと、ククールはため息をついた。「また俺が尊敬する人か」と。
それなら、尚更守らなければいけない。ククールの数少ない尊敬する人なのだから。

 

「ゼシカ、もう大丈夫!?急いで大聖堂に行こう!」

「私なら全然OKよ。行きましょう」

そう言うとゼシカはベッドから起き上がり、たちはオークニスを出た。

 

 

 

辛いつらい雪国の旅が、幕を閉じた。

 

 

 

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あとがき
このシーン・・・実は泣きました私。(←
ゲームで泣かされたのなんてポポロクロイスとFF7以来だったわ!w
グラッドさんの「謝りたかったのに」という言葉がすごくジーンときました。

今回はシリアスな場面だったのでギャグが一切なくてすみません。たぶん次は炸裂しすぎて疲れちゃうかも(え

2009.05.31 UP